2011年12月24日土曜日

診療報酬その後

診療報酬の争いですが、
「診療報酬本体」+1.379%「薬価・材料費」-1.375%=「診療報酬全体」+0.004%
というわけで、綱引きはど真ん中で決着したようです

この決着は、大局的な長期政策ではなく、民主党内部の政治的駆け引きという感じのようです


診療報酬プラス改定「最後は官房長官判断」- 安住財務相
 安住淳財務相は22日の閣議後の記者会見で、2012年度診療報酬改定の改定率が全体(ネット)で0.004%の引き上げで決着したことについて、「最後は(藤村修)官房長官にご判断いただいた。それはやむを得なかった部分もある」と述べた。

この官房長官ですが、まったく名を知らなかったので経歴をみたところ
2009年、ネクスト厚生労働大臣
2010年、菅第1次改造内閣で厚生労働副大臣(大臣は細川律夫)
というわけで、 野田グループではあるものの、立場的には野田内閣と民主党の中継役というところでしょうか
もしかしたらマニフェストの作成に関与していたかも知れません

で、この0.004%の評価ですが、


プラス改定「医療を守っていく姿勢示せた」- 小宮山厚労相
この政権として医療をしっかりと守っていくという姿勢は示せた」と述べた。一方、プラス改定となったことで国民負担が増加することについては、「国民の負担がどういう形でどこに使われて、それが今の医療の体系の維持にどう役立っているかを分かりやすく説明しないといけないが、安心してお産ができるようになったり、小児科医不足が解消したりすることに結び付くことが分かれば、納得していただけると思う」と強調した。

 日医原中会長、プラス改定は「95点」
 日本医師会は22日、緊急記者会見を開き、2012年度診療報酬改定の改定率が全体(ネット)で0.004%の引き上げで決着したことについて、医師の疲弊や地域医療の崩壊を食い止めるものと評価する見解を発表した。同会の原中勝征会長は、「(100点満点で)95点くらい」とプラス改定の実現に高い点数を付けた。
 日医の見解では、「医師の疲弊、産科医療・小児医療・救急医療など、地域医療の崩壊を少なからず食い止めるものと確信している」と診療報酬のプラス改定を評価。

0.004%アップ ネット上の声さまざま- 「財務省を押し返した」「横ばい」
 長妻昭・元厚労相は「今回の改定でもほんの少しプラスになり、医療立て直しの歩みを続けることができた」と評価。山井和則・元厚労政務官も「診療報酬は二回連続、政権交代のあと、ネットプラスとなり、マニフェストを実現できた」。
 厚労省の幹部は「数字の前の符号は大事なんです」と、小宮山洋子厚労相の成果を強調した。


なんつーか、自演乙wって感じです
日医も、原中氏も結局は政権べったりになって、とても専門家集団とは言えない有様です
これに対して、当たり前ですけど、世間の声は冷たいです


 ただ、一般の人たちの書き込みには、「そこまで小数点以下の改定率にするか。辛うじてプラスだけど、四捨五入すればプラマイゼロ?」「企業だとこんなの横ばいと言うんです」といった厳しい意見が目立つ。
 医療系業界誌のある記者は、「プラス改定ともとれれば、プラスマイナスゼロ改定ともとれ、長期収載品の引き下げ分を引けば実質はマイナス改定でもある。どうにでも解釈できる」とつぶやいた。


とまぁ、要は解釈次第でどうともとれる玉虫色の結果です

つーか、+0.004%っていくら増えるのよ?
医療費を40兆円(厚労相発表)として、0.004%っていくら?
ちょっと計算してみましょう
(4*10^13)×(4×10^-5)=16*10^8
16億しかねぇじゃん!


