2011年5月29日日曜日

誰が小児のガーディアンたり得るか

臓器移植、ことに虐待のスクリーニングが重要である小児の脳死移植においては、法律以前に周辺組織のネットワーク作りが重要であることは以前に書きました。

しかし、その事実は霞ヶ関からすっぱり切り捨てられており、  医療機関の問題としています 。
ですが、たかが一医療機関にできることなど限られており、私のいる大学も、虐待防止委員会が現実的なレベルに達しておらず、仮に希望者が出ても、臓器提供は不可能な状態です

法改正から11ヶ月経つにもかかわらず、まだ2011/4/12の1例しか行われていないことが、この問題の深刻さを物語っています
そんな中、この一週間で急に動きがありました

正直に言えば、小児提供の一例目が出たことで雪崩を打ったように続出するかと思っていましたが、そんなことはなく、まるであの提供が例外であったかのようです
そして、研究班は現状では「可能な限り小児からの臓器提供は行わない」としか解釈できない超安全策を提示しました
1例目の後に、これだけ「死因が誰から見ても明らかであること」が強調されると、何か裏があったのではないかと勘ぐりたくもなりますが…

脳死移植:新マニュアル作成 虐待の判断、厳格化
改正臓器移植法が昨年7月に全面施行されたのを受け、厚生労働省研究班(研究代表者、有賀徹・昭和大教授)は、脳死判定と臓器移植に関わる新たなマニュアルを作成した。改正法の運用指針(ガイドライン)では虐待を受けていた18歳未満からの臓器提供ができない。新マニュアルでは医療機関に対し、臓器提供に関係なく全ての重症例について虐待の有無を判断するほか、担当医が臓器提供について説明する前に院内の虐待防止委員会の助言を得るなど、虐待例の紛れこみを防ぐ厳格な体制作りを求めた。
運用指針では、虐待を受けた小児からの臓器提供を防ぐため、医療機関に虐待防止委員会の設置と虐待の有無をチェックするマニュアルの整備、児童相談所などとの連携を求めているが、具体的な虐待の判別方法は示されていなかった。
今回作成された新マニュアルでは、患者が虐待を受けていないと判断できるのは、第三者の目撃のある家庭外事故で傷に不審な点がない▽乗り物に乗車中の交通事故▽誤って物を飲み込んだことによる窒息事故で第三者の目撃がある▽患者の病気が明確で不審な点がない--などの場合と例示。日常的に虐待の有無を判断する体制を整えた施設のみ小児臓器提供の実施を容認する姿勢を明確にした。
【藤野基文】
毎日新聞 2011年5月27日 2時30分




小児からの臓器提供推進派からは生温いという声が聞こえてきそうですが、実際に小児の三次病院にいる身としては、ギリギリの妥協点だと思います

そもそも、虐待発見の本務は医療機関ではありません
医療機関で発見される時点で、関係機関の敗北です
児童相談所がその本分を発揮しているとは言い難い状況ではどうしようもありません

そんな中で、児童相談所にとうとう「強権」が与えられました

虐待防止へ親権2年停止可能に 民法改正案が成立
2011年5月27日13時33分

 児童虐待を防止するため、親権を最長で2年間停止できる新制度を柱とした民法と児童福祉法の改正案が27日、参院本会議で全会一致で可決され、成立した。親権を制限するには親子関係を断つしかなかった現行制度を変更し、虐待する親から子を引き離しやすくするのがねらい。来年4月から施行される見通し。 
 現行の民法には、20歳未満の子の親権を親から奪う「親権喪失」の制度がある。ただ、期限の定めがないため、虐待被害の対応にあたる児童相談所(児相)などが親子関係の断絶につながりかねないことを懸念して申し立てをためらうケースが多く、虐待防止の有効な手段になっていないと指摘されてきた。 
 改正法では「親権の行使が困難または不適当で、子の利益を害する場合」に、2年以内の範囲で親権を停止できるようにする。また、親権喪失が認められる場合も「虐待または悪意の遺棄がある」「子の利益を著しく害する」などの条件を明確にした。 
 これまで親権喪失の宣告を家裁に請求できるのは子の親族か検察官、児相所長だけだったが、改正法では範囲を拡大し、虐待された本人や未成年後見人でも親権の喪失や停止を請求できるようにした。家裁が審判を行い、親権停止の場合は子の身体や生活状況などを考慮して期間を定める。 
 親権の内容も修正された。監護や教育は「子の利益のため」と明記。必要な範囲で子を「懲戒」できるとしていた懲戒権の条文は、「しつけを口実にした虐待につながる」との指摘があったことを受けて、「監護および教育に必要な範囲内で」と改められた。 
 さらに、親がいない子の世話をする未成年後見人については、「個人で1人だけ」との規定を削除。担い手不足への対応や施設退所後の子のケアを考え、複数の個人や法人でも選任できるようにした。 
 緊急時に素早い対応ができるよう、虐待された児童が入所する児童養護施設などの施設長の権限も強化した。施設長が子どもの福祉のために必要な措置を取る場合、「親が不当に妨げてはならない」と明記され、子の生命や安全を守るため、緊急時には親の意に反しても対応できるようになった。児相の所長にも、同様の権限が与えられた。(田村剛) 
     ◇
 〈親権〉 未成年の子を育てるために親が持つ権利と義務の総称で、民法に規定されている。子を保護監督して教育する監護教育権や、しつけをする懲戒権、住む場所を決める居所指定権や財産管理権などが含まれる。現行民法では、親権の乱用があるときに家庭裁判所が親権の喪失を宣告できる。親権者がいなくなったときは、保護監督や財産管理をする未成年後見人が選任される。

