2011年3月27日日曜日

東日本大震災 No.2(3/20~26)

震災からはや2週間が経過しました
インフラの復旧に伴い被災早期の情報も整理させ始め、当初はズタボロだった被災者支援もようやく形になってきたので、そのあたりを中心にまとめたいと思います

<被災地の病院について>
情報から孤立した被災地 2011.3.24 
植田信策(石巻赤十字病院)
 宮城県石巻市は津波による水が引き、自衛隊による幹線道路の復旧が徐々に進んでいます。3月11日の地震と津波の後、石巻市は情報から孤立した状況に置かれました。
 仙台空港が津波に襲われる映像がテレビで繰り返し流されたため、全国から集まってきたDMATは仙台近辺の被害が大きいと考え、仙台入りしました。しかし、県内の他の被災地域の情報がなく、すぐに戻った隊もあったそうです。この時点で石巻から南三陸沿岸にかけての被災情報が仙台にはあまり入っていなかったようです。石巻市から、県の対策本部へ被災状況が伝わっていなかったのでしょうか。もっとも、石巻市役所は水没し、停電と固定電話・携帯電話の不通などにより市役所に被害情報が集約されなかったことが、県への正しい情報伝達を妨げたのだと思います。このため、石巻市立病院の被災情報を市が知ったのは2日後のことでした。
 石巻市立病院は海岸に立地していたため、津波により周囲が海とつながって、完全に孤立しました。水没のため自家発電も使えず、医療スタッフ、患者は押し寄せる水と断続的な余震の中、長い間恐怖に晒されていました。同院の医師が自力で脱出して市役所に直接知らせ、それからやっと自衛隊ヘリによる患者救出が始まりました。
 避難所への搬送も、情報不足に苦しみました。石巻赤十字病院にヘリや救急車で運び込まれ、治療を終えた傷病者や家族は、避難所への交通手段と避難所の受け入れ状況が分からなかったため、被災後72時間経過した時点で院内に約500人留まることになりました。具体的には、市が辛うじて手配してくれた、地元の観光会社のマイクロバス2~3台が市内の避難所を回り、受け入れ可能な人数を下ろして、次の避難所を探すといったものでした。病院から出たバスが戻ってくるのに長い時間を要し、院内の避難者はなかなか減らない状態でした。
 避難所への搬送を県や自衛隊に直接交渉しましたが、そんな情報は上がってきていないと、まともに対応してもらえませんでした。院内も救急対応で人手が足りないため、3人のスタッフでこれだけの人数に対処しなければなりませんでした。彼女たちは、避難所搬送が進まないことに怒り、情報の少なさに絶望的な気分でロビーで夜明かしせざるをえなかった被災者たちに、夜遅くまで対応していました。その職員の中には家族の安否も分からないまま職務を続けていた者もいました。
 避難所の情報も市が把握できず、食料や水などの救援物資が3日以上届かない避難所がありました。市が指定した避難所では収容しきれず、その何倍もの避難所が存在していましたが、通信手段がないため情報が市に伝わらなかったようです。
 避難所搬送での問題点は、受け入れ拒否となる対象者の存在でした。津波で流されて救助された被災者は家族同伴であるわけがなく、自力歩行できない被災者・傷病者や、寝たきりの高齢者、一人身の認知症の高齢者を受け入れる避難所がないため、介護や医療のスタッフがいる避難所ができるまで、院内に留まらざるを得ませんでした。
 また、週3回の透析が必要な被災者も、避難所との間の交通手段がないため、院内に留まることになりました。在宅酸素療法が必要な被災者も、停電により酸素濃縮器が使えないため当院に収容され、院内の各所に留まることになりました(約70人)。彼らは入院患者ではなく、当院は避難所でもないため食料も水も供給できませんでした。透析患者を収容する避難所が設定され、市と交渉の末シャトルバスを運行してくれるようになったのは、地震後約1週間のことでした。
 現在の喫緊の問題は避難所への支援です。食料の配給は、おにぎり1個、パン1個、それに果物類が加わるだけという分量です。これが1日分です。ボランティアや自衛隊による炊き出しが行われている避難所でなければ、極めて厳しい内容です。市ではこれらの配給さえ厳しい状況で、支援物資が届かなければすぐにでも倉庫の底をついてしまうとのことでした。
 また、衛生面も悪く、1000人の避難者に対し、仮設トイレが6基のみという避難所や、飲料水が足りない避難所など、感染症対策、エコノミークラス症候群対策の実施には程遠い環境と言えるでしょう。
 現在、避難所の情報収集は市と赤十字救護班で行っています。その結果を元に必要な物資の供給を県に依頼しています。しかし、十分な支援物資は届いていません。避難所には約2.5万人、食料の配給を必要としている住民も約4.5万人います。合わせて7万人分の食料供給が必要です。食料が届かないため、略奪が起きているとも被災者から聞きました。
 新潟中越地震や阪神淡路大震災でも、震災後の関連死が多数あったことを考えると、これから起こるであろう悲劇を最小限に食い止められるかどうかの分岐点に今、差しかかっています。支援物資が比較的豊かな仙台市から車で1時間の距離なのに、その格差は大きいのです。

さて、この記事一つで想像を絶する重要な情報がいくつもあるので整理しましょう
まず大事なのは、病院の被災情報が市に伝わるまで2日かかったということです
これは今回の震災の規模を考えれば妥当な日数と言えるかも知れませんが、なぜ情報網が電話しかないのか、(ダイハード4.0に出てきたような)無線通信は用意されていなかったのかということは今後十分に検討されるべきことです
軍隊では連絡のつかない部隊は壊滅したことを想定し、戦闘中行方不明はほぼ戦死扱いですが、こうした場合に準じた扱いを決めておく必要がありそうです
災害対策は情報戦から始まるということを肝に銘じる必要があります