どうみても、横ばい以外のなにものでもないですね

これで「安心のお産」「小児科医不足対策」「地域医療崩壊阻止」ができると?
年末ジョークにしてはきついですねぇ


数字上の解釈はどうあれ、現場の現実はただ1つです
戦線が膠着状態であるならば、戦線維持という言い訳が立ちます
戦線が回復しつつあるならば、彼らが主張する通りでしょう
しかし、前回改訂で医療費を少々増やしたところで、状況は好転しましたか?しませんでしたね?
だって、自民党政権下では社会保障分野は毎年2200億円減ってましたから

この結論は、現在崩壊している戦線に援軍を送らないと言うことです

医療崩壊は、あと2年は続きますね

まぁ、2.3%引き下げを+-0にまで持ち込んだ長妻元厚労大臣には、お疲れ様でしたとは言っておきましょう
でも、ここで「まだ足りない」といえない当たりが、やはり派閥・官僚政治の限界なのでしょう

2011年12月18日日曜日

境界線上の診療報酬

昨今にしては珍しく、与党内でまったく意思統一が図れていない診療報酬のお話

まず、各陣営の現在の立場を明確にしましょう


1.厚労相
「本体切り込みはあり得ない」
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/36225.html
小宮山洋子厚生労働相は16日の閣議後の記者会見で、2012年度診療報酬改定をめぐり来週から始まる閣僚折衝に臨むスタンスについて、「(診療報酬の)本体を切り込むということはあり得ない」と述べ、本体マイナスを主張する財務省をけん制した。
  小宮山厚労相は、診療報酬への基本的な考え方について、「診療報酬は本体と薬価があるが、薬価は下がる。その辺の見合いとかある。政策目的がきちんと達成できるような方向で、厚労省として当然、主張していく。命にかかわることなので、考えは貫いて各方面に説明する」と語った。

2.財務省
診療報酬本体下げ方針「来週も変わらぬ」- 安住財務相、「ネットプラス論外」
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/36227.html
安住淳財務相は16日の閣議後の記者会見で、2012年度診療報酬改定での本体部分の改定率について、「さまざまな社会状況を勘案すれば、プラスにするのは難しい。その考えは来週になっても変わらない」と述べ、来週に予定している小宮山洋子厚生労働相との折衝でも引き下げを主張する方針を示唆した。診療報酬のネット(全体)でのプラス改定については、「論外」との認識を示した。
  安住財務相は、「経済界や労働組合、市町村、中小企業の意見を聞いているが、診療報酬を引き下げるべきだということを皆言っている。国民負担にも直結する」と指摘。さらに、「医療環境を改善するため、わが党もこの1、2年大変努力してきた。経営の改善が見られた病院も数多くある」と述べ、引き下げ方針の正当性を強調した。

3.民主党(座長=長妻昭衆院議員
診療報酬の改定率、「前回以上」を
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/36237.html
決議文は、▽診療報酬本体とネットで、10年度改定を下回らない報酬の引き上げ▽急性期の医療機関への継続的な対応と、在宅療養の充実を目指した中小病院、有床診療所などへの一層の対応▽医薬品産業の成長を阻む要因となる長期収載医薬品の過重な引き下げや、原価割れ問題への対応▽現状の介護報酬水準に加え、介護職員処遇改善交付金分(2%)以上の報酬引き上げ▽7区分に再編される介護報酬の新たな地域区分の見直しについては、現行報酬より引き下がる地域が発生しない対応-の5項目。
厚生労働省との折衝で財務省側は、12年度の診療報酬改定の改定率に関して、本体部分を1%程度、先発医薬品の薬価を10%程度それぞれ引き下げるよう求めており、決議文はこれをけん制したものだ。
梅村聡副座長によると、この日の会合に出席した36人の議員のうち、9割がプラス改定を目指す方向性に賛同したほか、薬価の大幅な引き下げに懸念を示す声も多かったという。
 09年に閣議決定された新成長戦略では、20年度までに医療・介護分野で280万人の新規雇用の創出を掲げているが、報酬の引き下げでは働き手を増やすことが困難なため、プラス改定を目指す方向で一致。野田佳彦首相(当時財務相)自身が党代表選前、「基本的にマイナス(改定)はない」と発言していることから、それを守るよう求める意見もあった。





