「どんなにつらくても、患者さんの『ありがとう』が聞けたから、僕たちはがんばれた。
でも、これから医師になる君たちはどうなってしまうのだろう」
これは、私が医学生の時に、地域医療に従事する複数の医師から全く別の場所で言われたことです
ネット上の医師からは、医療を破壊した厚労省最大の失策は「患者様キャンペーン 」だとよく言われますが、その心情を素直に表現した言葉だったのでしょう
先週、その深刻さを表す記事がありました
メッセージ:過酷な救急医師に感謝を 県、受診者から募集 /栃木
http://mainichi.jp/area/tochigi/news/20100415ddlk09040132000c.html
深刻な医師不足の中、過酷な救急医療現場で働く医師に感謝の気持ちを伝えよう--。県は、救急医療機関を受診した患者らを対象に、救急医療に従事する医師に対する感謝のメッセージを15日から募集する。県によると、自治体の試みとしては全国初という。県は「昼夜を問わず働く医師にエールを送りたい」と期待する。
<略>
「感謝のメッセージを募集する」なんて、やってることは幼稚園か小学生に礼儀を教えるレベルです
ですが、この礼儀を失ったからこそ、夕張と銚子から病院が消えました
(逆に、そのことに気づいたからこそ柏原と東金はギリギリで踏みとどまってます)
しかし、これは残念ながら地方だけの問題ではありません
全国的な病理になってます
日本、医療の満足度15% 22カ国で最低レベル
http://www.47news.jp/CN/201004/CN2010041501000688.html
【ワシントン共同】日米中など先進、新興22カ国を対象にした医療制度に関する満足度調査で、手ごろで良質な医療を受けられると答えた日本人は15%にとどまり、22カ国中最低レベルであることが15日分かった。ロイター通信が報じた。
<略>
自国の医療制度に満足している人の割合が高いのはスウェーデン(75%)とカナダ(約70%)で、英国では55%が「満足」と回答。韓国、ロシアなどの満足の割合は30%以下だった。
国民皆保険制度が未導入で、オバマ大統領による医療保険制度改革の議論で国論が二分した米国は、回答者の51%が手ごろな医療を受けられると回答した。
2010/04/15 17:44 【共同通信】
このニュースを見たら、戦線離脱する医師がかなりいるのではないかと思います
正直、ここまで低いとは私も思ってなかったのですが、
ハインリッヒの法則の様なものが適応できるなら、1件の大きな訴訟の背後に300件の訴訟につながりかねない不満があると考えるべきなのかも知れません
しかし日本よりも医療費が高く(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1890.html)、フリーアクセスもなく、医療技術は日本とほぼ同等の国々が、日本よりも圧倒的に高い満足度を誇っているのは何故でしょうか?
理由は単純で、「医療とはそういうものである」と国民が納得しているからに他なりません
国際ニュースなどを見ていると、市民が自国の医療の不自由さをシステムを守るために必要なものとして、それなりに納得していることがよくわかります
満足度というのは極めて主観的な相対評価で、期待値(要求)が無限に高ければ、満足度は0に近似されます
日本人は医療/病院/医師に現実離れした要求をするようになってしまったということです
そのことは、医療訴訟で期待権を理由に医療側が敗北していることからも容易に想像できます
この現状を、本田宏先生は日本の医師に要求される11役として表現しました
1、知識:利根川進氏
2、技術:ブラックジャック
3、心:赤ひげ
4、説明:三宅民夫氏
5、精神性:江原啓之氏
6、ユーモア:綾小路氏
7、リーダー:小澤 征爾氏
8、指導:金八先生
9、気力・体力:32時間連続勤務
10 、生涯賃金 :大企業サラリーマン以下
11 、定年なし
これだけのスーパーマンはハリウッド映画でもお目にかかれないと思います
というか、医師に求めるものとして致命的な部分に、実在しない人物が上がっているのが…orz
医療崩壊対策として有効な手段を問うネットアンケートを見ると、収入増よりも人間らしい生活を選ぶ医師が多いです
また一方で、せめて労働に応じて収入をなんとか増やそうという声も聞かれます
嘉山先生のドクターフィー案がその究極とも言える手段ですが、
日本の最先端医療を担うがんセンターの医師の年収が360万だとか(http://medg.jp/mt/2009/12/-vol-412.html)、
某大学中堅医師が収入を時給換算したら1300円だったとかいう状況をみれば、
従業員 (医師)を守る立場にある人間としては、自然な考えだと思います
結局のところ、医師が求めているのは、自分たちを人間としてみて欲しいという、ただそれだけのことだと思います
しかし、国や国民の要求は、未だにその現実と解離しています
以前クレジットカードのCMで、気持ちや時間に対してpricelessという値札つけるのがありましたが、
それは、「金があるからといって手に入るものではない」という意味で、間違っても「価値がない」という意味ではありません
人間らしい生活も、労働に応じた報酬も出さない、そんな日本の医療が衰退するのは、必然です
本当に…世界に美徳として語られた、日本人の礼儀正しさはどこにいってしまったのでしょうか?
私から、ひとつだけ医療崩壊の処方箋を出せるとしたら、
医療者と患者が、共に声をかける位のことしか思いつきません
「おねがいします」「ありがとうございました」「おつかれさまです」
それは医師患者関係とか、ビジネスマナーとかではなく、
人と人の関わり合いとしての、礼儀の問題です
私が今言ってることは、小学生の挨拶運動と同じです
でも、そこから出直さないといけないのが今の日本の医療だと思います