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2012年12月15日土曜日

医学部新設を推進する東大の欺瞞

衆院選を明日に控えた今日ですが、関係があるのか無いのかよくわかりませんが歩調を合わせるように、東大の医学部新設推進運動が展開しています




医師増えても「20年後も不足」 東大研究所が予測


  今の医師の増やし方では20年後も医師不足――。こんなシミュレーション結果を東京大学医科学研究所のグループが1日、米科学誌プロスワンに発表した。医学部増員により医師数は増えるが、高齢化で死者数も増えるため、負担は変わらない可能性が示唆された。
  国の人口推計や医師数調査のデータをもとに2035年の状況を解析した。医師数は39万7千人で、10年より1.46倍に増えるが、死者数も1.42倍に増加。3人に1人の医師が60歳以上になるため、年齢や性別を考慮した医師の勤務時間あたりの死者数は現在と変わらなかった。
  同研究所の湯地晃一郎助教は「死者の大半は病院で死亡している。現状では勤務状況が改善されない」と指摘する。12年度の医学部の定員は約9千人で、07年度より約1400人超増えている。


で、東大といえば当然出てくる上氏は、日経メディカルとケアネットの合同企画で、医学部新設推進は代表として登場しています
ちなみに、反対派は北里大の吉村氏ですが、全国医学部長病院長会議の顧問として登場しています

まずここで勘違いのないように説明しておくと、現状が医師不足であり、今後もそれが続くというところまでは両者共に認識は一致しています
その上で医学部「現行大学で定員増」か「医学部新設」かという方法論の議論です

で、吉村氏…というか、全国医学部長病院長会議の主張は、

・急速な定員増が既に行われており、このままでも2029年には人口対医師数はOECDレベルを超える 
・団塊世代の高齢化による医療需要ピークは2020-2030年→問題は今後十数年であって、長期的には医師過剰となる 
医学部新設では「間に合わない」。大学を潰すのは難しいので医師過剰を推進する


・全国医学部病院長会議は定員100名の大学に600名の臨床系教員が必要→教員がつとまるレベルの臨床医を地域から大学に引きはがせば、地域医療が崩壊する


→フレキシブルに対応できる現行医学部の定員調整で対応すべき

というもので、私が幾度となく主張していることとまったく同じ内容です
…というか、地方で医療やったことある人なら、自然とだいたい同じ結論に達するのではないかと思います

あとオマケですが、面白かったのは、入学定員増と18歳人口減による医師になる18歳人口の割合が、昭和41年は1/700だったのが、平成24年は1/130になっていて難易度は1/5になっている。もう少しで100人に一人は医学部に入れる時代になるということですね
…まぁ、そりゃ医学部生の学力低下しますわな
医師資格者の粗製濫造に懸念があるのは教員側としては自然なことでしょうね


で、東大側の主張ですが

・2035年には日本の人口は14%減少する
→その過程で医療需要は増大する

・増えるのは女医と高齢医師
→大して戦力にならない
・関東では2050年まで人口対医師数は悪化する
・地域で人口数と医学部数があってない
・医師不足には地域性がある
→医師が不足している地域に医学部を新設すればよい


という感じなんですが、「原因」への「対策」がまったく途中経過抜きで「医学部新設」という結論にバイパスされてしまっています
(高齢医師はリタイアが当然としても、女性医師を男性医師並みの労働力にする気はないのか?)
、医学部新設反対派の懸念に対して何一つ回答を示せていません



注意深く読めばわかるように、実は結論部分以外の状況分析は両者ともまったく同じことを言っています


医師不足には地域性があります。私が「地方型医療崩壊」と「大都市圏型医療崩壊」と呼んでいるものがそれに当たります

戦前生まれが寿命を迎えるに当たり、現在高齢化率の高い、地方の医療需要は急速に増大します。これに対応するために、急遽、地域枠を含む医学部定員増が行われたわけです。

しかし、2035年にはその戦前世代は壊滅し、医療以前に地方は限界集落となりますので、コミュニティとともに地方の医療需要は消失します
人口は減るのに医師は増え続けますので、日本全体および地方の人口対医師数は飛躍的に増大します
一方で、今度は団塊の世代が寿命を迎える番になるので、大都市近郊のベッドタウンの医療需要が急速に増大します

問題は、これにどう対応するか、です


医学部新設反対派は、医学部新設ではこの変化に対応できないといっているわけです
それに対して、医学部新設推進派は何一つ回答をしていない


少々笑い話をすれば、上氏は神奈川の医療崩壊地域として厚木をあげました
神奈川県知事が医学部新設派だから神奈川県を出したのかも知れませんが、知事は厚木に医学部をつくるつもりは欠片もありません
そもそも、厚木が医療崩壊したのって、厚木にあった県立病院を経営問題で放棄したからでは?
(現在は厚木市立病院となっています)
神奈川に医学部つくっても、厚木の医師不足は解消されません


地方型医療崩壊の病巣は、土台となる地域コミュニティ自体の崩壊による結果ですので、正直言えばどううまく「撤退戦」をするかという次元です
一方で、大都市圏型医療崩壊は、急速な人口増に対するインフラ不足で純粋に箱となる病院がないことに起因しています。こちらはこれから積極的に「攻撃的な防衛戦」を行わなければならない次元です

2012年の今では、箱をつくってもそこに詰める医師をはじめとする医療者が不足しています
(地域医療振興協会の首都圏での状況を見れば明らかでしょう)
つまり、ただの高次医療機関すらつくれないものを、教育研究機関でもある医学部なんて、もっと無理です


しかし、20年後ならそこに入る医師は見込があります
ローコストな案を出すなら、2030年代から余りだす地方の医師を大都市に呼び寄せて、センター病院をつくるのが妥当ではないかと思います


必要なのは療養型施設と高次機能病院であり、教育機関の医学部ではないのです

2012年3月24日土曜日

練馬区の一週間戦争

地域医療振興協会への重大な懸念
続・地域医療振興協会への疑念
の続き
が早々に来てしまいました

正直、今回ばかりは予想が外れて欲しかったところです…


手続きの遅れと医療水準の未達

迷走が続く新練馬光が丘病院


 累積赤字90億円を理由に撤退を決めた日本大学医学部付属練馬光が丘病院(342床)の後継問題が迷走している。4月1日からは、地域医療振興協会(以下、協会)が後継機関として運営を開始する予定だが、いまだ遅々として進んでいないのだ。
 協会は、病院の開設許可証を得るための第1歩となる事前相談計画書を、3月13日になってようやく東京都に提出。予定は11月だったのだが、医師の引き継ぎ作業などの停滞によって大幅に遅れた。
 通常なら提出を受けた後に都が審査、その結果通知書が出てから開設許可証が降りるまでに少なくても3週間はかかる。とうにタイムリミットは越えた格好だ。
 しかも計画書を出す際には、本来、病院の土地・建物を無償で提供する練馬区と同協会の契約書か、協定書が必須。ところが、その大前提とな同区と日大側の契約の解消すら、いまだに決着の目途はたっていない。
 3月14日に開かれた練馬区議会の医療・高齢者等特別委員会。「何を根拠に、どう契約を解除するのか」(池尻成二区議)との追及に、区の地域医療課は「日大とは、今後、協議していく」と語るに止まった。
 なにより、日大が区に預けている50億円の保証金の返還問題もいまだ話し合いがつかず、平行線のままだ。 
 こうした状況に対し、東京都は医療の空白期間を是が非でも避けたいとして、今後の対応に必死の様相だ。
「計画書の確実性を見た上で、急いで内部決済を取る。契約書については、期日の関係でそれに代わる書面でもかまわない。これまで地域の医療を支えてきたこの病院がなくなっては困る」(東京都医療安全課)

 同病院の外来患者は、年間に約22万人。小児救急では、約9000人を受け入れ、近隣の区市にとっても要となる医療機関だった。
 ただ、今回、都が新病院を認めたとしても、課題は山積している。志村豊志郎区長が明言してきた「現在と同等の医療機能や規模を引き継ぐ」という約束が、果たされていないからだ。
 日大練馬光が丘病院には、常勤医師が122人、看護師290人が働く(今年2月)。これに対して、新病院の計画数は、4月1日時点で常勤医師70人、看護師が180人と約4割も減少する。外来診療は、8科で予定を組めない事態に陥っている。

 そもそも区は、協会の選定理由の一つに「小児医療や周産期医療を維持するために必要な医師数が提案されている」ことを挙げていた。昨年12月7日の住民説明会でも、区は常勤医師数について現病院の「小児科15人、産婦人科5人と同程度を予定」としたが、現状は同9人と2人にすぎない。
 都は「入院と救急を縮小しても、より早い段階で元の稼動状況に戻していただく」と説明するが、その実現は至難の業といえる。
 すでに近隣の病院からは、今後の「小児救急の崩壊」を危惧する声が上がっている。4月以降、試されるのは協会の運営能力だけではない。練馬区と都の指導力も、大きく問われることになりそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 内村 敬)



日大病院後継 常勤医3人多く発表 練馬区「確認不足だった」

 読売新聞 朝刊 2012.03.16
今月で撤退する「日大医学部付属練馬光が丘病院」の後継医療機関を巡り、新たに開設される病院の常勤医師数が、練馬区が14日に発表した70人をさらに下回り、実際には67人だったことがわかった。新病院側が、非常勤医師の勤務時間を積算した結果、常勤医師3人分に相当するとして上乗せしていたためで、区は「認識不足だった」として区議会にも陳謝する方針。
新病院の現段階の常勤医師は、日大病院と比べて54人減となる。区は14日の区議会で常勤医師数を70人と発表。実際には、非常勤医師の勤務時間を積算した分を常勤医師に含めることができる「常勤換算」を入れた人数だったが、区は「常勤換算を含めない常勤医師数」と答弁していた。
都が同日、区側に対し、常勤医師数の答弁で誤りがあると指摘して判明した。区は「新病院が『常勤医師は70人』と言っていたためにそう答弁したが、認識も間違っており、確認も不十分だった」と誤りを認めた。
区によると、新病院の常勤医師については、現在、新病院側が医師の獲得交渉を進めている。開業時の4月には70人を上回る可能性もあるという。




絶対に確信犯だろ、こいつら…

練馬区も、地域医療振興協会も、これで完全に信用は地に落ちましたね
地域医療振興協会以外にも手を上げてくれていた病院はあったわけですし、
普通に考えて、一般企業ならどっちも訴訟ものですけど


とはいえ、はっきりいって都も同罪だと思いますけどね

少なくとも、被害者面する権利は、ない
前々からわかっていたことですし、清瀬の都立小児病院を潰したのだって影響してるでしょうに


近隣小児科がドミノ倒しにならないことを願うのみです

2012年3月16日金曜日

続・地域医療振興協会への疑念

先日
地域医療振興協会への重大な懸念
を書いたばかりなのですが、早速続報が入って参りました

日経メディカル記事なんですが




練馬区によると、4月1日の開設時点で協会が確保した医師数は常勤70人、非常勤40人。日大練馬光が丘病院の常勤121人、非常勤48人(いずれも昨年12月末時点)を大きく下回った。
看護師も、日大練馬光が丘病院の約280人(同)より大幅に少ない180人となった。



とのことですが、先日の新聞報道では「常勤医+非常勤=70人」です
また、都議会議員のtweetでは「常勤医換算で70人相当」と書かれていたそうで、大きく食い違ってます

どれも、元ネタは協会が都に提出した計画書…つまり、同じソースであり、こうまで食い違うのは珍しいというか、ありえないことです


まぁ、これについてはあと2週間すれば自然と結論は出てしまうのですが、もっとも「被害」が少ない日経メディカルが正しいとしても、
常勤医121→70名と常勤医数は58%になります。
これにランチェスターの第二法則を当てるなら、戦力としては33%まで低下
…「壊滅」っていうか「消滅」といっていいレベルですね。軍隊なら回れ右して全力で逃亡するところです

しかもここで1つ問題があります
ぶっちゃけた話をしてしまうと、仮にも大学系列である日大練馬と、地域医療振興協会が慌ててかき集めている医師のレベルが同等であるのかどうかという問題です


「数」と「質」の両面からいって、普通に考えて同等の機能を果たせるとはとても思えませんっていうか、あり得ません


さて、ところで、医師っていうのは実は流民というかフリーランサー的要素が強いので、まだ全国から集められる存在です
一方、どうがんばっても地元で集めなきゃいけない重要な職業として看護師がいますが…ここで64%まで低下ってのは正直、いかんともしがたいのではないかと…

(看護師って医療崩壊の議論からいつも外れがちですけど、実はこういう独法化とか経営移譲のときにいつもネックになる部分です)



最初は退院・転院できなかった入院患者をさばくだけでもギリギリなんじゃないでしょうかね…
練馬区だけ↓を先行した方がいいんじゃないでしょうか



消防庁が出動に緊急度判定基準 軽症なら自力受診を

 救急車の出動件数の増加により、現場到着に時間がかかるなどの問題が深刻化していることを受け、総務省消防庁は14日、119番を受けた担当者が救急出動の必要性を判断するための緊急度判定基準をまとめた。症状に応じていくつかの質問に答えてもらい、4段階で判定。軽度の場合は、タクシーなどで病院に行くよう促し、重度の急患への対応を優先させる。