一言で言ってしまえば、来年4月からは児相は言い逃れができなくなると言うことです
やっと、本務に見合った権限が与えられたというところですが、後はそれを末端の職員が高い意識を持って実行できるかです

では、児相が権力を手にしたところで、医療機関との連携体制はどうなってるかというと…


自治体9割超対応未定 子どもの脳死移植 児相への虐待照会 
5月8日(日)
子どもからの脳死臓器移植の際、虐待の有無の確認を求められる可能性が高い児童相談所(児相)の対応方針を決めているのは、児相を運営する都道府県と政令指定都市など計69自治体のうち、長野県を含む5県・1市にとどまることが7日、各自治体への取材で分かった。4月に国内で初めて15歳未満の少年から脳死臓器移植が行われ、今後増える可能性もあるが、実施に欠かせない虐待情報の提供について9割を超す自治体が是非を判断しかねている実態が浮かんだ。
昨年7月施行の改正臓器移植法は、虐待の疑いのある18歳未満からの臓器提供を禁止。同法のガイドラインでは、臓器移植を行う医療機関に脳死になった子どもが虐待を受けていなかったかどうかの確認を義務付け、厚生労働省のマニュアルは児相への照会をその方法として挙げている。 だが、東京、大阪など42都道府県と政令指定都市など21市は、医療機関から確認を求められた際にどのように対応するか決めていないとする。
福島県は「個人情報保護条例上、児相外部への虐待情報の提供は難しい。ただ、移植を行う病院にとって児相の情報も重要で、移植医療にどう対応するか検討中」と、結論を出していない。愛知県は「移植医療のためとはいえ、判断がつかない」としている。
これに対し、対応方針を決めている6自治体のうち、長野県は親権者の同意がなければ虐待の有無の照会には応じない。虐待情報の提供は、県個人情報保護条例が禁じる「情報の目的外使用」に当たると判断した。福岡県も同様の対応で、親権者が同意しない場合は虐待の疑いがあると判断する方が、より厳密に臓器摘出の対象から虐待疑いの子どもを除外できる-とする。
一方、新潟、秋田、埼玉3県と仙台市は親権者の同意がなくても虐待情報を提供する。移植医療に必要な情報の提供は「公益上、必要な理由がある」(新潟県)などとしている。
厚労省臓器移植対策室は「情報提供の体制整備が急務だが、国が全国統一の方針を打ち出すのは難しい」との立場。自治体側からは「移植医療への対応が自治体ごとに異なるのはおかしい。法に基づいた医療であり、国が統一の仕組みを作るべきだ」(茨城県)との声が出ている。

要するに、
臓器提供を前提にしてすら、虐待情報を医療機関に提供するのは新潟県、秋田県、埼玉県、仙台市のみだということです
この体制下で医療機関が虐待の最終チェックを行うのは不可能です
 
また、官僚がまたワケのわからん責任放棄発言をされていますが、こんな状況で、
日常的に虐待の有無を判断する体制を整えた施設なるものがこの国にいくつあるのでしょうか
厚労省内部で行ってることが矛盾しているように思います、



省庁連携ができず、  その最終責任を医療機関にしている限り、いくら法改正しようが 小児からの臓器提供が増えることはないでしょうし、するべきではありません
子どもの権利を絶対遵守するならば、結論は、よけいなメスを入れない以外にはないのですから

2011年5月22日日曜日

医療費は誰が払うべきか

不思議と医療ニュースや医療系ブログではほとんど取り上げられていないのですが、重大事項が霞ヶ関で動いています



医療費:定額負担構想 税断念し苦肉の策 給付抑制なく、財政再建派に不満

 患者から別途100円程度の徴収を--。そんな厚生労働省の「定額負担」構想は、難病患者らの負担軽減とセットになっている。東日本大震災の影響で強まる財政制約の下、弱者に優しい医療を実現し、「民主党らしさ」を示すための苦肉の策だ。ただ、同じ医療制度の中でカネをやりくりする案だけに、財政再建派が迫る給付削減には結びつかない。
 「政権交代の果実」を示すのと同時に、「福祉の党」を掲げる公明党に秋波を送りたい民主党政権にとり、医療費の自己負担に上限を設けている高額療養費制度の拡充は格好の材料。化学療法の発達で、がん患者らは日常生活を送れるようになった半面、治療が高額・長期化し、医療費がかさむようになっている。
 このため厚労省は、税と社会保障一体改革の議論が始まった当初から、制度の拡充を目指してきた。震災前、数千億円かかる財源は消費税増税で賄う意向だった。
 ところが、震災後は空気が変わった。逆に給付抑制を迫られ、仕方なくひねり出したのが自前で財源を用意できる1人100円程度の定額負担だった。厚労省が今回の一体改革で強調している「支え合い」の理念にも合致すると踏んだ。
 それでも、財務省や一体改革集中検討会議の財政再建派委員には、生ぬるく映る。一部委員からは「保険はビッグリスクに備えるものだ」と、保険免責制度の導入を求める声も出ている。
 保険免責は医療費のうち1000円程度の一定額までは患者負担とし、保険適用はそれを超える部分にとどめる仕組みだ。重病に適用するのが保険で、風邪などの軽い病気には使わないという考えに基づく。数兆円の医療費削減が見込めるものの、厚労省や医療関係者には「医療が必要な人まで通院しなくなる」と抵抗感が強い。
 政府内に医療費抑制ムードが強まる中、日本医師会の原中勝征会長は19日夜の検討会議直前、厚労省に細川律夫厚労相を訪ね、来年度の診療・介護報酬の同時改定見送りを要請した。「震災復興に全身全霊をささげるべきだ」。そう訴えた原中氏の腹の内を、厚労省幹部は「震災の影響で報酬が引き下げになることを嫌った」と読む。しかし、当の細川氏は最後まで明言を避けた。【鈴木直】
毎日新聞 2011年5月20日 東京朝刊

