2011年8月29日月曜日

「医療崩壊」の定義

会話というのは、自分と相手とに言葉の定義が共通していないと成立しません
ソクラテスの言にもあるように 
「大工と話をするときは、大工の言葉を使え」
ということです
たいていの場面において会議が迷走するのは、そういった齟齬に気づかずに、「自分の世界の自分の言葉」でのみ語ることが原因となります


さて、多くの医療関係者には、既に医療が崩壊しているのは共通理解だと思いますが、為政者側は「医療崩壊」が起きていることは未だに認めていません
彼らにとっては、まだ問題は「医師不足」で済んでいるようです

現状は、「医療消滅」というチェックメイトをかけられた、キングをとられるまでの数手の間に過ぎません
ゲームであればすでに自動的に投了になっているのを、現実の残酷さで最後までやらされているというだけです

私たち医療崩壊論者が訴えているのは、その「数手の間」に、「ルール変更」することで王手を解除させるしかないということです
対して、政府の「医師不足」「医師の偏在」は、旧来のルールの内側でしかありません
政府の話に乗る限りは、医療消滅は防げません
しかし、政府にそれを認めさせるには、一度そのスキームで会話して、そんな手ではもうどうにもならないと認めさせるしかありません


長崎県病院企業団企業長の資料をちょっとお借りしましょう
よくある、県別の医師数です
http://lohasmedical.jp/news/2011/08/24024220.php?page=2

この表では医療崩壊のなにも表現できないことは、企業長の指摘を待つまでもなく明らかです
この企業長の面白いところは、次の表です
http://lohasmedical.jp/news/2011/08/24024220.php?page=3

医師数だけでなく患者数という関数まで取り入れたユニークな試みではあるのですが、分析で大きなミスがあります






A群、B群にとりますと、これは高い専門性、あるいは高度の救急医療、それから先進医療に対する医師が不足しているということが叫ばれている都道府県でございます。




これは時制は「現在」の医療崩壊を表現した二次元関数でしかありません
「これから」対策を立てるのですから、語るべき時制は「未来」でなければ先回りすることはできません(一度、戦略シミュレーションゲームでもしてみればよくわかりますよ)

また、こうした数字の扱いではいつも「東京」が悪者となるのですが、「首都圏」という枠組みでとらえないと自体の本質を見誤ります(これは、ベッドタウンに過ごした人間でないと実感できないでしょうが…)


最初の方の表をもう一度見ていただければわかりますが、東京以外の首都圏が、全て医師が少ない県Top10にカウントされています
また、地理的にも、「首都圏」という単位は地方の1つの県に相当する面積であると言うことも忘れてはいけません
「首都圏における東京と隣県」というのは、そのまま、「地方の県庁所在地とその他の市町村」に該当するのです
医療崩壊で「東京」を語ることはミスリードにしかなり得ません
また同様に、東京隣県内部の医療崩壊も、ベッドタウン地域とその他地域を同列に論じることもできません
要は、医療の実態は都道府県という枠組みではなにも表現しえないと言うことです


首都圏を代表とする大都市圏の医療崩壊と、地方の医療崩壊はまったく異なるロジックで起きています


医療崩壊の原因は、医師数と患者数のバランスの問題とも言えます
つまり、患者が多い=高齢者が多い地域が火薬庫であると言うことです
高齢化率の推移予測を示した図がこれです



http://lohasmedical.jp/news/2011/08/22014400.php?page=2


2030年までは、現在高齢化率の高い県がそのままの地位を維持しますが、2040年には全国が平均化し、2050年には逆に、現在医師過剰とされている都市部が高齢化の洗礼を浴びる計算になっています

原因は、まぁ社会学的な方面の知見があればすぐに思いつくと思いますが、この数十年の日本の人口分布の変化が高齢化という形に変換されてきているというだけのことなんですね


もともと、日本は人口的にも地方が中心でした
それが崩れはじめたのは、私たちの父の少し上の世代の就職列車からです
http://ja.wikipedia.org/wiki/集団就職

その後、バブル期に入りサラリーマンの時代となると、今度はベッドタウンとして隣県に人口増が波及します
そうして、日本人の過半数は大都市圏の住民となりました
 
現在は、そうして大都市圏に出てきた人たちの子ども世代が若手労働者として、大都市という故郷にそのままいるわけです
言うまでもありませんが、若手が増えれば高齢化率は下がり、若手が減れば自動的に高齢化率は上がります
こうして、大都市圏は若手が多いために高齢化率は低く抑えられています


一方で、現在の地方の高齢者たちは、集団就職で、東京に出てきた人たちの親なわけです
地方の高齢化の原因は、実のところ、現在の地方の高齢者たち自身だったりするのです


しかし、あと20~30年もすれば集団就職やバブルで大都市圏に来た世代も高齢者となり、その子どもたちもそれに続くわけです
そして、さらにその子ども世代は、少子化という問題が待ち受けています
大都市で30年後に起きる医療崩壊は、長崎の企業長が言うような高度医療・救急の問題では済まされなくなります
なにせ、このベッドタウン地域は30年前までは人がいなかったため、病院がないのですから

逆に、その頃には既に現在の医療崩壊地域の高齢者は寿命を迎えており、限界集落もいくつも出現し、病院どころか村ごと崩壊しているでしょう
その場合、医療需要そのものがなくなるので医師不足もなくなるでしょう


つまり、「あと20年続く医療崩壊」と「30年後から顕在化する医療崩壊」は全くの別物なのです
そして、現在の大都市部での医療崩壊は、後者の序章部分なのです


この様に、医療の需給バランスというのは、医師数以上に高齢者数が大きなウエイトを占めます
「医師不足」を語るに医師数だけをもってして動くのは、常に後手後手に回ることにしかなりません


医療消滅を防ぐには、現在の地方の医療崩壊に対する応急処置および集落としてのターミナルケアと、30年後を見据えた大都市部の病院整理が必要なのです
医師の強制派遣とか、地方に医大を新設とか言うのは、問題の本質を見誤ってるとしか言いようがありません
今から地方に医師を強制配置させる策を作ったところで、それが実行力をえる頃には地方の医療・介護需要は激減し、逆に大都市圏で医療・介護需要が爆発するのですから
今の政府の医師不足対策では、20年以内に地方と共に心中するだけです

2011年8月12日金曜日

医学部定員増と地域医療の自立

文科省で「今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会」なるものが開かれました
http://lohasmedical.jp/news/2011/08/11114154.php?page=1