 消防庁の有識者検討会が同日、判定基準を盛り込んだ報告書を了承。消防庁は9~11月に、複数の地方自治体で試験運用し、改善を図った上で、全国で活用してもらう。
2012/03/14 18:34 【共同通信】

2012年3月14日水曜日

地域医療振興協会への重大な懸念

半年前に取り上げた、日大練馬病院撤退→地域医療振興協会登場の続編

前のはこちら参照
日大の変
日大練馬 その後

とうとう、地域医療振興協会への引き継ぎまで一ヶ月を切った中で、予想通り混乱してます



2012. 3. 9
日経メディカル2012年3月号「ニュース追跡」(転載)
 日大練馬病院の継承に暗雲 スタッフ確保に苦慮、全床返還の可能性も  
今年4月、日大から地域医療振興協会に引き継がれる予定の練馬光が丘病院。しかし、同協会は継承のための計画書を2月になっても東京都に提出しておらず、342床全床を引き継げない可能性も出てきた。
日大は1991年に東京都練馬区から病院を賃借して練馬光が丘病院(同区)の運営を開始した。しかし、20年以上支出超過が続き、2010年度には累積損失が約90億円に達した。さらに、同大が病院の貸付契約の際に区に納めた保証金50億円の返還時期について認識の違いが生じ、両者が衝突。昨年7月、同大は今年3月末をもって病院運営から撤退することを表明した。
約2カ月後の昨年9月、区は後継法人に地域医療振興協会を選定した。同協会は直営や指定管理者制度によって全国52施設の自治体医療機関の運営に携わる公益社団法人だ。救急や小児医療などを手掛け、日大の運営時と同等の病院規模・機能の維持を条件に、今年4月から協会が運営することになった。
しかし18診療科中4科で、日大と協会の医師による患者引き継ぎが始まっていないことが、1月25日の区議会で分かった。その理由について日大側は、「協会側で医師を確保できていない」(広報部)ことを挙げる。
昨年末の協会の資料によれば、入職が確定した常勤医は26人、協会内病院からの異動などでの確保が25人、交渉中が29人。1月には「常勤医70人を確保するめどが立ち、今後も人事異動などで医師数を増やしたい」と協会は説明した。しかし、昨年12月時点の同病院の常勤医121人、非常勤医48人と比べると、日大の指摘通り不足感は否めない。
さらに協会は、09年4月に千葉県浦安市と市川市から経営譲渡を受け、現在建て替え中の東京ベイ・浦安市川医療センター(千葉県浦安市、一般344床)も、今年4月の開院時は165床に減らしてスタートする。背景には、スタッフを確保できないなどの理由があるようだ。
このため練馬区議会議員の池尻成二氏は、「本当に70人確保できているのかも疑わしくなる。人事異動というが、僻地医療への貢献を目的とする協会が、都内の病院のために地方病院から医師を引き抜くのは理念に反するのではないか」と話す。


小児常勤医は8人 練馬区・協会が引き継ぎで説明 新光が丘病院 
2012.3.9 11:02
日大光が丘病院(東京都練馬区)が撤退し地域医療振興協会が引き継ぐ問題で、協会が確保した新病院の小児科常勤医は8人であることが8日、分かった。区は公募時に、常勤医16人程度の日大の規模と機能を維持すると公約していた。
複数の関係者によると、7日の引き継ぎ会で、練馬区と協会が、名前が確定した常勤医は8人と伝えた。内訳は新採用が2人で、残り6人は、協会の病院から半年ごとに交代勤務する。この人数では小児救急の当直は1人態勢となる。
小児科医数について、区は「人数に関してコメントできる者がおらず、答えられない。協会は小児科医による24時間対応の診療と入院受け入れ態勢を整えるとしており問題ない」、地域医療振興協会は「万全の態勢を目指して準備中」としている。
都救急災害医療課は「区からの最終報告を待ちたい」としている。


日大練馬病院後継で「計画書」

3月末に撤退する日大医学部付属練馬光が丘病院(練馬区)の後継医療機関・地域医療振興協会が13日、都に対し、新病院の「事前相談計画書」を提出、受理された。都が審査後、病院開設許可や使用許可の手続きを経て、4月1日の開院を目指す。
計画書によると、新病院は日大病院と同じ17診療科で、非常勤を含め約70人の医師を確保。24時間体制の小児救急も維持する。病床数も現行と同じ342床だが、開院時は一時的に入院患者を減らし、1年以内70人をめどに8割の稼働率に戻す。区では、計画書の提出を昨年中と想定していた。しかし、志村豊志郎区長が1月の記者会見で、「日大は患者を捨てていく」などと述べたことなどが影響して日大側と新病院の引き継ぎがストップし、提出が遅れたという。
(2012年3月14日 読売新聞)


というわけで、とりあえず来月からのスタートにはこぎ着けたようですが、

日大常勤121非常勤48169
地域常勤非常勤70人

って、これはいかんともしがたいですよ…
単純に人数比2.4倍です。ランチェスターの法則でいえば、戦力比でいえば5.8倍です
同程度の重症度をみるのであれば、スタート時は342床どころか、60床が妥当になります

しかも、この70人すらも、相当無理やりに集めてるのは明らかです
1年以内に稼働率8割にもちこむって…どこから医師を持ってくるの?
正直、最初から日大と同等の機能・人数を用意する気はないのではないかと疑いたくもなります

東京都北西部と埼玉県南西部の小児医療を守るための小児科医共同声明



私は別段、地域医療振興会という自治医大の外郭団体の存在自体は悪く思っていません
むしろ、端から見ててキャリアが不安定になりがちな自治医大出身者からしたら、悲願とも言える組織なのではないかとも思います

しかし、この関連病院の急速な展開は、どう考えても無茶です
というか…正直、病院の特殊性をあまり理解していない人が経営の中核にいるのではないかと思わざるを得ません
組織のミッションを完全に見失っていないでしょうか?

病院というのは希少な国家資格保持者とその後方支援部隊を大勢必要とするため、その展開は軍隊の様に慎重に行われるべきです
学生アルバイトやフリーターを現地徴用すればそれで済む、コンビニや外食チェーンとはワケが違います
限度を超えて膨らんだ風船は、パーンと破裂して、それで終わりです

まぁ、それでもその病院にいる医師は、逆刃刀でも持って流浪となってでも死にはしませんが、
地域住民と、潰れた病院の分まで防衛戦を強いられることになる病院は堪ったものじゃないので、そこはきっちり、責任持てる範囲で病院運営をして欲しいですね



ところで、本筋とそれるので敢えて最後までスルーしていましたが、区長の最低っぷりが半端ないですね
…そもそも日大が撤退したのって、区に貸してる50億円を踏み倒されてるのが原因だろうに



2011年9月19日月曜日

日大練馬 その後

日大練馬の後継が決まったようです



日大練馬光が丘病院の後継は地域医療振興協会
 練馬区は9月16日、区議会の医療・高齢者特別委員会を開催し、日大が来年3月末での運営撤退を表明している練馬光が丘病院(一般病床342床)の後継法人として、公益社団法人地域医療振興協会を選定したことを公表した(関連記事:2011.9.8「日大が練馬の病院から撤退」)。区は今後、病院引き継ぎに関する協議会を設置して詳細を詰めていく方針だ。
 同病院は1991年の開設以来、一貫して支出超過が続いて2010年度の累積損失は90億円弱に達していたことから、日大本部が「この状態が続けば学校法人自体の存続も危うくなる」(広報課)と考えて撤退を表明していた。これを受けて練馬区は8月1日に後継法人の公募を開始。4法人が応募したが、運営方針などをまとめた提案書を提出する段階で2法人に絞られていた。その後、医療関係者や有識者で構成される選定委員会が2回にわたって審査した。
 その結果、(1)多数の自治体病院の運営を受託している、(2)運営を担っている東京北社会保険病院の分娩や救急受け入れの件数が練馬光が丘病院と同水準である、(3)小児・周産期医療を継続するために必要な医師数が提示されている―といった理由から、地域医療振興協会が後継法人に選ばれた。ただし、撤退の意思や引き継ぎ時の協力について、区が日大に確認することを求める付帯意見も付された。
 選定委員会の付帯意見を受けて区は9月14日に日大本部と直接話し合い、撤退方針に変更はないこと、現在の患者について責任を持って支援することなどを確認したという。最終的に区長の志村豊志郎氏が後継法人を決定した。
 16日の医療・高齢者特別委員会では、地域医療振興協会が常勤の小児科医15人、産科医5人を確保し、練馬光が丘病院と同じ水準の小児科・産科医療を確保する意向であることが示された。
十分な医師・看護師を確保できるのか危惧 練馬区が後継法人を選定したのを受けて同日、「日大光が丘病院の存続を求める区民の会」は会見を開き、地域医療振興協会の運営で従来の医療水準を維持できるのか懸念を示した(関連記事:2011.9.9「撤退表明の日大練馬光が丘病院、地域住民が日大の継続運営求める」)。
 その理由として、(1)同協会はへき地医療を中心とした地域医療の振興のために設立された法人で、日大が提供してきた高度医療の実施は本来的な役割に沿ったものとは言いがたいこと、(2)ここ数年間で急激に運営医療機関を増やしているほか、来年4月から新たに浦安市川医療センターや三重県立志摩病院などの運営を開始する予定で、その状況下で光が丘病院においても十分な医師・看護師が本当に確保できるのか危惧されること、(3)実際に、スタッフ確保がままならず医療機能の後退が深刻になっている運営病院があること―などを挙げた。
 さらに、練馬区が一度も住民説明会を開いておらず、今回の後継法人選定の詳細ないきさつも明らかにしていないことへの不満も示した。同会は引き続き日大による運営継続を求め、同大に撤退方針を白紙に戻すよう要求していく考えだ。


さて、まぁ区民の会の過大な要求は置いておいて
(もともと自治体病院だし、区内に大学病院が2つも必要か?)

最近よく名前を聞く、「地域医療振興協会」ですが、文字通り地域医療を目的とする公益社団法人の様です
自治医大OBによりつくられた組織のようで、会長は現職の自治医大学長です
業務内容的には…済生会や赤十字に近いのでしょうかね。約50の病院・診療所を運営しているようです。病院は20ですね
自治医大の関連病院としてみると、かなり大規模ですね


首都圏の直営病院としては、来年オープンする浦安市川医療センター(344床)と並んで練馬が2つめとなるのですが
(浦安に続いて練馬って…この協会は順天堂に対抗心でもあるんでしょうか?)

協会が擁する医師数は研修医含め590人で、常勤の小児科医15人、産科医5人とか、はたして言うだけの医師数を実際にそろえられるのかは同業からみても疑問が残ります
小児科医15人って、地方医大の病棟医並の数だと思うのですが、そんな簡単に集まるなら医療なんて崩壊してないと思ってしまいますが…

来年の以降までに半年ほどしかないのですが、それまでに再び紙面を賑わすことがないよう願うばかりです

2011年9月14日水曜日

日大の変

30年後のための根本的な医療改革のためには大学病院が3つくらいはつぶれる必要があるのではないかと考え始めてるこのごろですが、なんと真っ先に東京から火が上がりました


切り捨てられた地域医療:日大練馬光が丘病院撤退
http://mainichi.jp/area/tokyo/news/20110906ddlk13040295000c.html

◇民法盾、強引に舵切る 「理事会判断」説得力欠く
日本大学(千代田区)が7月、地域の中核病院の役割を担ってきた医学部付属練馬光が丘病院(練馬区)の事業から今年度末で撤退すると表明し、地元が揺れている。区は後継病院を募集し選定を進めているが、病院選定や引き継ぎの混乱なども予想され、医療サービスの停滞が懸念されている。都心で進行する「医療危機」の現場を探った。【吉住遊】
昨年2月、練馬区の区長応接室。日大の総務部長ら8人が、当時の副区長をはじめとした担当者と向き合っていた。その半月前には日大からの要請を受け、区が病院の経営支援を決定したと通知したばかりだった。区側の関係者の一人は「支援の打ち合わせかと思っていた」と振り返る。だが、総務部長が口を開くと区側は言葉を失った。「病院からの撤退を含めた検討をしている」。そして、こう続けた。「理事会の判断です」

病院を開院するに当たり、土地と建物を所有する区と日大は「(病院の)賃貸の期間は91年4月から30年間」とし、日大が地域医療の充実を図るという協定書や契約書を交わしていた。区は病棟を改修したり土地や建物の使用料約3億円を免除・減免する支援を約束。だが病院は、毎年平均4・5億円の赤字を計上し続ける。この状況に、理事会は09年11月、「賃貸借は20年が限度」との民法の規定を持ち出し、半ば強引に「撤退」に舵(かじ)を切ったとみられる。
両者はその後も20回近くの協議を重ねるが不調に終わる。「最後通牒(つうちょう)」は今年7月4日。大学側の代理人を務める弁護士名で志村豊志郎区長あてに「9月10日までに引き継ぐべき医療機関」を求める封書が届く。医学部や病院職員に大学から連絡があったのは、その後だった。