外来患者が重病患者を支えるとは、
大した「支え合い」ですな
「共倒れ」の間違いじゃないか? 
呆れてモノも言えん

結論から言うと、厚労省案も財務省案も「あり得ない」の一言です
ただし、「あり得ない」の意味はまったく異なります

まず厚労省案ですが、これは受益者負担でもなければ、「自分の不測の事態に備える」という保険ではありません
なによりも、健常人が一銭も払わないという時点で福祉ではなく、立場の弱い人間にさらなる負担を強いているだけです
いったいどの様な名前で徴収する気なのか、是非とも聞いてみたいモノです

一方で財務省案も論外です
まず 「保険はビッグリスクに備えるものだ」という彼らの前提条件ですが、そもそもこれは真でしょうか?
安ければ、自動車保険や生命保険は支払われませんか?

また、軽症患者の受診は医療者の過負荷を招いている一方で、重症化を防いでいるのも事実です
行きすぎた軽傷者の受診抑制は重症患者を激増させることは海外で実証されています
結果として、重症救急患者と医療費の増加を招く可能性が大で本末転倒になるでしょう

そもそもが、震災で医療費増が先送りになるのは致し方ないとしても、患者負担を増大させるというのはどういう理屈でしょうか?
火事場泥棒以外の何者にも思えません


どっちにしても、システム変更とクレーム対応で、収入が一銭も増えないのに苦労する羽目になるのは末端の医療機関です
閉院する診療所は一つ二つではきかないように思います

2011年5月15日日曜日

東日本大震災 No.7

久しぶりの大震災ネタですが、やっぱり厚労省が無能っぷりを発揮し始めました

被災3県の全仮設住宅群に診療所 厚労省
 厚生労働省は8日、東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島の3県に建設する仮設住宅群すべてに原則、仮設の診療所を整備する方針を固めた。診療に当たる医師や看護師らも被災地だけでは足りないことから、日本医師会などに中・長期の派遣を要請。常時、千人程度の応援を送り込む。
 震災で被災地の地域医療は大きな被害を受けた。もともと医療過疎地だっただけに再建には数年以上かかるとみられ、仮設診療所での医療支援で「空白を埋める」(厚労省幹部)のが狙いだ。
 避難生活の長期化で、避難所では体調を崩す高齢者が増加、深夜に肺炎などで救急搬送される例も少なくない。仮設診療所では風邪から高血圧症の治療など地域の診療所で受けられるような初期医療を提供、感染症予防にも当たる計画だ。
 阪神大震災の際も十数カ所で仮設診療所が設けられたが、地域医療が徐々に回復したため、医療支援は医師や保健師の巡回が中心だった。
 厚労省では、近くに病院や診療所があるケース以外は、仮設住宅群に診療所を設置。近所に診療所があっても大規模な仮設住宅群には診療所を設け、すべての入居者が診療を受けられるようにする。
 厚労省は第1次補正予算で被災地への仮設診療所約30カ所の建設費として約10億円を計上したが、避難所周辺への設置が中心で、仮設住宅への本格的な整備は第2次補正予算からになる見通し。
 被災3県には5月2日現在で日本医師会の災害医療チーム(JMAT)や日本赤十字社の応援医師、看護師、保健師ら約1100人が展開。厚労省では「今後数年は現在の応援人員ぐらいは必要」としている。
※仮設診療所
 大規模災害により地域の医療機関が被災した際、医師や看護師らが常駐、住民に初期医療を提供する施設。プレハブ造りが主流だが、組み立て式のものもある。阪神大震災時にも仮設住宅に併設された。東日本大震災で厚生労働省が計画しているのは、エックス線などの検査室なども備えた本格的なもので、1カ所につき3千万~4千万円程度の費用が必要となる。
 2011/05/08 19:03 【共同通信】

いうまでもなくネットでは批難にさらされてます
当たり前なことですが、亜急性期と同等の医療者を数年もボランティア派遣する余裕なんてどこにもないからです
ウチの病院では今月に入ってから派遣してないようです
まぁ、O-111の被災地域だからかも知れませんが

これに対して、阪神大震災で仮設診療所を経営していた方から突っ込みが入りました


2011. 5. 10
対応する仮設住宅が1000戸を切ると赤字に患者が徐々に減る仮設診療所には十分な支援を
伊佐秀夫(クリニック希望〔神戸市西区〕理事長)
 