内容は、予想通り直球で医学部新設や定員増の話ですが、委員の発言に興味深いものがいくつかありましたので抜粋して紹介したいと思います

[今井浩三委員(東京大学医科学研究所附属病院長)]
つまり医師数は10%ぐらい増えるんですけれども、総体として見ると、だんだん医師も患者さんと同じように高齢化するわけでありまして、医師のほうも......。
つまり、患者を診る側もですね、高齢化していくということをですね、考慮に入れるべきであるということを私、この間申し上げました。ですから実際には、60歳以下ぐらいの医師ですね、非常にビビッドに患者さんを診れる医師の数はそんなに増えないですね、この方式でいくと。
 (略)
医師の労働時間が非常に長いわけですね。たぶん、若い人だと70時間とか80時間とか、非常に過重労働。それを前提にしていろいろなことが......、そのまま行ったらということで考えられているんですが、これを是正しなければいけない。


東大なので、てっきり御用学者かと思いきや、病院長殿としていうべきことをきっちり釘さされてます
医師の戦力計算で、私は女性医師の係数配分の話をよくしますが
(未だに、女は入れないという人と、女性医師賛成だが男性と同等にはキャリア形成できないということをわかってない人が多いため)
医師、なかでも地域の中核戦力の高齢化と、後継者不足or後継者との激しい世代差(=技術差)の問題は、指摘にあるように回避しようのない問題です。
恐らく、今後10年ほどで表面化するでしょう
なにせ、今、最底辺で医療を支えている世代は、医学部定員削減の最終段階(=医師数が最も少ない)世代ですから
そこに対して問題提起したのは、非常に素晴らしいことなのですが…

東大病院の若手医師は、時間外労働月80時間で済んでるんですか?
それとも、これは週80時間なのかな?w



また、慈恵の学長からは非常に興味深い指摘がされています

[栗原敏副座長(日本私立医科大学協会副会長、東京慈恵会医科大理事長・学長)]
我々の時にはですね団塊の世代でして人口はたくさんいましたが医師になれる比率は非常に少なかったんですね。大体、18歳人口700数十人に1人。今は間口が広がったんで、100数十人に1人ぐらいが医師になれる時代になったんです。
 ですから、そこら辺のことも考えていただいて、我々65歳が高齢になりますから確かに医療ニーズは高まります。しかし、それが過ぎるとですね、極端に人口の減少ということがありますので、そこら辺でまた大きな変革というのが出てくるんじゃないかという点をご理解いただければと思います。

具体的な数字をあげられてこの話をされたのは、私が知る限りこれが最初です
となると、人口対医師数は団塊の世代の5倍くらいになると思えばいいんでしょうか?
そうなると、今よりは余裕のあるシステムになるでしょうか?

しかし、それはそれで少々考え物です
というのも、今の日本の人口対医師数は1000対2程度ですが、数十年したら1000対10弱になるわけです
これは、今現在どの国にもない密度になります
(OECD最多はギリシャの1000対6.1、先進国では医学部定員割れしているドイツが最多の1000対3.6)
歯科医師の二の舞になるとして医学部定員増に反対する勢力が根強いのも、あながち無根拠というわけではなさそうです


過重労働の解決や、研究や企業への人的資源の供給という点においてはいいかも知れませんが
いくらなんでも、ちょっと、余裕ありすぎでしょうし、国家として医師に人的資源を割きすぎでしょう
少なくとも、今よりも定員増やすとか、ましてや医学部新設は、ないでしょう…



また、医師派遣システムについて、文科省が勝手に妄想かけてるんですが
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/043/attach/1309577.htm

ええとですね、そもそも、この「医師の派遣」については「慣用語」と「法律用語」に解離があって整理が必要なんですが
「民間企業の医師の派遣業」はきっかり労働者派遣法で禁止されています
中核病院から医師不足病院へ医師を送るのは例外として認められているという形です
(要は、業としての医師派遣は禁止されてると考えられ、派遣の見返りや、派遣した医師の報酬をピンハネするのは違法である可能性が高い)

で、その上で、なにをもって医師を派遣する基準とするべきかってのは絶対に整理が必要なわけです
東日本大震災の急性期に全国から医師を支援に送り出したのと、慢性的な医師不足地域に医師を送るのはまったく別次元の話です 
医療はインフラですが、医師はインフラではないのです   

都会のフリーターを、後継者不足の農村に強制移住させる法律を作るとか言い出したら、どんなことになるか想像できますよね?
どんな正当性をもって一民間人でしかない医師を法的拘束力をもって強制労働せしめられるのでしょうか?
この人たちがやろうとしているのは、要はそういうことです

そのことは、医学部の人間よりも外の人間の方がよくわかっているようです

[生坂政臣氏(千葉大医学部付属病院総合診療部)]
 地域への強制派遣という視点から......。実際、被災地入りした医者は非常に多くてですね、短期であれば可能性はあると思うんですね。ですから、本当のニーズを行政なりが明確にして、「ここに派遣してほしい」と、それはもう、大学病院なりに強制させてもいいんじゃないかと思うんですね。短期だったら、大学病院さえクリアできればいけるんじゃないか。
 ただ、その時に内科医療、すなわち広範囲の診療に対応できないと困りますから、それは各大学でジェネラルな教育に留意していただくと......、可能ではないかな、と私は個人的に......。

[安西祐一郎座長(慶應義塾学事顧問)]
 私が申し上げたのは仕組みと言いますか、法律的なことでございますので、そういう意味での本当に法的なところを突っ込んでみたときに、可能かどうかということで申し上げておりますので、ある意味ボランティア的に何か月かということはあり得るんじゃないかと思いますが、へき地の医療、過疎医療と言うんでしょうか、医療過疎の問題を本当に解決するには法的なところまでいかないといけないんじゃないかと思っているということでございます。

まあ、衰退するところには、衰退する理由がやっぱあるんですよね…

私は、医師派遣については反対の立場です
法的根拠も、補償となるインセンティブも存在しないことは1つの理由ですが、
実際に地方で医師として働いてみて強く思うのは
「アリにもキリギリスを助ける余裕はない」
ってことです
むしろ、 僻地であることを利用して実はアリより楽して肥えてるキリギリスも結構いるんですよね…


発展途上国への支援では、「与える」支援は依存を生み出すだけで害悪であったとの反省から、「自立させる」支援へと切り替わっています
地域医療支援も、同じじゃないですかね?