「一体、何があったのか? 日大が一方的に契約を打ち切るのは理解できない」
8月16日、区内のホールであった区民集会で、区民の会の代表を務める男性が声を上げた。病院の存続を求めて急きょ開催が決まった集会には、会場いっぱいとなる約250人が押し寄せた。
病院関係者によると、同病院の赤字は経営改善に加え、10年4月には医療報酬の引き上げもあり、10年度は約1億円まで減少していた。11年度は4~6月で前年同期比で1億5000万円以上の増益を確保し、開院後初めて通年で黒字に転じる見通しだったのだ。だが「撤退」の方向性が示されて以降、大学の理事会で病院の財務状況が顧みられることはなかった。
大学の一方的な決定に医学部からも反対の声が上がっている。系列の駿河台日大病院で小児科の総医局長を務める斎藤宏助教(36)は、病院存続を求め、区や大学に訴えてきた。斎藤助教はこう憤る。
「医師会も区民も医学部も、誰もが病院の存続を望んでいる。こんな簡単に地域医療がないがしろにされていいのでしょうか」
大学側は取材に「病院が黒字に転じても医療報酬の改定、自治体の支援など、不安定要素が存在するため、経営資源をほかの二つの付属病院に集中する方針に変更ありません」とコメントしている。
==============
■ことば
◇日大医学部付属練馬光が丘病院
経営不振に陥った練馬区医師会立光が丘総合病院を日大が引き継ぎ、91年に開院。心臓循環器や脳卒中の専門医療に加え、小児、周産期、救急の分野で地域との連携を進めるなどし、中核医療機関として機能してきた。18の診療科があり、ベッド数は342。常勤の医師約120人、看護師約300人を抱える。区内の200床以上の病院はほかに、順天堂大医学部付属練馬病院と練馬総合病院がある。
〔都内版〕


というわけで現在、大炎上中のようです
ヒートアップする区民をよそにほとんど沈黙を続ける日大ですが、ことは日大全体の信用問題にもなるだけに、この対応はあまりに強硬でリスキーです
しかしそうであるが故に、私はこれを、メディアで騒がれているような単純な経営問題ととらえるのは違うような気がしています

というのも、実は同時期に他の付属病院のも動きがあり、これは練馬単独の問題ではなく、日大付属病院全体の戦略の一つでしかないと考えられるからです


【東京】日本の中枢担う千代田区から高度な災害拠点病院消滅の波紋
http://diamond.jp/articles/-/13888 

 国会や官庁のお膝元である東京都千代田区に同様が広がっている。東日本大震災が発生したにもかかわらず、重篤な患者に対応する災害拠点病院が区内からなくなってしまうことが判明したからだ。
 この病院は、心肺停止など集中治療室での治療を要するような重篤な患者に、高度な医療を提供する3次救急施設として活動してきた駿河台日本大学病院(救急救命センター)。3次救急に対応する東京都災害拠点病院としては区内で唯一の受け皿となってきた。
 それが、2014年に近隣に新病院を建設、移転するのに伴って、3次救急から撤退する方針を固めた模様なのだ。
 日本大学本部は「現段階は病院機能を検討中のため、コメントは差し控えます」とする。しかし今年7月、地元の町内会や大学、企業の代表者ら約30名を集 めて開いた「神田駿河台まちづくり協議会」の席上で日大は「(入院・手術に対応する)2次救急の病院となる。3次救急だと施設基準などが厳しい」と、すで に撤退の理由まで明らかにしている。
 これに対し地元は猛反発。今後も話し合いは続くが、「いずれ千代田区は東京都に、地元医師会は都医師会に対して存続に向けた要望書を出す予定」(関係者)。
 新病院の開設にあたっては、都の許可が欠かせないだけに、ある病院関係者は「都の審議が紛糾するのは必至」と見通す。
 日本の中枢昨日を担っている千代田区から、大災害など救急時の”最後の砦”が姿を消しかねない事態。関係者は、事の行方を固唾をのんで見守っている(週刊ダイヤモンド』委嘱記者 内村敬)



【東京】日大、御茶ノ水に新病院 14年秋開設 耐震強化、床面積2倍
 日経新聞 2011/8/11
 日本大学(東京・千代田)は2014年秋にも、御茶ノ水駅近くに同大付属の新病院を開設する=写真は完成予想図。築50年近くを経過した駿河台日本大学 病院を移転するかたちで、地上11階・地下2階のビルを建てる。首都直下型地震に備え耐震性を強化するほか、病床当たりの床面積を2倍とし医療の質の向上 を狙う。診療部門では脳疾患、心臓病などの生活習慣病への対策に重点を置く。
 法科大学院の校舎などがあるお茶の水キャンパスの一部に新病院を建設する。来年4月に着工する予定。総事業費は公表していない。
 病院の延べ床面積は約3万平方メートル。病床数は現在の約410床から約320床に減らす。1床当たりの床面積は現在は約37平方メートルだが、新病院 は約80平方メートルに拡大し、一定の広さが必要な救急医療などに備える。病床数の減少はベッドの稼働率向上でカバーする考え。
 06年度実績で1日の外来患者数は約1200人。都心部で働く人や住民の需要に合わせて、予防医療や人間ドックなどに力を入れる。具体的な診療科目は未定だが産科医療は廃止する方向だ。
首都直下型地震に備えて自家発電装置を備えるほか太陽光発電のパネルなども設ける。食料や飲料水も備蓄し、周辺のオフィスや教育機関からの一時避難にも備える。
 日大は板橋区内や練馬区内にも付属病院を持っている。練馬区の練馬光が丘病院は12年3月末に運営から撤退する方針を決めている。



全体としてみると、不採算部門撤退、戦線縮小、機能特化という標準的かつ冷酷な経営戦略であることがわかります

また、気になるのは、練馬のスタッフがどこに行くかです
残念ながら「中の人」に知り合いがいないので想像でしかありませんが、普通に考えると他の付属病院に再配置されると思われます
であるなら、これは戦力の集中化であり、「医師過剰」と評される東京のド真ん中の日大が深刻な医師不足にあることになり、問題の本質が変わってきます
実際、撤退を決めた練馬の説明文にそれを思わせる一文があります



日本大学医学部付属練馬光が丘病院の運営終了について
http://www.med.nihon-u.ac.jp/hospital/hikari/news/20110719160951.html 
2011/07/19
 日本大学では,医学部付属練馬光が丘病院の運営を平成24年3月をもって終了することに決定し,同病院建物の所有者である練馬区と,新たな医療機関に病院事業を引き継ぐ方向で昨年より話し合いを進めてきました。
この度,運営終了に関する話し合いの内容の公表につき練馬区の同意を得ましたので,下記のとおりご報告いたします。


1 契約期間の満了
日本大学は,経営破たんした練馬区医師会立光が丘総合病院の後を受けて,平成3年4月に医学部付属練馬光が丘病院として診療を開始いたしました。以来20年間にわたり練馬区を中心とした地域の皆さまにご利用いただき,救急医療,周産期医療,小児医療,心疾患等の高度医療にも力を入れ,地域医療の中核的役割を担ってまいりましたが,本学と練馬区との間で平成3年4月1日に締結した基本協定および公有財産貸付契約の賃貸借関係は,平成23年3月31日に終了いたしました。しかし,本学は新たな引き継ぎ先の医療機関を探している練馬区からの強い要請を受け,地域の皆さまにご迷惑をお掛けしないよう,病院運営の終了を1年間延長いたしました。また,本学は,昨年から始めている練馬区との話し合いに,現在も積極的に協力しております。 

2 患者さまの安全と安心のために
引き継ぎ医療機関が決まり次第,円滑に引き継ぎを行うのは当然のことですが,受診中の患者さまの生命や安全を第一に考え,患者さまにご安心いただけるよう本学付属板橋病院や付属駿河台病院,更に他の関連病院と連携を図るなど,責任を持って患者さまのサポートをさせていただきます。 

3 地域医療充実を目指し倒れる医師も…
本学練馬光が丘病院が経営破たんした医師会立病院から引き継いだ病院棟は,建物そのものが大学病院仕様ではないことから診療効率が悪く,また,医療機器などの設備面も老朽化が進んでおります。しかし,練馬光が丘病院では,患者さまに少しでも高度な医療ときめ細やかな診療,看護などの医療サービスの提供を心がけてまいりました。  さらに地域医療充実のため,日夜病院運営に心血を注ぎ,診療中倒れる医師が出るほど懸命の努力をし,さらに経費削減のため様々な方策も断行してまいりました。  そのような努力にもかかわらず練馬光が丘病院は,開設以来,長期にわたって支出超過の状態が続いているのが現状です。これまでの収支の差額の累計は約マイナス90億円,開設時に練馬区に差し入れた無利息の保証金50億円と併せると現時点での日本大学の負担は,約140億円にものぼります。このままの状態が続くと練馬光が丘病院だけでなく学校法人日本大学そのものが経営破たんということにもなりかねない状況です。本学はこのような状況でも地域医療充実のため努力してまいりました。 

4 入院・外来診療に関するお問い合わせ
日本大学医学部付属練馬光が丘病院庶務課
 電話:03-3979-3611(代表)



流石にこんな事で嘘はつかないでしょうから、労災が起きたと予想されます

…そういえば、日大って2006年に初期研修医が過労(週72.8時間勤務。つまりウチの大学の研修医と同程度)から鬱になり自殺者が出ていましたね
特に労基署に踏み込まれたという噂は聞いた覚えがありませんが、経営問題だけでなく、労働環境も今回の戦線縮小に影響している可能性が考えられます





ところで今回のテーマからは完全に余談になるのですが、練馬撤退報道を受けての区民の行動は失望以外のなにものでもありません



日大の撤退は「区民の命をないがしろに」- 光が丘病院の存続求める区民の会 

  「日大光が丘病院の存続を求める区民の会」の小園井智代代表らは9月8日、東京都庁で記者会見を開き、日大が来年3月末で練馬光が丘病院(練馬区)の運営からの撤退を表明している問題について、「日大と練馬区の態度は、わたしたち区民の命をないがしろにしている」「地域医療、特に小児医療の機能を低下させるもので、断固認めることはできない」などと訴えた。
  この問題をめぐっては区が8月、日大に代わる運営法人の募集を開始。名乗りを上げた4法人のうち、2法人が運営方針などをまとめた企画提案書を提出している。区の選定委員会は、12日に両法人の最終審査を行う方針を示している。
区民の会の神津眞久事務局長は、同病院は十分に持続可能な経営体質と、区民の生活に不可欠な機能を持っていることなどから、「撤退は認められない」と強調した。また、区が撤退を認めて後継法人の募集を開始したことについては、「区民抜きで、区民にとって極めて重要な地域医療の改悪を進める点で、住民自治の精神に反し、許されない行為だ」と批判。その上で、日大への適切な指導・監督を直ちに行うとともに、契約関係の継続を確認すべきと主張した。
神津氏はまた、後継法人に求められる条件に、小児科医療に携わる医師数などの具体的な数字がなく、日大が従来行ってきた医療の水準が維持されることはほとんど期待できないとの懸念を表明。「医療水準が維持されることが確認できるまでは、日大の撤退を許可しない。それが今、区が果たさなければならない責任だ」と強調した。
また、区民の会の小山謙一氏は、区に対する住民監査請求の準備と、後継法人の選定にかかわる記録などの情報公開の要請を今後、行っていく考えを示した。
監査請求の時期については、「区と日大が翻意すれば、しばらく猶予することになる。現状では、早い機会に行われる可能性が高い」と述べた。



この区民の会の人がどれだけ偉いのかは知りませんが、恫喝でどうにかなると考えているなら社会人失格だと思います

意趣返しをするなら、「練馬区民の会の態度は、私たち医師の命をないがしろにしている」「医療者のQOLを低下させるもので、断固認めることはできない」となるでしょうか?(笑

仮にこれで病院が残ったところで、こんな、病院を区民の奴隷と考えているような人たちのいる地域に望んで赴任する医師はいないでしょうよ
柏原病院がなぜ生き残れたのか、そこから勉強してくるべきでしょうね

そもそも、日大は私企業であり、経営陣は職員の生命と生活を守る義務があります

日大の本心がどこにあるのかはまだ明らかにされていませんが、これから起きる首都圏の超高齢化。国が画策している医師の地方への強制配置、研修医定員減を計算に入れているなら、10年単位で先を見越した大英断になるでしょう

2011年8月29日月曜日

「医療崩壊」の定義

会話というのは、自分と相手とに言葉の定義が共通していないと成立しません
ソクラテスの言にもあるように 
「大工と話をするときは、大工の言葉を使え」
ということです
たいていの場面において会議が迷走するのは、そういった齟齬に気づかずに、「自分の世界の自分の言葉」でのみ語ることが原因となります


さて、多くの医療関係者には、既に医療が崩壊しているのは共通理解だと思いますが、為政者側は「医療崩壊」が起きていることは未だに認めていません
彼らにとっては、まだ問題は「医師不足」で済んでいるようです

現状は、「医療消滅」というチェックメイトをかけられた、キングをとられるまでの数手の間に過ぎません
ゲームであればすでに自動的に投了になっているのを、現実の残酷さで最後までやらされているというだけです

私たち医療崩壊論者が訴えているのは、その「数手の間」に、「ルール変更」することで王手を解除させるしかないということです
対して、政府の「医師不足」「医師の偏在」は、旧来のルールの内側でしかありません
政府の話に乗る限りは、医療消滅は防げません
しかし、政府にそれを認めさせるには、一度そのスキームで会話して、そんな手ではもうどうにもならないと認めさせるしかありません


長崎県病院企業団企業長の資料をちょっとお借りしましょう
よくある、県別の医師数です
http://lohasmedical.jp/news/2011/08/24024220.php?page=2