 私は15年前の阪神・淡路大震災の際、1700戸ほどの規模の西神第一、第七仮設住宅で仮設診療所を経営していました。仮設診療所は当初、仮設住宅で2年間をめどに診療所を運営するとされ、診療所用地のほか900万円の予算が用意されました。
 仮設診療所の話が持ち上がった際、私は神戸市の病院で循環器内科の勤務医として働いていました。当初、厚生労働省は、震災で診療所を失った医師による仮設診療所の開設を期待していたようです。ですが、条件にうまみがなかったためか、手が挙がらなかったため、「やる人がいないならばやろう」と私が“立候補”したのです。もともと勤務医ですし、困っている人がいるのならばその期間だけでも診療所を運営し、また勤務医に戻ればいいじゃないかという気持ちでした。
 先でも触れたように、開設に際しては国から900万円の補助金がありました。ただし、900万円という額は、決して高額ではありません。建物を整備すると、残りは300万円程度でした。仮設の診療所とはいえ、そこから各種の検査機器のほか、キャッシャーやレセコンもそろえる必要があります。
 また、1700戸の仮設住宅があれば経営は成立しますが、仮設住宅からは徐々に人はいなくなります。最初は1日30人から50人程度の外来患者がいたでしょうか。ですが、開設から1年経った頃から患者は減り始めました。1000戸を切ったあたりで経営には赤字になりましたが、だからといって撤退できるものではありません。被災者の方に「見捨てられた」との印象を与えてはいけませんから、当初は「2年」との話だったものの、実際には3年半運営していました。


もし、厚労省が阪神大震災と同じ思考回路でいるんだったら、なおのこと手が上がることはないでしょう
っていうか、 
仮設診療所って国立じゃなくて私立だったんですね?!


今回の仮説住宅群の規模と数が調べてもよくわからないのですが、避難所周辺だけですでに30予定していて、仮設住宅にはこれからって…あわせて3桁は行きそうですね
阪神大震災ですら20行ってなかったようですが、それより小規模で分散するのは間違いないでしょう
まして、阪神以上の設備が求められるのなら、黒字化は不可能かも知れません

数年間、いくつの診療所をボランティア運営しろと言うのでしょうか?
スタッフも設備も民間頼みで無茶な要求ばかりというのはいただけませんな



ところで、先日は看護の日(ナイチンゲールの生まれた日)でしたが、
ナイチンゲールって、奉仕の精神は尊重したものの、ボランティアに頼った支援は否定し、経済支援を最重要項目にあげていたことってご存じですか? 

焼肉酒家えびす集団食中毒事件 No.3

予想通り新規患者は増え続け、二次感染も二名出てきましたが、幸いにして重症者は増えることなく過ぎたようです
潜伏期間考えて、そろそろ頭打ちと考えていいでしょう
一方で、退院できてた重症者もほとんどいないのが現状ですが…

この一週間、家宅捜索や保健所の抜き打ち検査が繰り返し報道されましたね
今さらなにか出てくるとも思えないので業界への見せしめと見た方がいいでしょうか
今さらわかっても現場的には全く意味ない情報ですが、原因の肉が絞り込まれてきたようです






4月15日以降納入か 集団食中毒原因のユッケ用生肉
2011年05月10日 01:59
 大和屋商店で4月12日ごろから加工され、15日以降に「焼肉酒家えびす」の各店舗に納入された牛のもも肉が集団食中毒の原因となった可能性が高いことが9日、フーズ・フォーラスなどへの取材で分かった。
 大和屋商店が埼玉県内の二つの食肉市場から購入していたことも判明。食肉市場では全ての肉を加熱用として扱うため表面に菌が付くことはあるが、埼玉県などは「2施設での解体処理などに問題はなかった」としている。
 合同捜査本部は両社の関係者から事情を聴くなどし、腸管出血性大腸菌O111の汚染経路の特定を急ぐ。
 これまで死者や患者が出ているのは富山、福井、神奈川の6店舗で、利用日は4月17~26日。
 フーズ・フォーラスの内部資料や富山県によると、神奈川県の2店舗は15日以降、富山、福井両県の4店舗は16日以降に大和屋商店からユッケ用のもも肉が入荷。大和屋商店はさいたま市食肉中央卸売市場(さいたま市)と、川口食肉地方卸売市場(埼玉県川口市)から入荷し、12日ごろから加工したとみられる。
 納品状況や被害が複数県に及んでいることから、捜査関係者らは「汚染は店舗への納入前だった疑いが強く、店内の包丁など調理器具に付着することで感染が広がった可能性もある」との見方を示している。

■押収の生肉、死者利用直前に納入
 「焼肉酒家えびす」の集団食中毒事件で、県警などの合同捜査本部が押収した砺波店(砺波市となみ町)のユッケ用の生肉に、死亡した3人が同店を利用した4月22、23日の直前に納入された肉が含まれていることが9日、捜査関係者らへの取材で分かった。合同捜査本部は、食中毒の原因とされる肉と同じ日に加工された可能性があるとみて調べている。
 合同捜査本部は8日、業務上過失致死容疑で富山山室店(富山市公文名)を家宅捜索し、食中毒発生後に砺波店から山室店に移されていたユッケ用の肉を押収。捜査幹部によると、いずれも未開封で、ラベルには納入日を示す複数の日付が記されていたという。
 フーズ・フォーラスの内部資料によると、砺波店は、亡くなった3人が利用する直前では、4月16、19、21の各日にユッケ用肉を仕入れていた。押収した肉はいずれかの日に納入されたとみられる。これまでに食中毒の原因となった肉は見つかっておらず、合同捜査本部は、押収した肉が原因解明の手掛かりになるとみて、近く細菌検査を行う。

原因物質の絞り込みなんて、感染拡大防止のためにやるべきものですが、通常の刑事事件と同じ頭でしか動けない警察にちょっと頭痛
そして、えびすの行為は証拠隠滅をはかったと思われても仕方のないレベルですな  