2011年8月3日水曜日

メンツをとって実利を捨てる救急体制

事前の協定通りにやった (私の記憶では、20数分で高岡への搬送が決まっていたはずですが?) だけのことでなぜここまで引っ張るのかよくわからない富山市救急問題に一応の決着がついたようです


病院搬送拒否死亡問題 全重症患者 受け入れへ 
県立中央 連絡会議で改善方針
富山市内の交通事故で重傷を負った女性(73)が、市内三病院から受け入れを断られた後に死亡した問題で、県は二十九日、富山市内で連絡会議を開いた。三病院の正副院長や市医師会長が、救急患者の受け入れ改善策を報告し、県立中央病院は原則すべての重症患者を受け入れる方針を示した。
今回の問題では、夜間救急当番だった富山市民病院が外科で患者五人を治療中で、足を切断した重傷患者の治療は不可能と判断。富山大病院も担当医が手術中だったため搬送を断った。重症救急患者を受け入れる三次救急医療機関の県立中央病院は、当番日でなかったため、治療できる外科医がすぐに駆けつけられる場所にいなかった。
県が四月から運用している搬送と受け入れの基準では、連絡開始から三十分以上経過しても搬送先が決まらない場合、県立中央と厚生連高岡の両病院が受け入れを調整するとしていた。しかし今回、各病院の体制不備などで基準が機能しなかった。
今後の対応で、県立中央病院は受け入れ態勢確保とともに、休日や夜間に病院からの連絡で駆けつける「オンコール医」には、搬送の可否を問うのではなく、診察を要請するとした。この医師が来院できない場合に備えて、連絡順位などバックアップ体制も整える。
消防機関には、救急隊から照会回数と経過時間などを連絡してもらうよう依頼する。
ほかの病院も受け入れの基準を職員に周知することなどを報告。市医師会は十月オープンする救患センターで「軽症患者を受け入れて、救急病院の負担を減らす」とした。
県立中央病院の対応について、市医師会の馬瀬大助会長が「勤務医の労働環境が悪化することが心配」と指摘。同病院の飯田博行院長は県に「医師の確保は『長期的』に取り組むのではなく、すぐにやってもらわなければ困る」と求め、会議後「県立中央病院も来年度に救急医を増員したい。改善策実行に最大限努力する」と述べた。 (山田晃史)

◇3病院搬送拒否死亡問題◇ 6月30日午後7時半ごろ、富山市開の県道で、同市藤ノ木の無職瀬川浜子さん(73)が軽乗用車にはねられ、足を切断する重傷を負った。しかし、富山市民、富山大付属、県立中央の市内3病院が救急搬送を断った。1時間半後に約25キロ離れた高岡市の厚生連高岡病院に運ばれたが、出血性ショックで同10時半ごろ死亡した。
県が4月から運用する基準では、照会が4回以上または搬送先が30分以上決まらない場合は「県立中央と厚生連高岡の2病院のいずれかが受け入れに努め、受け入れ先を調整する」としている。


突っ込みどころ多彩すぎですが

1.ただのつるし上げですよね?
お題目が「対策会議」とか「再発予防会議」でなくて「連絡会議」の時点ですでに県から一方的な要求が「連絡」されるだけなのは容易に想像できますがw
しかし、肢切断に対して「当番病院:パンク」「当番外の大学病院:手術中」「当番外の県立病院:医師不在」って、完全に詰んでるんですが、これで受け入れ可能な市外の病院へ速やかに搬送って誰か悪いですか?
はっきりいって、ただの選挙目当てのパフォーマンス以外のなにものでもないですね…

2.明らかに逆効果な「対策」
そんな会議で、いつものパターンに反して唯一まともなことを言ってるのが、市医師会です
そもそも、こんな事になったのは要求される病院機能に対して勤務医が不足しているのが原因です
そんな「医師不足」への対策が「労働強化」って旧日本陸軍の亡霊以外のなにものでもありません


3.もはやオンコールに非ず
えー。だいたいいつも労働問題で論争になるのですが、日本の医療業界においてはオンコールは勤務時間ではない(故に労働時間にはカウントせず賃金は払わない)となっているのですが、この新規定だと、誰がどう見ても当直だと思います。(海外ではオンコールは当直の一形態)
これは、グローバルスタンダードに乗っ取ってオンコールも当直と認め、労働時間としてカウントし、当直代も支払うという風にしないと、若手医師の敬遠や大量離職を招きますよ?

そもそも、県立病院の医師不足は、経営者である県の経営責任であるはずですが?

2011年7月31日日曜日

医学部の教養に戦略シミュを組み込むべき

埼玉県知事選があまりに失笑過ぎる件について

県内医療レベル 統一を  
金井忠男 県医師会会長
2011知事選  課題の「4年」
さいたま市で先月、交通事故に遭った車椅子の女性が、相次いで救急搬送を拒否される問題が起きた。新聞記事を目にした県医師会会長の金井忠男さん(67)はすぐ、関係する病院に連絡を入れた。どの病院も「外科医がいなかった」と答えたという。施設の数や質など、県内で最も医療が充実しているはずの県都で起きた。「この地域で起きるということは、どこでも起きる可能性がある」
1998年に7726人だった県内の医師数は、2008年には9954人に増加した。しかし、若手医師は過疎地を敬遠する。患者側の大病院志向もあり、本来、高度な医療を受けるべき患者に医師の手が回らないという現状もある。こうした複合的な要因が絡んだ結果が「医師不足」だ。
県は09年度以降、若手医師を県内に引き込むため、研修費の貸与制度を拡充するなどしてきたが、こうした行政側の取り組みが特効薬になるとは考えていない。その一方、他県では、医師や看護師らを確保するため、隣県などから人集めをするような動きも起きているという。「単なる奪い合いでは何の解決にもならない」と金井さんはクギを刺す。
東京に隣接する都市部と過疎地域の混在。埼玉の「日本の縮図」ぶりは医療界にも通じる。「県内の医療レベルは統一化されなければならない。日本のモデルを埼玉独自で作りたい」。定年を迎える団塊の世代、子育てを終えた女性の医師らを人材として活用できないか。県北部のように、他県の医療機関のほうが素早く搬送できる地域もある。「県は音頭取り、調整役を果たすべきだ」と考える。
金井さんは年に最低4~5回は、仕事やプライベートで横浜を訪ねる。駅や街を歩く若者が多く、景気が悪いというここ数年でも、新しいホテルやデパートが次々にできていることに驚かされる。30年暮らす埼玉との違いを痛感する。「全国から注目されるような大々的な観光地でなくていい。若者がさっと集まってくるような魅力が必要。医者も若者の集まりに参加する一人だから
(2011年7月27日 読売新聞)

ええと、この県医師会長さん、非常に正しいところと、非常に残念な混在しててどう突っ込んだものやら(笑
とりあえず分類しましょう

<正論>
・医療スタッフの共食いは問題の解決にならない
・魅力ある町じゃないと医師は来ない

これは、もう、残念なことに厳然たる事実であり、それ以外のなにものでもありません
比較対象が横浜なのはよくわかりませんがね…
だからといって、 ここまで堂々とハニートラップかましにこられるともう笑ってやり過ごすしかありませんがw(http://www.shinshu-liveon.jp/www/topics/node_191345


<意味不明>
・埼玉は日本の縮図

いや、純粋に意味わかんないです
東京都中心部と地方都市と僻地がそれぞれ違いすぎて、縮図なんて存在しえないと思いますがね?