さて、まず三者の立場ですが、これが少々面白いものとなっています


右派:民主党
左派:財務省
中道右派:厚労省

であり、党と厚労省の本来の位置が逆転しています
というわけで、これだけみると長期目標としては厚労相と民主党は一致しており、党と厚労省は診療報酬引き上げで一致しており、財務省が孤立しているようにも見えますが、発言内容を慎重に見ると、実は孤立しているのは民主党になっています



…と、その前に解説を少し挟みましょう
まず、「診療報酬」には狭義と広義があります

「狭義の診療報酬」はここで言われている「本体」、つまり医行為に対する診療報酬で
「広義の診療報酬」は「医行為+薬価」です


で、ここで本題に戻ります
民主党は「広義の診療報酬=医療費」upを要求していますが、
厚労相は「狭義の診療報酬」keepにしか言及しておらず、「広義の診療報酬」については沈黙によってdownを認めているのです
よって、厚労相と財務省=内閣は診療報酬downで一致していると言えます


実は財務相の発言は「平行線戦術」であり、議論をしていません(故に今回のブログのタイトルとなっていますw)
これは、時間切れによる没交渉を狙う交渉戦術です
…ええ、戦術です。断じて戦略ではありません
これは「議論を行わないこと=時間稼ぎが勝利条件」であるときにのみ使われる必勝戦術です
(ちなみに、今週それを双方意図的にやっているのが野田首相とイ・ミョンバク大統領だったりします)


また、厚労相が用いているのは「前提のすり替えによる誘導」です
狭義において相手と自分は一致しているようにみせて、実は広義においては対立関係であるわけです
要は、詐欺師の戦略です
この状況に陥ると議論はまず平行線となるため、平行戦術の前準備としても使えます
(また、終わらない議論がしばしば発生するのは、意図せずに「前提のすり替え」が行われていて、広義で一致しても狭義で対立していることに気づいていないということがほとんどです)

今回の最低なところは、自民党下の財務省ですら、医療費国亡論という仮説を用いて長期戦略として診療報酬削減を国是としたのに対し、現財務相は来週のことにしか言及せず、長期戦略を盲目にすることで診療報酬削減を目指していることです


これに対する正道は、議論のゴールを相手に要求し続けることで、長妻氏は正解です
ただし、この正道は決着をつけることを双方が求めている場合にしか有効ではありません
財務相と厚労相がやっている議論の拒否は、ディスカッションとしては負けない(ただし勝てない)戦術ではありますが、末期の自民党政権ですら診療報酬upを目指さざるを得ないくらいに疲弊した医療現場に対して、この時間稼ぎは敗北条件以外の何者でもありません
というか、野田内閣は福祉国家として敗北することを勝利条件にしている…としか考えようがありません


結局のところ、この診療報酬の議論は、実は内閣と民主党の対立が1つの形を伴って表面化しただけのモノと言えます
今回は、「官僚政治をぶっ壊す民主党」と「財務官僚主義の首相」の対立と言えるでしょう
最近、鳩山氏や小沢氏が野田首相叩きに急に躍起になっているのをみれば明白ですが、TPPを期に、内閣の親中対米から親米対中路線への切り替えは表面化しました
診療報酬についても、まだ場外戦が発生する可能性があります


ただ、現場の意見として1つ言わせてもらうなら、「医療の充実」を行うのであれば民主党方針しかありえません
医療費というのは軍事費と同じで、相対的に同じレベルを維持するなら自然増するものです
診療報酬を維持するだけでも、国際比較では医療は後退しているのです
診療報酬引き下げともなれば、医療レベルの後退は必至です
そして、一度後退したものを再度引き上げるには、実現不可能と思えるほどのコストを覚悟する必要があります
つまり、診療報酬を引き下げるのであれば、「医療に対してもうなにも求めない」ことが前提として必要であり、それこそ「国民感情」に反するものであります

内閣には、是非ともまず、最終目標を示して頂きたいものです