今度は業者の呆れた実態について

同種肉、えびすのみ発症 集団食中毒、他店は加熱・表面削除か
2011年05月11日 02:00
 4人が死亡した焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」の集団食中毒事件で、食肉卸業者の大和屋商店(東京都板橋区、長田長治社長)が同チェーンに販売していた牛もも肉について、同じ種類の肉を複数の飲食店にも納入し、食中毒が発生したのは同チェーンだけだったことが10日、板橋区保健所への取材で分かった。他店は客に提供する際に肉を加熱していたか、食中毒を防ぐために表面を削り取る「トリミング」を行っていたとみられ、富山、福井、神奈川の3県警と警視庁の合同捜査本部は、両社の衛生管理の実態について調べている。
 板橋区保健所によると、同社は4月に同チェーンのほか、都内を中心に関東の複数の飲食店に同種の牛もも肉を納めていた。今回の食中毒発生を受け、各保健所が各店に聞き取り調査したところ、食中毒が発生したり、客から苦情が出ている店はなかった。板橋区内の店では肉を加熱して提供していたという。
 同チェーンを運営するフーズ・フォーラス(金沢市入江、勘坂康弘社長)は、納入された肉をユッケに使用。大和屋側から店舗でトリミングは必要ないとする趣旨のメールを受けたことを理由に「肉はトリミングされており、そのまま加工していいと認識していた」と説明している。
 また、大和屋商店が、大腸菌などが付着した恐れのある牛の内臓処理に使ったのと同じ包丁やまな板で、他の部位も加工していたことが判明した。O111など腸管出血性大腸菌は牛の腸内に生息しているとされ、合同捜査本部はこうした対応が生肉の汚染を招いた可能性もあるとみて、社長らを任意で事情聴取して調べている。
 ユッケに使われた牛もも肉に交雑種が含まれていた問題について、大和屋商店が板橋区保健所に「ラベルには『国産牛もも(交雑種)』と表示し販売していた」と説明していることも分かった。
大和屋商店は仕入れた和牛だけで同チェーン店からの注文量を賄えない場合、同業者から交雑種の肉を購入し対応していた。フーズ・フォーラスは「交雑種が入っていると知らなかった」としている。

これに対して、監視の方はどうなってたかですが、これもまた呆れた実態です


砺波店、開店以来検査なし 「えびす」食中毒
2011年05月11日 01:58
 県は10日、食中毒で死者3人が出た「焼肉酒家えびす砺波店」に、2009年1月の開店以来、一度も立ち入り検査できていないことを明らかにした。担当者が検査に行ったが、営業時間外で店内に入れなかったためという。
 県によると、立ち入り検査は食品衛生法に基づく。飲食店などを五つのグループに分け、年間の標準検査回数を設定し、焼き肉店は年2回を基準としている。
一定の時間内に特定の地区で抜き打ちで行うため、営業時間外の店は入れないこともあるという。
 砺波店はこれまで3回、担当の食品衛生監視員が訪れたが、「営業時間外で空振りだった」という。高岡駅南店と魚津店(魚津市吉島)は年1、2回検査している。

どちらも、言い訳のしようもありませんな
俺らの業界じゃ、モニターをサボって患者死んだら間違いなく裁判で負けますが

供給も販売も監視もどれもまともに機能してないとか、全員厳罰付きの法律で縛り上げる以外に再発予防策はないでしょう

2011年5月7日土曜日

焼肉酒家えびす集団食中毒事件 No.2

やっと家宅捜索が入ったと共に、他の焼き肉店への調査も始まったようです
しかし、この報道を見ているととんでもない違和感が次から次へと湧いてきます


焼き肉店強制捜査 
同業者「衛生徹底 契機に」
信頼回復望む声
 焼き肉チェーン「焼肉酒家えびす」の本社や店舗などに強制捜査が入った6日、同業者の焼き肉店からは、牛肉の衛生管理の難しさを打ち明ける声が上がり、ユッケなど生肉への不安を口にする消費者もいた。県も同日、焼き肉店などへの立ち入り指導を始めたが、今回の集団食中毒で危険性が指摘されたユッケは、焼き肉店の定番メニューだけに、経営者の心は「早く販売を再開したい」という本音と、業界全体の信頼回復を望む思いのはざまで揺れている。
 
 ■捜索
 県警の捜査員ら7人が午後3時頃、福井渕店(福井市渕)に到着し、慌ただしい雰囲気の中、ダンボールを手に険しい表情で店舗内に入った。店の周囲にはテープで規制線が張り巡らされ、窓はブラインドが下りたまま。通行人が時折、不安げに様子をうかがっていた。
 今後の捜査のポイントは、食中毒発生の危険性をどの時点で予見でき、客の元へ肉が運ばれるまで、どの段階で病原性大腸菌の感染を防ぐ措置を講じる必要があったかだ。県警捜査本部は菌が付着・増殖した経緯の解明に取り組む。

 ■県の対応
 県の立ち入り指導は、県内6か所の県健康福祉センター(保健所)が担当。生肉などを提供している約380軒の焼き肉店が対象で、初日の6日は57店に立ち入った。福井市大宮の焼き肉店「お肉のたかしま凸凹屋」には、福井健康福祉センターの職員2人が訪れ、高島清次郎社長(41)に、生肉料理を出さないよう求めた。
 高島社長は集団食中毒事件について「(業界にとって)迷惑といえば迷惑だが、衛生対策をきっちり行う機会になるのでは」と指摘した。国が検討している強制力のある基準作りについては、「永遠にユッケを出せなくなるのかどうか……。ただ、あいまいなものでは、数年後にはまた同じ問題が生じる。この際徹底すべきだ」と強調した。

