2011年7月31日日曜日

医学部の教養に戦略シミュを組み込むべき

埼玉県知事選があまりに失笑過ぎる件について

県内医療レベル 統一を  
金井忠男 県医師会会長
2011知事選  課題の「4年」
さいたま市で先月、交通事故に遭った車椅子の女性が、相次いで救急搬送を拒否される問題が起きた。新聞記事を目にした県医師会会長の金井忠男さん(67)はすぐ、関係する病院に連絡を入れた。どの病院も「外科医がいなかった」と答えたという。施設の数や質など、県内で最も医療が充実しているはずの県都で起きた。「この地域で起きるということは、どこでも起きる可能性がある」
1998年に7726人だった県内の医師数は、2008年には9954人に増加した。しかし、若手医師は過疎地を敬遠する。患者側の大病院志向もあり、本来、高度な医療を受けるべき患者に医師の手が回らないという現状もある。こうした複合的な要因が絡んだ結果が「医師不足」だ。
県は09年度以降、若手医師を県内に引き込むため、研修費の貸与制度を拡充するなどしてきたが、こうした行政側の取り組みが特効薬になるとは考えていない。その一方、他県では、医師や看護師らを確保するため、隣県などから人集めをするような動きも起きているという。「単なる奪い合いでは何の解決にもならない」と金井さんはクギを刺す。
東京に隣接する都市部と過疎地域の混在。埼玉の「日本の縮図」ぶりは医療界にも通じる。「県内の医療レベルは統一化されなければならない。日本のモデルを埼玉独自で作りたい」。定年を迎える団塊の世代、子育てを終えた女性の医師らを人材として活用できないか。県北部のように、他県の医療機関のほうが素早く搬送できる地域もある。「県は音頭取り、調整役を果たすべきだ」と考える。
金井さんは年に最低4~5回は、仕事やプライベートで横浜を訪ねる。駅や街を歩く若者が多く、景気が悪いというここ数年でも、新しいホテルやデパートが次々にできていることに驚かされる。30年暮らす埼玉との違いを痛感する。「全国から注目されるような大々的な観光地でなくていい。若者がさっと集まってくるような魅力が必要。医者も若者の集まりに参加する一人だから
(2011年7月27日 読売新聞)

ええと、この県医師会長さん、非常に正しいところと、非常に残念な混在しててどう突っ込んだものやら(笑
とりあえず分類しましょう

<正論>
・医療スタッフの共食いは問題の解決にならない
・魅力ある町じゃないと医師は来ない

これは、もう、残念なことに厳然たる事実であり、それ以外のなにものでもありません
比較対象が横浜なのはよくわかりませんがね…
だからといって、 ここまで堂々とハニートラップかましにこられるともう笑ってやり過ごすしかありませんがw(http://www.shinshu-liveon.jp/www/topics/node_191345


<意味不明>
・埼玉は日本の縮図

いや、純粋に意味わかんないです
東京都中心部と地方都市と僻地がそれぞれ違いすぎて、縮図なんて存在しえないと思いますがね?

まぁ、ここまではただの話の枕です
本命はこれから


<間違い>
・応需不能が県庁所在地で起きたから埼玉県全土で起こりうる
・圏内の医療レベルは統一されてなければならない


まず、応需不能(マスゴミ的「たらい回し」)が起きるのは、基本的に医療機関が潤沢な都市部もしくは都市部に丸投げしようとする近郊に限られます
僻地なんて、「たらいを回す相手」がいませんからね?
むしろ、医療は東京に丸投げしている印象があった埼玉県に、回せる医療機関が複数あることを誇るところかも知れませんよ?