またもう一つ問題なのは、まともな物資の補給や病院から出られる人間の後方輸送なしに、稼働している病院に次々と患者が搬送されていことです
素人から見ても施設はパンクし、食料と水がすぐに底をつくことは予想できます
水害のために負傷者が少なかったといわれる東日本大震災でこの状況では、阪神大震災や中越地震のようなタイプの震災のときにはどうなるのか想像すらできません
しかも、搬送されなかった理由がまた予想通りのお役所仕事です
「そんな情報は上がっていない」って、今あなたが現場から情報をあげられているのでしょうに…
さらに、自力歩行できないが入院の必要はない被災者、ADLの自立していない高齢者を通常の避難所が受け入れられないという事実は、今後の超高齢化社会を考えると相当大きな問題であるといわざるを得ません

恐らくはこの問題を完全に解消することは不可能でしょう。
また、病院は避難所ではないため、食料などの物資が目の前を素通りしていたという話も聞かれます
入院患者や最低限の職員数だけで、一つの病院は避難所と同等以上の人数になります
病院を避難所に準じた扱いにしておく必要があります

さて、先週はまったく存在感のなかった厚労省も今週はやっと動きましたが、一方で混乱も発生しています

医薬品不足解消へ本腰 厚労省、病院に直接輸送
2011年3月23日   提供:共同通信社
 東日本大震災の被災地で深刻化する医薬品不足の解消に向け、厚生労働省が本腰を入れ始めた。医薬品運搬車両への制限なし給油を可能にしたほか、空路と海路も活用し、巡視船やヘリによる輸送を開始。病院や避難所などに直接届けることを狙う。
 被災地の医療機関では地震発生後、負傷者があふれ、医薬品は瞬く間に不足。支援を要請したが輸送路の寸断などで届かず、「このままでは治療ができない」と訴える病院や診療所が相次いだ。
 厚労省はこれまで、岩手県や宮城県の要請に応じて、医療用酸素ボンベ約600本、透析輸液270本などを輸送してきた。しかしこうした支援物資が集積所までは届いても、燃料不足でトラックが動かず病院まで届かないケースが続発。
 このため厚労省は19日、医薬品を運搬するトラックなどが緊急車両だと証明できれば、給油量を制限されないで済むよう石油業者団体などに依頼。専用の標章も設けた。
20日からは水産庁の巡視船でかぜ薬や胃腸薬、おむつなど衛生用品を輸送開始。孤立した集落には自衛隊ヘリで届ける。
 感染症対策も本格化。全国の都道府県に対し、備蓄しているタミフルなどインフルエンザ治療薬の放出を要請。厚労省幹部は「阪神大震災では感染症による高齢者の犠牲が多発したが、今回は繰り返したくない」としている。


署内に怒声、医療関係者に緊急通行許可下りず
(読売新聞 - 03月21日 14:35)
 岩手県内陸部の警察署。交通課の窓口で、「被災者の命を見捨てるんだな」という鋭い声が響いた。声を荒らげたのは緊急通行車両の申請に訪れた医療関係者。被災地で必要な薬を届けたいという。結局、許可は下りなかった。
 この警察署では、地震後、緊急通行の許可を求め、医療、行政関係者の申請が殺到、1週間余で数百枚が発行された。 「緊急」の文字が記された「標章」があれば、通行規制区間への進入が可能だ。同時にガソリンスタンドでの給油を優先的に受けられるため、被災地への支援や連絡に往復するためのガソリン確保をと、申請する人が後を絶たない。
 一方で、岩手県内では徐々に通行規制が解除され、主な道路では東北道のみになった今、緊急通行許可は、高速道を使った長距離移動を除いて下りなくなった。
 しかし、ガソリン不足は深刻で、盛岡市や近郊では、ガソリンスタンドの行列が数キロの長さになることもある。奥州市内では、ガソリンを節約するために車内で眠るのに石油ストーブで暖を取っていた男性が一酸化炭素中毒死する事故も起きた。
 許可証へのニーズは高まるばかりだ。ある警察署幹部は「助けたい気持ちは痛いほどわかる。でも、今の制度のままでは車の給油を目的に許可は出せない」と苦しい胸の内を明かした。

相当に意味不明な混乱が起きていることがわかるでしょうか?
時系列から整理する必要があるのですが、読売記事ですと、「警察署で通行規制区域に入れてガソリンも優先的に受けられる医療・行政関係者向けの緊急標章が3/14ごろから配られていたことになります
しかし、共同通信記事によるならば「厚労省が医薬品の運搬車両が緊急車両だと認められればガソリン給油量を制限されない専用の標章を3/19に設けた」ことになります 
で、恐らくは20日あたりに緊急通行証を警察署にとりに行った医療関係者は「今の制度のままでは車の給油を目的に許可は出せない」 として許可が下りなかった
まず、この2つの記事から考えられる1つの可能性は、「通行規制区域に入るための緊急標章」と「ガソリンの給油を目的とした緊急車両の標章」が別個に存在するということです
もしくは、この2つの記事の標章は同じものであるが、被災地の情報の伝達不足or縦割り行政で、「警察署が厚労省通知を知らなかった」というところでしょうか
有事の情報の混乱といってしまえばそれまでかも知れませんが、中央がこんな状態であることは許されることではありません

というかそもそも緊急車両の定義も不明瞭で、交通インフラの復旧も不完全でガソリンも不足しているのに医薬品の運搬が民間人に丸投げされていることが混乱の元凶なのですが
自衛隊の活動も、人命救助に偏りすぎて物資の輸送に作戦力が明らかに少なかったという話もあります
どれだけ救助しようが、病院が行き止まりではそこがまるごとカタコンベになるだけです


民間に任せざるを得ない状況なら、警察署で個々人に発行するのではなく、公的組織や企業に対して一括で公布する必要があったでしょう
また、申請すれば医者の運転する車をドクターカーとする法律がありますが、もう一歩進めて医師免許証とセットにして「災害時緊急車両認可証」とか名前つけて全医師に自動車免許証のようなカードを配布した方がいいのではないでしょうか? 

