2011年10月29日土曜日

マッチング2011と地域枠の行方

毎年恒例の初期研修医のマッチングが出ました
そろそろ地域枠の卒業者が出てくるはずですが、まだ数が少なかった時代のようでマッチング参加者自体は微減しています

また、県別に見ると被災した宮城、福島はもとより、東北の被災県よりも首都圏が激減しています
東京の40人減はまだしも、埼玉の20人減はクリティカルではないかと思うのですが、これも震災の影響でしょうか?
他の大都市圏でも減少が見られていますが、こちらは定員が減らされたせいもありそうです

軒並み上昇しているのは、日本中央部の山岳部と、九州ですね
大地震が少ない地域に固まっているのは、やはり地震のせいかもしれません
例年なら大都市に留まるメンバーが実家に帰ったのでしょうか?
http://www.jrmp.jp/koho/2011/2011kekka_koho.pdf


一方で、大学と地方で分けると、大学の減少は昨年以上です



研修医マッチング、進む大学病院離れ- 今年度の内定結果公表
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/35842.html

 医学生らの来年度からの臨床研修先を内定する今年度の研修医マッチング結果によると、大学病院に内定した人が占める割合は47.1%(前年度比0.8ポイント減)で、マッチングを開始した2003年度以降、最も低かった昨年度を下回り、過去最低を更新した。内定結果は、医師臨床研修マッチング協議会が10月27日に公表した。
 今年度のマッチングに登録した医学生ら8225人のうち、内定したのは7951人で、内定率は96.7%(0.7%ポイント増)。マッチングに参加した大学病院は115施設(1施設増)、基幹型臨床研修病院は906施設(9施設減)だが、内定者は大学病院が3746人(82人減)、基幹型臨床研修病院が4205人(35人増)だった。
 内定者数を都道府県別に見ると、「都市部」の6都府県では、前年度から1人増えた福岡の439人を除き、東京1369人(40人減)、神奈川577人(2人減)、愛知460人(29人減)、京都244人(21人減)、大阪612人(12人減)と軒並み減少。都市部以外の内定者が全体に占める割合は53.5%(1.1ポイント増)で、前年度に引き続き過去最高を更新した。
 内定者が前年度より増えたのは21道県で、増加数が最も多かったのは宮崎。前年度の30人から倍増の61人が内定した。厚生労働省の担当者は「病院のプログラムが評価を受けたのではないか」としている。
 研修医マッチングは、次年度から臨床研修を受ける医学生らと、研修病院のそれぞれの希望を事前に登録し、コンピューターで組み合わせるもの。双方の希望が一致すると内定先が決まる。今年度は9月15日-10月13日、希望の登録を受け付けた。今年度の研修医マッチングに参加した大学病院・基幹型臨床研修病院は1021施設だったが、来年度に臨床研修を実施するのは1026施設あり、研修医マッチングによらない方法で研修医を採用する病院もある。

■被災3県は軒並み内定者減
 宮城は、来年度の臨床研修の募集定員を前年度比19人増の173人に設定し、研修医マッチングでは170人分の内定枠を設けていた。しかし、内定したのは98人で、前年度比12人の減。岩手と福島の内定者は、それぞれ67人(3人減)と61人(17人減)で、東日本大震災で被害の大きかった3県の内定者数は、軒並み前年度を下回った。
 一方、東北地方で唯一内定者数が増加した秋田は、16人増の67人だった。


初期研修を行う意味をきちんと説明できず、明確に違法な労働状況を放置する大学を忌避する姿勢は明確に定着しました

これから来る定員増の世代が増えれば、割合としては減少しても絶対数自体は大学が増えるかも知れません
しかし、人的資源を相対的に喪失しつつある大学に、本来の役割を果たす能力が残るとはとうてい思えません

また、大学別のランキングを見ても黎明期の5年間とはまた違った流れができつつあるようです
印象としては、首都圏の私大は自学者の残存率を高めてマッチング率を上げています
一方でフルマッチの常連だった順天堂はその座を慈恵に譲っています
慶応も中堅が板についてしまった感じですね…
ブランドだけではない、中身のある大学改革を行えるかが今後の試金石になりそうです