さて、ではなぜ医療機関が比較的潤沢な都市部で応需不能が起きるか?
それは、医療スタッフを各医療機関に分散させてしまったために、各個撃破に持ち込まれているからです

あー、私が今何言ったかわからない人は、戦略シミュレーションゲームを自力でクリアできるようになるまで医師不足の議論には加わっちゃいけません

拠点分散→戦力分散→防衛力低下→各個撃破→全滅

の基礎がわからないで医師不足の話をするのは、1+1=2を知らないで相対性理論を解こうとするようなものです
スタッフも設備も予算も限られた現実世界において応需不能を防ぐには


医療スタッフ集約化→医療機関集約化→調整された医療格差


しかあり得ません
そういうことを無視して医療レベルを統一するというのは、医療レベルを全国最低ランクにそろえる結果にしかなり得ません

…と言うことをわからない人が県医師会長という時点で、歴代の医師会と医学教育の罪深さが垣間見えた気がします

2011年7月24日日曜日

笛吹けども研修制度踊らず

新研修制度が始まって5年以上経ちますが、また痛ましい事件が起きました

2011/7/23 土曜日
研修医死亡で遺族 労災を申請/弘前
弘前市立病院勤務の研修医呂永富さん=当時28歳=が昨年11月に急性循環不全のため亡くなったのは、長時間労働などが原因として、遺族が22日、弘前労働基準監督署に労災を申請した。代理人弁護士によると、呂医師が亡くなる前の1カ月の時間外労働が140時間を超えるなど、長期間にわたり過重業務が継続していたとした。一方、市立病院は時間外労働は最大でも60時間程度との認識を示し「指導医の指示の下で業務を行っており、過重な負担はなかった」としている。
呂医師は中国出身で2004年に弘前大学医学部に入学。10年3月に卒業し、同年4月から市立病院で研修医として勤務していた。昨年11月29日に呂医師が出勤しなかったことから病院の連絡を受けて警察が確認し、自宅で倒れている呂医師を発見。解剖の結果、前日に死亡していたことが分かった。呂医師に特別な既往歴などはなかった。
22日は群馬県内に住む呂医師の母親(62)と姉(33)が同監督署に労災を申請。記者会見した。
代理人弁護士によると、出勤簿や家族からの聞き取りなどから確認した呂医師の時間外労働時間数は死亡前1カ月間で142時間43分。死亡前8カ月間の平均でも136時間余りと100時間を大きく超えるとした。また死亡前1カ月の休日が2日だけだったとし、深夜の呼び出しなど勤務時間も不規則だったとした。
呂医師の姉は「電話で連絡を取っていたが、とにかく忙しいと話していた」と話し、呂医師が眠れないなどうつ病気味な話もしていたという。代理人の川人博弁護士は「背景には青森県をはじめとする東北地方における根強い医師不足の問題がある。日本が多くの留学生を受け入れ、医師として安心して働いてもらうためには現在の医療状況の早急な改善が求められる」と述べた。
一方、市立病院は「研修中は指導医の指示の下で業務を行っており、過重な負担はなかったと考える。労働基準監督署から照会などがあれば、適切に対応したい」とコメントした。取材に対し、同病院では病院として把握している時間外労働は多い時でも月60時間程度で、指導医について研修を行うため、精神的な負担も一般の医師に比べ、重くはなかったとの認識を示した。また入院患者を受け持っているため、休日も患者の様子を見ることはあるが、長時間にわたり、勤務をするような態勢ではなかったとした。

