2011年12月24日土曜日

診療報酬その後

診療報酬の争いですが、
「診療報酬本体」+1.379%「薬価・材料費」-1.375%=「診療報酬全体」+0.004%
というわけで、綱引きはど真ん中で決着したようです

この決着は、大局的な長期政策ではなく、民主党内部の政治的駆け引きという感じのようです


診療報酬プラス改定「最後は官房長官判断」- 安住財務相
 安住淳財務相は22日の閣議後の記者会見で、2012年度診療報酬改定の改定率が全体(ネット)で0.004%の引き上げで決着したことについて、「最後は(藤村修)官房長官にご判断いただいた。それはやむを得なかった部分もある」と述べた。

この官房長官ですが、まったく名を知らなかったので経歴をみたところ
2009年、ネクスト厚生労働大臣
2010年、菅第1次改造内閣で厚生労働副大臣(大臣は細川律夫)
というわけで、 野田グループではあるものの、立場的には野田内閣と民主党の中継役というところでしょうか
もしかしたらマニフェストの作成に関与していたかも知れません

で、この0.004%の評価ですが、


プラス改定「医療を守っていく姿勢示せた」- 小宮山厚労相
この政権として医療をしっかりと守っていくという姿勢は示せた」と述べた。一方、プラス改定となったことで国民負担が増加することについては、「国民の負担がどういう形でどこに使われて、それが今の医療の体系の維持にどう役立っているかを分かりやすく説明しないといけないが、安心してお産ができるようになったり、小児科医不足が解消したりすることに結び付くことが分かれば、納得していただけると思う」と強調した。

 日医原中会長、プラス改定は「95点」
 日本医師会は22日、緊急記者会見を開き、2012年度診療報酬改定の改定率が全体(ネット)で0.004%の引き上げで決着したことについて、医師の疲弊や地域医療の崩壊を食い止めるものと評価する見解を発表した。同会の原中勝征会長は、「(100点満点で)95点くらい」とプラス改定の実現に高い点数を付けた。
 日医の見解では、「医師の疲弊、産科医療・小児医療・救急医療など、地域医療の崩壊を少なからず食い止めるものと確信している」と診療報酬のプラス改定を評価。

0.004%アップ ネット上の声さまざま- 「財務省を押し返した」「横ばい」
 長妻昭・元厚労相は「今回の改定でもほんの少しプラスになり、医療立て直しの歩みを続けることができた」と評価。山井和則・元厚労政務官も「診療報酬は二回連続、政権交代のあと、ネットプラスとなり、マニフェストを実現できた」。
 厚労省の幹部は「数字の前の符号は大事なんです」と、小宮山洋子厚労相の成果を強調した。


なんつーか、自演乙wって感じです
日医も、原中氏も結局は政権べったりになって、とても専門家集団とは言えない有様です
これに対して、当たり前ですけど、世間の声は冷たいです


 ただ、一般の人たちの書き込みには、「そこまで小数点以下の改定率にするか。辛うじてプラスだけど、四捨五入すればプラマイゼロ?」「企業だとこんなの横ばいと言うんです」といった厳しい意見が目立つ。
 医療系業界誌のある記者は、「プラス改定ともとれれば、プラスマイナスゼロ改定ともとれ、長期収載品の引き下げ分を引けば実質はマイナス改定でもある。どうにでも解釈できる」とつぶやいた。


とまぁ、要は解釈次第でどうともとれる玉虫色の結果です

つーか、+0.004%っていくら増えるのよ?
医療費を40兆円(厚労相発表)として、0.004%っていくら?
ちょっと計算してみましょう
(4*10^13)×(4×10^-5)=16*10^8
16億しかねぇじゃん!


どうみても、横ばい以外のなにものでもないですね

これで「安心のお産」「小児科医不足対策」「地域医療崩壊阻止」ができると?
年末ジョークにしてはきついですねぇ


数字上の解釈はどうあれ、現場の現実はただ1つです
戦線が膠着状態であるならば、戦線維持という言い訳が立ちます
戦線が回復しつつあるならば、彼らが主張する通りでしょう
しかし、前回改訂で医療費を少々増やしたところで、状況は好転しましたか?しませんでしたね?
だって、自民党政権下では社会保障分野は毎年2200億円減ってましたから

この結論は、現在崩壊している戦線に援軍を送らないと言うことです

医療崩壊は、あと2年は続きますね

まぁ、2.3%引き下げを+-0にまで持ち込んだ長妻元厚労大臣には、お疲れ様でしたとは言っておきましょう
でも、ここで「まだ足りない」といえない当たりが、やはり派閥・官僚政治の限界なのでしょう

2011年12月18日日曜日

境界線上の診療報酬

昨今にしては珍しく、与党内でまったく意思統一が図れていない診療報酬のお話

まず、各陣営の現在の立場を明確にしましょう


1.厚労相
「本体切り込みはあり得ない」
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/36225.html
小宮山洋子厚生労働相は16日の閣議後の記者会見で、2012年度診療報酬改定をめぐり来週から始まる閣僚折衝に臨むスタンスについて、「(診療報酬の)本体を切り込むということはあり得ない」と述べ、本体マイナスを主張する財務省をけん制した。
  小宮山厚労相は、診療報酬への基本的な考え方について、「診療報酬は本体と薬価があるが、薬価は下がる。その辺の見合いとかある。政策目的がきちんと達成できるような方向で、厚労省として当然、主張していく。命にかかわることなので、考えは貫いて各方面に説明する」と語った。