ところで、先日の社会保障審議会で少々気になる会話が漏れ出しています



地域医療支援センターへの異論相次ぐ

 27日の会議ではそのほか、医療提供体制のうち、地域医療支援センターや在宅医療、療養病床について議論。
 地域医療支援センターとは、医師不足対策として厚労省が2011年度から予算化した事業。都道府県が「コントロールタワー」となり、地元大学や地域の医療機関と協力しながら、医師確保、医療機関への医師派遣などを行う事業。現在、9県で先行的に行われている。厚労省は、この地域医療支援センターを医療計画に位置付け、都道府県が責任を持って医師不足解消に取り組む体制を提案。
 だが、この案については、様々な視点から異論が続出。邉見氏は、「そろそろ都道府県に丸投げするのではなく、国が直接、実施しなければいけない。この10年、幾つかの取り組みがあったが、医師の地域偏在も診療科偏在も解決していない。マッチング的な強制的な取り組みなどを検討しないと、地域や診療科の偏在は一向に改善しない」と述べ、国の関与を求めた。
 中川氏は、各県の地域医療支援センターの多くが、数名程度の医師の派遣等にとどまっている現状を指摘、「ほとんど効果がなかったと読める。地域医療支援センターは、(行政の)自己満足ではないか。派遣する医師もいないセンターが機能するのか。根本的なことも議論してもらいたい。医師は、臨床研修を行った地域に残るケースが多い。研修の希望者と募集人数をほぼ一致させることが偏在解消策の一つ」とした上で、「医師不足の問題については、医学部教育、医師国家試験、臨床研修などを総合的に議論すべき」と指摘した。
 これに対し、厚労省医政局指導課長の井上誠一氏は、「この事業は今年度から始まったばかり。また各大学の地域枠の医学生が卒業するのは先のことであり、今後の取り組みをぜひ見てもらいたい」と弁明した。
 東京大学大学院教授の永井良三氏も、「若い医師の専門医志向があり、また今の日本の医療は多くの専門医を集めないと成り立たなくなっている。こうした点を根本的に変えていかなければいけない。そもそも今の専門医の養成の仕方でいいかという問題もある。地域ごとに専門医を養成していくなど、様々な問題を国レベルで考えるべき」と、総合的な検討が必要だとした。


地域医療支援センターの法的な立場はまだはっきりとしていませんが、他の医療者の発言に対して、厚労省の回答は明らかに浮いています
要するに、地方が若手医師に嫌われる根本原因には一切触れる気はなく、地域枠卒業者が増えれば自然と地域医療支援センターの参加医師は増え、医師不足は解消されるという考えととれますが、現時点ではそれを担保するネタはありません
これが脳内お花畑の妄想なのか、何らかのバックグラウンドとなる密約があるのかは現時点では想像することしかできませんが、マッチングで地方大の一人負けが続けば、大学の身売りもあり得るでしょう

2011年10月16日日曜日

文科省 2012年度概算要求


重症&急患ラッシュでしばらく休んでしまいましたが、再開します
来年度の概算要求で、文科省が不思議なことをしているようです

まず前半部からですが、正直よくわからないことになってます



文科省の2012年度概算要求で新規事業 
文部科学省が9月末にまとめた2012年度概算要求で、大学医学部・大学病院における医師の処遇改善や医師の養成に関して、幾つかの注目の新規予算が打ち出された。「医学部・大学病院の教育研究活性化および地域・へき地医療支援人材の確保」、「被災地等の復興に貢献する総合診療医の養成」などだ(予算の資料は、文科省のホームページに掲載)。
「医学部・大学病院の教育研究活性化および地域・へき地医療支援人材の確保」は、勤務医の処遇改善と地域の医師不足解消の「二兎を追う」施策。「大学病院では、予算の不足から非常勤で働く医師も少なくない。こうした医師を常勤で雇用して身分を安定させると同時に、週に1日や2日など、一定の期間は地方の病院に出向き、地域医療を担ってもらう際に人件費を補助する」(文科省高等教育局医学教育課)。 全国の79大学(防衛医科大学を除く)、約5人ずつ、計380人を対象とすることを想定。1人当たりの予算は400万円、計15億2000万円を要求。400万円から、事務経費等を除いた額が、医師の人件費の補充に使われることになる。 大学などから地域の病院への医師派遣については、厚生労働省が2011年度から「地域医療支援センター」を開始している。同事業は、都道府県が実施主体で、地域医療に従事する医師のキャリア形成支援と同時に、医師が不足する病院への医師の派遣調整・あっせん等を行うもの。現在、15カ所で実施されており、大学が同事業の中心となっている地域では、文科省の今回の事業と連携した実施も想定される。