厚労省がこの問題に着手するには、さらに5日を要しました 

不足医療物資などの相談窓口を設置- 厚労省
 厚生労働省は3月24日、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島からの医療物資などの不足に関する相談窓口を災害対策本部事務局内に設置した。同日付で3県に事務連絡した。窓口を一本化することによって、迅速な対応につなげる狙いだ。
 窓口では、医薬品などの厚生労働関連の物資全般の相談を担う。厚労省だけで対応が難しいガソリンなどの物資に関する相談は、窓口で情報集約した上で官邸の「被災者生活支援特別対策本部事務局」などに伝える。
 災害対策本部事務局の担当者は、「各県はどこに相談したらいいのか分からないケースも多く、たらい回しになってしまうこともある。窓口を一本化することで、スピーディーな対応を図るとともに(各県の)負担軽減につなげたい」と話している。
( 2011年03月25日 12:00 キャリアブレイン )
 参考までに、佐川急便は18日に東北全県で営業店止めサービスを復活させています。クロネコヤマトは25日に全県での着払いを復活させています。
 なんのための公的機関、なんのための権力と責任なのか、官僚の方々には有事の対応をよく考えていただきたいと思います。



<避難搬送について>

静岡・岐阜の援助隊、屋内退避区域の搬送せず   
 福島第一原子力発電所の事故で、屋内退避区域となっている原発から半径20~30キロ・メートル圏内にある病院に入院する患者の搬送要請を、静岡、岐阜両県の緊急消防援助隊が「安全が確実に確保されていない」として断っていたことが22日、わかった。
 屋内退避区域について、経済産業省原子力安全・保安院は「特別な装備は必要なく、マスクをして肌の露出を避ければ搬送作業は可能」としており、実際に地元の相馬地方広域消防本部など福島県内の消防隊は活動している。
 総務省消防庁は今月17日、福島県からの依頼を受け、同県内で活動中だった静岡、岐阜両県の援助隊を率いる静岡市消防局と岐阜市消防本部に患者搬送への協力を要請。当時、静岡県からは救急隊が計11隊33人が出動していたが、各消防本部の総意として「事前準備もなく、詳しい状況が分からない中、出動させることに不安を感じる」と消防庁に伝えた。岐阜市消防本部も、市長や消防長、市民病院長らが協議し、「隊員の安全を考えて苦渋の選択をした」として、搬送は困難との考えを示したという。
 福島県によると、屋内退避区域には、7病院に約780人の患者がいたが、21日までに自衛隊などによって、全員搬送された。静岡、岐阜両県の援助隊はその後、自衛隊などによって30キロ圏外に移送され、放射性物質を洗い流す除染を受けた患者らの搬送を担っている。防災システム研究所の山村武彦所長は「東京消防庁などが原発への放水活動をしていることを考えると釈然としない部分はある。トップが決めた判断とはいえ、隊員は活動したかっただろう」と疑問を呈した。
(2011年3月23日08時13分  読売新聞)
10都県の消防隊員、屋内退避区域の住民搬送へ
 総務省消防庁は25日、東京電力福島第一原子力発電所の事故で、10都県の約100の緊急消防援助隊員約300人が、屋内退避区域となっている原発から半径20~30キロ・メートル圏内にいる住民を圏外に搬送する、と発表した。
 主に、在宅介護を受けている住民らが対象。
 枝野官房長官が同日午前、屋内退避区域からの自主避難を促す方針を示したことを受け、同庁は静岡、岐阜両県を含む10都県に搬送を要請、了承されたという。
 静岡、岐阜両県は今月17日、福島県からあった屋内退避区域内の病院の入院患者の搬送要請を、「安全が確実に確保されていない」などとして断っていた。
(2011年3月25日22時21分 読売新聞)

この空白の1週間の間にどんなやりとりがあったんでしょうね?
私は崩れ落ちるビルに突入しろなどという気はありません。むしろ、そんなのがいたら殴ってでも止めます
しかし、 今回の静岡県と岐阜県の対応はまったく理解不能であり、とてもプロの判断とは思えません
また、もう一つ理解できないのは消防隊への指揮命令系統です 
都知事と政府関係者のやりとりでも感じていましたが、大規模災害時には国が人員と物資を責任を持って運用する形になっていないのでしょうか? 
出動元の市の認証をいちいち受けないと動けないというのは、有事の組織対応としては致命的ではないでしょうか?