弘前市立病院の中国人研修医死亡:母親ら、労災申請 「業務で肉体的負担」 
/青森

 弘前市立病院で研修医として勤務していた中国人男性の呂永富さん(当時28歳)が急性循環不全で昨年11月下旬に死亡したことを受け、母親(62)と姉(33)が22日、弘前労働基準監督署に遺族補償年金と葬祭費用の支給を求めて労災申請を行った。
 この日会見した母親らによると、呂さんは02年2月に中国遼寧省から来日。前橋市の日本語学校に通った後、04年4月に弘前大医学部に入学した。10年3月に卒業、翌4月から弘前市立病院で研修医として勤務していた。
 代理人によると、呂さんは毎日午前8時過ぎに仕事を始め、帰宅時間は早くても午後8時半以降で、手術が長引けば深夜0時を過ぎることもあった。土日出勤も多く、17日間連続で勤務したり、休みが月に1日だけの時もあったという。毎月の時間外労働時間は約99~約177時間。宿直勤務は月2~4回していた。10年4月の健康診断では、問題はなかったという。
 労基署に提出した代理人意見書では「非常に不規則な勤務を繰り返し、業務による肉体的負担が大きかった」としている。
 母親は「元気で活発だった息子が急に死んだことはとても悲しい。生きていく力がわかない」と述べた。
 市立病院は「研修中は指導医の指示の下で業務を行っており、過重な負担はなかったものと考えております」とのコメントを出した。【吉田勝】




私の労働時間は、友人との比較では恐らく研修医としては中に位置すると思われますが、それでも労働時間はおおむね月300時間程度になっている計算です
まぁ、2007年の調査では研修医の時間外労働は73時間ということになっているので、実は多い方かも知れませんが(研修医の時間外労働がそんな少ないわけないと思いますがね…)

法定の労働時間は1日8時間×平日で週40時間で、月あたり160時間強になります
つまり、私は月140時間程度の時間外労働をしていることになるので、この亡くなられた研修医と私は似たような労働環境になるのでしょう(年齢まで似ているから他人事じゃない…)

弘前市立病院は時間外労働は月最大60時間と主張しているようですが、それはつまり、平日は9時-5時(pm)プラス週1回の当直しか病院にいないということになっているのでしょうね
この病院、あくまで逃げ切るつもりのようですが、そういう態度がどういうことを招くかまで頭回ってないのでしょうか?
紙の記録はいくらでもごまかせても、病院が電カルでも導入していれば、ログ記録で一発ですよ?




実際、私も週40時間しか病院にいないことになってますしねw
タイムカードは研修部が医師負担軽減のため、自動で押してくれてるようですw
ルクセルバッジがひっかかって放射線被曝調査された際、調査書に「土日祝日には放射線労働記録を書かないこと」と書類に念押しされてたときは思わず爆笑しましたがwww
夏休み以外の休日なんて、年に何日あったっけ? 





…という類の話をすると、なぜか医師家族以外で最も医師の日常をみているであろう患者やその家族、コメディカルやナースからすら意外な顔されるのですが、医師の生態をちょっと考えれば、中核病院や大学病院の医師ならこれくらいはあっさりいってしまうことは明白です

勤務時間を以下のように仮定します

平日   8~20時
土日祝  9~12時
当直     週1回

まだ「温い」様に思う医師も多いでしょうが、
これでも、週の労働時間は12×5+3×2+12=78時間で、週38時間の時間外となります
月にすれば、時間外は150~160時間行くのは納得頂けるでしょう

アメリカのレジデントの労働時間の上限がこれくらいです


ちなみに、過労死ラインは時間外労働月80時間です

それと、業界では変な慣習や主張がまかり通ってますが、労働時間とは時間的・空間的拘束性が発生している時間をさします
つまり、寝当直やオンコールも労働時間です(実際、欧米ではオンコールも当直として扱われる)


現行の研修制度は、あまりに多くの人の思惑が入り込みすぎて本来の趣旨が誰にもわからなくなってしまいましたが、
そもそもは、2000年頃に相次いだ若手医師の過労死に対する、労働環境改善が始まりだったはずです

確かに以前に比べれば、研修医の労働時間も賃金も社会的地位も向上したのは間違いありません
しかし、それは人間以下だったのが、一応人類に格上げされたに過ぎません

前回のブログにも書いたように、今また研修制度を奴隷制度としようとする流れが復活していますが、我ら若手医師はこの流れに断固Noを唱える必要があります

問題の本質は、医療制度の不備と医師不足です
この弁護士が間違っているのか、記者の編集能力なのか知りませんが、まず医師不足は東北に限りません
そして、この研修医は血統的には純血の中国人かも知れませんが、日本の医学部に入学し、日本の国家試験に合格し、日本の研修制度を受けていました。中国人留学生ではなく、間違いなく日本人として扱われるべきです
中国人だから特殊なケースとして事態を矮小化させてはいけません