まぁ、ここまではただの話の枕です
本命はこれから


<間違い>
・応需不能が県庁所在地で起きたから埼玉県全土で起こりうる
・圏内の医療レベルは統一されてなければならない


まず、応需不能(マスゴミ的「たらい回し」)が起きるのは、基本的に医療機関が潤沢な都市部もしくは都市部に丸投げしようとする近郊に限られます
僻地なんて、「たらいを回す相手」がいませんからね?
むしろ、医療は東京に丸投げしている印象があった埼玉県に、回せる医療機関が複数あることを誇るところかも知れませんよ?

さて、ではなぜ医療機関が比較的潤沢な都市部で応需不能が起きるか?
それは、医療スタッフを各医療機関に分散させてしまったために、各個撃破に持ち込まれているからです

あー、私が今何言ったかわからない人は、戦略シミュレーションゲームを自力でクリアできるようになるまで医師不足の議論には加わっちゃいけません

拠点分散→戦力分散→防衛力低下→各個撃破→全滅

の基礎がわからないで医師不足の話をするのは、1+1=2を知らないで相対性理論を解こうとするようなものです
スタッフも設備も予算も限られた現実世界において応需不能を防ぐには


医療スタッフ集約化→医療機関集約化→調整された医療格差


しかあり得ません
そういうことを無視して医療レベルを統一するというのは、医療レベルを全国最低ランクにそろえる結果にしかなり得ません

…と言うことをわからない人が県医師会長という時点で、歴代の医師会と医学教育の罪深さが垣間見えた気がします

2011年7月24日日曜日

笛吹けども研修制度踊らず

新研修制度が始まって5年以上経ちますが、また痛ましい事件が起きました

2011/7/23 土曜日
研修医死亡で遺族 労災を申請/弘前
弘前市立病院勤務の研修医呂永富さん=当時28歳=が昨年11月に急性循環不全のため亡くなったのは、長時間労働などが原因として、遺族が22日、弘前労働基準監督署に労災を申請した。代理人弁護士によると、呂医師が亡くなる前の1カ月の時間外労働が140時間を超えるなど、長期間にわたり過重業務が継続していたとした。一方、市立病院は時間外労働は最大でも60時間程度との認識を示し「指導医の指示の下で業務を行っており、過重な負担はなかった」としている。
呂医師は中国出身で2004年に弘前大学医学部に入学。10年3月に卒業し、同年4月から市立病院で研修医として勤務していた。昨年11月29日に呂医師が出勤しなかったことから病院の連絡を受けて警察が確認し、自宅で倒れている呂医師を発見。解剖の結果、前日に死亡していたことが分かった。呂医師に特別な既往歴などはなかった。
22日は群馬県内に住む呂医師の母親(62)と姉(33)が同監督署に労災を申請。記者会見した。
代理人弁護士によると、出勤簿や家族からの聞き取りなどから確認した呂医師の時間外労働時間数は死亡前1カ月間で142時間43分。死亡前8カ月間の平均でも136時間余りと100時間を大きく超えるとした。また死亡前1カ月の休日が2日だけだったとし、深夜の呼び出しなど勤務時間も不規則だったとした。
呂医師の姉は「電話で連絡を取っていたが、とにかく忙しいと話していた」と話し、呂医師が眠れないなどうつ病気味な話もしていたという。代理人の川人博弁護士は「背景には青森県をはじめとする東北地方における根強い医師不足の問題がある。日本が多くの留学生を受け入れ、医師として安心して働いてもらうためには現在の医療状況の早急な改善が求められる」と述べた。
一方、市立病院は「研修中は指導医の指示の下で業務を行っており、過重な負担はなかったと考える。労働基準監督署から照会などがあれば、適切に対応したい」とコメントした。取材に対し、同病院では病院として把握している時間外労働は多い時でも月60時間程度で、指導医について研修を行うため、精神的な負担も一般の医師に比べ、重くはなかったとの認識を示した。また入院患者を受け持っているため、休日も患者の様子を見ることはあるが、長時間にわたり、勤務をするような態勢ではなかったとした。

弘前市立病院の中国人研修医死亡:母親ら、労災申請 「業務で肉体的負担」 
/青森

 弘前市立病院で研修医として勤務していた中国人男性の呂永富さん(当時28歳)が急性循環不全で昨年11月下旬に死亡したことを受け、母親(62)と姉(33)が22日、弘前労働基準監督署に遺族補償年金と葬祭費用の支給を求めて労災申請を行った。
 この日会見した母親らによると、呂さんは02年2月に中国遼寧省から来日。前橋市の日本語学校に通った後、04年4月に弘前大医学部に入学した。10年3月に卒業、翌4月から弘前市立病院で研修医として勤務していた。
 代理人によると、呂さんは毎日午前8時過ぎに仕事を始め、帰宅時間は早くても午後8時半以降で、手術が長引けば深夜0時を過ぎることもあった。土日出勤も多く、17日間連続で勤務したり、休みが月に1日だけの時もあったという。毎月の時間外労働時間は約99~約177時間。宿直勤務は月2~4回していた。10年4月の健康診断では、問題はなかったという。
 労基署に提出した代理人意見書では「非常に不規則な勤務を繰り返し、業務による肉体的負担が大きかった」としている。
 母親は「元気で活発だった息子が急に死んだことはとても悲しい。生きていく力がわかない」と述べた。
 市立病院は「研修中は指導医の指示の下で業務を行っており、過重な負担はなかったものと考えております」とのコメントを出した。【吉田勝】




私の労働時間は、友人との比較では恐らく研修医としては中に位置すると思われますが、それでも労働時間はおおむね月300時間程度になっている計算です
まぁ、2007年の調査では研修医の時間外労働は73時間ということになっているので、実は多い方かも知れませんが(研修医の時間外労働がそんな少ないわけないと思いますがね…)

法定の労働時間は1日8時間×平日で週40時間で、月あたり160時間強になります
つまり、私は月140時間程度の時間外労働をしていることになるので、この亡くなられた研修医と私は似たような労働環境になるのでしょう(年齢まで似ているから他人事じゃない…)

弘前市立病院は時間外労働は月最大60時間と主張しているようですが、それはつまり、平日は9時-5時(pm)プラス週1回の当直しか病院にいないということになっているのでしょうね
この病院、あくまで逃げ切るつもりのようですが、そういう態度がどういうことを招くかまで頭回ってないのでしょうか?
紙の記録はいくらでもごまかせても、病院が電カルでも導入していれば、ログ記録で一発ですよ?