<今後の被災地の医療について>

仙台市の基幹病院を襲った貯水槽損壊、入院患者数を大幅削減、新規手術も中止【震災関連速報】  
- 11/03/27 | 09:00

仙台市で最も重篤な患者への医療を担う国立病院機構仙台医療センター(病床数698床、和田裕一院長)。救命救急センターを擁し、生命が危ぶまれている患者への治療を行う同センターが深刻な事態に見舞われていることが明らかになった。仙台医療センターは3月24日、入院患者数の大幅な削減および新規患者の原則受け入れ中止、スケジュールの決まっている手術(定時手術)の原則中止を決定。翌25日から患者や家族に方針の伝達を始めた。
 同センターによれば、予定退院を含めて入院患者100人程度をほかの病院に転院させるための紹介手続きを開始。28日から、重傷救急患者とすでに入院している患者の手術を除き、定時手術の中止に踏み切る。新規入院患者の受け入れや定時手術の再開は4月中旬になる見通しだ。
 医療の縮小に追い込まれた原因は、東日本大震災で発生した病棟の屋上にある貯水槽の亀裂が余震などによって拡大し、生活用水としての給水が困難になったことにある。この緊急事態は3月24日午後5時30分からの院内緊急会議で院長から各診療科に伝えられた。
 これを受けて、手術部門では「28日の週に予定していた1日10例前後の手術の中止を余儀なくされた」。手術部門では、東日本大震災で大幅に縮小していた定時手術の本格再開に向けて医師や看護師の確保に努めてきた矢先に、逆に大幅縮小に追い込まれた。 
同センターでは貯水槽の損壊により、水の供給が通常の3分の1以下に減少。通常診療を遂行するための許容限度を超えたという。同センターでは、「貯水槽の損傷は大きく、修理は不可能で新規交換が必要」と判断。復旧は4月中旬までかかるという。
 東日本大震災では多くの病院が被害を受けたが「設備の損傷が医師などのマンパワー不足以上に復旧の障害になっている」(前出の川村氏)。そうした中での基幹病院での診療縮小は、ほかの病院の診療体制に影響を与えることも懸念される。被災地仙台の医療復旧は再び厳しい状況に直面している。
(岡田 広行 =東洋経済オンライン)

こういう事態は予想はしていましたが、よりによって仙台最大の砦がいきなり陥落しました
他の病院でも、今後機能不全になる病院が続出する可能性もあります 
やはり、急性期を離脱した患者は被災地外へ可能な限り搬送し、被災地の病院は設備と兵站が正常化するまで救急医療に徹する必要があるのではないでしょうか


<やっぱりお役所>
3月27日 10時15分
東北関東大震災の被災者を治療するため、海外からは初めてとなる緊急医療チームが、中東のイスラエルから日本に向けて出発しました。イスラエルからは、医療チームのほか毛布6000枚や防寒用のコート1万着が日本に支援されるということです。
出発したのは、イスラエルの医師や看護師などおよそ60人の緊急医療チームで、一行は26日夜、イスラエル南部の空軍基地を特別機で飛び立ちました。出発を前に空港では、チームの一人一人に、甲状腺の検査などが行われていました。医師の1人は「放射性物質の危険がないわけではないが、とにかく志願をした。被災地では感染症の問題などに対処したい」と話していました。一行は27日夜に日本に到着したあと、地震と津波で壊滅的な被害を受けた宮城県の南三陸町に臨時の診療所を設け、避難生活を強いられている被災者の治療を行う予定です。海外から派遣される医療チームは、日本の医師免許を持っていないため、現地でどのような治療を行うのか日本側との調整が必要で、外務省によりますと、今回の震災では、イスラエルが初めてだということです。イスラエルからは、医療チームのほか毛布6000枚や防寒用のコート1万着が日本に支援されるということです

まだそんなこといってるの? 
いったい被災から何日たってる? 

2011年3月19日土曜日

東日本大震災 No.1(3/11~19)

東日本大震災からはや一週間が経過しました
しかし、具体的な状況はまだ明らかになっていない点が多く、現時点で判明している医療機関の対応をまとめておきたいと思います

まず何にもまして大規模災害で問題となるのは大量の負傷者ですが、今回はそれはあまり問題となりませんでした
というのも、阪神大震災などのような倒壊や火災ではなく、津波が被害の原因であり、DMATが現場に突入するも、黒タグと緑タグしか出番がなかったとのことです。文字通りdead or aliveの悲惨すぎる状況であったことが推察されます

そうなると、次の問題は入院患者および慢性疾患の患者です
入院患者の問題はすぐに表面化しました
根本的にインフラが破壊されたため、水と電気と食料の確保、および暖房や自家発電の燃料の枯渇が問題となりました
交通インフラが破壊されたため、最低限の生活物資はもちろん、医薬品も底をつき亡くなられた方も出ています

医師らに食事行き渡らず 救援活動に支障の恐れも     
11/03/14 共同通信社 
 東日本大震災で大きな被害を出した岩手県や、宮城県沿岸部の災害拠点病院で働く医師や看護師など病院職員用の食料が不足していることが14日、分かった。ようやくつながった病院から県の担当部局への電話で「被災者優先なのは百も承知だが、このままでは救援活動に支障が出る」との悲痛な声が相次いで伝えられたという。 
 岩手県の県立病院で働く職員は計約4800人。震災を逃れた職員の多くが、勤務地で医療活動に当たっている。県の災害対策本部には「市町村役場には食料が届いているのに、われわれのところに回ってこない」といった声が寄せられた。  同対策本部は「最も被害がひどい沿岸部の病院とは今もほとんど連絡が取れない。状況はより深刻なはずだ」として、こうした病院向けに救援物資の新たな輸送方法を検討中だ。同様の訴えは宮城県にも寄せられているという。
 原子力発電所を抱える福島県では、爆発事故で避難してくる被災者への対応で精いっぱいで、医療従事者の状況まで配慮できないという。担当者は「自己責任で調達してもらうようにしているが、要望があればできるだけ対応していきたい」と話した。


また、慢性疾患で特に問題となったのは透析患者です
きれいな水、電気、医薬品を必要とする人工臓器である透析のストップは、そのまま患者の命に直結します
このため、Kの調整など、文字通り生命を維持する最低限の透析を繰り返すことでなんとか時間を稼ぎ、交通インフラが復旧後に透析医会が中心となり、各自治体の協力の下、各県の透析病院で分散して受け入れるという大移住で現在対応しています

さて、以上の点をまとめると、被災地の入院患者および慢性疾患患者は、被災地で治療を継続するのではなく、可及的速やかに安全地域の病院へ分散移住するのが最善であると言うことがわかります

これについては医療機関は被災直後から自衛隊もしくは米軍による搬送の必要を叫んでいました
これに対する厚労省の3/14の回答は以下の通りでした

厚労省医政局医事課企画法令係の担当者は、あくまでケースバイケースとしながらも、
「停電で医療機器が使えない、水道がストップし必要な治療ができないといった理由で患者を診られない場合は、医師法第19条の正当な事由に当たると考えている」
として、応召義務違反には当たらないとの見解を示した。
  