2.財務省
診療報酬本体下げ方針「来週も変わらぬ」- 安住財務相、「ネットプラス論外」
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/36227.html
安住淳財務相は16日の閣議後の記者会見で、2012年度診療報酬改定での本体部分の改定率について、「さまざまな社会状況を勘案すれば、プラスにするのは難しい。その考えは来週になっても変わらない」と述べ、来週に予定している小宮山洋子厚生労働相との折衝でも引き下げを主張する方針を示唆した。診療報酬のネット(全体)でのプラス改定については、「論外」との認識を示した。
  安住財務相は、「経済界や労働組合、市町村、中小企業の意見を聞いているが、診療報酬を引き下げるべきだということを皆言っている。国民負担にも直結する」と指摘。さらに、「医療環境を改善するため、わが党もこの1、2年大変努力してきた。経営の改善が見られた病院も数多くある」と述べ、引き下げ方針の正当性を強調した。

3.民主党(座長=長妻昭衆院議員
診療報酬の改定率、「前回以上」を
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/36237.html
決議文は、▽診療報酬本体とネットで、10年度改定を下回らない報酬の引き上げ▽急性期の医療機関への継続的な対応と、在宅療養の充実を目指した中小病院、有床診療所などへの一層の対応▽医薬品産業の成長を阻む要因となる長期収載医薬品の過重な引き下げや、原価割れ問題への対応▽現状の介護報酬水準に加え、介護職員処遇改善交付金分(2%)以上の報酬引き上げ▽7区分に再編される介護報酬の新たな地域区分の見直しについては、現行報酬より引き下がる地域が発生しない対応-の5項目。
厚生労働省との折衝で財務省側は、12年度の診療報酬改定の改定率に関して、本体部分を1%程度、先発医薬品の薬価を10%程度それぞれ引き下げるよう求めており、決議文はこれをけん制したものだ。
梅村聡副座長によると、この日の会合に出席した36人の議員のうち、9割がプラス改定を目指す方向性に賛同したほか、薬価の大幅な引き下げに懸念を示す声も多かったという。
 09年に閣議決定された新成長戦略では、20年度までに医療・介護分野で280万人の新規雇用の創出を掲げているが、報酬の引き下げでは働き手を増やすことが困難なため、プラス改定を目指す方向で一致。野田佳彦首相(当時財務相)自身が党代表選前、「基本的にマイナス(改定)はない」と発言していることから、それを守るよう求める意見もあった。





さて、まず三者の立場ですが、これが少々面白いものとなっています


右派:民主党
左派:財務省
中道右派:厚労省

であり、党と厚労省の本来の位置が逆転しています
というわけで、これだけみると長期目標としては厚労相と民主党は一致しており、党と厚労省は診療報酬引き上げで一致しており、財務省が孤立しているようにも見えますが、発言内容を慎重に見ると、実は孤立しているのは民主党になっています



…と、その前に解説を少し挟みましょう
まず、「診療報酬」には狭義と広義があります

「狭義の診療報酬」はここで言われている「本体」、つまり医行為に対する診療報酬で
「広義の診療報酬」は「医行為+薬価」です


で、ここで本題に戻ります
民主党は「広義の診療報酬=医療費」upを要求していますが、
厚労相は「狭義の診療報酬」keepにしか言及しておらず、「広義の診療報酬」については沈黙によってdownを認めているのです
よって、厚労相と財務省=内閣は診療報酬downで一致していると言えます


実は財務相の発言は「平行線戦術」であり、議論をしていません(故に今回のブログのタイトルとなっていますw)
これは、時間切れによる没交渉を狙う交渉戦術です
…ええ、戦術です。断じて戦略ではありません
これは「議論を行わないこと=時間稼ぎが勝利条件」であるときにのみ使われる必勝戦術です
(ちなみに、今週それを双方意図的にやっているのが野田首相とイ・ミョンバク大統領だったりします)


また、厚労相が用いているのは「前提のすり替えによる誘導」です
狭義において相手と自分は一致しているようにみせて、実は広義においては対立関係であるわけです
要は、詐欺師の戦略です
この状況に陥ると議論はまず平行線となるため、平行戦術の前準備としても使えます
(また、終わらない議論がしばしば発生するのは、意図せずに「前提のすり替え」が行われていて、広義で一致しても狭義で対立していることに気づいていないということがほとんどです)

今回の最低なところは、自民党下の財務省ですら、医療費国亡論という仮説を用いて長期戦略として診療報酬削減を国是としたのに対し、現財務相は来週のことにしか言及せず、長期戦略を盲目にすることで診療報酬削減を目指していることです


これに対する正道は、議論のゴールを相手に要求し続けることで、長妻氏は正解です
ただし、この正道は決着をつけることを双方が求めている場合にしか有効ではありません
財務相と厚労相がやっている議論の拒否は、ディスカッションとしては負けない(ただし勝てない)戦術ではありますが、末期の自民党政権ですら診療報酬upを目指さざるを得ないくらいに疲弊した医療現場に対して、この時間稼ぎは敗北条件以外の何者でもありません
というか、野田内閣は福祉国家として敗北することを勝利条件にしている…としか考えようがありません