この表では医療崩壊のなにも表現できないことは、企業長の指摘を待つまでもなく明らかです
この企業長の面白いところは、次の表です
http://lohasmedical.jp/news/2011/08/24024220.php?page=3

医師数だけでなく患者数という関数まで取り入れたユニークな試みではあるのですが、分析で大きなミスがあります






A群、B群にとりますと、これは高い専門性、あるいは高度の救急医療、それから先進医療に対する医師が不足しているということが叫ばれている都道府県でございます。




これは時制は「現在」の医療崩壊を表現した二次元関数でしかありません
「これから」対策を立てるのですから、語るべき時制は「未来」でなければ先回りすることはできません(一度、戦略シミュレーションゲームでもしてみればよくわかりますよ)

また、こうした数字の扱いではいつも「東京」が悪者となるのですが、「首都圏」という枠組みでとらえないと自体の本質を見誤ります(これは、ベッドタウンに過ごした人間でないと実感できないでしょうが…)


最初の方の表をもう一度見ていただければわかりますが、東京以外の首都圏が、全て医師が少ない県Top10にカウントされています
また、地理的にも、「首都圏」という単位は地方の1つの県に相当する面積であると言うことも忘れてはいけません
「首都圏における東京と隣県」というのは、そのまま、「地方の県庁所在地とその他の市町村」に該当するのです
医療崩壊で「東京」を語ることはミスリードにしかなり得ません
また同様に、東京隣県内部の医療崩壊も、ベッドタウン地域とその他地域を同列に論じることもできません
要は、医療の実態は都道府県という枠組みではなにも表現しえないと言うことです


首都圏を代表とする大都市圏の医療崩壊と、地方の医療崩壊はまったく異なるロジックで起きています


医療崩壊の原因は、医師数と患者数のバランスの問題とも言えます
つまり、患者が多い=高齢者が多い地域が火薬庫であると言うことです
高齢化率の推移予測を示した図がこれです



http://lohasmedical.jp/news/2011/08/22014400.php?page=2


2030年までは、現在高齢化率の高い県がそのままの地位を維持しますが、2040年には全国が平均化し、2050年には逆に、現在医師過剰とされている都市部が高齢化の洗礼を浴びる計算になっています

原因は、まぁ社会学的な方面の知見があればすぐに思いつくと思いますが、この数十年の日本の人口分布の変化が高齢化という形に変換されてきているというだけのことなんですね


もともと、日本は人口的にも地方が中心でした
それが崩れはじめたのは、私たちの父の少し上の世代の就職列車からです
http://ja.wikipedia.org/wiki/集団就職

その後、バブル期に入りサラリーマンの時代となると、今度はベッドタウンとして隣県に人口増が波及します
そうして、日本人の過半数は大都市圏の住民となりました
 
現在は、そうして大都市圏に出てきた人たちの子ども世代が若手労働者として、大都市という故郷にそのままいるわけです
言うまでもありませんが、若手が増えれば高齢化率は下がり、若手が減れば自動的に高齢化率は上がります
こうして、大都市圏は若手が多いために高齢化率は低く抑えられています


一方で、現在の地方の高齢者たちは、集団就職で、東京に出てきた人たちの親なわけです
地方の高齢化の原因は、実のところ、現在の地方の高齢者たち自身だったりするのです


しかし、あと20~30年もすれば集団就職やバブルで大都市圏に来た世代も高齢者となり、その子どもたちもそれに続くわけです
そして、さらにその子ども世代は、少子化という問題が待ち受けています
大都市で30年後に起きる医療崩壊は、長崎の企業長が言うような高度医療・救急の問題では済まされなくなります
なにせ、このベッドタウン地域は30年前までは人がいなかったため、病院がないのですから

逆に、その頃には既に現在の医療崩壊地域の高齢者は寿命を迎えており、限界集落もいくつも出現し、病院どころか村ごと崩壊しているでしょう
その場合、医療需要そのものがなくなるので医師不足もなくなるでしょう


つまり、「あと20年続く医療崩壊」と「30年後から顕在化する医療崩壊」は全くの別物なのです
そして、現在の大都市部での医療崩壊は、後者の序章部分なのです


この様に、医療の需給バランスというのは、医師数以上に高齢者数が大きなウエイトを占めます
「医師不足」を語るに医師数だけをもってして動くのは、常に後手後手に回ることにしかなりません


医療消滅を防ぐには、現在の地方の医療崩壊に対する応急処置および集落としてのターミナルケアと、30年後を見据えた大都市部の病院整理が必要なのです
医師の強制派遣とか、地方に医大を新設とか言うのは、問題の本質を見誤ってるとしか言いようがありません
今から地方に医師を強制配置させる策を作ったところで、それが実行力をえる頃には地方の医療・介護需要は激減し、逆に大都市圏で医療・介護需要が爆発するのですから
今の政府の医師不足対策では、20年以内に地方と共に心中するだけです

2011年6月11日土曜日

東日本大震災 No.8

今日で震災からちょうど3ヶ月です

予想通り超長期戦になった東日本大震災ですが、医療機関も復興期に入り始めました
復興方法については、国の人海戦術案と、東北大の集約化案が明らかになってますが、どちらがいいとか言う前に、現状を確認する必要があります

小児・産科、経営危機 原発事故で市外へ避難 南相馬市
福島第1原発事故の影響で、南相馬市の小児科と産婦人科の医療が危機に見舞われている。小学生の3分の2が市外へ避難するという異常な状況が、病院の経営を直撃しているためだ。原発事故が収束する見通しは立たず、避難の長期化は必至。小児科と産科をめぐる環境は当面、好転しそうにない。
南相馬市には震災と原発事故まで、小児科医院が2カ所あり、さらに市立総合病院と民間の大町病院にも小児科があったが、全てが休診中だ。産婦人科で現在も開業しているのは医院1カ所だけ。医院2カ所と市立総合病院、大町病院の産婦人科が休診している。
相馬郡医師会によると、市内の小児科医院の一つには原発事故前、患者が月1000人以上いたが、事故後は10分の1以下に減り、休診に追い込まれた。市内に子どもがいなくなったことが、大きく響いている。
事故前、市教委は4月1日時点の市内の小学生は4050人、中学生は1957人と見込んでいた。ところが5月23日現在、小学生は1343人、中学生は898人だけ。小学生は33%、中学生は46%しか残っていない。
 同市は旧市町ごとに3区に分かれ、そのうち小高区(旧小高町)は全域が立ち入り禁止の警戒区域、原町区(旧原町市)もほぼ全域が緊急時避難準備区域になっている。国は緊急時避難準備区域に子どもや妊婦らが入らないよう指示しており、小学生などが激減する要因になった。
市内の産婦人科で唯一開いている原町中央産婦人科医院が扱った出産は、今年4、5月は1件ずつしかなかった。
同医院の高橋亨平院長(72)は「産科は1カ月で最低15件の出産がなければ経営が成り立たない。今は内科の診療が全体の9割を占めている。原発事故が収まらない限り、人は戻ってこない。これからどうなるか見当がつかない」と話す。
相馬郡医師会の柏村勝利会長(67)は「親は子どもの健康を考えて帰らなかったり、仕事がなくて戻るに戻れなかったりしている。子どもがいなくなって、これから地域を再建できるのだろうか」と心配している。
2011年06月09日木曜日

南相馬市は立派な被災地ですが、むしろ小学生が1/3も残ってる方が不思議かも知れません
…戸籍だけ残ってるとかいうオチじゃなかろうな?


患者がいなくなれば、収入減の診療所や病院といえども閉めざるをえないのは資本主義の常です
が、いっては何ですが、震災からわずか3ヶ月でこうも医療機関が資金難で壊滅することになったのはなぜでしょうか?

原因として、まず、病院に貯蓄がなかったのは間違いないでしょう
そうなったのは、長年の医療費削減政策のたまものです。 財務省の方々、おめでとうございます
どれだけ自転車操業していたんでしょうね?


さて、この自転車操業に止めを刺したのは、ぶっちゃけ、政府の打ち出した被災者の医療費無料化です

以前にも記事中で紹介しましたが
http://firstpenguindoc.blogspot.com/2011/04/no5411417.html
http://firstpenguindoc.blogspot.com/2011/04/no6418423.html
医療機関からすると、窓口負担を合法的に踏み倒されることになります

となると、医療機関は同じ医療行為をしても、2~3割減収になります
→どう考えても、医療するだけ赤字垂れ流しですね
そりゃあ、3ヶ月ももたずに資金ショートしますわ…

被災地全域で、官製医療崩壊が深く静かに進行していることでしょう

2011年1月30日日曜日

日医の空論

年末年始と異動と重症患者の三連コンボで1ヶ月ほど更新が滞ってしまいましたが、ブログの更新を再開したいと思います。
一応、当初案では連載から始める予定でしたが、ちょっと予想していなかった医療ニュースが入ってきてますので、まずはそれらを順次消化してからにしたいと思います。

本日のネタは、既に医療ブログでは散々叩かれている日医の1/19づけの定例記者会見「医師不足・偏在の解消策について」です。
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20110119_1.pdf

話には聞いていましたが、オリジナル見るとその酷さがよくわかります。
歴史に関するところがやたらと長いので、そこは無視して医師会の「改革案」とやらを一つ一つ斬っていきたいと思います。


臨床実習資格試験(仮称)と医師国家試験の改革案
医学部 6 年生は、知識問題を含む医師国家試験対策に多くの時間を割いている実態である。
医学知識については、現在、4 年生の半ば頃から4 年生の終わり頃(大学によって異なる)に受験するCBT でも高度な内容が課されている。
そこで、日本医師会は医学知識の評価はCBT の1 回に絞り込み、以降は、臨床実習によって培われた能力の評価に特化することを提案する。


で、じゃあ国試はどうすんの?という当然の突っ込みが湧いてきますが、その答えがこれです


② 医師国家試験の内容(案)
上級OSCE(Advanced OSCE)と面接試験を課す。
● 上級 OSCE(Advanced OSCE)
「臨床実習免許(仮称)」取得時のOSCE の上級編として位置づけ、臨床実習の成果を問うものとし、プライマリ・ケアを中心とした臨床能力を客観的に評価する。
● 面接試験
医師としての適性を評価し、本人にフィードバックする。


まぁ、理屈の上ではそうそう間違ってないですよ?
でも、ちょっと考えてみて下さい。こういう試験にするために超えなきゃいけないハードルがいくつありますか?5年10年でどうにかなるものではないと思います。
しかも、「医師としての適性」ってなんなんでしょうか?是非とも具体的に教えて頂きたいものです

少なくとも、こういうテストをするためには教育システムの根本的な変更に加え、病院実習を根本から変えなきゃいけないわけですが、問題は、日本国民がそれを許すかです(アメリカのあの病院実習は格差医療があるから可能なのです)
その辺を医師会がどう解決するつもりなのかですが…ものすごい突っ込みどころがあります


日本医師会は、参加型の臨床実習の導入にあわせて、たとえば
・指導医等に対する医師賠償責任保険(医賠責保険)の補助
・学生を対象とした準会員的な制度の新設
などの支援を行なっていくことを検討する。


…えーと?
医師会が学生にエンクロージャかけたいのはよくわかったが、あえてスルーしよう。その前の一文がそれどころじゃないくらい理解できないからな!
とりあえず文字通り解釈するなら、 
学生が何かやらかしたら指導医が個人の医賠責で対応しろ 
ってことですか?!
学生とか研修医以前に、指導医がはだしで逃げ出す様が容易に想像できるのですが、これで体験型病院実習が促進されるって本気で言ってるんでしょうか???
さらにこれで終わらないのが日医クオリティw新会長はなにを錯乱されたのでしょうか?



日本医師会は、医学部教育から初期臨床研修までの 8 年間、一貫して地域医療を学習・研修し、より実践的な地域医療を身につけることを目的に、初期臨床研修は、原則として出身大学のある都道府県で行なうことを提案する。
またこれにより、医師が地域への愛着を深め、ひいては医師の地域的偏在の解消の一助となることを期待する。


「希望を持つのは勝手だが、期待を持ってはいけない」と言った高名な先生がいらっしゃいますが、是非とも日医にお説教して頂きたいです

医師会の理事の方々
臥薪嘗胆って言葉、ご存じ?
なんでこれで郷土愛が芽生えると思えるのか理解不能
いや、まさか舛添大臣(当時)すら憲法違反と喝破した官僚のゴミ案をまさかの日医が持ち出してくるとは…

そもそも、現実問題として法律以前にあり得ないんですけどね…
私のいる県、研修医の募集定員が病院が責任もって研修できる数を無視して設定されている(研修担当者談)のですが、そのムリな募集人数を県内全部足しても、来年度の医学部新入生の定員に届きませんwwwww

第一、世間のイメージとは逆に、実際には大都市は研修制度が始まってから研修医が激減しています。
また、研修医が増えたその周辺地域は地方に散った医学生が帰ってくることで、ギリギリ低空飛行で地域医療がもってます
これ以上引きはがせば、大都市圏の医療はこんどこそ致命傷ですよ?