 大塚耕平厚生労働副大臣は3月14日の記者会見の席上同日から始まっている計画停電への厚生労働省の対応についてコメント。
自家発電の保有状況を厚労省が把握しているべきかどうかについては、 
「自家発電については、持っていても使えるかどうかが分からない。 自家発電が機能しなかった場合にどこの医療機関に搬送するかを、 個々の医療機関が計画を立てていなければいけない」 
との考えを示した。 
また、有事の際にどの医療機関に移送するかの互いの取り決めについても、 
「今回の話は国家全体の話であり、 『自家発電が立ち上がらないときは国が何とかしてください』という姿勢では困る。 自らエマージェンシープランを組んでもらわないといけない」 
として、個々の医療機関が、高い意識の下で行うべきだと訴えた。

…というわけで、究極の責任放棄記者会見をされました
彼らは「医療機関の責任」を叫んでいましたが、そういうレベルの状況ではないと言うことを認識していなかったのでしょうか?
いや、そもそも民間人である医療者と医療機関にそこまでの無限責任を求めるのはどうなのかという根本的な命題があります
彼らは、医療者と医療機関を守らなければ患者=地域住民を守れないという視点が欠けていました

このため、被災地域の透析病院が自力でバスをチャーターし各県に送り出すと言うことが行われました。恐らくこの中で最大規模なのがこの記事です

福島の800人、人工透析受けられず県外に出発(読売新聞 - 03月17日 11:06)
 福島県いわき市と周辺地域の人工透析を受けられなくなった患者約800人が17日午前10時、バス約30台に分乗し、東京に向かって同市を出発した。
 患者らは首都圏と新潟県の医療機関に分散し、治療を受ける。
 いわき市周辺の医療機関は、職員らが市外などに退避。断水もしており、透析が出来ない施設が続出。そのため、いわき泌尿器科病院が周辺数施設の患者をまとめ、送り出した。


実際にはどれだけの患者が被災地から脱出し、またこの後も必要としているのかは不明ですが、震災から一週間経ち、マスメディアも繰り返す余震や原発だけでなく、避難所や医療機関に目が行き始め、一般人にもこの惨状が徐々に伝わり出しました
このためか、ようやく厚労省も重い腰を上げはじめました


福島の入院患者を県外搬送- 厚労省
 厚生労働省は3月18日、福島の入院患者の県外搬送を進めていることを明らかにした。同省によると、同日現在、関東甲信越と山形の11都県で受け入れ可能な患者数は1800人以上だという。
 同省は、協力を要請した11都県がどのような患者を受け入れられるかを調査・整理した上で、内閣危機管理センターと福島県に情報を提供している。
 これとは別に、県内の病院も自主的に搬送を行っている。
 同省によると、入院患者の搬送については、現在までに福島第1原子力発電所の20キロ圏内に入院していた1132人の搬送を終えており、現在、20-30キロ圏内で搬送対象となっている入院患者1164人の搬送を進めている。
 同日午後5時までに、同省のマッチングによって搬送されたのは、20キロ圏内の入院患者約200人、20-30キロ圏内の入院患者約300人。
( 2011年03月18日 23:16 キャリアブレイン )



というわけで、14日の副大臣の会見などなかったことのようにされています
彼らの責任追及はある程度事態が収束化してから行われることでしょう
今は患者を安全な場所まで脱出させることが最優先事項です
しかし、原発の避難エリアだけでまだ1164人もいます。避難が必要な全ての患者の数を厚労省は把握しているのでしょうか?

東日本大震災:「薬は残り3日分」 医師「何とか物資を」--福島・いわきの病院 http://mainichi.jp/select/science/news/20110317dde041040037000c.html

 「入院患者の給食の在庫はあと5日分。薬は残り3日分。ガソリン不足や家族の被災で出勤できない職員や原発事故を恐れ避難した職員も多い」。福島県いわき市にある市立総合磐城共立病院の樋渡信夫院長(62)はそう話し、援助を呼びかけた。 
 病院は福島第1原発から南へ約45キロ。地域の中核病院で、震災当日は約650人が入院していた。約半数を退院・転院させたが、今も300人余が残る。 
 だが、薬が足りない。16日に病院職員が薬問屋を回ったが、それでも在庫はようやく3日分。ガソリン不足と放射能への警戒感からいわき市には薬が運ばれてきにくいという。 
 原発事故も怖い。医師108人のうち若い研修医8人は院長の指示で避難させた。他にも避難した医師は多く、残る医師は約60人。医師以外のスタッフも半数近くが欠勤中だ。看護師80人が「ガソリン不足のため、帰ったら出勤できない」と病院に泊まって支える。 
 そうした中、新生児集中治療室(NICU)には赤ちゃん4人が残る。体重1000グラム以下と小さく、転院が危険な子たちだ。ミルクは残り数日分しかない。 
 子どもたちの世話をする本田義信医師(49)は地震以来、1人で病院に泊まり続ける。「12人いた赤ちゃんのうち、事故が深刻化した15日以降に8人を転院させた。残る4人の避難を判断するため、この病院で最悪どれだけの被ばくがあり得るか知りたい」という。 
 心療内科の岩橋成寿(しげとし)医師(52)は訴える。「病院のそばには原発の近くから300人が避難してきた。兵糧が尽きるまでは頑張る。何とか物資を供給してほしい」 
【高木昭午】


兵站がなければ戦力は維持し得ません
すでに生活物資が枯渇し撤退した医療機関も出ています
インフラが破壊されている以上、まだ物資が残っている=移送する余裕があるうちに戦略的撤退こそが最善です
既に当県にも患者は来ており、ALL JAPANでの受け入れが必要になることでしょう