結局のところ、この診療報酬の議論は、実は内閣と民主党の対立が1つの形を伴って表面化しただけのモノと言えます
今回は、「官僚政治をぶっ壊す民主党」と「財務官僚主義の首相」の対立と言えるでしょう
最近、鳩山氏や小沢氏が野田首相叩きに急に躍起になっているのをみれば明白ですが、TPPを期に、内閣の親中対米から親米対中路線への切り替えは表面化しました
診療報酬についても、まだ場外戦が発生する可能性があります


ただ、現場の意見として1つ言わせてもらうなら、「医療の充実」を行うのであれば民主党方針しかありえません
医療費というのは軍事費と同じで、相対的に同じレベルを維持するなら自然増するものです
診療報酬を維持するだけでも、国際比較では医療は後退しているのです
診療報酬引き下げともなれば、医療レベルの後退は必至です
そして、一度後退したものを再度引き上げるには、実現不可能と思えるほどのコストを覚悟する必要があります
つまり、診療報酬を引き下げるのであれば、「医療に対してもうなにも求めない」ことが前提として必要であり、それこそ「国民感情」に反するものであります

内閣には、是非ともまず、最終目標を示して頂きたいものです


2011年11月14日月曜日

TPPと医療制度

どうにも情報の混乱している今話題のTPPと混合診療の問題について、少しまとめてみたいと思います
その前にTPPってなによ?というところを整理する必要がありますが、実はこれが難問です


まず、ネットや本屋を漁っても、TPPの条項を引用した上で中立的に分析したものはまったくありません
何せ、基本理念以外なにも決まってないor公開されていない物だから仕方ないかも知れませんが…

経済を専門とする親父殿に聞いても、

「各国ごとにFTA結ぶのめんどくさいから、まとめて一緒にやろうぜ!」

というのが本来の目的であり、参加国の制度まで踏み込むものではない、という程度の情報しかありませんでした
ただ、逆に言えば仮に医療制度にまで踏み込んだ要求をされたところで

「お前のいいたいことはわかった。だが断る!」

で十分であり、TPP加入=混合診療解禁とか保険医療崩壊とかいうのはありえないとのことでした
そういうわけなので、首相が記者会見や国会で

「世界に誇る日本の医療制度、伝統文化、美しい農村は断固として守り抜く決意だ」

と明言したのは十分なジャブで、現時点ではこれ以上の回答はあり得ないでしょう
(守るのは農業じゃなくて農村かよという突っ込みはこの際スルーします)


ただ、業界そのものが経営危機にある米国の先発薬メーカーは、TPPに乗じたロビー活動を展開しているのは事実で、各国に対し先発薬の知的財産保護とジェネリック抑制を要求しており、ニュージーランドとオーストラリアは防戦に回っているようです
http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=1742044

しかし、これはTPPを避けたからと言って逃げられる問題ではありません
また、国際的な特許争いはIT業界では日常茶飯事であることを考えれば、医薬品の特許争いが起きることも避けられないでしょう
先発やメーカーとジェネリックメーカーが、さながらAppleとSamsungのような訴訟合戦を起こす日が来るかもしれませんが、むしろTPPに参加することによって各国でスクラムを組んでアメリカに対抗することができるかも知れません

また、仮に米国の要求を部分的にでも呑むことになったとしても、これで変わるのは薬価制度です
薬に関税がどれだけかかってるかは知りませんが…まぁ医療費は上がるでしょうが、だからといって即、混合診療解禁というのは言いすぎです
実際、メリケンからしても、金持ちしか使えない薬を売るより、公的保険でみんなに使ってもらった方が売れますからねぇ…
医療費が上限まで来たところで、はじめて高負担高福祉にして高額療養費制度を拡充するのか、低負担低福祉の混合診療にするのかという議論が出てくるはずです

むしろ、今回は将来の日本の医療制度をどう設計するのかを議論するいい機会であり、平和憲法のごとく国民皆保険万歳というのは、間違いだと思います


TPPで直接的に問題になるのは、医療制度そのものよりもドラッグ・ラグ、デバイス・ラグでしょう
医療界のお偉方には、この機に乗じてこの問題を解決するぐらいの気概が欲しいものです


また、TPPとなると就労移民も問題となるという人もいますが、
これに関して、日本への流入は、良くも悪くも心配する必要はありません
労働時間と給与から考えて日本に来るうまみが全くなく、また既にEPAで日本に来ている東南アジアの看護師を見る限りでは、日本語の壁は想像以上に分厚いことは容易に想像できます。まして医師ともなればその比でないことは明白です


で、結局のところ、TPPで医療のなにが変わりそうかというと…たぶん、なにも現場的には変わりません
薬価や認可制度の変更はあり得そうですが、それ以上はTPPが肥大化しすぎます
文化や経済規模の近い陸続きのEUですら医療制度の統一はできませんでした
先進国から途上国、資本主義から社会主義までそろった北米と南米とオーストラリアとニュージーランドと東南アジアと日本がいるTPPで、まとめようがありません