 ■自粛と心配
 市内のある焼き肉店は4月29日から、生肉の販売を見合わせている。女性店長(53)は「ユッケや生レバーがないと伝えると帰ってしまう客も多く困っている。早く販売再開したいが……」と漏らした。4月末以降、ユッケを出していない同市内の焼き肉チェーン店の40歳代の男性店長は「衛生管理は徹底してきたが、それでも生だから危ない。(食中毒の問題も)ひとごととは思えず、正直怖い」と、生肉の難しさを吐露した。別の焼き肉店の男性店長(29)は「生肉の取り扱いに問題がある店は多いと思う」と話した。
 一方、生肉を食べるのを避けてきたというあわら市内の男性(62)は「生食は危ないのは当たり前。過去にこのような事例がなかったことの方がむしろ不思議だ」と、不信感をあらわにした。
  ◇
 6日午後5時現在、「焼肉酒家えびす」で食事をした人から県への相談は31件で、このうち医療機関を受診した人は12人。8人はすでに回復し、4人は回復傾向という。ユッケなどを食べて入院していた10歳代の女性について、県は同日、「えびす」での食事による食中毒と断定した。
(2011年5月7日 読売新聞)
 
複数店、細菌調べず生肉
衛生管理は店任せ 国の検査基準が形骸化
 焼き肉チェーン「焼き肉酒家えびす」の本社や店舗に6日、強制捜査が入り、厚生労働省も生肉の取り扱いについて新基準を設け、違反した場合には罰則を科す方向で動き出した。ただ、焼き肉業界では加熱用牛肉をユッケなど生食で提供することが慣例化しており、食中毒を引き起こしかねない細菌の検査など衛生管理についても個々の焼き肉店に委ねられているのが実態だ。今回の事件を契機に業界の慣習を改め、消費者が安心できる食材が提供されるようにできるか注目される。

 「焼肉酒家えびす」と同様に、細菌検査を長期間実施せず、生肉を提供している焼き肉店が複数あることが6日、読売新聞の取材でわかった。厚生労働省は、「生食用食肉」について、細菌検査を行うよう指導しているが、大半の店で加熱用牛肉をユッケなどとして提供することが慣例化しているため、衛生管理はすべて店任せ。安全を示す客観的なデータはなく、実態に合わない基準の見直しを求める声が高まりそうだ。

 「ウチは仕入れた肉の質がいい。細菌検査をやるくらいなら、自分の店でアルコール消毒をすればいい」
 金沢市内で複数店を展開する老舗焼き肉店の男性店長は、自信たっぷりに、細菌検査をしていないことを明かした。同店に肉を卸している業者も、細菌検査を行っていないが、店長は「ユッケ用の包丁、まな板を使い、周りの機材もアルコール噴射しているので大丈夫」と話す。
 今回の食中毒が発生するまでユッケを出していた同市内の個人焼き肉店主は、「食肉卸業者に『肉は大丈夫』と言われたので、検査の存在自体を知らなかった。コストがかかるので、店では検査できない」と打ち明けた。

 厚労省は、生肉を提供する店に対し、肉のサンプルをとって、大腸菌やサルモネラ菌の有無を調べる細菌検査を実施するよう基準を定めている。

 しかし、2008、09年度は、国内で「生食用」の牛肉は出荷されていなかったため、当時、国内の飲食店で提供された生の牛肉はほぼすべて、厚労省の基準では「加熱用」だった。厚労省はこうした肉に対し、実際に細菌検査が行われたかどうかは把握しておらず、基準そのものが形骸化している。

 「焼肉酒家えびす」の運営会社「フーズ・フォーラス」の勘坂康弘社長も2日の記者会見で、「肉に菌が付くことはないと思い(2年前に検査を)やめた」と述べた。
 一方、焼き肉レストラン大手「安楽亭」(本社・さいたま市)は「ユッケを提供するまでに、細菌検査を3回行っている」といい、焼き肉チェーン「七輪焼肉安安」(本社・横浜市)は「コストカットのために、細菌検査をしないのは、安心・安全の観点からはあり得ない」と言い切る。
 自社工場で検査を行う大手チェーンや、卸売業者の段階で検査を行っている例もあり、検査の頻度や方法は店の自主判断に任されているのが実態だ。
 1400店が加盟する全国焼肉協会(東京都)の中井考次事務局長は、「細菌検査はコストがかかり、肉の価格が上がるので、多くの店で毎回はやっていないはずだ。卸売業者に検査を義務付けるなど、厚労省が基準を定めるべきだ」と話している。
(2011年5月7日 読売新聞)
 


私がこの記事から感じた違和感は以下の通りです


1.生肉という存在自体が危険なのであり、調理時の衛生管理の問題ではない(さらにいえば、肉質と細菌汚染はなんの関係もない)
2.ユッケや生レバーを「人気メニュー」に育てたのは誰か
3.細菌検査を行えば安全なのか

では、それぞれについて考察してみましょう



1.生肉という存在自体が危険なのであり、調理時の衛生管理の問題ではない


前回も引用しましたが、生肉そのものが既に細菌に汚染されているものです
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/dl/110330-1a.pdf

調理時の衛生管理は、汚染の拡大防止であって、既に汚染されている肉を安全にするものではありません
いくら店が調理器具をアルコール消毒しようが、生肉による食中毒を0にすることはできません
全国焼肉協会の文書から引用させていただきましょう


http://www.yakiniku.or.jp/sei/img/2011/20110506.pdf
「レバ刺し」は残念ながらゼロリスクにはたどり着けない
「ユッケ」はお店の対応次第でゼロリスクに近づける

要は、どっちもゼロリスクではないと言うことです
そして、このことは他ならぬ全国焼肉協会が平成20年9月に認識していたのです
生肉は地雷であるとわかっているものを放置してレバ刺しやユッケをメニューとして存在させ続け、卸に責任を転嫁するような発言はいかがなものでしょうか?



