2011年8月12日金曜日

医学部定員増と地域医療の自立

文科省で「今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会」なるものが開かれました
http://lohasmedical.jp/news/2011/08/11114154.php?page=1

内容は、予想通り直球で医学部新設や定員増の話ですが、委員の発言に興味深いものがいくつかありましたので抜粋して紹介したいと思います

[今井浩三委員(東京大学医科学研究所附属病院長)]
つまり医師数は10%ぐらい増えるんですけれども、総体として見ると、だんだん医師も患者さんと同じように高齢化するわけでありまして、医師のほうも......。
つまり、患者を診る側もですね、高齢化していくということをですね、考慮に入れるべきであるということを私、この間申し上げました。ですから実際には、60歳以下ぐらいの医師ですね、非常にビビッドに患者さんを診れる医師の数はそんなに増えないですね、この方式でいくと。
 (略)
医師の労働時間が非常に長いわけですね。たぶん、若い人だと70時間とか80時間とか、非常に過重労働。それを前提にしていろいろなことが......、そのまま行ったらということで考えられているんですが、これを是正しなければいけない。


東大なので、てっきり御用学者かと思いきや、病院長殿としていうべきことをきっちり釘さされてます
医師の戦力計算で、私は女性医師の係数配分の話をよくしますが
(未だに、女は入れないという人と、女性医師賛成だが男性と同等にはキャリア形成できないということをわかってない人が多いため)
医師、なかでも地域の中核戦力の高齢化と、後継者不足or後継者との激しい世代差(=技術差)の問題は、指摘にあるように回避しようのない問題です。
恐らく、今後10年ほどで表面化するでしょう
なにせ、今、最底辺で医療を支えている世代は、医学部定員削減の最終段階(=医師数が最も少ない)世代ですから
そこに対して問題提起したのは、非常に素晴らしいことなのですが…

東大病院の若手医師は、時間外労働月80時間で済んでるんですか?
それとも、これは週80時間なのかな?w



また、慈恵の学長からは非常に興味深い指摘がされています

[栗原敏副座長(日本私立医科大学協会副会長、東京慈恵会医科大理事長・学長)]
我々の時にはですね団塊の世代でして人口はたくさんいましたが医師になれる比率は非常に少なかったんですね。大体、18歳人口700数十人に1人。今は間口が広がったんで、100数十人に1人ぐらいが医師になれる時代になったんです。
 ですから、そこら辺のことも考えていただいて、我々65歳が高齢になりますから確かに医療ニーズは高まります。しかし、それが過ぎるとですね、極端に人口の減少ということがありますので、そこら辺でまた大きな変革というのが出てくるんじゃないかという点をご理解いただければと思います。

具体的な数字をあげられてこの話をされたのは、私が知る限りこれが最初です
となると、人口対医師数は団塊の世代の5倍くらいになると思えばいいんでしょうか?
そうなると、今よりは余裕のあるシステムになるでしょうか?

しかし、それはそれで少々考え物です
というのも、今の日本の人口対医師数は1000対2程度ですが、数十年したら1000対10弱になるわけです
これは、今現在どの国にもない密度になります
(OECD最多はギリシャの1000対6.1、先進国では医学部定員割れしているドイツが最多の1000対3.6)
歯科医師の二の舞になるとして医学部定員増に反対する勢力が根強いのも、あながち無根拠というわけではなさそうです


過重労働の解決や、研究や企業への人的資源の供給という点においてはいいかも知れませんが
いくらなんでも、ちょっと、余裕ありすぎでしょうし、国家として医師に人的資源を割きすぎでしょう
少なくとも、今よりも定員増やすとか、ましてや医学部新設は、ないでしょう…



また、医師派遣システムについて、文科省が勝手に妄想かけてるんですが
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/043/attach/1309577.htm

ええとですね、そもそも、この「医師の派遣」については「慣用語」と「法律用語」に解離があって整理が必要なんですが
「民間企業の医師の派遣業」はきっかり労働者派遣法で禁止されています
中核病院から医師不足病院へ医師を送るのは例外として認められているという形です
(要は、業としての医師派遣は禁止されてると考えられ、派遣の見返りや、派遣した医師の報酬をピンハネするのは違法である可能性が高い)

で、その上で、なにをもって医師を派遣する基準とするべきかってのは絶対に整理が必要なわけです
東日本大震災の急性期に全国から医師を支援に送り出したのと、慢性的な医師不足地域に医師を送るのはまったく別次元の話です 
医療はインフラですが、医師はインフラではないのです   

都会のフリーターを、後継者不足の農村に強制移住させる法律を作るとか言い出したら、どんなことになるか想像できますよね?
どんな正当性をもって一民間人でしかない医師を法的拘束力をもって強制労働せしめられるのでしょうか?
この人たちがやろうとしているのは、要はそういうことです

そのことは、医学部の人間よりも外の人間の方がよくわかっているようです

[生坂政臣氏(千葉大医学部付属病院総合診療部)]
 地域への強制派遣という視点から......。実際、被災地入りした医者は非常に多くてですね、短期であれば可能性はあると思うんですね。ですから、本当のニーズを行政なりが明確にして、「ここに派遣してほしい」と、それはもう、大学病院なりに強制させてもいいんじゃないかと思うんですね。短期だったら、大学病院さえクリアできればいけるんじゃないか。
 ただ、その時に内科医療、すなわち広範囲の診療に対応できないと困りますから、それは各大学でジェネラルな教育に留意していただくと......、可能ではないかな、と私は個人的に......。

[安西祐一郎座長(慶應義塾学事顧問)]
 私が申し上げたのは仕組みと言いますか、法律的なことでございますので、そういう意味での本当に法的なところを突っ込んでみたときに、可能かどうかということで申し上げておりますので、ある意味ボランティア的に何か月かということはあり得るんじゃないかと思いますが、へき地の医療、過疎医療と言うんでしょうか、医療過疎の問題を本当に解決するには法的なところまでいかないといけないんじゃないかと思っているということでございます。

まあ、衰退するところには、衰退する理由がやっぱあるんですよね…

私は、医師派遣については反対の立場です
法的根拠も、補償となるインセンティブも存在しないことは1つの理由ですが、
実際に地方で医師として働いてみて強く思うのは
「アリにもキリギリスを助ける余裕はない」
ってことです
むしろ、 僻地であることを利用して実はアリより楽して肥えてるキリギリスも結構いるんですよね…


発展途上国への支援では、「与える」支援は依存を生み出すだけで害悪であったとの反省から、「自立させる」支援へと切り替わっています
地域医療支援も、同じじゃないですかね?

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