2011年10月29日土曜日

マッチング2011と地域枠の行方

毎年恒例の初期研修医のマッチングが出ました
そろそろ地域枠の卒業者が出てくるはずですが、まだ数が少なかった時代のようでマッチング参加者自体は微減しています

また、県別に見ると被災した宮城、福島はもとより、東北の被災県よりも首都圏が激減しています
東京の40人減はまだしも、埼玉の20人減はクリティカルではないかと思うのですが、これも震災の影響でしょうか?
他の大都市圏でも減少が見られていますが、こちらは定員が減らされたせいもありそうです

軒並み上昇しているのは、日本中央部の山岳部と、九州ですね
大地震が少ない地域に固まっているのは、やはり地震のせいかもしれません
例年なら大都市に留まるメンバーが実家に帰ったのでしょうか?
http://www.jrmp.jp/koho/2011/2011kekka_koho.pdf


一方で、大学と地方で分けると、大学の減少は昨年以上です



研修医マッチング、進む大学病院離れ- 今年度の内定結果公表
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/35842.html

 医学生らの来年度からの臨床研修先を内定する今年度の研修医マッチング結果によると、大学病院に内定した人が占める割合は47.1%(前年度比0.8ポイント減)で、マッチングを開始した2003年度以降、最も低かった昨年度を下回り、過去最低を更新した。内定結果は、医師臨床研修マッチング協議会が10月27日に公表した。
 今年度のマッチングに登録した医学生ら8225人のうち、内定したのは7951人で、内定率は96.7%(0.7%ポイント増)。マッチングに参加した大学病院は115施設(1施設増)、基幹型臨床研修病院は906施設(9施設減)だが、内定者は大学病院が3746人(82人減)、基幹型臨床研修病院が4205人(35人増)だった。
 内定者数を都道府県別に見ると、「都市部」の6都府県では、前年度から1人増えた福岡の439人を除き、東京1369人(40人減)、神奈川577人(2人減)、愛知460人(29人減)、京都244人(21人減)、大阪612人(12人減)と軒並み減少。都市部以外の内定者が全体に占める割合は53.5%(1.1ポイント増)で、前年度に引き続き過去最高を更新した。
 内定者が前年度より増えたのは21道県で、増加数が最も多かったのは宮崎。前年度の30人から倍増の61人が内定した。厚生労働省の担当者は「病院のプログラムが評価を受けたのではないか」としている。
 研修医マッチングは、次年度から臨床研修を受ける医学生らと、研修病院のそれぞれの希望を事前に登録し、コンピューターで組み合わせるもの。双方の希望が一致すると内定先が決まる。今年度は9月15日-10月13日、希望の登録を受け付けた。今年度の研修医マッチングに参加した大学病院・基幹型臨床研修病院は1021施設だったが、来年度に臨床研修を実施するのは1026施設あり、研修医マッチングによらない方法で研修医を採用する病院もある。

■被災3県は軒並み内定者減
 宮城は、来年度の臨床研修の募集定員を前年度比19人増の173人に設定し、研修医マッチングでは170人分の内定枠を設けていた。しかし、内定したのは98人で、前年度比12人の減。岩手と福島の内定者は、それぞれ67人(3人減)と61人(17人減)で、東日本大震災で被害の大きかった3県の内定者数は、軒並み前年度を下回った。
 一方、東北地方で唯一内定者数が増加した秋田は、16人増の67人だった。


初期研修を行う意味をきちんと説明できず、明確に違法な労働状況を放置する大学を忌避する姿勢は明確に定着しました

これから来る定員増の世代が増えれば、割合としては減少しても絶対数自体は大学が増えるかも知れません
しかし、人的資源を相対的に喪失しつつある大学に、本来の役割を果たす能力が残るとはとうてい思えません

また、大学別のランキングを見ても黎明期の5年間とはまた違った流れができつつあるようです
印象としては、首都圏の私大は自学者の残存率を高めてマッチング率を上げています
一方でフルマッチの常連だった順天堂はその座を慈恵に譲っています
慶応も中堅が板についてしまった感じですね…
ブランドだけではない、中身のある大学改革を行えるかが今後の試金石になりそうです


ところで、先日の社会保障審議会で少々気になる会話が漏れ出しています



地域医療支援センターへの異論相次ぐ

 27日の会議ではそのほか、医療提供体制のうち、地域医療支援センターや在宅医療、療養病床について議論。
 地域医療支援センターとは、医師不足対策として厚労省が2011年度から予算化した事業。都道府県が「コントロールタワー」となり、地元大学や地域の医療機関と協力しながら、医師確保、医療機関への医師派遣などを行う事業。現在、9県で先行的に行われている。厚労省は、この地域医療支援センターを医療計画に位置付け、都道府県が責任を持って医師不足解消に取り組む体制を提案。
 だが、この案については、様々な視点から異論が続出。邉見氏は、「そろそろ都道府県に丸投げするのではなく、国が直接、実施しなければいけない。この10年、幾つかの取り組みがあったが、医師の地域偏在も診療科偏在も解決していない。マッチング的な強制的な取り組みなどを検討しないと、地域や診療科の偏在は一向に改善しない」と述べ、国の関与を求めた。
 中川氏は、各県の地域医療支援センターの多くが、数名程度の医師の派遣等にとどまっている現状を指摘、「ほとんど効果がなかったと読める。地域医療支援センターは、(行政の)自己満足ではないか。派遣する医師もいないセンターが機能するのか。根本的なことも議論してもらいたい。医師は、臨床研修を行った地域に残るケースが多い。研修の希望者と募集人数をほぼ一致させることが偏在解消策の一つ」とした上で、「医師不足の問題については、医学部教育、医師国家試験、臨床研修などを総合的に議論すべき」と指摘した。
 これに対し、厚労省医政局指導課長の井上誠一氏は、「この事業は今年度から始まったばかり。また各大学の地域枠の医学生が卒業するのは先のことであり、今後の取り組みをぜひ見てもらいたい」と弁明した。
 東京大学大学院教授の永井良三氏も、「若い医師の専門医志向があり、また今の日本の医療は多くの専門医を集めないと成り立たなくなっている。こうした点を根本的に変えていかなければいけない。そもそも今の専門医の養成の仕方でいいかという問題もある。地域ごとに専門医を養成していくなど、様々な問題を国レベルで考えるべき」と、総合的な検討が必要だとした。


