2012年2月6日月曜日

地域医療の行く先

先日、医療過疎の進む沖縄の八重山諸島からこの様なニュースが入ってきました


八重山病院 産婦人科医めど立たず
2012年1月31日
【八重山】県立八重山病院が産婦人科医不足で3月中旬から出産を受け付けられない可能性が出ている問題で、松本廣嗣院長は30日、順天堂大など複数の大学や医療機関、個人などと交渉しているものの、医師確保にめどが立っていないことを説明した。八重山の医療を守る郡民の会が同日、松本院長を訪ねて現状を聞いた。竹富町議会と与那国町議会も同日、産婦人科医確保を求める意見書と要請決議をそれぞれ全会一致で可決した。
  松本院長によると、複数の医療機関に産婦人科医の派遣を要請したり、退職予定の医師に残留を求めたりしているが、30日までに具体的な回答はなく、4月以降の医師確保にめどは立っていない。  八重山病院は眼科、神経内科、血液内科も不在で、週に1回他の病院から医師を派遣してもらい外来診療を行っている状況も明かした。
  八重山の医療を守る郡民の会の宮平康弘会長は「産婦人科医がいないと安心して住むことができない。定住できず過疎化が厳しくなるのは火を見るより明らか」と事態を危惧。「長い間勤める地元出身の医師を増やすなど安心できる状況をつくってほしい。医師確保は一義的に県の役割だが、私たちも協力する」と強調。産婦人科医など専門医が不足しないよう、医師定員増加などを求める要請書を八重山市長会などに送った。



さて、まずこの八重山病院なのですが、石垣島にあり、西表島を含む近隣諸島の中核病院のようです
石垣島だけで4.5万人の人口があるので、普通に本州の自治体病院レベルは要求されるところですね
HPをみたところNICUもあるようで、産科も分娩件数年620件(帝王切開153件)となっていて、なかなか数はあるようです
外来表には6人のDrの名前が確認できます
また、2010年から助産師外来も開かれており、立地から考えるとかなり潤沢な人的資源があったと思われます

…が、それが突然、



当院での出産を検討している皆さまへ
2012年01月25日 投稿
 産婦人科医師の不足のため、平成24年4月より9月までの間、当院での出産が困難になる恐れがあります。
 この間出産予定の皆様におかれましては、下記の対応策を参考に、他の医療機関での出産をご検討いただきますよう、お知らせします。
 <対応策>
 他の地域で里帰り出産をする。
 八重山病院での里帰り出産を取りやめる。
 他の医療機関に紹介してもらい、36週未満までに移動する
 当院では引き続き産婦人科医師確保に努めてまいります。
 今後、状況が変わり次第、お知らせしてまいります。


となっています
過去の記事等を調べると、もともと九大の関連だったのが、打ち切られて、他の県立病院や県外医療機関からの応援+自前でもっていたようですが…
普通に考えると、常勤の産科医がかなり転出することになったのでしょう
なんでそんなことになったのかについては、いささか気になるところですが

この件は結局



要請団に県が報告 医師4人の診療体制を継続
【那覇】八重山病院産婦人科の医師不足問題で、県病院事業局の伊江朝次局長は3日午後、関係医療機関から指導医を含む産婦人科医2人の派遣が決まり、医師確保のめどが立ったことを明らかにした。伊江局長によると、新任医師は5月から勤務。心配された同病院の産科医不足問題は、医師確保が決まったことで、5月以降も4人の医師による出産医療体制が継続し、出産ができることになった。
伊江局長は、同日午後に県庁で八重山市町会と3市町議会、八重山の医療を守る郡民の会、市女性団体ネットワーク会議が行った要請に応えたもの。
要請に対応した仲井真弘多県知事は「医師確保のめどがついたと伊江局長から連絡をもらっている。詳細は近くまとめて発表したい。いい答えになると思う」と述べた。
伊江局長は、医師派遣を要請していた医療機関からこの日、了承を得たという。要請団には、地元出身医師を養成する重要性を指摘。地域での受け入れ態勢の在り方にも触れ「八重山圏域でお産ができる病院は八重山病院のみで、産婦人科医は最低でも4人体制を守る必要があると考えている」と述べた。
産科医不足問題には「八重山の妊婦や関係者に心配をかけたが、全国的にも数が少ない産婦人科医を確保する上ではこれからも起こりうる問題。引き続き医師確保に全力を尽くしていきたい」と語った。
市議会の伊良皆高信議長は「安心した。県も苦労しているが、郡民約5万5000人の良い医療環境をつくっていきたい。今後も配慮してほしい」、八重山の医療を守る郡民の会の宮平康弘会長は「尽力に感謝したい。八重山は都市地区とは別の医療体制で、医師定員を増やすことを検討していただければ」とそれぞれ語った。
要請団は、産婦人科医確保や他分野での慢性的な医師、看護師不足の現状を訴え、その改善なども要望した。仲井真知事、伊江局長、県議会の高嶺善伸議長はいずれも積極的に協力していく姿勢を示した。