たとえば千葉県は船橋市一つで鳥取県と同等の人口があります。千葉県も鳥取県も、医学部は一つです。
研修医が出身大学に拘束されることになれば、千葉は医師不足で医療が崩壊し、鳥取はオーバーフローで研修が崩壊します。
誰も嬉しくない結果になるのは明白ですが?
こんな一見したところ地方医大が狂喜乱舞しそうな案を医学部や大学附属病院が一度も言い出さないことの意味を考えて頂きたいですね

さて、これで終わってくれればよかったんですが、まだまだオチが続きます


日本医師会は、初期臨床研修修了者を、日本医師会認定「一般臨床医(仮称)」として認定する。

そういや、さっき

・学生を対象とした準会員的な制度の新設 


とかいうのがありましたね?
いつから日医は強制加入になったwそれとも、新手の押し売りか?!



なんというか、悪意を極力もたないように見ているつもりなのですが、どうみても、プロ集団としての提案ではなく、ただの利権争いです
それだけなら全力でみんなでスルーすればいいだけなのですが、このpdfにある「都道府県医師研修機構」とか気になるんですよね
なんか、読売の医師強制配置システムと類似しているような気がするのですが…

場合によっては、研修病院がバスチーユ監獄と化すぞ?

2010年12月11日土曜日

箱は開かれた

朝日がんワクチン騒動、事前情報通り中村氏らが朝日を名誉毀損で訴えました。

がんワクチン報道で朝日新聞を提訴、東大医科研・中村教授ら
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/31331.html

これに対する朝日の「反論」は相変わらず意図的としか思えないほど歯車がかみ合ってないのですが
http://www.asahi.com/health/news/TKY201012080427.html
この先は裁判所でのバトルになるので、今回は朝日がんワクチン騒動の方をやろうと思ってたんですが、予定変更して時間外訴訟の続報に行きたいと思います。


奈良県の時間外労働訴訟が最高裁までもつれ込んだことは前回書きましたが、その後、全国でこれに呼応するかのような報道がされました


東大病院など違法超過勤務、是正勧告8回
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20101208-OYT1T00155.htm
京都府立医大 残業代3億円支払わず
http://www.sponichi.co.jp/society/flash/KFullFlash20101207059.html
(岩手)県立病院、違法時間外労働22年 労使協定結ばず
http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20101208_2
和歌山県立医大病院が残業割増分6000万円未払い
http://www.asahi.com/job/news/OSK201012060123.html

他にも報道されてるかも知れませんが、フォローできたのはこれだけです
大学3件、自治体病院1件ですが、興味深いのは労基署はこれらに「以前から」是正勧告をしていたと言うことです
つまり、違法状態は認識していたが、手は出せなかったということでしょうか?
特に大学の場合、人事院が「見て見ぬふり」をしていた問題に、独法化を機に労基署が「大学病院といえども例外ではない」と踏み込んできたと言うことでしょうか?

奈良県の行き先次第では、ビッグバンが起こる可能性は充分にあると言うことです
(もっとも、一票の格差論争にみたいに延々訴訟が続く可能性の方が大ですが)

さて、ここで各病院の言い分を聞いてみましょう
まずは各ブログで既に散々叩かれてる東大ですが

 同大によると、是正勧告を受けたのは、付属病院が4回、医科研が2回、医学部と研究協力部が各1回の計8回。うち付属病院の未払い賃金額は約7457万円と全体の7割以上を占めた。04年以降、ほぼ毎年勧告を受け続けており、労基法違反が常態化していた。
 労使協定で定めた時間外労働の上限は、急患対応や入試などの特別事情を除き月45時間。しかし、職員や上司が、時間外労働として報告すべき残業を「自主研究」と勘違いして報告しなかったりして、正確な勤務状況を把握していなかったという。同大は未払い分を全額支払い済みだが、「勧告を誠実に受け止め改めて周知徹底する」(同大本部広報課)としている。


とんでもねーくらい開き直ってますなw
しかも東大のいう「全額」というのが本当に「全額」であるわけはないでしょう
時間外労働が月45時間で済んでると誰が信じます?(「急患対応」って便利な言葉ですよねw)
仮にこの言い分が正しいとしてもですね、
研究は労働時間ではないって『大学』でありながら何言ってるんでしょうか?
東大ですら研究者は減少していると騒がれていますが、東大ですらこういう状態で、日本の医学研究が発展すると本気で思っているんでしょうか?




次、京都府立医大


 大学によると、医師と同病院の間で時間外労働に関する協定がなく、2007年12月と09年10月に当直手当以外の賃金が支払われていないとして是正勧告を受けた。大学側は08年4月の法人化以降の時間外労働のうち、約1億6000万円をすでに支払い、残りも本年度中に支払うという。
 大学は「09年12月に時間外労働に関する規約をつくり、現在は適正に支払っている」としている。

「規約」の内容が非常に気になるところですが、情報不足すぎてあまり突っ込めませんが、医師に1億6000万払ったのなら、マシな方なのでしょうか?


次、和歌山県立医大病院


 大学総務課などによると、2009年6~8月、医師や職員の超勤手当を払っていなかったとして同年10月に是正勧告を受け、283人に計5617万円を支給した。紀北分院(同県かつらぎ町)も08年11月に是正勧告を受け、82人に計414万円を払った。
 同病院では、外来患者への対応や緊急手術などの際は超勤手当を支払っているが、それ以外の時間は当直手当のみとしている。現在も運用は変えていないといい、担当者は「直ちに運用を変えると経営が立ちゆかなくなる。今後の対応は決まっていない」と話している。

どうやら、奈良県と運命を共にすると言うことだそうです
最後、岩手県立病院

 県医療局によると、36協定は今年3月30日に再締結され、違法状態は解消した。医師を除く残業の上限時間は1カ月20時間、年間240時間とした。 5月1日現在の医療局職員は4742人で、管理職約120人を除く約4600人が36協定の対象となる。


医師は?
ねぇ、医師は??  


来週は学会のため休刊するかも知れませんが、次回はよほど大事件が起きない限りは
「モチベーション3.0からみた日本の医療の変化」を
考察したいと思います

2010年12月5日日曜日

パンドラの箱となった奈良県時間外労働裁判

先日の

バグだらけの医療体制と当直問題高裁判決
http://firstpenguindoc.blogspot.com/2010/11/blog-post_21.html

の続きです
奈良県の産科医が訴えた「『医療法上の当直』は時間外勤務か」を争う裁判、高裁は「『医療法上の当直』=『労基法上の当直』ではない」という働く側からすれば当たり前の、しかし画期的な判決を出しました

これに対して奈良県はどうしてくるかと思いきや、ネット医師の期待を裏切らず、最高裁まで持って行ってくれましたw
まずは奈良県の言い分を確認しましょう


時間外手当裁判、奈良県が上告したわけ
「奈良県だけの問題ではない、上級審に慎重な判断を求めたい」
2010年12月1日 橋本佳子(m3.com編集長)
 「この裁判では、(訴訟の対象となっている)2004年、2005年当時のことを争っているわけだが、その後、医師の処遇改善などを行った。しかし、大阪高裁判決は、現在の体制でもまだ不十分ということになる。また医師の労働環境を守ることと、地域住民の健康生命を守ることは、ジレンマに陥ることでもある。今回の判決を踏まえると、県では対応が困難であり、厳しい医師の労働環境、全国の救急医療の状況、医師の需給状況などの現実的な状況、さらにはこの判決が社会に与える影響を踏まえた上での慎重な判断を上級裁判所に求めたい」
 奈良県医療政策部長の武末文男氏は、11月30日の記者会見でこう説明した。同県は、奈良県立奈良病院の二人の産婦人科医が、未払いだった時間外手当(時間外・休日労働に対する割増賃金)の支給を求めた裁判の大阪高裁判決を不服とし、上告期限の30日、最高裁に上告した。


内容としては、前回指摘したのと以下同文の問題のすり替えですね
奈良県が何を言おうが、36協定なしにただ働きさせていた事実は変わりません
奈良県の主張は、36協定結んで全力でそれを遵守して金を払ってた病院が、労基署に労働時間を突っ込まれて初めて言って許される話です

しかし、最高に傑作なのは

医師の労働環境を守ることと、地域住民の健康生命を守ることは、ジレンマに陥ることでもある

という一言ですね
徹夜明けの思考力は飲酒状態に匹敵するという論文を引用して、医療安全上ありえないっていうか、むしろ地域住民の健康リスクになりかねないとか展開しようかと思いましたが、冷静に考えればそこまでする必要もない話でした
何故か毎度毎度「ただし医師は除く」のマジックで誤魔化されそうですが、このセリフを他業種に当てはめてみると非常にあり得ない話であることがわかります


派遣社員の労働環境を守ることと、企業の成長を守ることは、ジレンマに陥ることでもある
地域住民の生活環境を守ることと、企業の成長を守ることは、ジレンマに陥ることでもある 



とか言うセリフを経団連や内閣が言ったらどうなりますか?
まぁ誰かは腹を切ることになるでしょう
たった一言で奈良の医療に止めを刺しかねない魔術ですが、医療崩壊の聖地の名は伊達ではありませんでしたね…

日本医療の最大の間違いは、医療者も管理者も、医療と医師を同一視していることです
医師は医療の行為者ではありますが、それだけです

「医師法」として医師に義務づけられていることと、
「医療法」として都道府県や医療機関に義務づけられていることと、
「労働基準法」として雇用者に義務づけられていることと、
この3つは明確に区別して理解しなければなりません
医療というシステムに要求されていることを、医師という個人に背負わせるのは恥だと知るべきです



しかし、今回奈良県が最高裁に持ち込んだのは、本当にパンドラの箱としかいいようがありません
7月に、小児科医の中原氏が過労の末に鬱となり自殺したのを労災認定と病院の責任を求めて起こされた裁判で、高裁は労災を認めながらも病院の責任は認めず、最高裁で和解させた件を思い出しました
http://www5f.biglobe.ne.jp/~nakahara/

恐らく、最高裁はこの時と同じようなロジックで来ると思われますので、別のところでした分析を引用します


最高裁までもつれ込んだ、小児科医過労自殺事件の民事裁判ですが、 かろうじて遺族敗訴は免れた…というところでしょうね
この手の話は、私の担当チームの先生が当時30代で夜勤中に過労死されてるので全く他人事じゃないんですが、 医師側の絶対的な基準で言えば「ふざけるな」という結論ですね
700万というところに反応される方も多いようですが、私が問題にしたいのは別のところです
まず、一審や二審の判定を継続して遺族敗訴にしなかったのは、流石に最高裁はそこまでバカではなかったと言うことでしょう
医師が法曹界にぶち切れてるのは流石に理解されてるようで、ここは大野病院事件以来の流れと見ていいかも知れません
しかし、では、何故「和解」なのか?
最高裁が本当に和解条項にあるように労基署の過労死認定を追認するのなら、「和解」である必要はなかったのです
本気で「過重な勤務条件の改善」に取り組ませたいのなら、遺族の逆転勝訴にするべきだったのです
でも、そうはしなかった
恐らく、「過労に伴う鬱病の自殺は使用者責任」という『最高裁判例』をつくるわけにいかなかったのだと思います
これは、医師だけでなく、一般の労働者にも適応されますからね
また、和解案に「医師不足や医師の過重負担を生じさせないことが国民の健康を守るために」とあることも気にかかります
確かに、現在の医師の労働時間は過労死ライン平気でこえてますからね
今の医師数で「過労死ラインを下回る労働環境」を最高裁が義務化すれば、「医師不足」に拍車がかかる(正確には表面化する)のは事実です
そこまで計算して「和解」に持ち込んだのであれば、最高裁としては可能な限りの妥協点であると言えるでしょう
しかし、妥協は所詮、妥協でしかないのです
結局のところ、この和解案は
「医師は生かさず殺さず使え」
という現状を追認したものに過ぎません
この和解は最悪ではないが、ただそれだけで、誰も救いません
つまり、現在のサボタージュ型地域医療崩壊は、これまで通り続くということです
医師だって、自分のことを考えない人のために、殉死なんてしたくはありませんから


最高裁としては、奈良に対してだいぶはらわた煮えくりかえってるんじゃないでしょうか?
法的には高裁判決に準じるほかありませんが、そうなれば当然地域病院は「これまで存在しないことにされていたコスト」を処理しなければならなくなります
そうなると、受診抑制を打ち出すしかないわけですが、CTAS(http://jsem.umin.ac.jp/ctas/index.html)など含めたシステム論ができる人間が最高裁にいるとは思えませんから、何言い出すかまったく想像ができません

最高裁が同じロジックで来るなら、やはり和解を狙うでしょうが、医師サイドは今回は地裁・高裁と勝ち進んできてるので、いまさら妥協してやる必要はありません
かといって、ここで逆転判決だせば問答無用で全国の医師の反発を招くこととなり、中原氏の裁判で和解にした意味がありません
どう転んでも、甚大な影響が出る判決になるであろうことは想像に難くありません