また、メディア報道には医療者も人間であり、守るべき家族がいるということ。しかもほとんどの医師は民間人に過ぎないという視点が欠けています。 
言い方は悪いですが、国からの支援もなく、自分の家族を見捨てて、患者と共に心中する義理はないということです 

この震災での国および自治体の一連の対応は、全国の医療者に深い不信感を植え付けることになりました
なかでも象徴的なのが、最悪の誤報事件。双葉病院事件です

すでに元記事はどれもこれも削除されているのでネットの魚拓から転載

高齢者残し、医師ら避難か=原発圏内の病院−福島
 事故が相次ぐ福島第1原発(福島県大熊町)の10キロ圏内にあり、避難指示が出た同町の双葉病院で、患者を避難させるため自衛隊が到着した際、病院内は高齢の入院患者128人だけで、 医師や病院職員らがいなかったことが17日、分かった。 
県災害対策本部が明らかにした。
 同病院の患者のうち14人は、避難途中や避難先の県立いわき光洋高校(いわき市)で死亡した。
 対策本部によると、官邸危機管理センターは14日未明、原発の10キロ圏内に取り残された住民について「明け方までに避難させること。避難しない場合は責任を取れない」と県に指示したという。  県は自衛隊に救助を要請。自衛隊は14〜16日にかけ、バス3台を使って双葉病院から128人を搬出した。 
しかし、隊員が病院に到着した時点では、300人を超える患者のうち、寝たきりの高齢者らだけが取り残され、病院関係者はいなかったという。 自衛隊は患者の被ばく状況を調査した上で、避難所に移動させた。 
 県の担当者は「病院職員がいないことはあり得ない。放棄ととられても仕方がない」と批判。
同病院を運営する医療法人「博文会」関係者は取材に対し、「理事長と連絡が取れず、事実関係は分からない」としている。(2011/03/17-20:52)

 で、これが1日も経たないうちに一転しました

「避難時に院長いた」=福島県が訂正発表
 福島県は17日夜、福島第1原発の事故で避難指示が出た双葉病院(福島県大熊町)で高齢者らが避難する際、医師や病院関係者らがいなかったと同日発表したことについて、自衛隊の救出時には院長がいたと訂正した。
 県によると、同病院は原発から10キロ圏内にあり、自衛隊が14日から15日にかけ3回に分けて高齢者を救出。院長は1回目の救出時に立ち会っていたという。
 院長は県に対し、救援を求めるため病院の外に出たが、原発で事故が相次ぎ、戻るのを断念したと説明。他の病院スタッフも途中からいなくなったという。(2011/03/18-01:18)

患者死亡 院長“何もできず”
3月19日 0時14分
福島第一原子力発電所の事故で、避難指示の対象になった福島県大熊町の病院の入院患者21人が避難所で衰弱するなどして死亡した問題で、この病院の院長が、NHKの取材に応じ、「国や県に何度も頼んだのに救助が遅れた。自分たちでは何もできなかった」などと話しました。
この問題は、原発事故で避難指示の対象になった福島県大熊町の双葉病院に入院していた高齢の患者など21人が、避難所で衰弱するなどして死亡したものです。これについて、双葉病院の院長が18日、NHKの取材に応じ、当時の状況を証言しました。それによりますと、地震のあと、この病院には寝たきりの人など130人ほどの患者が残っていたということです。しかし、翌日に原発の事故で避難指示が出たあとは、およそ60人いた病院関係者はほとんどが避難し、2日後には、院長など4人しかいない状態だったということです。こうしたなかで、自衛隊員が到着して、患者の避難所への搬送が始まり、院長たちは、今月15日に病院を離れたあと、警察官の指示で、病院には戻らなかったということです。これについて、院長は「当時は地震と原発事故でパニック状態で、自分たちだけでは何もできず、国や県に助けを求めたのに救助が遅れた。いわき市の避難所には、系列の病院の医師やスタッフを派遣したが、患者が亡くなったのは残念だ」と話しています。今回の問題を受けて、福島県は、改善する点が無かったか詳しく調べています。
気がつきましたかね? 
県もメディアも、「訂正」はしても「謝罪」はしてません
とりあえず、お前らの態度を改める必要があるのは事実だと思うが???
明らかにメディアフィルターが欠けられているので、こちらの方が真実に近いかと思われます

福島・双葉病院「患者置き去り」報道の悪意。医師・看護師は患者を見捨てたりしていなかった
http://news.livedoor.com/article/detail/5424517/ 

詳細はいつかご本人の口から語られることでしょうが、 
そもそも、一病院長という「個人」にこの状況でこれ以上の何ができるというのでしょうか?何をしろというのでしょうか? 
大野病院事件と並んで、医療崩壊の聖地福島を語り継ぐ伝説となることでしょう 


さて、国や県、メディアの責任追及はまた情報を待つこととして、 今回の震災では他にも教訓があります


完全に想定外の事態として、被災地への医薬品の供給のみならず、被災地にあった工場からの医薬品の全国への供給が滞るという状況が発生しました。
幸い、メーカーの必死の努力により、長期処方さえされなければ在庫が払底する前にはぎりぎり対応できるとのことですが、新薬や生物製剤など製造企業の少ない医薬品の備蓄や緊急輸入を自動的に行えるような法整備が必要ということは忘れてはならないと思います

また、被災地域外でも問題が出ています
まず、まったく被災していない当院ですら、燃料や電池、輸血製剤の入手が困難になったため、暖房や患者のモニター、輸血は最低限になっています
また、計画停電による影響もあります