実際、私も週40時間しか病院にいないことになってますしねw
タイムカードは研修部が医師負担軽減のため、自動で押してくれてるようですw
ルクセルバッジがひっかかって放射線被曝調査された際、調査書に「土日祝日には放射線労働記録を書かないこと」と書類に念押しされてたときは思わず爆笑しましたがwww
夏休み以外の休日なんて、年に何日あったっけ? 





…という類の話をすると、なぜか医師家族以外で最も医師の日常をみているであろう患者やその家族、コメディカルやナースからすら意外な顔されるのですが、医師の生態をちょっと考えれば、中核病院や大学病院の医師ならこれくらいはあっさりいってしまうことは明白です

勤務時間を以下のように仮定します

平日   8~20時
土日祝  9~12時
当直     週1回

まだ「温い」様に思う医師も多いでしょうが、
これでも、週の労働時間は12×5+3×2+12=78時間で、週38時間の時間外となります
月にすれば、時間外は150~160時間行くのは納得頂けるでしょう

アメリカのレジデントの労働時間の上限がこれくらいです


ちなみに、過労死ラインは時間外労働月80時間です

それと、業界では変な慣習や主張がまかり通ってますが、労働時間とは時間的・空間的拘束性が発生している時間をさします
つまり、寝当直やオンコールも労働時間です(実際、欧米ではオンコールも当直として扱われる)


現行の研修制度は、あまりに多くの人の思惑が入り込みすぎて本来の趣旨が誰にもわからなくなってしまいましたが、
そもそもは、2000年頃に相次いだ若手医師の過労死に対する、労働環境改善が始まりだったはずです

確かに以前に比べれば、研修医の労働時間も賃金も社会的地位も向上したのは間違いありません
しかし、それは人間以下だったのが、一応人類に格上げされたに過ぎません

前回のブログにも書いたように、今また研修制度を奴隷制度としようとする流れが復活していますが、我ら若手医師はこの流れに断固Noを唱える必要があります

問題の本質は、医療制度の不備と医師不足です
この弁護士が間違っているのか、記者の編集能力なのか知りませんが、まず医師不足は東北に限りません
そして、この研修医は血統的には純血の中国人かも知れませんが、日本の医学部に入学し、日本の国家試験に合格し、日本の研修制度を受けていました。中国人留学生ではなく、間違いなく日本人として扱われるべきです
中国人だから特殊なケースとして事態を矮小化させてはいけません


ツケを若手に回して目先をごまかして、どこに未来があるのでしょうか?
こんなことを21世紀になっていつまでも続けていれば、日本もドイツのように医学部が定員割れする日もそう遠くないでしょう

2011年7月6日水曜日

医師不足の定義

また厚労省がよくわからんアンケートをやったようで 

 


医師不足地域、25%が拒否 勤務「交代いれば」半数 臨床研修で調査
2011年7月5日 提供:共同通信社
 
 医学部卒業後の「臨床研修制度」を終えた医師の65・4%が、医師不足地域での勤務について「条件が合えば従事したい」と答えた一方、25・5%は「条件にかかわらず希望しない」と考えていることが4日、厚生労働省の初の調査で分かった。8・1%は「既に医師不足地域で働いている」と答えた。
 調査は2008年4月~10年3月に臨床研修をした7512人が対象で、5250人(69・9%)が回答した。
 医師不足の地域で働く条件(複数回答)は「自分と交代できる医師がいる」が最多で55・7%、次いで「一定の期間に限定されている」(53・8%)、「給与がよい」(47・0%)の順。
 研修先の病院を選んだ理由(複数回答)は「研修プログラムが充実」(44・8%)、「多くの症例を経験できる」(40・5%)、「さまざまな診療科・部門でバランス良い経験を積める」(37・1%)だった。
 臨床研修制度は、免許を取った新人医師に2年間の研修を義務付ける仕組みで、2004年に始まった。以前は大学の医局を通じ地方の病院に派遣されることが多かったが、制度導入で研修先を選べるようになったため、大学病院の派遣機能が低下し、地方での医師不足の一因になったとされる。
 厚労省は調査結果も踏まえて現行制度を見直し、2015年度から新制度の運用を始める予定。


このアンケート、1学年しかとってなかったり、中身からして、すでに突っ込みどころ満載なんですよね…


そもそも、みんなの思い浮かべる「医師不足地域」って、実はみんなバラバラなんですよね…
そこの定義付けをちゃんとしないで話をするのは、神父とラビと神主を集めて神について議論させるようなものです 

その一番わかりやすい例が、医師不足地域で働いている自覚があるのが8.1%だけってことですね
この国に医師充足地域が92%もあるわけがない(笑



 OECD基準や、労働時間基準でいえば、問答無用に東京だろうが医師不足地域です
むしろ、専門性が高い故に交代医師がいない比較的都市部の大学病院よりも、患者不足地域の田舎の方が労働時間守れてる節もありますがね(時間外の中等症以上は全部丸投げしてくるから…)


現在の労働時間を受け入れるにしても、何かあったときに自分が休むことができるかどうかというのは重要なファクターです
ですが、その理屈でいうなら、 交代できる医師がいる地域は、医師不足地域ではなくなってしまいます

どうにもこうにも、このアンケート、選択枝が矛盾している典型例の気がします
これをつくった人は、なにもわかってない人か、全部わかった上でわざとやってるかでしょう 
どちらにせよ、最初に結論が決まっていて、その結論に向かうように設定されたアンケートに思えてきます…


よく忘れられがちですが、職場の立地というのは生活の場でもあります 
先日、大都市の研修医と話す機会がありました
大学に入るまではだいたい私と同じような環境で暮らしてた人たちなのですが、
私たちの日常(地方医大の立地や生活スタイル)を話すだけでみんなどん引きでしたね(笑
生粋のシティボーイに、三十路近くになってからいきなりド田舎で暮らせとか言ったって無理にもほどがありますが?
 