まず最初に疑問なのですが、
「地域医療」の主管は厚労省か?文科省か?
内容の是非以前に、前提の部分で疑問を感じます

まぁそこのところに目をつぶるにしても、「大学病院の予算不足」は文科省の補助金の前に、厚労省の診療報酬制度で議論すべきところでしょう
そして、キャリアのある主力の医師が非常勤扱いされるのは、予算の問題と言うよりは大学の定員や労働環境意識の問題ではないのでしょうか?>労基署よ、仕事しろ!

根本的なところに突っ込みどころ満載なのですが、そこも無視して施策の部分だけ見ても、やはりおかしなことになってます
週に1~2回地域の病院に出向いている医師は、各大学5名だけですか?
今私がいる科だけでも5名以上出てますが…
まさか院内で補助金がもらえる医師を抽選するわけにも行かないでしょう

となると、この金は勤務医個人ではなく病院(まわりまわって本体の大学)に流れることになります
…とうてい、「勤務医の人件費の補充」に使われるとは思えません

それとも、文科省が直接命令できる医師を各大学5名つくると言うことなのでしょうか?
どうにも油断ができない事業です

さて、お次は後半です


総合診療医養成は、全国14大学で
 「被災地等の復興に貢献する総合診療医の養成」は、東日本大震災復旧・復興高等教育振興費の一環。「被災地での医療支援では、総合診療医が活躍し、その必要性が認識された」(文科省高等教育局医学教育課)。総合診療に関する教育、実習にかかる経費への予算として、5億6000万円を要求。1件当たり4000万円、計14件を対象とする予定。全国を7ブロックに分け、各ブロック2大学ずつで行う。医学部のどの学年を対象とするか、また1学年全員、もしくは一部に限定して行うかなど、要綱等は今後、検討する。
震災関連では、「被災者等の心のケアを行う専門医療人の養成」も行う。総合診療医の養成と同様の趣旨で、各ブロック1件ずつ、計7件(7大学)での実施を想定。要求額は、1件当たり4000万円、計2億8000万円だ。
地域医療の担い手養成の一方で、研究医の養成も目指す。それが「基礎・臨床を両輪とした医学教育改革によるグローバルな医師養成」。予算は5億5200万円。(1)医学・医療の高度化の基盤を担う基礎研究医の養成(14件、1件当たり2000万円)、(2)グローバルな医学教育認証に対応した診療参加型臨床実習の充実(20件、1件当たり1060万円)、(3)医学・歯学教育認証制度等の実施(医科1件で1件当たり4000万円、歯科1件で1件当たり2000万円)、の三つの事業を行う。
以上の新規事業のほか、医師の処遇改善の関連では、(1)大学病院人材養成機能強化事業(周産期医療に関わる専門的スタッフの養成、チーム医療推進のための大学病院職員人材養成システムの確立など):2010年度予算23億円⇒2011年度概算要求21億円)、(2)医師事務作業補助者(医療クラーク)等の雇用:2010年度予算21億円⇒2011年度概算要求21億円)、などが要求されている。


医学生を、今から、東日本大震災の被災地に送る総合診療医や精神科医として育成するってことでしょうか?実戦投入は何年後ですか?
それとも、単に総合診療医を増やすための方便なのでしょうか?

後期研修医に補助金を出すとか、初期研修医に総合診療医枠をつくるとかなら理解できるのですが、学生のうちから総合診療医として育てるとか、現状の教育システムとは明らかにコンフリクトしそうなのですが…

これに8億4000万…どうにも、金の使い方がおかしい気がします