というわけで、他の県立病院からの派遣を増やすことで当面の解決をえたようです
…とはいえ、他の県立病院も余裕があるワケじゃないですからね

こういう「白い巨塔」時代の医局の様な無茶な人事が続くと、若手医師や学生から県立病院群が嫌われるでしょうしね

地域枠がそろそろ実戦投入される頃合いですが、それもどこまで効果があるのかは、甚だ疑問です
日経メディカルから、アメリカの医療に関する記事ですが、アメリカにもマイノリティ向けに「地域枠」があるようですが、ほとんど効果は上がってないようです



2012. 1. 31
大都会の医療“過疎”地で起こっている悪循環
<略>
「黒人医師は、ここのような都会の医療過疎地のクリニックでは働きたがらない」との答えでした。マイノリティー(黒人やヒスパニック)の医師の大半は貧困層出身者。彼らが自分の出身地に戻ってマイノリティーの医療を改善するという狙いで、affirmative action(※1)が存在しています。にもかかわらず、医療格差の改善は実現されていない。明確な裏付けはないものの、「もともと経済的に苦労して育ってきた人が、医師になって研修を終えて、わざわざ収入の低い職場を選ぶことはない」(指導医)という理由が推測されるそうです。
※1 affirmative actionとは、underrepresented minoritiesに対して平等なチャンスを与えるための優遇措置で、1960年代に始まりました。例えば、黒人やヒスパニックの医師は人口比率に照らしてかなり少なく、この状況が医療格差に関係してくるのではないかという指摘があります。そのため、メディカルスクールなどが入学志願者を選考する際、簡単に言えば、同じ学力の白人・アジア人・黒人がいれば、黒人を優先的に合格させることが許されています。こうした措置は今も国家レベルで広く行われていますが、逆差別につながりかねないという反対意見もあります。
<略>
医療過疎地となっている地域の住民は無保険者または公的保険(メディケイドやメディケア)の対象者であることが多く、そのような患者層を対象にクリニックを経営することは、少なくとも普通の医師にとっては、国や州からの助成金がない限り不可能なのです[1、2]。したがって、医療過疎地は固定化されることになります。 
<略> 



実際、日本では収入の格差はそれほどではないものの、大都市出身者が地方に出て大都市に帰るのに比べて、地方出身者が大都市に出て地方に帰る率は少ないように思います

これに対して、国や読売新聞は医師を強制配置するシステムを考えていますが、民間人に過ぎない医師に居住の自由を侵害するのは普通に憲法違反です
医師会が強制配置するドイツは、医学部定員割れ+優秀な医師・学生は海外or企業流出という状況です

要はこの問題って、世界レベルで解決できてないんですよねぇ
ただ、客観的にいって、ハイリスク分娩やNICUってのは、本来的にはとんでもない贅沢です

産科だけではないです。医療が高度化するに従い、集約化と医療格差は広がざるをえません
医療が消失する…というよりは、元々の姿に戻る、というべきでしょうか
あと20年もして高齢者がいなくなり限界集落ばかりとなれば、なおのことでしょう
先日いった五箇山の「残ったのは8世帯」という状況が、日本中で生まれるでしょう

医療は空気や水ではないということを思い出して諦めてもらう時代が、もうそこに来ていると思います