停電リスクにさらされる都内大病院、大規模な心臓手術が困難。長期戦へ準備、東日本大震災 - 11/03/18 | 23:22

 東日本大震災で生じた停電リスクの影響で、人工心肺装置などを使った長時間にわたる心臓外科手術の実施が困難になっている。野村実・東京女子医科大学医学部麻酔科学講座教授(日本心臓血管麻酔学会常任理事=写真)によれば、「人工心肺を用いた手術は最低5時間、長い場合は12時間以上かかるため、当大学でもすでに予定の決まっている大きな心臓手術(定期手術)はしばらく見送らざるを得ない状況にある」という。
 野村教授が籍を置く東京女子医大付属病院では、震災から2日後の3月14日は安全確保のため定時手術を中止して機器や電源設備の点検を実施。翌15日に心臓手術や長時間の重症手術以外は部分的に再開した。「3月22日の週については、手術時間や輸血のリスクを考えながら心臓手術を含めた手術症例を通常の80%程度組んだ」(野村教授)という。
 東京女子医大が位置する東京・新宿区は「計画停電」の対象地域外だ。1423床の大病院で、自家発電設備も完備している。ただ、MRI(磁気共鳴画像装置)など大きな電力を消費する装置も多く、「自家発電に切り替えた場合にすべての医療機器が正常に作動する保障がない」(野村教授)。また、燃料供給が不安定な現状では、自家発電に用いる燃料もできるだけ温存しておきたいという事情もある。
 長時間かかる大がかりな手術には、大動脈弓部手術や人工心臓手術、心臓移植、脳死の膵腎移植などがある。「最も難しいのは緊急の大動脈瘤破裂の緊急手術で、大量の輸血が必要」(野村教授)。だが、「血小板など血液製剤の追加調達が難しい」(野村教授)という事情がある。3月18日現時点では「手術に必要な薬剤は今のところ十分に確保しているものの、中長期にわたって供給体制が維持できるか見えていない」(野村教授)。
 東京女子医大病院では、通常では毎週1回の割合で「手術調整会議」を開催しているが、「当面は週2~3回の割合で物品調達状況を含めて手術調整会議を開いていかないといけない」(野村教授)。すでに一部の診療科では、「長時間手術について、関西方面の病院にも協力を求めている」(野村教授)。
 今後は学会会員などからもきちんとした情報を得つつ、「中長期的な戦略を構築していくことが何よりも必要だ」と野村教授は強調する。
(岡田 広行 =東洋経済オンライン)

この震災から学ぶべき事はあまりに多くあり、いつか必ず来る「次の大震災」までに備えなければならないこともあまりに多くあります

本ブログは、今後もこの問題を最優先でまとめていきます

2011年3月6日日曜日

行き先不明の医療改革

連載したい考察ネタがあるのですが、年度末のせいか、正直それ以上に扱わなければならない時事ネタが続々出てきてます
さて、今回は国の医療制度改革です

先日の民主党のプロジェクトチームが謎の決定をしました

https://www.cabrain.net/news/article.do?newsId=32798 
ライフイノベーションの18項目は、「地域主権の医療への転換」のほか、▽病床規制の見直し▽医療法人の再生支援・合併における諸規制の見直し▽介護総量規制の緩和▽一般用医薬品のインターネット等販売規制の緩和―など。

さて、この「地域主権の医療への転換」ってなんのことでしょうね?
医療圏は現行法で地方自治体レベルで調整されている(はず)です
では、この民主党の言う「地域主権」とはなんの権利を指しているのでしょうか?
…どうにも、嫌な予感がしてきます

その嫌な予感をさらに増幅させてくれるのが、別の記事です


http://www.cabrain.net/news/article/newsId/32822.html  
民主党の「社会保障と税の抜本改革調査会」(会長=仙谷由人代表代行)は3月3日、これまでのヒアリングを踏まえた意見交換を行った。出席した議員からは、今後の社会保障の方向性や在るべき姿を決めた上で、各論や財源を議論すべきといった意見が多く出た。(略) 仙谷会長は「現状の医療提供体制の中で、患者の視点から何が足りないのか。そこはまだ議論の余地がある」と述べた。

まだいたのか?と突っ込んだ人は多いと思いますが、(笑)今回はそこは置いておきましょう
なんといいますか、非常に現場のやる気を削いでくれる発言ですねぇ
医療崩壊の原因は、「患者」の無制限の要求による医師と医療機関のバーンアウトであるという事実をまったく理解してないのがよくわかる一言です
そうなるとやはり先の「地域主権」とやらは、医師をいかに酷使するかという権利にしか見えてこなくなります


彼らは、どんなに経営努力をしようが、結局のところ医療というものは医師というリソースに上限が決まっているパイを配分しているに過ぎないと言う基本的なことを理解できていません
そのあたりはこの記事で詳しく述べられています

医療に「効率」を求めるとどうなるのか規制緩和と生産性向上で医療が失うもの2011.03.01(Tue)  多田 智裕
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5536


本当によくまとまっている記事だと思います
付け加えることがあるなら、医師のリソースを医療に割きすぎると、経産省がもくろんでいる医療技術のイノベーションに割く分はなくなるってことでしょうか

そもそも、一般の業種において「効率化」というのは「不採算部門の切り捨て」と「選択と集中」が基本ですが、日本の医療機関ではこれは不可能です。不採算部門の切り捨ては政治家が許しません。そういう意味では、地域主権こそが勤務医負担増大を招いていると言えます。
選択と集中も同様な上に、規模の経済が発揮できる業種であれば薄利多売も可能ですが、一例一例がオーダーメードの医療ではまず不可能です。
では高付加価値商品に切り替えるのが王道ですが、これは治療費は公定価格で、しかも2年ごとに勝手に変えられるので不可能です。過去、どれだけの医療機関が厚労省の「ハシゴ外し」に泣いたことか…
今の医療制度で病院に経営努力を迫るのは、羽をむしった鳥に飛べと言うようなものです