地域医療支援センターの法的な立場はまだはっきりとしていませんが、他の医療者の発言に対して、厚労省の回答は明らかに浮いています
要するに、地方が若手医師に嫌われる根本原因には一切触れる気はなく、地域枠卒業者が増えれば自然と地域医療支援センターの参加医師は増え、医師不足は解消されるという考えととれますが、現時点ではそれを担保するネタはありません
これが脳内お花畑の妄想なのか、何らかのバックグラウンドとなる密約があるのかは現時点では想像することしかできませんが、マッチングで地方大の一人負けが続けば、大学の身売りもあり得るでしょう

2011年10月16日日曜日

文科省 2012年度概算要求


重症&急患ラッシュでしばらく休んでしまいましたが、再開します
来年度の概算要求で、文科省が不思議なことをしているようです

まず前半部からですが、正直よくわからないことになってます



文科省の2012年度概算要求で新規事業 
文部科学省が9月末にまとめた2012年度概算要求で、大学医学部・大学病院における医師の処遇改善や医師の養成に関して、幾つかの注目の新規予算が打ち出された。「医学部・大学病院の教育研究活性化および地域・へき地医療支援人材の確保」、「被災地等の復興に貢献する総合診療医の養成」などだ(予算の資料は、文科省のホームページに掲載)。
「医学部・大学病院の教育研究活性化および地域・へき地医療支援人材の確保」は、勤務医の処遇改善と地域の医師不足解消の「二兎を追う」施策。「大学病院では、予算の不足から非常勤で働く医師も少なくない。こうした医師を常勤で雇用して身分を安定させると同時に、週に1日や2日など、一定の期間は地方の病院に出向き、地域医療を担ってもらう際に人件費を補助する」(文科省高等教育局医学教育課)。 全国の79大学(防衛医科大学を除く)、約5人ずつ、計380人を対象とすることを想定。1人当たりの予算は400万円、計15億2000万円を要求。400万円から、事務経費等を除いた額が、医師の人件費の補充に使われることになる。 大学などから地域の病院への医師派遣については、厚生労働省が2011年度から「地域医療支援センター」を開始している。同事業は、都道府県が実施主体で、地域医療に従事する医師のキャリア形成支援と同時に、医師が不足する病院への医師の派遣調整・あっせん等を行うもの。現在、15カ所で実施されており、大学が同事業の中心となっている地域では、文科省の今回の事業と連携した実施も想定される。


まず最初に疑問なのですが、
「地域医療」の主管は厚労省か?文科省か?
内容の是非以前に、前提の部分で疑問を感じます

まぁそこのところに目をつぶるにしても、「大学病院の予算不足」は文科省の補助金の前に、厚労省の診療報酬制度で議論すべきところでしょう
そして、キャリアのある主力の医師が非常勤扱いされるのは、予算の問題と言うよりは大学の定員や労働環境意識の問題ではないのでしょうか?>労基署よ、仕事しろ!

根本的なところに突っ込みどころ満載なのですが、そこも無視して施策の部分だけ見ても、やはりおかしなことになってます
週に1~2回地域の病院に出向いている医師は、各大学5名だけですか?
今私がいる科だけでも5名以上出てますが…
まさか院内で補助金がもらえる医師を抽選するわけにも行かないでしょう

