2013年2月17日日曜日

奈良県日当直時間外労働訴訟 決着

奈良県の産科医が、日当直とオンコールについて時間外労働として認めるよう求めた訴訟が最高裁までもつれこみ、とうとう決着が出ました。



医師当直は時間外労働…割増賃金命じた判決確定
 奈良県立奈良病院の産婦人科医2人が県を相手取り、夜間・休日の当直勤務に対して割増賃金を支払うよう求めた訴訟で、最高裁第3小法廷(大谷剛彦裁判長)は12日の決定で県側の上告を退けた。 当直は労働基準法上の時間外労働に当たるとして、県に計約1540万円の支払いを命じた1、2審判決が確定した。
 同法は、時間外や休日に労働させた場合、通常より割り増しした賃金を支払うと規定。2人は2004~05年、各年100回以上の当直をこなしたが、県は「医師の当直は待機時間が多く、時間外勤務に当たらない」として、1回2万円の手当だけ支給していた。
 1審・奈良地裁判決は、原告らが当直中に分娩ぶんべんの取り扱いや救急医療を行うなど、勤務時間の4分の1は通常業務に従事し、待機時間も呼び出しに応じられるよう準備していたなどとして、県には割増賃金を支払う義務があると指摘。2審・大阪高裁も支持していた。
(2013年2月13日20時10分  読売新聞)

さて、新聞報道だとどうにも断片的な情報ばかりなのですが、他紙やm3、過去の報道をまとめてみると

奈良県立病院の産科医2名が2004年と2005年の2年分の未払いの時間外手当として、A医師が4427万9189円(2年間で宿日直155日、宅直120日)、B医師が4804万9566円(2年間で宿日直158日、宅直126日)の支払を求めて2006年に提訴。
(1審)
・2009年4月の奈良地裁判決では、2004年10月25日以前は消滅時効期間が過ぎている
・就業規則上は「宿日直」の扱いだが、実態は異なり、労働基準法41条3号の規定の適用除外の範囲を超える(「宿日直」に当たらず、時間外手当の支払い対象となる)
・救急患者や分娩などへの対応など、実際に診療に従事した以外の待機時間も、病院の指揮命令系統下にあることから、時間外手当の支払い対象になる
→2004年10月26日以降の宿日直に対する時間外手当を認め、A医師に736万8598円、B医師に802万8137円を支払うよう、奈良県に命じた。

オンコールについては、宅直勤務時間が「労働者が使用者の指揮命令系統下に置かれている時間」に当たるか否かによるとした。今回については
・産婦人科医の自主的な取り決めである
・奈良病院の内規では、宅直制度について定められていない
・産婦人科医が宅直の当番を決めたが、それは奈良病院に届けられていない
・宿日直医師が宅直医師に連絡を取り、応援要請をしており、奈良病院が命令した根拠はない
→「指揮命令系統下に置かれているとは認められない」と判断した。

(2審)
2010年11月の大阪高裁判決では、原告・被告の控訴のいずれも棄却、奈良地裁判決を支持した。

(3審)
上告受理申し立ての不受理を決定


というわけですが、裁判に詳しくないとわかりにくいと思いますが…ざっくりまとめてみると

地裁:病院が言うところの「日当直」は待機時間も含めて労働基準法では「時間外労働」であり、定額の当直手当ではなく割増賃金を支払うべき。今回のオンコールは病院命令ではなく医師の自主対応であり、病院の指揮系統下でない以上、時間外の支払い義務はなし。
高裁・最高裁:地裁判決は議論の余地なく正論

ということです。
業界的にはとんでもないインパクトの判決なのですが、高裁と最高裁はあっさりとしたものです
これに関しては、2002年に厚労省労働基準局がだした通達…というか、実質的に警告文があるのですよ