2.ユッケや生レバーを「人気メニュー」に育てたのは誰か

これは言うまでもなく、飲食業界と、生食を危険なものであるという前提を無視したグルメ番組を垂れ流してきたメディアです
特に、えびすの場合は「おすすめメニュー」として思いっきり前面に出していたので言い訳は許しません
私の母はよく、自分の口に入れられない物を皿の上に載せるのは料理人として許されないといっていましたが、 関係者の方々はそういう意識を持ってメニューを提供しているのでしょうか?
どうにも私には、食事が「外食産業」となり、そこで働いている人たちが「自分たちがなにをしているのか」をわかっていない様に思えてなりません
板場に神棚を供えた先人の意識は、忘れてはいけないのではないでしょうか?



3.細菌検査を行えば安全なのか

さて、 では厚労省基準に則ってトリミングして細菌検査をすれば「安全な生肉」と証明されるのでしょうか?
結論から言ってムリです

感染症診療に携わっている人間には常識ですが、まず根本的な問題として、細菌検査というのは「陽性」であれば菌がいることを証明できますが、「陰性」というのは菌がいないことを証明するものではありません
検体というのは全体の一部であり、採取されていない部位に菌がいるかどうかなど絶対にわからないのです
先ほどの焼肉協会の言葉を借りるなら、細菌検査はゼロリスクに近づけるものではあるが、ゼロリスクを実現することはできないものなのです

「安全な生肉」を実現するのであれば、本気で本当の無菌の家畜を無菌の環境で育てて無菌の工場で精肉するしかないでしょう
実現できたところで、コストはとんでもないことになるので激安店やそこらの居酒屋に登場することはないでしょう  
(SPF豚を「無菌豚」と偽って生で出している店があるようですが、特定の菌がいない環境で育てているだけで決して無菌ではありません。さらに加工が無菌で行われているかは不明。故に生食はアウトhttp://www.j-spf.com/Q&A/Q&A.htm) 



今回の事件は、命が助かったとしても、元の健康な生活に戻れるかどうかはまた別というレベルの深刻さです 
これだけの事件が起きてもまだ生肉を売りたいというのはまったく理解に苦しみます 

2011年5月4日水曜日

焼肉酒家えびす集団食中毒事件

東日本大震災をずっと追ってきましたが、復興期に入り新情報が少ないことと、こちらの方が今は緊急性と重要性が高いと判断し、焼肉酒家えびす集団食中毒事件にシフトしたいと思います

…といいますか、率直に言って、震災とかFukushimaとかに頭を回せる状況にありません
はっきり言って、現場はメディアの数字に現れないところで戦場になっています


<時系列>

まず、現在までにわかっている情報を時系列に整理します
()の情報は後から発覚したものです

4月17日、(福井で死亡例と入院中の10代女性がえびすで食事)
4月20日、(神奈川の重症患者が食事) 
4月21日、(富山で亡くなった児童が砺波店で食事) 
      (福井で亡くなった児童が入院)
4月23日、(亡くなった40代女性が食事) 
4月24日、富山で亡くなった児童が嘔吐・下痢・血便で入院   
4月26日、(亡くなった40代女性が腹痛を発症) 
4月27日、富山県が集団食中毒を発表 
            患者数は6~17歳の5人 
            砺波店を営業停止処分
      福井でO-111によるHUSで児童が死亡 

4月27日時点では砺波店の食中毒しか把握されていませんでしたが、現場は伝え聞く患者情報から、砺波店だけでなく高岡店でも発生していると考え、大量発生に警戒しました。
また、この時はほとんど注目されていませんでしたが、福井の児童も経過から富山県の症例と似ており、北陸全土に渡る食中毒事件である可能性も考えられました。系列店から神奈川県にも飛び火する可能性も頭には入っていました。
県や警察からはろくな情報がなかったため、病院間の情報共有がはじまりました。
すると、すぐに富山県だけでなく金沢の中核病院にも搬送されていることがわかりました
この時点で、すでに富山県だけの問題ではないことが認識されていました

4月29日、富山県の児童が死亡

      全店の営業無期限自粛を発表
      東京都内の食肉販売業者から出荷された ユッケが疑われる  
      患者数は14人
4月30日、患者数は24人に増え、入院20名、内HUSが5名
5月 1日、27日に死亡した児童も、えびすで食事をしていたことが判明
5月 2日、17日にえびすでユッケを食べた10代女性が重症で入院していることが判明
      患者数56名(富山県内のみの数?) 
5月 3日、神奈川店で6人の食中毒が出ていたことを公表
      福井と富山の死亡例のO-111の遺伝子が一致
          業務上過失致死として富山県が捜査本部を設置 
            富山県内患者数累計58名(O-111 41名、HUS 22名) 
5月4日、40代女性死亡
      富山県、福井県合同捜査本部設置 
 