2011年6月26日日曜日

臓器売買の実情

今週は例の臓器売買事件についてです
まずは事件の内容ですが、


腎移植の闇:臓器売買事件
「商談」はバーカウンターで始まった。09年5月のある夜。東京都江戸川区のJR小岩駅から徒歩5分のスナックの店内で、堀内利信容疑者(55)の妻則子容疑者(48)が雇われママの佐々木ひとみ容疑者(37)に切り出した。「夫の病気のことで困っているの」
則子容疑者は店の常連だった。開業医の堀内容疑者が慢性腎不全と診断され、透析を受けていることは既に話していた。則子容疑者は、夫が日本臓器移植ネットワークに登録したが死体腎移植の機会が巡ってこないことやフィリピンでの移植計画を立てたが失敗したことを明かした後で続けた。
「お金なら出すから誰か紹介してくれない?」。報酬は1000万円。臓器売買の提案の場面を関係者が明かした。
「先生が腎臓を悪くしていたなんて知らなかった」。堀内容疑者が区内で開業する堀内クリニックの近所の住人は口をそろえる。
堀内容疑者は金沢医大(石川県)を卒業後、医師だった父からクリニックを引き継いだ。専門は内科と小児科。患者の評判は良く、20年来の掛かり付けという男性(93)は「口数は少ないが、友達のような感覚で接してくれる優しい先生」と話す。足の不自由なお年寄りに配慮し、レントゲン室を1階につくることができる物件を求めクリニックを移転させる一面もあった。
則子容疑者は、夫とは対照的に社交的な女性だったようだ。フラワーデザイナーとして、東京・銀座や横浜駅前でアレンジメント教室を主宰。テレビに出演したこともある。ただ経営は楽ではなかったようで、捜査関係者は「開業医の夫の収入に頼る部分もあったようだ」と語る。
スナックで臓器売買の提案を受けた佐々木容疑者は、同居する指定暴力団住吉会系組員の滝野和久容疑者(50)に話をつないだ。堀内夫妻ら4人は09年6月、則子容疑者が小岩駅近くで開くフラワー教室に集まった。堀内容疑者が「移植手術をする病院は自分たちで用意するから、ドナーを探してほしい」と滝野容疑者に依頼。手術のために養子縁組を偽装することを伝え、1000万円を分割で支払うことを決めた。
滝野容疑者は、すぐに3人のドナー候補をそろえたという。このうち2人は元組員。ドナーの適合検査を経て絞り込まれたのが、かつて同じ組に所属していた元組員の坂上文彦容疑者(48)だった。 年末には堀内夫妻はファミリーレストランで坂上容疑者と初めて顔を合わせ、翌年1月、江戸川区役所に養子縁組を届けた。
 臓器の売り手に買い手、そしてスナック。3者の住所はいずれも小岩駅から半径300メートル圏内におさまっていた。
だが、5人の蜜月関係は長く続かなかった。その後、滝野容疑者が1000万円を追加要求したことでトラブルに発展し、手術直前になって移植は中止された。堀内容疑者は別のドナーを用意して移植手術を受けたとされる。
臓器売買画策の背景には何があったのか。なぜ偽装縁組は見逃されたのか。警視庁が捜査に乗り出した臓器売買事件の闇を追った。
昨年1月15日。堀内利信容疑者(55)の妻則子容疑者(48)が主宰する東京都江戸川区内のフラワー教室に、臓器売買の仲介役とされる暴力団組員の滝野和久容疑者(50)が2種類の書類を持参した。「養子縁組届」と「養子離縁届」。則子容疑者は双方に記入すると、その足で江戸川区役所小岩事務所に向かい、坂上文彦容疑者(48)との養子縁組届を提出した。
ドナー候補の元組員、坂上容疑者の腎臓を堀内容疑者に移植するための偽装縁組。「手術が終わればすぐに離縁届を出す予定だった」と則子容疑者は警視庁組織犯罪対策4課の調べに供述しているという。堀内容疑者らの目には、腎臓が売り買い可能な「商品」と映っていたのか。
半年ほど前、都内のある病院に「妻から腎臓を移植してほしい」という相談があった。50代とおぼしき男性は他の病院からの紹介状を持っていたが、「妻」を連れず1人で来院した。不審に思った医師が事情を聴くと、実は内妻で外国籍だと分かった。「普通なら2人で相談にくるはず。移植は断った」。医師は臓器売買の可能性を疑った。
西日本の病院の移植医は「母親から腎臓の提供を受ける代わりに遺産相続を放棄するなど、事実上の売買ともとれるケースはあった」と明かす。
移植医療に詳しい東京財団の〓島(ぬでしま)次郎研究員は「死体腎ドナーの不足を背景に、水面下で生体移植用の腎臓売買が横行している恐れがある」と指摘する。
日本臓器移植ネットワークによると、死体腎移植を希望して移植ネットに登録している待機患者は1万1814人(09年11月現在)。しかし、移植実現までは平均15年かかるとされ、95~09年の間で移植を待ちながら亡くなった患者は2476人。同時期に移植を受けられた2418人を上回る。
親族から生体腎移植を受けるという選択肢もあるが、堀内容疑者のようにドナーを見つけられないケースも多い。NPO「移植への理解を求める会」の代表、向田陽二さん(53)は「国を挙げて移植を増やす努力をしてほしい」と話す。自身も生体腎移植経験者の向田さんは、末期の腎不全患者の気持ちをこう代弁する。
「現状では1000万円でも2000万円でも出して腎臓を欲しがる人がいてもおかしくない」
「20世紀で人類が手にすることができた最も効果的な医療技術。それが臓器移植です」。昨年9月、鹿児島県で開かれた生体腎移植の講演会。壇上から語りかける医師は当時、宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)に勤務していた。医師は生体腎移植のメリットや手術の手軽さを説明し、続けた。「うちの病院では、養子縁組をされた後に移植を受ける方もいます」
その2カ月前。同病院では、堀内利信容疑者(55)=臓器移植法違反容疑などで逮捕=への移植手術が実施されていた。執刀したのは、泌尿器科部長の万波(まんなみ)誠医師と、この医師。堀内容疑者が逮捕され、ドナー(臓器提供者)の男性(21)とは偽装養子縁組だった疑いが浮上している。
堀内容疑者は移植を受けるために養子縁組の企てを重ねていた。
最初は知人女性に持ちかけた。死体腎移植の順番が回ってくる気配はなく、海外渡航移植も失敗。堀内容疑者は焦っていた。しかし「移植には養子縁組が必要」と説明すると女性は逃げ出した。 頼ったのが暴力団組員、滝野和久容疑者(50)だった。1000万円の報酬で紹介されたドナー候補の坂上文彦容疑者(48)と養子縁組し、板橋中央総合病院(東京都板橋区)で移植を受ける話がまとまった。しかし手術直前の昨年5月、1000万円を追加要求され、計画は流れた。
そして宇和島徳洲会病院。堀内容疑者は別の暴力団組員から新たにドナーの男性を紹介され、養子縁組のわずか1カ月後の昨年7月に移植を受けた。
両病院の倫理委員会は実態を見抜けなかった。宇和島徳洲会病院は、養子縁組が繰り返されていることを戸籍で把握したものの、堀内容疑者が坂上容疑者との関係の説明を渋ったため、それ以上調査しなかった。
臓器移植に詳しい医療関係者は「養子縁組直後は疑問を感じてもおかしくなく、普通なら手術を避ける」と指摘する。別の病院関係者からは「病院は捜査機関ではない。偽装養子や臓器売買を見抜くことには限界がある」との本音も漏れる。
日本移植学会の倫理指針は生体移植のドナー条件を親族と定めるだけで、法的拘束力はなく、審査は病院任せだ。専門家は「法規制の強化や不正がないか調査する専門の第三者機関の設置などを議論すべき時期に来ている」と提言する。 
ドナー不足に直面する患者。ドナーあっせんが容易な暴力団。甘い法規制。三つの条件がそろい、臓器売買が起きた。捜査幹部の一人はつぶやく。「捜査は始まったばかり。闇のすべては明らかにはなっていない」(この連載は川崎桂吾、前谷宏、浅野翔太郎、喜浦遊が担当しました)
毎日新聞 2011年6月26日 東京朝刊