となると、この金は勤務医個人ではなく病院(まわりまわって本体の大学)に流れることになります
…とうてい、「勤務医の人件費の補充」に使われるとは思えません

それとも、文科省が直接命令できる医師を各大学5名つくると言うことなのでしょうか?
どうにも油断ができない事業です

さて、お次は後半です


総合診療医養成は、全国14大学で
 「被災地等の復興に貢献する総合診療医の養成」は、東日本大震災復旧・復興高等教育振興費の一環。「被災地での医療支援では、総合診療医が活躍し、その必要性が認識された」(文科省高等教育局医学教育課)。総合診療に関する教育、実習にかかる経費への予算として、5億6000万円を要求。1件当たり4000万円、計14件を対象とする予定。全国を7ブロックに分け、各ブロック2大学ずつで行う。医学部のどの学年を対象とするか、また1学年全員、もしくは一部に限定して行うかなど、要綱等は今後、検討する。
震災関連では、「被災者等の心のケアを行う専門医療人の養成」も行う。総合診療医の養成と同様の趣旨で、各ブロック1件ずつ、計7件(7大学)での実施を想定。要求額は、1件当たり4000万円、計2億8000万円だ。
地域医療の担い手養成の一方で、研究医の養成も目指す。それが「基礎・臨床を両輪とした医学教育改革によるグローバルな医師養成」。予算は5億5200万円。(1)医学・医療の高度化の基盤を担う基礎研究医の養成(14件、1件当たり2000万円)、(2)グローバルな医学教育認証に対応した診療参加型臨床実習の充実(20件、1件当たり1060万円)、(3)医学・歯学教育認証制度等の実施(医科1件で1件当たり4000万円、歯科1件で1件当たり2000万円)、の三つの事業を行う。
以上の新規事業のほか、医師の処遇改善の関連では、(1)大学病院人材養成機能強化事業(周産期医療に関わる専門的スタッフの養成、チーム医療推進のための大学病院職員人材養成システムの確立など):2010年度予算23億円⇒2011年度概算要求21億円)、(2)医師事務作業補助者(医療クラーク)等の雇用:2010年度予算21億円⇒2011年度概算要求21億円)、などが要求されている。


医学生を、今から、東日本大震災の被災地に送る総合診療医や精神科医として育成するってことでしょうか?実戦投入は何年後ですか?
それとも、単に総合診療医を増やすための方便なのでしょうか?

後期研修医に補助金を出すとか、初期研修医に総合診療医枠をつくるとかなら理解できるのですが、学生のうちから総合診療医として育てるとか、現状の教育システムとは明らかにコンフリクトしそうなのですが…

これに8億4000万…どうにも、金の使い方がおかしい気がします

2011年9月19日月曜日

日大練馬 その後

日大練馬の後継が決まったようです



日大練馬光が丘病院の後継は地域医療振興協会
 練馬区は9月16日、区議会の医療・高齢者特別委員会を開催し、日大が来年3月末での運営撤退を表明している練馬光が丘病院(一般病床342床)の後継法人として、公益社団法人地域医療振興協会を選定したことを公表した(関連記事:2011.9.8「日大が練馬の病院から撤退」)。区は今後、病院引き継ぎに関する協議会を設置して詳細を詰めていく方針だ。
 同病院は1991年の開設以来、一貫して支出超過が続いて2010年度の累積損失は90億円弱に達していたことから、日大本部が「この状態が続けば学校法人自体の存続も危うくなる」(広報課)と考えて撤退を表明していた。これを受けて練馬区は8月1日に後継法人の公募を開始。4法人が応募したが、運営方針などをまとめた提案書を提出する段階で2法人に絞られていた。その後、医療関係者や有識者で構成される選定委員会が2回にわたって審査した。
 その結果、(1)多数の自治体病院の運営を受託している、(2)運営を担っている東京北社会保険病院の分娩や救急受け入れの件数が練馬光が丘病院と同水準である、(3)小児・周産期医療を継続するために必要な医師数が提示されている―といった理由から、地域医療振興協会が後継法人に選ばれた。ただし、撤退の意思や引き継ぎ時の協力について、区が日大に確認することを求める付帯意見も付された。
 選定委員会の付帯意見を受けて区は9月14日に日大本部と直接話し合い、撤退方針に変更はないこと、現在の患者について責任を持って支援することなどを確認したという。最終的に区長の志村豊志郎氏が後継法人を決定した。
 16日の医療・高齢者特別委員会では、地域医療振興協会が常勤の小児科医15人、産科医5人を確保し、練馬光が丘病院と同じ水準の小児科・産科医療を確保する意向であることが示された。
十分な医師・看護師を確保できるのか危惧 練馬区が後継法人を選定したのを受けて同日、「日大光が丘病院の存続を求める区民の会」は会見を開き、地域医療振興協会の運営で従来の医療水準を維持できるのか懸念を示した(関連記事:2011.9.9「撤退表明の日大練馬光が丘病院、地域住民が日大の継続運営求める」)。
 その理由として、(1)同協会はへき地医療を中心とした地域医療の振興のために設立された法人で、日大が提供してきた高度医療の実施は本来的な役割に沿ったものとは言いがたいこと、(2)ここ数年間で急激に運営医療機関を増やしているほか、来年4月から新たに浦安市川医療センターや三重県立志摩病院などの運営を開始する予定で、その状況下で光が丘病院においても十分な医師・看護師が本当に確保できるのか危惧されること、(3)実際に、スタッフ確保がままならず医療機能の後退が深刻になっている運営病院があること―などを挙げた。
 さらに、練馬区が一度も住民説明会を開いておらず、今回の後継法人選定の詳細ないきさつも明らかにしていないことへの不満も示した。同会は引き続き日大による運営継続を求め、同大に撤退方針を白紙に戻すよう要求していく考えだ。


さて、まぁ区民の会の過大な要求は置いておいて
(もともと自治体病院だし、区内に大学病院が2つも必要か?)

最近よく名前を聞く、「地域医療振興協会」ですが、文字通り地域医療を目的とする公益社団法人の様です
自治医大OBによりつくられた組織のようで、会長は現職の自治医大学長です
業務内容的には…済生会や赤十字に近いのでしょうかね。約50の病院・診療所を運営しているようです。病院は20ですね
自治医大の関連病院としてみると、かなり大規模ですね


首都圏の直営病院としては、来年オープンする浦安市川医療センター(344床)と並んで練馬が2つめとなるのですが
(浦安に続いて練馬って…この協会は順天堂に対抗心でもあるんでしょうか?)