さて、なんでこんな経過表をつくったかといえば、計算しなければならない大事なことが2点あるからです

まず、死亡例の飲食日が4/17~23と1週間も分散しています
しかも少なくとも17日の福井のユッケと21日の富山のユッケはまったく同一の菌に汚染されていたわけです
同じユッケ(生肉)が1週間もストックされているものでしょうか?
流石にその可能性はあまり考えたくないのですが、神奈川県でも発症していることを考えると、卸の製造過程での汚染が可能性が高そうです
つまり、汚染は17日以降ずっと続いていた可能性が十分にあると言うことです

もう一つ大事なのは、現在公開されている最初の汚染日から全店営業自粛まで12日間あるということです
最後に汚染された食品を摂取した可能性があるのは28日です
腸管出血性大腸菌の潜伏期間は…なぜか資料ごとに差があるのですが、3~8日とします。長いと2週間くらいと言うのもあります。そこからHUSになるのにまた数日あり、最悪の脳症になるまでさらに2~3日あるようです
さて、この意味がわかりますね?
潜伏期間はまだ終わっていません。汚染期間後半の患者はこれから発症するかも知れません
さらに、不顕性感染者からの二次感染が起きる可能性も否定できません
来週末まで、まだ新規患者発生や重症化の起きる可能性は十分にあると言うことです


<情報戦>

さて、先に軽く述べましたが、保健所や警察から有力な情報がなかったため、当初医療機関は個別対応しており、各個撃破に持ち込まれかけていました

保健所の初動が適切だったかどうかは問題となりそうですが、
これまでの反応から砺波の保健所はよく対応していたように思いますが、それと比較すると他の市や他県は患者数が少ないためか、後手に回っている印象があります
神奈川は発覚しているだけで6人も出ている割にはまったく対応が目だっておらず、今後続々と患者が発覚する恐れがあります

しかし、これは保健所の機能上の限界という側面もあるでしょう
なにしろ、彼らの役割には医療情報をとりまとめるというのはないのですから
また、菌を検出しないと食中毒認定できないため、福井では営業停止処分にできななかったという冗談のような話もあります
正直に言えば、これは県の厚生部か厚労省の出番の様に思います
しかし、残念ながら双方とも何らかの動きを見せている様子はありません

さらに、今回機動力が全くないのが警察です
最初の時点で、業務上過失にあたるかわからないとか、広域のためどこの管轄になるのかわからんとかいう謎の混乱があったようですが…ほとんどクレクレ君のイメージです
捜査本部ができたのは昨日です。食中毒認定から1週間たっており、証拠なんて既に処分されているでしょう

広域食物汚染への初動体制の整備は今後の課題になりそうです



<医療体制>

一方、現場である医療機関では、治療法の確立や患者の大量発生に備えた情報ネットワークの作成が行われています
なにしろ、今回の重症者は
ICUで透析を回せる施設でなければ対応できまず、中核病院でも同時に対応できるのは2人前後です
患者数VS設備数の純粋な物量戦になっており、富山県と金沢の医療機関の連携だけでは対応できるかは、すでにギリギリの状態です
もちろん、医師の方もまったく余裕はありません

幸いにして太平洋側の大病院が協力を申し出てくれていますが、事態はそれだけ深刻と言うことです


<厚労省の対応> 

ところで、今回完璧に空気になっている厚労省ですが、彼らにも今回の事件の責任はあります
どっかの責任逃れ会見は責任者の責任放棄以外の何者でもなく論外ですが、 食肉業界と厚労省は共犯関係と言わざるをえません


生食用牛肉の出荷ゼロ=厚労省基準満たさず、罰則なし-飲食店、加熱用を転用
 焼き肉チェーン「焼き肉酒家えびす」の富山、福井両県の店舗で、生の牛肉を使ったユッケを食べた3人が死亡した集団食中毒に絡み、専用設備で肉の表面を削り取ることなどを求めている厚生労働省の「生食用食肉の衛生基準」を満たす生牛肉は、2008~09年度には一切出荷されていなかったことが4日、分かった。衛生基準に反しても罰則はないため、飲食店などは加熱用肉を独自に処理するなどして生で提供しているのが実情という。
 厚労省は1998年、腸管出血性大腸菌O(オー)157による食中毒が相次いだことを受け、生肉用のガイドラインを策定。腸管出血性大腸菌は肉の表面に付着していることから、食肉処理施設で温度を10度以下に保ち、表面を削り取る「トリミング」を行うことなどを求めた。
 同省が肉の種類ごとに実態調査を始めた08年度以降、基準に合致した食肉処理施設は11~12カ所あったが、出荷されたのは全て馬肉か馬レバーで、今回の食中毒の原因とみられているユッケに用いられる生牛肉はなかった。(2011/05/04-20:44)

問題は、これがどれだけ論外かなのですが、これもまた厚労省のHPにデータがありました
この表を見れば、厚労省は本来存在してはならない生食用の牛肉と鶏肉が存在しており、しかも高率に汚染されていたことを知っていたことは明らかです

http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/dl/110330-1a.pdf


医療現場は間違いなく全力を尽くしておりますが、残念ながら、これからも被害が増え続けることは避けられそうにありません
最低限、事後の粛正はきちんとやって頂きたいものですが、それにしても飲食業界は雪印集団食中毒事件をもう忘れてしまったのでしょうか?