医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について


http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/dl/s0303-10a_0009.pdf
宿日直勤務とは、所定労働時間外または休日における勤務の一態様であり、当該労働者の本来業務は処理せず、構内巡視、文書・電話の収受、又は非常事態に備えて待機するものなどであって、状態としてほとんど労働する必要のない勤務である。

というわけで、「日当直か時間外労働か」という議論は、医師の「本来業務」はなにかというので決定されるわけですが…さらに同年に追い打ちがかけられます


医療機関における休日及び夜間勤務の適正化の当面の対応について
http://joshrc.org/files/20021128-001.pdf
宿日直勤務に係る許可基準(抄)

 医療機関において宿日直勤務を行う場合には、下記1及び2の許可基準に定められる事項に適合した労働実態になければなりません。

1 医師及び看護師の宿直勤務に係る許可基準に定められる事項の概要
(1)通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること。即ち通常の勤務時間終了後もなお、通常の勤務態様が継続している間は、勤務から解放されたとはいえないから、その間は時間外労働として取り扱わなければならないこと。
(2)夜間に従事する業務は、一般の宿直業務以外には、病室の定時巡回、異常患者の医師への報告あるいは少数の要注意患者の定時検脈、検温等特殊の措置を要しない軽度の、又は短時間の業務に限ること。従って下記(5)に掲げるような昼間と同態様の業務は含まれないこと。
(3)夜間に充分睡眠がとりうること。 
(4)上記以外に一般の宿直の許可の際の条件を充たしていること。
(5)上記によって宿直の許可が与えられた場合、宿直中に、突発的な事故による応急患者の診療又は入院、急患の死亡、出産等があり、或は医師が看護師等に予め命じた処置を行わしめる等昼間と同様態の労働に従事することが稀にあっても、一般的にみて睡眠が充分にとりうるものである限り宿直の許可を取り消すことなく、その時間について法第三十三条又は第三十六条第一項による時間外労働の手続きをとらしめ、法第三十七条の割増賃金を支払わしめる取扱いをすること。従って、宿直のために泊り込む医師、看護師等の数を宿直の際に担当する患者数との関係あるいは当該病院等に夜間来院する急病患者の発生率との関係等から見て、上記の如き昼間と同態様の労働に従事することが常態であるようなものについては、宿直の許可を与える限りではない。      例えば大病院等において行われる二交代制、三交代制等による夜間勤務者の如きは少人数を以て上記勤務のすべてを受け持つものであるから宿直の許可を与えることはできないものである。(6)小規模の病院、診療所等においては、医師、看護師等が、そこに住み込んでいる場合があ
るが、この場合にはこれを宿直として取り扱う必要はないこと。但し、この場合であっても上記(5)に掲げるような業務に従事するときには、法第三十三条又は法第三十六条第一項
による時間外労働の手続が必要であり、従って第三十七条の割増賃金を支払わなければなら
ないことはいうまでもない。
(7)病院における医師、看護師のように、賃金額が著しい差のある職種の者が、それぞれ責任
度又は職務内容に異にする宿日直を行う場合においては、1回の宿日直手当の最低額は宿日
直につくことの予定されているすべての医師ごと又は看護師ごとにそれぞれ計算した一人一
日平均額の三分の一とすること。

というわけで、「日当直か時間外勤務か」は議論の余地なく定義されてるのですよ?
そして、今回の最高裁判決は事実上、これを追認したことになります

奈良県も、どこかで示談に持ち込んでおけばよかったものを、これで労働基準局通達は最高裁判例となりました
要するに、当直代しか出していない病院は、医師が裁判所に訴えれば、ほぼ自動で勝ちます
グレーゾーンとしては、当直代+診療時間のみ時間外手当支給です。

繰り返しますが、当直代としての定額支給のみでは、アウトです
ちなみに、時給や日給、年俸制でも時間外手当や休日手当は払わなければいけませんからね?
(参考URL:http://www.hou-nattoku.com/consult/1179.php)
中核病院、救急病院、高度医療病院は、春までに対策を発表しないと、撃たれますよ?