協会が擁する医師数は研修医含め590人で、常勤の小児科医15人、産科医5人とか、はたして言うだけの医師数を実際にそろえられるのかは同業からみても疑問が残ります
小児科医15人って、地方医大の病棟医並の数だと思うのですが、そんな簡単に集まるなら医療なんて崩壊してないと思ってしまいますが…

来年の以降までに半年ほどしかないのですが、それまでに再び紙面を賑わすことがないよう願うばかりです

2011年9月14日水曜日

日大の変

30年後のための根本的な医療改革のためには大学病院が3つくらいはつぶれる必要があるのではないかと考え始めてるこのごろですが、なんと真っ先に東京から火が上がりました


切り捨てられた地域医療:日大練馬光が丘病院撤退
http://mainichi.jp/area/tokyo/news/20110906ddlk13040295000c.html

◇民法盾、強引に舵切る 「理事会判断」説得力欠く
日本大学(千代田区)が7月、地域の中核病院の役割を担ってきた医学部付属練馬光が丘病院(練馬区)の事業から今年度末で撤退すると表明し、地元が揺れている。区は後継病院を募集し選定を進めているが、病院選定や引き継ぎの混乱なども予想され、医療サービスの停滞が懸念されている。都心で進行する「医療危機」の現場を探った。【吉住遊】
昨年2月、練馬区の区長応接室。日大の総務部長ら8人が、当時の副区長をはじめとした担当者と向き合っていた。その半月前には日大からの要請を受け、区が病院の経営支援を決定したと通知したばかりだった。区側の関係者の一人は「支援の打ち合わせかと思っていた」と振り返る。だが、総務部長が口を開くと区側は言葉を失った。「病院からの撤退を含めた検討をしている」。そして、こう続けた。「理事会の判断です」

病院を開院するに当たり、土地と建物を所有する区と日大は「(病院の)賃貸の期間は91年4月から30年間」とし、日大が地域医療の充実を図るという協定書や契約書を交わしていた。区は病棟を改修したり土地や建物の使用料約3億円を免除・減免する支援を約束。だが病院は、毎年平均4・5億円の赤字を計上し続ける。この状況に、理事会は09年11月、「賃貸借は20年が限度」との民法の規定を持ち出し、半ば強引に「撤退」に舵(かじ)を切ったとみられる。
両者はその後も20回近くの協議を重ねるが不調に終わる。「最後通牒(つうちょう)」は今年7月4日。大学側の代理人を務める弁護士名で志村豊志郎区長あてに「9月10日までに引き継ぐべき医療機関」を求める封書が届く。医学部や病院職員に大学から連絡があったのは、その後だった。


「一体、何があったのか? 日大が一方的に契約を打ち切るのは理解できない」
8月16日、区内のホールであった区民集会で、区民の会の代表を務める男性が声を上げた。病院の存続を求めて急きょ開催が決まった集会には、会場いっぱいとなる約250人が押し寄せた。
病院関係者によると、同病院の赤字は経営改善に加え、10年4月には医療報酬の引き上げもあり、10年度は約1億円まで減少していた。11年度は4~6月で前年同期比で1億5000万円以上の増益を確保し、開院後初めて通年で黒字に転じる見通しだったのだ。だが「撤退」の方向性が示されて以降、大学の理事会で病院の財務状況が顧みられることはなかった。
大学の一方的な決定に医学部からも反対の声が上がっている。系列の駿河台日大病院で小児科の総医局長を務める斎藤宏助教(36)は、病院存続を求め、区や大学に訴えてきた。斎藤助教はこう憤る。
「医師会も区民も医学部も、誰もが病院の存続を望んでいる。こんな簡単に地域医療がないがしろにされていいのでしょうか」
大学側は取材に「病院が黒字に転じても医療報酬の改定、自治体の支援など、不安定要素が存在するため、経営資源をほかの二つの付属病院に集中する方針に変更ありません」とコメントしている。
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■ことば
◇日大医学部付属練馬光が丘病院
経営不振に陥った練馬区医師会立光が丘総合病院を日大が引き継ぎ、91年に開院。心臓循環器や脳卒中の専門医療に加え、小児、周産期、救急の分野で地域との連携を進めるなどし、中核医療機関として機能してきた。18の診療科があり、ベッド数は342。常勤の医師約120人、看護師約300人を抱える。区内の200床以上の病院はほかに、順天堂大医学部付属練馬病院と練馬総合病院がある。
〔都内版〕


というわけで現在、大炎上中のようです
ヒートアップする区民をよそにほとんど沈黙を続ける日大ですが、ことは日大全体の信用問題にもなるだけに、この対応はあまりに強硬でリスキーです
しかしそうであるが故に、私はこれを、メディアで騒がれているような単純な経営問題ととらえるのは違うような気がしています