ところで、なんでここまでこじつけてまで奈良県の往生際が悪いか…と思っていたんですが、中原氏の記事を見つけたときに、すっかり忘れていた記事を偶然発見しました


産科医当直は違法な「時間外」…奈良県を書類送検

 奈良県立奈良病院(奈良市)に勤務する産科医の当直勤務は違法な時間外労働に当たるうえ、割増賃金も支払っていないとして、奈良労働基準監督署が、同病院を運営する県を労働基準法違反容疑で書類送検していたことがわかった。
 同病院は昨年4月、産科医2人が当直勤務に対して割増賃金の支給を求めた民事訴訟の奈良地裁判決で、計1540万円の支払いを命じられ、控訴審で係争中。公立病院の医師の勤務実態に関して、刑事責任を問われるのは異例という。
 捜査関係者らによると、同病院では、産科医らが当直中に分娩(ぶんべん)や緊急手術など通常業務を行っているが、病院は労基法上は時間外労働に相当するのに割増賃金を支払っていなかったうえ、同法36条に基づき、労使間で時間外労働や休日労働などを取り決める「36協定」も結ばず、法定労働時間を超えて勤務させた疑い。
 昨年4月の民事訴訟判決で、奈良地裁は「当直の約4分の1の時間は、分娩や緊急手術など通常業務を行っている」などとして、医師の当直勤務を時間外労働と初めて認め、割増賃金の支払いを命じた。判決後の同9月、県外に住む医師が県を労基法違反容疑で告発し、奈良労基署が調査を進め、今年5月に送検した。
 県は2004年から、36協定締結について労組側と協議したが、現在まで協定は締結されていない。ただし、県は06年の提訴後、2万円の当直手当に加え、当直中の急患や手術の時間に応じて割増賃金を支給し、当時5人だった産科医を7人に増員するなどの措置を取っている。
 武末文男・県医療政策部長は「書類送検されたことを重く受け止めており、協定をできるだけ早いうちに結びたい。割増賃金については、引き続き県の主張を説明する」としている。
 県立奈良病院は1977年開院。病床数は430床で、内科、外科、小児科など16の診療科がある。
(2010年7月9日10時58分 読売新聞)


要するに、奈良県の医療担当者と県知事は、労基法違反で刑事裁判(6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金)に問われているわけです(実は奈良県の医療がどうこうじゃなくて、単に我が身かわいさの悪あがきじゃなかろうか…)
この続報を聞いた覚えがないので、最高裁判決まで起訴を引っ張るつもりでしょうか?
労基署が何を考えているのかはわかりませんが、既に奈良県に退路は断たれていたわけですね
これが立件されれば、全国の知事に累が及ぶことになるわけです(公立病院の独法化が進みそうだな…)

根本的な解決策が提示されない限り、誰かが血を見る羽目になるのは間違いなさそうです

2010年11月21日日曜日

バグだらけの医療体制と当直問題高裁判決

医師の当直問題について、とうとう画期的な判決が出ました


産科医の当直、時間外支払い命じた一審支持 大阪高裁
http://www.asahi.com/national/update/1116/OSK201011160074.html
2010年11月16日23時54分

 産婦人科医の夜間や休日の当直勤務が労働基準法で定められた「時間外手当」の支給対象になるかが争われた訴訟で、大阪高裁の紙浦健二裁判長は16日、対象になると判断して奈良県に計約1540万円の支払いを命じた一審・奈良地裁判決を支持し、原告・被告双方の控訴を棄却した。
 原告は奈良市の同県立奈良病院に勤める産婦人科医の男性2人。各地の病院の産婦人科医の多くも同じ問題を抱えているといい、代理人の藤本卓司弁護士は「高裁レベルで支給対象と認められたのは初めてで、産婦人科医療に影響を与える可能性がある。問題の背景には産婦人科医の絶対的な不足があり、数を増やすための国の対応が求められている」と話している。
 高裁判決によると、2人は04~05年に210回と213回の当直をこなし、1人は計56時間連続して勤務したケースもあった。これに対し県は「当直は待機時間があり、勤務内容も軽い」として時間外手当の対象外と判断。当直1回につき2万円を支給した。
 紙浦裁判長は、産婦人科医不足で県立奈良病院には県内外から救急患者が集中的に運ばれ、分娩(ぶんべん)件数の6割以上が当直時間帯だったと指摘。当直勤務について「通常業務そのもので、待機時間も病院側の指揮命令下にあった」と判断した。緊急時に備えて自宅待機する「宅直勤務」は時間外手当の支給対象と認めなかったが、「繁忙な業務実態からすると過重な負担で、適正な手当の支給などが考慮されるべきだ」と述べた。
 武末文男・同県医療政策部長は判決後に県庁で記者会見し、「判決に従えば夜間や休日の診療が困難になる。国に労働環境改善と救急医療の両立を図れる体制作りを要請したい」と述べ、上告についても検討するとした。県側は2人の提訴後の07年6月以降、県立病院の医師が当直中に治療や手術をした場合、その時間に限って時間外手当を支給する制度を導入している。(平賀拓哉、赤木基宏)


この判決の少し突っ込んだ内容については…私がどうこう言うより、m3の解説から抜粋させて頂きましょう


 判決の論旨は明確で、(1)就業規則上は「宿日直」の扱いだが、実態は異なり、労働基準法41条3号の規定の適用除外の範囲を超える(「宿日直」に当たらず、時間外手当の支払い対象となる)、(2)救急患者や分娩などへの対応など、実際に診療に従事した以外の待機時間も、病院の指揮命令系統下にあることから、時間外手当の支払い対象になる、というものだ。
 判決では、(1)について、2002年3月19日の通知(厚生労働省労働基準局長通達基発第0319007号)を引用し、宿日直とは「構内巡視、文書・電話の収受または非常事態に備えるもの等であって、常態としてほとんど労働する必要がない勤務」とした。県が2007年6月から9カ月間について調査したところ、通常勤務(救急外来患者への処置全般および入院患者にかかる手術室を利用しての緊急手術など)の時間は、宿日直勤務時間の24%だった。
 (2)について県側は、「時間外手当を支払う対象となる労働時間は、社会通念上の一定の線引きの下に、必要と判断される所要時間と考えるべき」と主張していたが、判決では「宿日直勤務の開始から終了までの間」と判断された。
 結局、2004年10月26日から2005年12月31日までの間で、A医師が認められた時間外の労働時間は、宿直1372時間30分、日直271時間15分、B医師は宿直1418時間15分、日直297時間30分。時間外手当の算定基礎額は、月額給料に、調整手当、初任給調整手当、月額特殊勤務手当を加えた額とされた。


高裁が医師の「当直」は労基法上の「当直」とは異なるという判決を出した初めての判決で、非常に画期的な内容となっています
ですが、法解釈自体は以前から医療者や法曹界から指摘されていた通りで、特に画期的なモノはありません
それどころか、この判決にも2つの欠陥があり、私はネット医師の歓喜の声ほど楽観はできません


第一の問題は、この「当直」が「時間外勤務に相当する」とした根拠が、「当直時間中の通常勤務割合」とされているところです
非常に明快なロジックで、法の趣旨に照らせばそうなりますが、もし具体的な数字をあげて
「当直時間のうち、通常の勤務が~%を超えた場合は時間外勤務とみなす」
というような基準ができてしまったらどうなるでしょうか?

当直が「当直」なのか「時間外勤務」なのかは、勤務が終わってみないとわからないことになります
消防隊員に、「今日は火事がなかったから、お前ら今日は給料なしだ」と言う人はいるでしょうか?
前線の軍人に「今日は襲撃がなかったから、お前ら今日は給料なしだ」と言えばどうなりますか?
後は野となれ山となれとなることは容易に想像されるでしょう
士気の上でも運用上の問題でも、かなりあり得ないことになります


若干話はそれますが、先日の事業仕分けでも、これと同じ過ちを犯しています


 「診療報酬改定で対応可能」とされた事業は、「特定の診療科に従事する医師等への手当支給」で、救急勤務医支援事業(救急医に対して宿日直のたびに最大1万9000千円程度の手当を支給)、新生児医療担当医確保事業(NICUへ入室する新生児を担当する医師に対し1万円の手当てを支給)、産科医等育成支援事業(後期臨床研修で産科を選択する医師に対し月額5万円の手当てを12カ月支給)など。


診療報酬のみで対応すると言うことは、患者が来たことに対する出来高払いしかしないということであり、
「今日は救急車が来なかったから、救急診療部の収入0」ってことです
救急が不採算部門となる元凶はここにあります


今回の高裁判決と事業仕分けは、医療体制に対する無理解という、同じ病理を抱えています
国の、インフラとしての医療に対する金は払わないと言う姿勢を、今回の高裁判決は婉曲的に認める内容にもなりかねないのです
必要なのは「労働の対価としての給与が適切に支払われているか」ではなく、それ以前の「何をもって医療と呼ぶか」ではないでしょうか?


第二の問題は、この判決は給与体系のみに言及しており、労働体系そのものへの言及はされていないと言うことです
宿直を時間外勤務としてカウントした場合、これを可能な限り遵守する方法としては、現状では病院ごとの機能分化と患者制限しかありえません
しかし、これは応召義務(医師法)との兼ね合いがネックになります

「医師法」として医師に義務づけられていることと、
「医療法」として都道府県に義務づけられていることと、
「労働基準法」として雇用者に義務づけられていることと、
現在パラドックスに陥ってしまっているこの3つの整合性をどうとるのか

 という問題にぶち当たります
ここのところがデバッグされない限り、類似の裁判がいくつも続くことになるでしょう

まあ、なんにせよ
当直を時間外勤務と認めると労基法違反になるから認めるわけに行かない、とか全国に発信しちゃう奈良県の医療担当者の不用心さが、やっぱり奈良は奈良だったと全国の医療者に思わせたことだけは間違いないでしょう

2010年10月17日日曜日

経営者中心型社会

四国新聞が非常に興味深い記事を書いて下さいました



10月15日付・コンビニ診療
2010/10/15 09:18

 政府が昨年発足させた行政刷新会議。「規制・制度改革に関する分科会」の作業部会に37歳の医師が起用されることになった。部会には医学界の大御所など、そうそうたる委員が名を連ねる。そこにほぼ無名の若手医師が選ばれた理由は、「コンビニ診療」だった。
 東京都内のJR立川駅改札からわずか30秒の「ナビタスクリニック立川」の院長、久住英二医師。2008年にJR東日本の要望で駅舎内にクリニックを開設、平日の夜10時まで営業しており、通勤帰りのサラリーマンなどがコンビニ感覚で利用できる。
 06年に仲間と新宿駅西口の雑居ビルで実験的に、夜間まで診療を行う小規模な診療所を開設。平日夕方6時から夜間3時間の利用者が1日平均20人にも上ったことから、「コンビニ診療」のニーズを実感したという。
 今年2月、同クリニックを行政刷新担当相就任前の蓮舫氏が視察。日本のワクチン治療が欧米より遅れており、硬直的な医療行政の問題点を指摘する久住医師に蓮舫氏が熱心に耳を傾け、作業部会入りにつながった。
 医師不足が深刻化する一方、市民の生活スタイルの多様化に伴い、医療サービスへのニーズが変容する現代社会。「医療資源の適正配分が不可欠」と訴える久住医師は「夜間でも待ち時間が少なく、嫌な顔ひとつされずに受診できるコンビニ診療」の重要性を力説する。
 ただコスト負担などの問題も絡み、前途は不透明。「消費者中心型社会」実現の試金石として、しばし注目したい。(K)



そんな、ジムストライカーみたいな超限定運用前提の診療所が経営的にやってけるのかという問題については、勤務医開業つれづれ日記様が指摘されてますが、私は別の方面から切り込んでみたいと思います。


行政刷新会議に参加されることになった久住様ですが、実はMRICの方で連載をされてます
http://www.dr-10.com/column/index.php?ccid=45&PHPSESSID=28656baa6fbdc079540c55ab86d336a6
これらの連載を拝見する限りでは、非常に見識のある方のようで、新聞記事にあるように単純に夜間診療の充実を力説されてるとは思えませんが、久住様にしてもこの記者にしても、一つ陥穽があるように思います。


確かに夜間診療の需要はあるでしょう
しかし、そこで見ることができるのは、ぶっちゃけ風邪くらいでしょう
その程度であれば、「夜遅くまでやってるドラッグストアでアスピリンでも買って飲んで寝てろ」と言いたいのが勤務医の本音ではないでしょうか?
大学病院などに夜間救急で来られる方に対してさえ、血液検査すら「命に関わるかどうかの最低限」しか検査できません
「命に関わるから即入院or明日の朝~科に来て下さい」しか言えないのが夜間診療の現実です
ちなみに会計すら後日ですので


夜間診療中心で利益出すなら、ちょっとがんばって、合併症がない高脂血症や高血圧の薬をルーチンで出すくらいでしょうか?
まぁ、そんな薬をどこまで院内に置いておくのかって突っ込みはありますがね
夜間は検査部だけでなく、調剤薬局も閉まっていることをお忘れなく
医師だけで医療ができる時代は、もう終わってます


医療とコンビニの最大の違いは、コンビニは1人の学生のバイトで短時間に何人もさばけますが、医療は一人の患者の治療をするために医師・事務・コメディカル・ナースと何人ものプロが必要と言うことです
医療を他の業種に当てはめるなら、コンビニではなく料亭か旅館です。ホテルですらないんです



「医療資源の適正配分」を言うならば、医師もコメディカルも不足している中で、「昼と夜のどちらに重点的に配分するか」「夜間診療中心の診療所と地域中核病院のどちらに医師が必要か」という問題に、議論の余地はあるでしょうか?