ツケを若手に回して目先をごまかして、どこに未来があるのでしょうか?
こんなことを21世紀になっていつまでも続けていれば、日本もドイツのように医学部が定員割れする日もそう遠くないでしょう

2011年7月6日水曜日

医師不足の定義

また厚労省がよくわからんアンケートをやったようで 

 


医師不足地域、25%が拒否 勤務「交代いれば」半数 臨床研修で調査
2011年7月5日 提供:共同通信社
 
 医学部卒業後の「臨床研修制度」を終えた医師の65・4%が、医師不足地域での勤務について「条件が合えば従事したい」と答えた一方、25・5%は「条件にかかわらず希望しない」と考えていることが4日、厚生労働省の初の調査で分かった。8・1%は「既に医師不足地域で働いている」と答えた。
 調査は2008年4月~10年3月に臨床研修をした7512人が対象で、5250人(69・9%)が回答した。
 医師不足の地域で働く条件(複数回答)は「自分と交代できる医師がいる」が最多で55・7%、次いで「一定の期間に限定されている」(53・8%)、「給与がよい」(47・0%)の順。
 研修先の病院を選んだ理由(複数回答)は「研修プログラムが充実」(44・8%)、「多くの症例を経験できる」(40・5%)、「さまざまな診療科・部門でバランス良い経験を積める」(37・1%)だった。
 臨床研修制度は、免許を取った新人医師に2年間の研修を義務付ける仕組みで、2004年に始まった。以前は大学の医局を通じ地方の病院に派遣されることが多かったが、制度導入で研修先を選べるようになったため、大学病院の派遣機能が低下し、地方での医師不足の一因になったとされる。
 厚労省は調査結果も踏まえて現行制度を見直し、2015年度から新制度の運用を始める予定。


このアンケート、1学年しかとってなかったり、中身からして、すでに突っ込みどころ満載なんですよね…


そもそも、みんなの思い浮かべる「医師不足地域」って、実はみんなバラバラなんですよね…
そこの定義付けをちゃんとしないで話をするのは、神父とラビと神主を集めて神について議論させるようなものです 

その一番わかりやすい例が、医師不足地域で働いている自覚があるのが8.1%だけってことですね
この国に医師充足地域が92%もあるわけがない(笑



 OECD基準や、労働時間基準でいえば、問答無用に東京だろうが医師不足地域です
むしろ、専門性が高い故に交代医師がいない比較的都市部の大学病院よりも、患者不足地域の田舎の方が労働時間守れてる節もありますがね(時間外の中等症以上は全部丸投げしてくるから…)


現在の労働時間を受け入れるにしても、何かあったときに自分が休むことができるかどうかというのは重要なファクターです
ですが、その理屈でいうなら、 交代できる医師がいる地域は、医師不足地域ではなくなってしまいます

どうにもこうにも、このアンケート、選択枝が矛盾している典型例の気がします
これをつくった人は、なにもわかってない人か、全部わかった上でわざとやってるかでしょう 
どちらにせよ、最初に結論が決まっていて、その結論に向かうように設定されたアンケートに思えてきます…


よく忘れられがちですが、職場の立地というのは生活の場でもあります 
先日、大都市の研修医と話す機会がありました
大学に入るまではだいたい私と同じような環境で暮らしてた人たちなのですが、
私たちの日常(地方医大の立地や生活スタイル)を話すだけでみんなどん引きでしたね(笑
生粋のシティボーイに、三十路近くになってからいきなりド田舎で暮らせとか言ったって無理にもほどがありますが?