2010年11月21日日曜日

バグだらけの医療体制と当直問題高裁判決

医師の当直問題について、とうとう画期的な判決が出ました


産科医の当直、時間外支払い命じた一審支持 大阪高裁
http://www.asahi.com/national/update/1116/OSK201011160074.html
2010年11月16日23時54分

 産婦人科医の夜間や休日の当直勤務が労働基準法で定められた「時間外手当」の支給対象になるかが争われた訴訟で、大阪高裁の紙浦健二裁判長は16日、対象になると判断して奈良県に計約1540万円の支払いを命じた一審・奈良地裁判決を支持し、原告・被告双方の控訴を棄却した。
 原告は奈良市の同県立奈良病院に勤める産婦人科医の男性2人。各地の病院の産婦人科医の多くも同じ問題を抱えているといい、代理人の藤本卓司弁護士は「高裁レベルで支給対象と認められたのは初めてで、産婦人科医療に影響を与える可能性がある。問題の背景には産婦人科医の絶対的な不足があり、数を増やすための国の対応が求められている」と話している。
 高裁判決によると、2人は04~05年に210回と213回の当直をこなし、1人は計56時間連続して勤務したケースもあった。これに対し県は「当直は待機時間があり、勤務内容も軽い」として時間外手当の対象外と判断。当直1回につき2万円を支給した。
 紙浦裁判長は、産婦人科医不足で県立奈良病院には県内外から救急患者が集中的に運ばれ、分娩(ぶんべん)件数の6割以上が当直時間帯だったと指摘。当直勤務について「通常業務そのもので、待機時間も病院側の指揮命令下にあった」と判断した。緊急時に備えて自宅待機する「宅直勤務」は時間外手当の支給対象と認めなかったが、「繁忙な業務実態からすると過重な負担で、適正な手当の支給などが考慮されるべきだ」と述べた。
 武末文男・同県医療政策部長は判決後に県庁で記者会見し、「判決に従えば夜間や休日の診療が困難になる。国に労働環境改善と救急医療の両立を図れる体制作りを要請したい」と述べ、上告についても検討するとした。県側は2人の提訴後の07年6月以降、県立病院の医師が当直中に治療や手術をした場合、その時間に限って時間外手当を支給する制度を導入している。(平賀拓哉、赤木基宏)


この判決の少し突っ込んだ内容については…私がどうこう言うより、m3の解説から抜粋させて頂きましょう


 判決の論旨は明確で、(1)就業規則上は「宿日直」の扱いだが、実態は異なり、労働基準法41条3号の規定の適用除外の範囲を超える(「宿日直」に当たらず、時間外手当の支払い対象となる)、(2)救急患者や分娩などへの対応など、実際に診療に従事した以外の待機時間も、病院の指揮命令系統下にあることから、時間外手当の支払い対象になる、というものだ。
 判決では、(1)について、2002年3月19日の通知(厚生労働省労働基準局長通達基発第0319007号)を引用し、宿日直とは「構内巡視、文書・電話の収受または非常事態に備えるもの等であって、常態としてほとんど労働する必要がない勤務」とした。県が2007年6月から9カ月間について調査したところ、通常勤務(救急外来患者への処置全般および入院患者にかかる手術室を利用しての緊急手術など)の時間は、宿日直勤務時間の24%だった。
 (2)について県側は、「時間外手当を支払う対象となる労働時間は、社会通念上の一定の線引きの下に、必要と判断される所要時間と考えるべき」と主張していたが、判決では「宿日直勤務の開始から終了までの間」と判断された。
 結局、2004年10月26日から2005年12月31日までの間で、A医師が認められた時間外の労働時間は、宿直1372時間30分、日直271時間15分、B医師は宿直1418時間15分、日直297時間30分。時間外手当の算定基礎額は、月額給料に、調整手当、初任給調整手当、月額特殊勤務手当を加えた額とされた。


高裁が医師の「当直」は労基法上の「当直」とは異なるという判決を出した初めての判決で、非常に画期的な内容となっています
ですが、法解釈自体は以前から医療者や法曹界から指摘されていた通りで、特に画期的なモノはありません
それどころか、この判決にも2つの欠陥があり、私はネット医師の歓喜の声ほど楽観はできません


第一の問題は、この「当直」が「時間外勤務に相当する」とした根拠が、「当直時間中の通常勤務割合」とされているところです
非常に明快なロジックで、法の趣旨に照らせばそうなりますが、もし具体的な数字をあげて
「当直時間のうち、通常の勤務が~%を超えた場合は時間外勤務とみなす」
というような基準ができてしまったらどうなるでしょうか?

当直が「当直」なのか「時間外勤務」なのかは、勤務が終わってみないとわからないことになります
消防隊員に、「今日は火事がなかったから、お前ら今日は給料なしだ」と言う人はいるでしょうか?
前線の軍人に「今日は襲撃がなかったから、お前ら今日は給料なしだ」と言えばどうなりますか?
後は野となれ山となれとなることは容易に想像されるでしょう
士気の上でも運用上の問題でも、かなりあり得ないことになります


若干話はそれますが、先日の事業仕分けでも、これと同じ過ちを犯しています


 「診療報酬改定で対応可能」とされた事業は、「特定の診療科に従事する医師等への手当支給」で、救急勤務医支援事業(救急医に対して宿日直のたびに最大1万9000千円程度の手当を支給)、新生児医療担当医確保事業(NICUへ入室する新生児を担当する医師に対し1万円の手当てを支給)、産科医等育成支援事業(後期臨床研修で産科を選択する医師に対し月額5万円の手当てを12カ月支給)など。


診療報酬のみで対応すると言うことは、患者が来たことに対する出来高払いしかしないということであり、
「今日は救急車が来なかったから、救急診療部の収入0」ってことです
救急が不採算部門となる元凶はここにあります


今回の高裁判決と事業仕分けは、医療体制に対する無理解という、同じ病理を抱えています
国の、インフラとしての医療に対する金は払わないと言う姿勢を、今回の高裁判決は婉曲的に認める内容にもなりかねないのです
必要なのは「労働の対価としての給与が適切に支払われているか」ではなく、それ以前の「何をもって医療と呼ぶか」ではないでしょうか?


第二の問題は、この判決は給与体系のみに言及しており、労働体系そのものへの言及はされていないと言うことです
宿直を時間外勤務としてカウントした場合、これを可能な限り遵守する方法としては、現状では病院ごとの機能分化と患者制限しかありえません
しかし、これは応召義務(医師法)との兼ね合いがネックになります

「医師法」として医師に義務づけられていることと、
「医療法」として都道府県に義務づけられていることと、
「労働基準法」として雇用者に義務づけられていることと、
現在パラドックスに陥ってしまっているこの3つの整合性をどうとるのか

 という問題にぶち当たります
ここのところがデバッグされない限り、類似の裁判がいくつも続くことになるでしょう

まあ、なんにせよ
当直を時間外勤務と認めると労基法違反になるから認めるわけに行かない、とか全国に発信しちゃう奈良県の医療担当者の不用心さが、やっぱり奈良は奈良だったと全国の医療者に思わせたことだけは間違いないでしょう

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