そして、もう一つ問題があります
病院に通わなきゃいけないような人間が、病院に行けないくらい日中働きに行かなければならないという前提に、なぜ誰も根本的な疑問を持たないのでしょうか?
そんな、オイル漏れしている車を時速180kmで走らせながら修理するみたいなことを、日本人は機械に対してはしないのに人間には平気でします
「夜間診療という需要」は、記者の言うような「消費者中心型社会」ではなく、「経営者中心型社会」の証明です
日本の労働環境が間違っていることの証であり、社会病です
その社会病を肯定することは正しいのでしょうか?


厚労省は相変わらず医療部門と労働部門が分裂しているようですが(http://lohasmedical.jp/news/2010/10/16182036.php)、労働改善なくして厚生の改善はあり得ません
ワークシェアリング進めて、そこそこの給料だけども人間らしい生活を送るようになるだけで医療費減ると思うんですけど?


PS:ロハスメディカルのリンク記事に中医協で「救急に従事する医師等の範囲は不明確」ってなってますけど、救急に関与しない勤務医なんているんですかね?w

2010年10月3日日曜日

これから「医師数」の話をしよう

マスゴミの方もあらかた沈静化したようですが、先日発表された「病院等における必要医師数実態調査の概況」について、落ち着いて原本を使って分析してみましょう
今回はレトリックが多用されてますので気をつけて下さい

まず、アブストラクトですが

病院等における必要医師数実態調査の概況
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000ssez.html

本調査は、全国統一的な方法により各医療機関が必要と考えている医師数の調査を行うことで、地域別・診療科別の必要医師数の実態等を把握し、医師確保対策を一層効果的に推進していくための基礎資料を得ることを目的としたものであり、厚生労働省が実施した調査としては初めてのものです。
調査の概況は以下の通りです。今後、「病床規模別の必要求人医師数」などを分析し、年内を目途に詳細な調査結果を公表する予定です。
なお、本調査の結果は、医療機関から提出された人数をそのまま集計したものです。

【調査対象】
全国すべての病院及び分娩取扱い診療所  計10,262施設(回収率84.8%)(P.1)

【調査結果のポイント】
○ 必要求人医師数は18,288人であり、現員医師数と必要求人医師数の合計数は、現員医師数の1.11倍であった。また、調査時点において求人していないが、医療機関が必要と考えている必要非求人医師数を含めた必要医師数は24,033人であり、現員医師数と必要医師数の合計数は、現員医師数の1.14倍であった。(以下の倍率は、すべて「現員医師数に対する倍率」である)。(P.3)
  ・必要求人医師数 18,288人〈現員医師数 167,063人〉(1.11倍)
  ・必要医師数   24,033人〈現員医師数 167,063人〉(1.14倍)
○ 必要求人医師数、必要医師数ともに都道府県の現員医師数に対する倍率には地域差が見られた。(P.4~6)
○ 必要求人医師数、必要医師数ともに診療科の現員医師数に対する倍率には差が見られた。(P.8~10)
○ 必要求人医師の求人理由・求人方法で回答数が多いものは、次のとおりであった。(P.10~11)
・求人理由:「現員医師の負担軽減(入院又は外来患者数が多い)」27.8%、「退職医師の補充」17.5%、「現員医師の負担軽減(日直・宿直が多い)」16.2%
・求人方法:「大学(医局等)へ依頼」28.2%、「インターネットへ掲載」が24.1%、「民間業者へ依頼」19.0%

(注)本調査は、平成22年6月1日現在において全国の病院等が必要と考えている医師数の調査を行ったものであり、今後の医師確保対策のあり方については、本調査結果のほか、様々な制度のあり方、諸外国の状況等を踏まえ検討していく。


となっております。
なんであんなにメディアが騒いだのか理解できないんですが、この調査は要するに、医師の求人倍率を都道府県ごとに出したって言うだけの代物です

で、ここでまず一つ、落とし穴があります。それはタイトルです
「病院等における必要医師数実態調査の概況」
となってますが、この意味は文章中に何度も繰り返されており、ご丁寧に最後に注意まで書いてあります
重要ですので、もう一度転載しましょう


(注)本調査は、平成22年6月1日現在において全国の病院等が必要と考えている医師数の調査を行ったものであり、今後の医師確保対策のあり方については、本調査結果のほか、様々な制度のあり方、諸外国の状況等を踏まえ検討していく。


ここは絶対に勘違いしてはいけないところで、
この調査は「今の医療制度化で、今ある病院にとって、今この瞬間に経営上理想的な医師数」を求めただけです
「地域医療を維持するために必要な数」でもなければ、
「医師を労基法準拠させるためには後何人必要か」でもありません
それは「この調査結果をもとにこれから考えること」なんです。

そのことは、非常に単純な事実のみで証明できます
1年前の民主党のマニフェストをまだもっている方は確認して頂きたいのですが、
OECD平均並みの医師数にするには、2006年時点でさえ、日本は医師は13万人不足しているのです
たかが1~2割程度の医師不足だったら、こんな医療崩壊とか言ってません


今回の調査は、医師の求人倍率を調べたものであり、それ以上でもそれ以下でもありません
ですが、この結果を恣意的に利用しようとするいくつかの派閥がいます

まずは厚労省の方では、この求人倍率が最低が東京の1.08倍で、最大が岩手の1.4倍であったことを利用して「偏在」を叫び、医師の強制配置と天下り用の調整機関をつくろうとしてます(http://firstpenguindoc.blogspot.com/2010/08/blog-post_30.html)
これが欺瞞でしかないことは、pdfで公開されてる調査結果の原本みれば一発なんですけどね…
医師不足を求人「倍率」ではなく求人「数」でみると、最も不足しているのは東京の1656人です。次が大阪の1219人。ちなみに岩手は640人です。
1600人って、医学部2~3校分ですよ?
この状況で、じゃあ偏在しているから東京から岩手に医師を送れとか言う人、います?
この調査結果は「偏在」ではなく「医師不足は日本中に平等に存在する」と考えるべきでしょう
「医師確保対策」は「仁義なき共食い」でしかないのです


しかし、もう一つの派閥はちとやっかいです
文科省の医学部新設を叫んでる一派です…(つーか民主党内部の一派でもあるんですが…)
2.4万か13万かはともかく、医師は足りないんだから医学部増やせと言う(表向きは)単純な理屈なんで、非常に止めさせるのは難しいんですが
まぁ、医学部新設がいかに無謀であるかは過去ログ参照して下さい
http://firstpenguindoc.blogspot.com/2010/08/blog-post.html


なんにせよ、本調査には調査目的を離れた結論をつけられることで、以下の3つの危険性がつきまといます
1.医師不足数が2.4万人に過小評価されてしまう
2.「偏在」の根拠に使われてしまう
3.医学部新設の論拠にされる

これらは、官僚にとっての利益になっても、現場の医師には負担にしかならない結論です
途上国の医師を呼ぶという案が表に出てこないのが不思議ですが、看護師でコケてるから流石に自重したんですかね?


では、どんな結論なら妥当なのか?
これには、コペルニクス的な発想の転換が必要です


実は「医師不足」ではなく「病院過剰」ではないのか?


この結論は、福祉的思考ではアウトであり、官僚も政治家も絶対認めないでしょう
しかし、軍事的な思考ではこれが正解で、直近の問題に対処するにはこれしかあり得ません

本調査をもとに医師不足が存在すると言うには、「現在の病院数および病床数は妥当である」という前提命題が必要です
でも、その前提が成立しないことは調査結果の注意に婉曲的に書かれています

また、万単位の医師を充足させるだけの「医師過剰地域」は存在しませんし、今から育成機関つくって学生が一人前になるまで医師も患者も待てません
医師が後2.4万人いれば医療は守れるというのは、沖田総司が2.4万人いれば幕府は勝ったというのと同じくらいアホなことです



今すぐに必要なのは、病院数にあった医師数を確保しようとすることではなく、医師数にあった医療体制にすることです
医師を増やすのも調整するのも、その後の話です

2010年9月23日木曜日

捏造記事への反論

ここではマスゴミの論説にはあまりいちいち反応しないように努めているつもりなのですが、今回は明らかな嘘が書かれているので看過しません


小児科は52病院減…09年前年比、厚労省調査

 厚生労働省は22日、2009年の「医療施設調査・病院報告」の概況を発表した。09年10月現在、小児科を設置している病院は2853施設、産婦人科・産科は1474施設で、ともに1990年以降で最低となった。
 仕事の厳しさや訴訟リスクの高さが指摘される小児科や産婦人科・産科の減少傾向に歯止めが掛かっていない実情が改めて浮き彫りになった。
 調査結果によると、小児科は前年比52施設減少、産婦人科・産科も同22施設減った。90年と比べた減少率は、小児科が約30%、産婦人科・産科は約40%となっている。病院自体は、精神科病院と結核療養所を除いて7655施設で、前年比59施設減、90年比では約15%減だった。
 一方、人口10万人に対する病院の医師数を都道府県別で見ると、最多は高知県の218・3人で、最低は08年に続いて埼玉県の103・5人だった。
[解説]小児科減 医師偏在、対策手つかず
 今回の調査は、医師不足や医師の偏在問題を解消する対策がいまだ不十分で、なかなか効果に結びついていないことをうかがわせる。
 産婦人科や小児科といった激務の診療科を中心に医師不足が指摘されるようになって久しい。国は医学部定員を増員したほか、診療報酬を手厚くしたり、新人医師の臨床研修制度で都道府県ごとに募集定員の上限を設けたりするなど、ここ数年、具体的な対策を実行してきた。
 ただ、診療科や地域による医師の偏在を是正するには、どこにどれだけ医師が不足しているのか把握し、バランスよく人員を配置する必要があるが、その方策は実質的にはほとんど手つかずといっていい。厚労省は適切な医師確保策を具体化することが急務だ。(医療情報部 高梨ゆき子)
(2010年9月23日 読売新聞)

 
なかなか興味深い記事なのですが、この記事には致命的な間違いがあります。

小児科医は減ってませんよ?

若干古いデータで恐縮なのですが、厚労省のデータです
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/07/dl/s0730-22b.pdf
7枚目のグラフがわかりやすいかと思うのですが、減少しているのは産婦人科と外科くらいです。小児科は横ばい~微増ですね
 

では何故小児科医が減ってないのに小児科病床が減ってるかですが、理由はいくつか考えられます

1.少子化
根本的に小児の数が減ってるんですから、病院の数が減るのは当たり前です。過疎の村に小児科入院施設は不要でしょう。
日本の年少人口は、90年はおそよ2250万人、09年は1700万人で、24%の減少です。
http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2010/22webhonpen/html/furoku07-10.html
小児病院の減少度合いは、小児の減少度合いに比べて目くじらたてるほど多いでしょうか?

2.医療裁判
こう書くと小児科医が裁判怖がって病院逃げてるように思われかねませんが、私はそうでないと思います。
これまでは町の診療所など、内科の先生が小児を診ることは多かったはずです。
ところが、ごくまれに発生する「地雷」のために、内科医が小児を診れなくなり、しかも高度医療病院への救急搬送が増えたことが原因としてあげられます。
実際、うちの大学の救急にも塀から落ちて手を切っただけで周辺の診療所からどんどん搬送されてきます。
小児専門医以外が小児を診れなくなったことが小児科医過重労働の一因として存在するのは間違いないでしょう。

3.医療の高度化
最近は抗菌剤などの進歩もあり、昔ほどそう簡単に入院することはなくなっていると思います。
裏を返せば、入院治療に対するハードルは上がっています。
これは小児科だけの問題ではなく、脳外科、小児心臓外科、小児外科との連携の問題も絡みます。
外科医の減少などの問題もあり、外科が集約化に走っている以上、小児科も影響を受け、今後病院の機能分化が進んでいくことと思います。
また、女性医師が増えていることもあり、流石に人権無視の労働形態では「病院が医師に選ばれない時代」になりました

女性医師の比率が高いと言われる産科や小児科は国ぐるみでこれの対策やってます
その為にはスタッフの集約化が必要であり、病院の選別は進んでいくでしょう
よく「○○病院が派遣を停止」とか記事に書かれますが、基本的には撤退される側に問題があると考えておくべきです


4.制度の問題
日本ほど小児病院が少ない先進国はそうそうないと思いますが、私の県(というか地方)には小児病院がありません。
この理由は、なんと、「採算がとれないから」だそうです
いったいどんな医療制度なら、専門病院が採算とれなくなるんでしょうね? 