一方で厚労省はもう幾分マシな議論がされていたようです
ただし、反論する機会があるというだけの「マシ」さですが…



勤務医の負担軽減と患者の受診抑制
http://lohasmedical.jp/news/2011/03/03091423.php
 「たくさん医師がいないとできない」「アクセスを制限しなきゃいけない」─。勤務医の負担を軽減しようとすると、患者の受診抑制という壁にぶち当たる。(新井裕充)



医師というのはどう転んだところで業態としては職人であり、純粋に数と数の戦いにしかなり得ません。何を当たり前のことを?という感じですが…官僚と経済界の逃げっぷりがこの問題の袋小路を示しています

まず官僚の言う主治医制の廃絶と交替勤務制導入ですが、これ自体は私は基本的には賛成です
です。ただし、それにはフリーアクセスを廃止し、医師数をそれなりに増やした上で、という前提条件がつきます

この記事を読む限りだと、交代勤務を導入した病院には何らかの特典をつけることになりそうな気配もありますが、
まさか、「7:1看護導入時の悪夢」を忘れたワケじゃないですよね???
そんなことやったら、地域病院からの引き上げが一気に加速して医療崩壊が光速で進行しますよ?


あと、官僚のだした勤務医負担軽減の「成功例」も、問題だらけです
一番確実な方法としてはクラーク等の「支援部隊の強化」があげられますが、クラーク導入してもクラークの行為に対して医療費はくれないので、クラークの人件費は医師が稼がなければなりません。規模の経済を発揮できない中小病院ではクラーク導入は本末転倒にすらなりかねないと聞いてます

また、交代勤務の成功例としてあげられている藤沢ですが、これは嘉山先生が突っ込んでいる通りとしかいいようがありません。非常に人的に潤沢な二次以下の病院でしか不可能でしょう
さらに言うと、産科と小児科で交替勤務が進んでいるのは正直、女医対策です。必要なことですが、今の医師数では他の医師の負担が増大していないかは気をつける必要があります。
実際、元のpdfをみてて疑問に思ったのですが、この藤沢の交代勤務は「夜間外来に専念」となってます
もしかして、病棟当直は他にいるんでしょうか?だとすると、11人で病棟を回していることになるので、実は交代勤務導入しても当直回数自体は大して減ってない可能性もあります

他で真似できるかどうか以前に、「成功例」かどうかすらあやしいと思います




さて、この議論の最後に非常にやる気をなくすやりとりがまたあるんですが


[北村光一委員(経団連社会保障委員会医療改革部会長代理)] あの......。よく分かりました。我々も若いころは随分、鍛えられたり、長時間勤務とか、上司からアレされましたけれども......。そういう意味ではやはり医療業界も同じでしょうから......。 (語気を強めて)ぜひですね、ご指導いただいて、素晴らしい先生に育つようにですね、よろしくお願いしたいと思います。
[嘉山孝正委員(国立がん研究センター理事長)] (ムッとした表情で)国民も一緒に......、国民も一緒にやってください。(以下略)


「俺の若い頃は~」を国の会議でやるって…どういう神経してるんでしょうね?
経団連って、戦後の復興期の成功体験で21世紀の混乱を乗り切ろうとしてるとかないですよね?
この人が若かった頃のような、パターナリズム全開で非専門医が治療するのが当たり前で誰も文句をいわない、医療訴訟もない、病院の経営努力なんていう概念すらなかった医療をやっていいなら今の労働時間でも精神的にはだいぶ楽でしょうが、経団連的にはそういう医療でOK?そんなわけないですよね
っていうかこの人のいう「素晴らしい先生」=「奴隷医」?
労基法守る気0ですな! 
大丈夫か三菱アルミニウム?


経済関係者の医療関係の議論を見ていると、医師は日本国民にあらずと言わんばかりです
(そもそも経済界が自分のところの若手を同胞扱いしていない節がありますが)フリーアクセスと応召義務がある限り、患者の無限の要求がある限り、医師不足は永遠に解決しないでしょう



日本、医療の満足度15% 22カ国で最低レベル

【ワシントン共同】米中など先進、新興22カ国を対象にした医療制度に関する満足度調査で、手ごろで良質な医療を受けられると答えた日本人は15%にとどまり、22カ国中最低レベルであることが15日分かった。ロイター通信が報じた。
ロイターは、日本は国民皆保険制度があり、長寿社会を誇っているとしつつも「高齢者の医療保険の財源確保で苦労している」と指摘した。
自国の医療制度に満足している人の割合が高いのはスウェーデン(75%)とカナダ(約70%)で、英国では55%が「満足」と回答。韓国、ロシアなどの満足の割合は30%以下だった。
国民皆保険制度が未導入で、オバマ大統領による医療保険制度改革の議論で国論が二分した米国は、回答者の51%が手ごろな医療を受けられると回答した。
2010/04/15 17:44 【共同通信】


こんな医療者以外からは不満大会な日本医療ですが、お隣の国から見るとだいぶ違う評価のようです



http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=49611
日本の医者の患者に対する責任感と温かさに感動した。そして、言われた通りの時期に再度訪日した。最初の検査が終わった後、医者は病状について、心臓の模型を使って位置を示しながら詳しく教えてくれた。しかも、「説明が細かすぎてすみません」と謝りながら…。
この病院は高級レストランで会計をする時のように請求書を持った係員が私の前に跪いて明細を説明してくれた。驚いたことに中国よりも安かった。
誰でも無料で予約できるそうだ。資本主義社会の中にも社会主義の要素が感じられた体験だった。


東京の有名病院ですら、中国人に「中国より安い」「社会主義」と言われる日本医療ってどんだけ?!
これで「安心安全の医療」とか「経営努力」とか、どこに生まれる余地があるんでしょうね?

現場に出てから、強く感じることが一つあります
目の前の患者というミクロに対する最良は、基本的には医療供給というマクロとは対立概念であるということです
このバランスを無視して、医療に持続可能性はありません