これは私自身も考えが甘かったと反省したのですが、正直、日本で臓器売買というのは理論的にはあり得ても実際にはないだろう、と考えていました
このため、先の臓器移植法改正で生体移植のルール作りがまたも先送りされたことへの危機感はありませんでした

2000年前後には、臓器売買、ことに腎臓は「国際市場」を形成していました
医療バカの日本人医師にはなかなかピンと来ないでしょうが、Newsweekなどの国際的な(一般的な)雑誌やニュースでは定期的に取り上げられるくらいの「常識」です

最盛期には、新聞の三行広告で臓器が売買されていたほどです
腎臓の相場は数十万だったようです
00年代後半にはじまった「国際市場」となった国の国家的な臓器売買監理がはじまりましたが、未だ公然と行われているのが現状のようです
そんなわけで、わざわざ日本で臓器売買をやるのはあまりに「割に合わない」と考えていたのです

それでも最初、事件の舞台が江東区ときいて、まああり得なくはないかと思いはしたのですが、こうまで売り手が次々に現れ、実際に宇和島で行われていたと聞いたときは、本当に考えの甘さを痛感しました

暴力団も色々と資金源を潰される中で、臓器売買ネットワークを形成した可能性があります
また、続く不況もこれに追い打ちをかけたと思われます

臓器売買は 五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金でしかありません
仮に臓器売買に手を貸す医師がいたとしても、任意団体に過ぎない医師会や学会では対応できません(代理母や病気腎移植がその例です)
厚労省が医師免許剥奪や、保険診療の停止処分をするくらいしかまともな処分はありませんが、これも明確なルールがない中ではまともに機能しません
生体移植の法律化と、 臓器売買の厳罰化が必要です



貧困層を狙う違法臓器売買、パキスタン政府が外国人への販売を禁止
2007年08月21日 16:20 
発信地:イスラマバード/パキスタン
【8月21日 AFP】「腎臓を1つ100万ルピー(約190万円)で売らないか」。Tariqと名乗る男から電話でそう持ち掛けられたとき、Usman Ranaさん(24)は運がまわってきたと考えた。
警察によれば、Ranaさんは仕事を探すため、2月にラホール(Lahore)から首都イスラマバード(Islamabad)に出てきた直後にTariqから誘いを受けた。腎臓の買い手は英国から来た患者だと告げられ、パキスタンでは大金にあたる10万ルピー(約19万円)の前金を受け取った後、イスラマバード郊外の民間病院で手術を受けた。
手術後しばらくして、残った腎臓が痛み始めた。まだ残金を受け取っていなかったため、Ranaさんは催促するとともに警察に通報。捜査の結果、巧妙な詐欺事件が発覚した。
新聞各紙の報道によると、Ranaさんの事件に関連して医師1人と警察官1人を含む4人が身柄を拘束されて17日に裁判所に出廷、警察は残る2人の行方を追っている。うち1人は警察官だという。
パキスタン政府によると、Ranaさんのようなケースは珍しいものではなく、「最貧層」を狙った違法臓器取引の取り締まりを目的として、前週に新法「Transplantation of Human Organs and Tissues Bill、 2007」が制定された。
 パキスタンにはこれまで、臓器移植を目的とした患者が世界各国から訪れていた。同国では提供者が現れるのを待つ必要もなく、自国に比べて臓器移植手術が格安で受けられるためだ。
 しかし、新法ではパキスタン人が外国人に臓器を販売することを禁止。また、許可なくヒトの臓器を売買した者に対し禁固10年と多額の罰金を科すよう定められている。
 腎臓の売買は増えており、パキスタン国内での売買額は年間10億ルピー(約19億円)に上るという。同国は「臓器のスーパーマーケット」として知られるようになり、「失業者が氷に包まれて目覚めると、手術跡があって臓器が盗まれたことに気づいた」といった話がまことしやかに語られていた。
被害に遭うのは、実質的に奴隷のような状態で働かされている人々。借金を払って自由の身になりたいとの思いから臓器を売り渡すケースがほとんどだという。
RanaさんはThe Newsの取材に対し、イスラマバードに来たときは2年間も失業していて餓死寸前の状態で、床屋で腎臓を売れば家族を養えると持ち掛けられたと打ち明けた。しかし前金の10万ルピーでさえも、手術後に病院を出る際に仲介者3人が待ち構えていて、あとで全額を払うからと言って持ち去ってしまったという。
Dawn紙の18日の報道によると、パキスタンでは年間2000件の腎臓移植が行われ、うち500件は患者が国立病院で家族から生体腎移植を受けるケース。残る1500件が私立病院で他人の臓器を移植されるケースで、このうち約900から1000件を中東、北米、欧州、南アジアの20か国以上から来る患者が占めているという。(c)AFP/Lynne O’Donnell

売るのは子どもか、腎臓か 

パキスタン貧困層の苦悩
2009.07.26 Web posted at: 19:53 JST Updated - CNN
地主への借金返済のため、腎臓を売ることを余儀なくされたパキスタン人男性パキスタン北部サルゴダ(CNN) 
  借金を返すために、子どもを売るか自分の腎臓を売るか――パキスタン農村部の貧困層の間で、経済的に追い込まれ、厳しい選択を迫られる人々が後を絶たない。同国では最近、臓器売買を禁止する法律が成立したが、腎臓移植は法の抜け穴をくぐって続けられている。 
モハメド・イクバルさん(50)は地主から借金の返済を迫られ、腎臓の提供を決意したばかりだ。
すでに手術に備えた検査も済ませた。これで10―15万円を工面することができる。
  農場で働くラブ・ナワスさんは、約1年前に腎臓の摘出手術を受けた。結婚式の費用から妻と子ども6人の医療費まで、地主から借金を重ねた結果、「妻子を売るか、腎臓を売るか」の選択を強いられたという。 
  「子どもたちを売り飛ばすくらいなら、腎臓を売るほうがましだった。金を返すためにはほかに道がなかった」と、ナワスさんは振り返る。腹部から背中にかけて、30センチほどの傷跡が残った。
 体力が落ち、手術前と同じ働き方はできなくなった。農場周辺の村には同じような傷跡を持つ人々がいくらでもいると、ナワスさんは語る。 
  パキスタンはこれまで、臓器売買が横行する「臓器の市場」として知られていた。年間2000件の移植手術が行われ、このうち1500件は受け手が外国人。手術を目的に同国を訪れる患者は、「移植客」とも呼ばれた。07年には臓器売買が法律で禁止されたものの、実態に大きな変化はない。
ナワスさんが手術を受けたのも、禁止法の施行後だった。
  ナワスさんは、手術を受けたラワルピンディ市内の病院にCNN取材班を案内。医師に手術記録の開示を求めたが、「記録は患者が退院したら破棄することになっている」と断られた。
 病院側はCNNの取材に、「法律には従っている。当院は腎臓提供者と移植を受ける患者との仲介には一切かかわっていない」と繰り返すばかりだった。