また、社説でアホなこと言ってますが、医師の絶対数が不足しているのに、どこから医師を確保するつもりなんでしょうか?
読売が大好きな「医師の強制配置」は時代に逆行するものであり、強行すれば今ギリギリでもっている地域まで崩壊します。本当に必要な手段を選択する時間を奪い、医療崩壊地域を増やすだけです。
また、医師には基本的人権がないとするならば、医学部生そのものの減少を招く、みんなが不幸になる選択枝になります
実際、強制配置派が手本とするドイツでは、医学部は定員割れしています
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/4110
しかし、だからといって日本の労働体系では移民で医師を補うという方法も採れません

医療崩壊対策に必要なのは、「医師の不足の把握」ではなく、 「必要な病院機能の選別」です
フリーアクセスという幻想は捨てて、欧米並みに医師と患者を集約化する必要があるでしょう


さて、ご飯が炊けるまでのひまつぶしで反論を書き並べてみましたが、いかがでしょうか?
記事(しかも記名)でここまで思い込みだけで記事を書けるというのは、某フロッピー改竄並にプロ失格だと私は思います

2010年5月9日日曜日

医師の労働力

私が医療について話をするとき、結局何が言いたいのかがわかりにくいと言われることがあります
ですが、私が医療改革について話をするときに関しては、そのテーマはただ一つです
「一般的な人間の精神でできる医療体制をつくらなくてはならない」
といっているだけです

その理由についてはいくつかあるのですが、今回は単純な算数で、極めて現実的な危機を説明したいと思います

これは、本当に医療体制の根管に関わる問題です
しかし、そのことに気づいている人は、この国ではまだ極めて限られているようです
何故なら、研究者や官僚といった人たちは、医師のことは調べていても医学生のことは調べていないからです
そのことによって、対策が6年も遅れてしまうということに気づいている人は、何故かあまりいないようです

私が医学部に入学したその時は、まだ医師過剰論が国民的な常識で、医学部定員は減らされていました。
その時と現在では、1学年の人口が3割ほど違うようです。
これだけ聞くと、医師不足はなんの問題もなく時間が解消してくれると思う方も多いでしょう。
しかし、この間に女子の割合も激増しているのです


女性医師の労働力は、体力や育児休業を考えて欧米では0.8前後でカウントされるようです
一方、日本はずっと男性と同じ1とカウントしていました
これまでは女性医師は少なかったので、誤差は大したものではなかったと思いますが、これからはそうはいきません
舛添前大臣は、日本の現状は女性医師を0.5とカウントするべきかも知れないと言われていたので、それに倣ってみたいと思います


私が入学したときの人数を100としましょう。
私の学年の男女比は8:2だったので、労働力は
80×1+20×0.5=90です

一方、今の学生の人数は130となります
問題は男女比ですが、女子は4~5割というところでしょうか?
仮に半々としますと、労働力は
65×1+65×0.5=97.5です


おや?医学部生は3割も増えたのに、医師の労働力は1割も増えてませんね?
実際には厚労省が国試合格者数を3割も増やしてくれるとは思えないので、
「医学部定員は増やした。しかし、医師の労働力は改善されなかった」
という問題が発生しうることは容易に想像できます
しかも、総数としての労働力は変わらず人数だけ増えているので、実際に人事を預かる現場は今以上の混乱に巻き込まれるでしょう
 

この予測された未来を学会として真っ先に予言したのは、産婦人科です




病院出産、10年後に20%減 産婦人科医会が推計

 病院勤務の産科医の就労環境を改善しなければ、10年後に病院(20床以上)で扱える出産数は、2009年の約54万件から約20%減る可能性があるとの推計を、日本産婦人科医会常務理事の中井章人・日本医科大教授がまとめた。
 女性医師が子育てなどのために、労働環境が過酷な出産診療から離れると予測されるのが理由で、中井教授は「(環境の)迅速な改善が必要」としている。
<略>
2010/04/22 18:20  共同通信


言うまでもありませんが、医学部に女子がこれだけ増えている以上、これは産婦人科だけに起きる問題ではありません
全ての医療機関、特に大学病院など高度医療部門が危機にさらされていると考えて手を打つべきです


勘違いされると困るので言っておきますが、別にこれは男尊女卑とか、女性医師厚遇とかそんな問題ではありません
私が知っているだけでも、非医療者と結婚した3人の男性医師が、
「大学病院辞めますか?それとも家族止めますか?」
という決断を迫られて大学病院辞めて、今は充実したQOMLを満喫されているようです
過労死ラインを楽勝で超えるような医師の非常識な過労は、男性なら耐えられるとか、もはやそういう次元ではないのです


この状況を打開するには、「全ての医師が家庭を持ち、子育てできる環境をつくる」以外にありません


仮に男性医師の労働力を0.9、女性医師を0.7とできれば、今の医学生が医師となったときの労働力は
65×0.9+65×0.7=104
となり、今よりも労働力を2割ほど増やすことができます

そうした環境をつくる為には、医師よりも労働単価が安く、養成が比較的容易なコメディカルを早急に創設・育成する必要があるでしょう



しかし、そこには日本でチーム医療が未だに広まらないという問題が壁となって立ちはだかります

2010年5月2日日曜日

医学という宗教の終わり、医療というシステムのはじまり

医療とは、そもそもなんなのだろうか? 


そのはじまりは、おそらくは
「苦しむ隣人を救いたい」 
という、純粋な祈りの一つだったのだろう


そして、原始宗教から魔術が生まれ、科学へと発展したように、
その祈りは、経験則から医学へと発展した



しかし一方で、ヨーロッパにおいては宗教が医学の発展を阻害した
解剖学の誕生は13世紀までかかり、紀元前4世紀のヒポクラテスの誓いが医師のあるべき姿として復活したのは19世紀であった
書物や遺跡から推定される紀元前の医学は、決して教会の支配下にあるヨーロッパに劣るものではなかった


しかし、それ以上の災厄があった
宗教は医学と医療を切り離してしまった
政治的に医学を消滅するわけにはいかなかったが、魂は宗教の専売特許でなければならなかった


さらに、江戸末期から明治時代にかけて、日本は医学だけでなくこうした医学上の哲学まで輸入してしまった
この背景には、当時の政府の高度な政治判断があったことが明らかにされている


そうして、 医師は政治家もしくは医学者となり、人体を対象とすることとなった

「苦しむ人を救いたい」という願いは、どこかへ行ってしまった


それでも、20世紀はよかった
20世紀の医学の発展は、人体を救うことが人間を救うことになっていたからだ
また、魂の問題には各宗教が対応していた
もっとも、その多くは「看取り」であっただろうが…


しかし、20世紀末に、話は変わってきた




抗生物質によって撲滅できると思われた感染症は、HIVやMRSA、SARSの登場により永遠に共存しなければならない相手であると思い知らされることとなった
遺伝子解析と生物製剤の発展により対抗できると思われた悪性腫瘍も、ヒトゲノムを解析しても人間のことは解析できなかったという絶望的な結末と、治療薬の高額化という大きな壁が立ちはだかった
人工臓器や再生医療の開発は予想以上の困難を極め、未だに人の死を前提とする移植が世界的に広がっている


21世紀に入り、人間は人間のことを理解できていないという当たり前の結末が、医学の限界が、
医学は医療ではなかった
ということを、露呈させた

医学の研究者が減少しているのは、そうした背景もあるのだろう
そして、医師の医療観が崩壊し、世界の医療界にバーンアウト症候群が広がった



また、患者側にも大きな変化があった
人命を尊重しすぎたために個人の人生観がないがしろにされたことに患者が拒絶反応をおこし、1980年頃に患者の権利が主張されだした
(日本では患者の権利宣言は制定されておらず、その間に行きすぎた権利を主張するモンスターペイシェント問題が先行し、難航している)
さらに宗教離れが進み、医療者は魂の問題にまで対応を求められることになった


この数十年の間に、これだけのパラダイムシフトがあったことに、この国でどれだけの人が気づいているのだろうか?


こうした中で、先進国では医療崩壊が広がった
アメリカは医療を契約ビジネスとし、ヨーロッパは福祉として制限された医療を行うこととなった
欧米は、医療をシステム化することで、医療者個人への負担を軽減するという生き残り策をとったのである
時代の変化に合わせて、医療もその姿を変えたのである

一方で、医師の個人的使命感に頼り切り、物理的に限界ギリギリで運用されていた日本の医療体制は、なんの対策もとられず、あっさりとその限界を超えた
医療体制の再構築、労働環境の整備といった対症療法は確かに重要である
しかし、


「日本の医療とはなんなのか」 


という問題に明確な解を政治として出さない限り、 日本の医療が再生することはあり得ないだろう


また、私たち医師も向かい合わねばならない問題がある
人間は死ぬ生き物であるということが再確認された現代において、医師は迷走し、その結果として医療が崩壊していることもまた事実である


「医師は、人間の何を救うのか」


という命題に解を出さなければならないのではないか?

2010年4月25日日曜日

医師・患者の前に、人と人して

医療が崩壊した理由について、医師と一般人の認識の解離はすさまじいものがあります


「どんなにつらくても、患者さんの『ありがとう』が聞けたから、僕たちはがんばれた。
でも、これから医師になる君たちはどうなってしまうのだろう」




これは、私が医学生の時に、地域医療に従事する複数の医師から全く別の場所で言われたことです

ネット上の医師からは、医療を破壊した厚労省最大の失策は「患者様キャンペーン 」だとよく言われますが、その心情を素直に表現した言葉だったのでしょう
先週、その深刻さを表す記事がありました




メッセージ:過酷な救急医師に感謝を 県、受診者から募集 /栃木
http://mainichi.jp/area/tochigi/news/20100415ddlk09040132000c.html
 深刻な医師不足の中、過酷な救急医療現場で働く医師に感謝の気持ちを伝えよう--。県は、救急医療機関を受診した患者らを対象に、救急医療に従事する医師に対する感謝のメッセージを15日から募集する。県によると、自治体の試みとしては全国初という。県は「昼夜を問わず働く医師にエールを送りたい」と期待する。
<略>



「感謝のメッセージを募集する」なんて、やってることは幼稚園か小学生に礼儀を教えるレベルです

ですが、この礼儀を失ったからこそ、夕張と銚子から病院が消えました
(逆に、そのことに気づいたからこそ柏原と東金はギリギリで踏みとどまってます)

しかし、これは残念ながら地方だけの問題ではありません
全国的な病理になってます



日本、医療の満足度15% 22カ国で最低レベル
http://www.47news.jp/CN/201004/CN2010041501000688.html
 【ワシントン共同】日米中など先進、新興22カ国を対象にした医療制度に関する満足度調査で、手ごろで良質な医療を受けられると答えた日本人は15%にとどまり、22カ国中最低レベルであることが15日分かった。ロイター通信が報じた。
<略>
 自国の医療制度に満足している人の割合が高いのはスウェーデン(75%)とカナダ(約70%)で、英国では55%が「満足」と回答。韓国、ロシアなどの満足の割合は30%以下だった。
 国民皆保険制度が未導入で、オバマ大統領による医療保険制度改革の議論で国論が二分した米国は、回答者の51%が手ごろな医療を受けられると回答した。
2010/04/15 17:44 【共同通信】



このニュースを見たら、戦線離脱する医師がかなりいるのではないかと思います
正直、ここまで低いとは私も思ってなかったのですが、
ハインリッヒの法則の様なものが適応できるなら、1件の大きな訴訟の背後に300件の訴訟につながりかねない不満があると考えるべきなのかも知れません



しかし日本よりも医療費が高く(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1890.html)、フリーアクセスもなく、医療技術は日本とほぼ同等の国々が、日本よりも圧倒的に高い満足度を誇っているのは何故でしょうか?


理由は単純で、「医療とはそういうものである」と国民が納得しているからに他なりません
国際ニュースなどを見ていると、市民が自国の医療の不自由さをシステムを守るために必要なものとして、それなりに納得していることがよくわかります


満足度というのは極めて主観的な相対評価で、期待値(要求)が無限に高ければ、満足度は0に近似されます
日本人は医療/病院/医師に現実離れした要求をするようになってしまったということです
そのことは、医療訴訟で期待権を理由に医療側が敗北していることからも容易に想像できます


この現状を、本田宏先生は日本の医師に要求される11役として表現しました
1、知識:利根川進氏
2、技術:ブラックジャック
3、心:赤ひげ
4、説明:三宅民夫氏
5、精神性:江原啓之氏
6、ユーモア:綾小路氏
7、リーダー:小澤 征爾氏
8、指導:金八先生
9、気力・体力:32時間連続勤務 
10 、生涯賃金 :大企業サラリーマン以下
11 、定年なし

これだけのスーパーマンはハリウッド映画でもお目にかかれないと思います
というか、医師に求めるものとして致命的な部分に、実在しない人物が上がっているのが…orz








医療崩壊対策として有効な手段を問うネットアンケートを見ると、収入増よりも人間らしい生活を選ぶ医師が多いです


また一方で、せめて労働に応じて収入をなんとか増やそうという声も聞かれます
嘉山先生のドクターフィー案がその究極とも言える手段ですが、

日本の最先端医療を担うがんセンターの医師の年収が360万だとか(http://medg.jp/mt/2009/12/-vol-412.html)、
某大学中堅医師が収入を時給換算したら1300円だったとかいう状況をみれば、
従業員 (医師)を守る立場にある人間としては、自然な考えだと思います



結局のところ、医師が求めているのは、自分たちを人間としてみて欲しいという、ただそれだけのことだと思います



しかし、国や国民の要求は、未だにその現実と解離しています







以前クレジットカードのCMで、気持ちや時間に対してpricelessという値札つけるのがありましたが、
それは、「金があるからといって手に入るものではない」という意味で、間違っても「価値がない」という意味ではありません


人間らしい生活も、労働に応じた報酬も出さない、そんな日本の医療が衰退するのは、必然です


本当に…世界に美徳として語られた、日本人の礼儀正しさはどこにいってしまったのでしょうか?


私から、ひとつだけ医療崩壊の処方箋を出せるとしたら、
医療者と患者が、共に声をかける位のことしか思いつきません

「おねがいします」「ありがとうございました」「おつかれさまです」

それは医師患者関係とか、ビジネスマナーとかではなく、
人と人の関わり合いとしての、礼儀の問題です


私が今言ってることは、小学生の挨拶運動と同じです
でも、そこから出直さないといけないのが今の日本の医療だと思います