インドで横行する臓器売買――「合法化が最善策」の声も

インドでは、1994年に臓器移植に関する規制法が成立したにもかかわらず、違法な臓器売買が続いている。ブローカーによる文書偽造や賄賂が横行して、公的機関による臓器移植の承認システムがうまく機能していないことから、臓器売買を合法化するのが最善の策だという声もある。
Scott Carney 2007年05月23日
インド、チェンナイ発――2007年1月に行なわれた警察の強制捜査で、人間の腎臓を売買したとして密売人3名が逮捕された。この一件で、地域の医療規制当局の不始末に注目が集まるとともに、臓器売買に関する国際的な議論が再燃している。
タミル・ナードゥ州の各地に住む500人以上の人々が、1994年に成立した臓器移植に関する規制法に違反して、臓器ブローカーに自分の腎臓を売ったと話している。しかし規制法の成立以降も、この法律を守らせなければならないはずの行政当局は、しばしば見て見ぬふりをしてきた。
タミル・ナードゥ州の移植承認委員会のメンバーは、匿名を条件にワイアード・ニュースの取材に回答し、次のように述べている。
「われわれはすべて法律の条文に従って行動している。しかし、われわれが目にする文書はほとんどすべてが偽造されたものだ。このことは公然の秘密となっている。偽造された文書でも移植を認めるか、あるいは患者が死亡するかのどちらかだ」
そもそも規制法制定のきっかけとなった搾取による本当の危険性を考えると、人道的な立場から闇での臓器売買を正当化する議論は、拡大解釈のようにも感じる。しかし、医療政策の専門家の中には、インドの公的システムが機能していない以上、何らかの形で合法化するのが最善の策だと言う人たちもいる。
1994年に成立した規制法の下では、すべての移植は州が任命した倫理委員会が承認しなければならない。委員会は個々の移植を承認する前に、ドナーとなるすべての人たちに面接する必要がある。委員会が審査する移植申請の数は、週あたり平均20件で、そのうち15件が承認される。匿名の委員会メンバーによると、ブローカーは日常的に文書を偽造しており、見かけの上では合法的に手続きが処理されているという。
「インドに関する限り、主要な問題はブローカーを排除することだ。つまり、政府による規制、あるいは何らかの補償政策を整備することが重要だ」と、『Transplant News』の編集長Jim Warren氏は述べている。Warren氏は、標準的な金額の対価を支払うことと、国による生涯の医療保険を提供することを提唱している。
しかし、国が支払う金額が国際市場の水準より低ければ、こうしたシステムはうまく機能しないと、カリフォルニア大学バークレー校の医療人類学の教授で、「臓器ウォッチ」の設立時から会長を務めるNancy Scheper-Hughes氏は述べている。
「無料のヘルスケアは名目的にはすばらしく聞こえるが、ある国が臓器売買を合法化して、外国へ出かけてでも臓器移植を受けるという国際的な市場での競争にさらされたときに問題が生じる。国が認めたシステムではそれほど金銭的な見返りを得られない場合、外国のブローカーがもう少し高い代価を提示すれば、医療サービスが得られなくてもほとんどの人は現金の方を選ぶ。けっきょく、合法化する前と同じ問題に直面することになる」と、Scheper-Hughes氏は説明する。
タミル・ナードゥ州の当局は過去13年にわたり、違法臓器売買を非公式に認めてきたと、匿名の委員会メンバーは述べている。この人物の説明によると、非合法の臓器売買がなければ、患者は何の希望も持てなくなるという。なぜならインドでは、遺体から臓器が寄付されることは非常にまれだからだ。見返りがなければ、実質上ドナーはいなくなる。
匿名の委員会メンバーは、ブローカーが移植承認委員会のメンバーに賄賂を渡しているということは否定した。しかし地元の警察は、タミル・ナードゥ州の臓器売買の背後に、利他的な目的以外の多くの問題があると考えている。
「こうしたブローカーは金持ちではない」と、チェンナイの犯罪捜査部に所属するChandrabasu警視は述べている。「臓器移植の仲介でブローカーが手にする額(数千ドル)のうち、大半は賄賂に消える。けっきょく、1件の取引で稼げるのはわずかな額(300ドル)だ」
違法行為を行なうことで、彼らは人命を救ってきたかもしれない。しかし、ブローカーたちが法の網をかいくぐって活動することを見逃したために、移植承認委員会は貧しい人々が臓器ブローカーの食い物になることを許してしまった。1994年に臓器提供の規制法が成立する以前にはびこっていたのと同じ問題がそこにある。
2007年1月、チェンナイの北12キロメートルのところにある、津波避難民のためのキャンプで生活する貧しい女性たちのグループが、ブローカーを通じて自分の臓器を売ったことを市民集会で告白した。
「倫理委員会を訪れたとき、私と同じようにブローカーからの指示を受けてきた4人の女性がそばに座っていた」と、Raniさんという避難民の女性はワイアード・ニュースの取材に対し語った。
Raniさんは、移植の手配をしたブローカーが約束した3300ドルのうち、900ドルほどしか受け取っていないと言う。「私たちは1人ずつ呼ばれた。(委員会が)したことと言えば、私に腎臓を寄付する意思があるかと尋ねて、書類にサインするよう求めるだけだった。手続きはずいぶん早かった」
実行可能な解決策が見当たらないなか、タミル・ナードゥ州の移植承認委員会は自ら対策に乗り出した。規制当局はそれぞれ、急いで対応しようとしている。
Chandrabasu警視によると、警察は現在3名のブローカーを文書偽造容疑で拘束しているという。医療サービス部門の責任者は、52の病院が違法な臓器移植に関わっていたという報告について調査中だと述べている。
タミル・ナードゥ州の厚生大臣は1月22日(現地時間)、州政府の倫理委員会を強化するための方策について提議した。この件について厚生大臣に問い合わせたが、回答は得られなかった。
[日本語版:ガリレオ-向井朋子/福岡洋一]