というのも、実は同時期に他の付属病院のも動きがあり、これは練馬単独の問題ではなく、日大付属病院全体の戦略の一つでしかないと考えられるからです


【東京】日本の中枢担う千代田区から高度な災害拠点病院消滅の波紋
http://diamond.jp/articles/-/13888 

 国会や官庁のお膝元である東京都千代田区に同様が広がっている。東日本大震災が発生したにもかかわらず、重篤な患者に対応する災害拠点病院が区内からなくなってしまうことが判明したからだ。
 この病院は、心肺停止など集中治療室での治療を要するような重篤な患者に、高度な医療を提供する3次救急施設として活動してきた駿河台日本大学病院(救急救命センター)。3次救急に対応する東京都災害拠点病院としては区内で唯一の受け皿となってきた。
 それが、2014年に近隣に新病院を建設、移転するのに伴って、3次救急から撤退する方針を固めた模様なのだ。
 日本大学本部は「現段階は病院機能を検討中のため、コメントは差し控えます」とする。しかし今年7月、地元の町内会や大学、企業の代表者ら約30名を集 めて開いた「神田駿河台まちづくり協議会」の席上で日大は「(入院・手術に対応する)2次救急の病院となる。3次救急だと施設基準などが厳しい」と、すで に撤退の理由まで明らかにしている。
 これに対し地元は猛反発。今後も話し合いは続くが、「いずれ千代田区は東京都に、地元医師会は都医師会に対して存続に向けた要望書を出す予定」(関係者)。
 新病院の開設にあたっては、都の許可が欠かせないだけに、ある病院関係者は「都の審議が紛糾するのは必至」と見通す。
 日本の中枢昨日を担っている千代田区から、大災害など救急時の”最後の砦”が姿を消しかねない事態。関係者は、事の行方を固唾をのんで見守っている(週刊ダイヤモンド』委嘱記者 内村敬)



【東京】日大、御茶ノ水に新病院 14年秋開設 耐震強化、床面積2倍
 日経新聞 2011/8/11
 日本大学(東京・千代田)は2014年秋にも、御茶ノ水駅近くに同大付属の新病院を開設する=写真は完成予想図。築50年近くを経過した駿河台日本大学 病院を移転するかたちで、地上11階・地下2階のビルを建てる。首都直下型地震に備え耐震性を強化するほか、病床当たりの床面積を2倍とし医療の質の向上 を狙う。診療部門では脳疾患、心臓病などの生活習慣病への対策に重点を置く。
 法科大学院の校舎などがあるお茶の水キャンパスの一部に新病院を建設する。来年4月に着工する予定。総事業費は公表していない。
 病院の延べ床面積は約3万平方メートル。病床数は現在の約410床から約320床に減らす。1床当たりの床面積は現在は約37平方メートルだが、新病院 は約80平方メートルに拡大し、一定の広さが必要な救急医療などに備える。病床数の減少はベッドの稼働率向上でカバーする考え。
 06年度実績で1日の外来患者数は約1200人。都心部で働く人や住民の需要に合わせて、予防医療や人間ドックなどに力を入れる。具体的な診療科目は未定だが産科医療は廃止する方向だ。
首都直下型地震に備えて自家発電装置を備えるほか太陽光発電のパネルなども設ける。食料や飲料水も備蓄し、周辺のオフィスや教育機関からの一時避難にも備える。
 日大は板橋区内や練馬区内にも付属病院を持っている。練馬区の練馬光が丘病院は12年3月末に運営から撤退する方針を決めている。



全体としてみると、不採算部門撤退、戦線縮小、機能特化という標準的かつ冷酷な経営戦略であることがわかります

また、気になるのは、練馬のスタッフがどこに行くかです
残念ながら「中の人」に知り合いがいないので想像でしかありませんが、普通に考えると他の付属病院に再配置されると思われます
であるなら、これは戦力の集中化であり、「医師過剰」と評される東京のド真ん中の日大が深刻な医師不足にあることになり、問題の本質が変わってきます
実際、撤退を決めた練馬の説明文にそれを思わせる一文があります



日本大学医学部付属練馬光が丘病院の運営終了について
http://www.med.nihon-u.ac.jp/hospital/hikari/news/20110719160951.html 
2011/07/19
 日本大学では,医学部付属練馬光が丘病院の運営を平成24年3月をもって終了することに決定し,同病院建物の所有者である練馬区と,新たな医療機関に病院事業を引き継ぐ方向で昨年より話し合いを進めてきました。
この度,運営終了に関する話し合いの内容の公表につき練馬区の同意を得ましたので,下記のとおりご報告いたします。


1 契約期間の満了
日本大学は,経営破たんした練馬区医師会立光が丘総合病院の後を受けて,平成3年4月に医学部付属練馬光が丘病院として診療を開始いたしました。以来20年間にわたり練馬区を中心とした地域の皆さまにご利用いただき,救急医療,周産期医療,小児医療,心疾患等の高度医療にも力を入れ,地域医療の中核的役割を担ってまいりましたが,本学と練馬区との間で平成3年4月1日に締結した基本協定および公有財産貸付契約の賃貸借関係は,平成23年3月31日に終了いたしました。しかし,本学は新たな引き継ぎ先の医療機関を探している練馬区からの強い要請を受け,地域の皆さまにご迷惑をお掛けしないよう,病院運営の終了を1年間延長いたしました。また,本学は,昨年から始めている練馬区との話し合いに,現在も積極的に協力しております。 

2 患者さまの安全と安心のために
引き継ぎ医療機関が決まり次第,円滑に引き継ぎを行うのは当然のことですが,受診中の患者さまの生命や安全を第一に考え,患者さまにご安心いただけるよう本学付属板橋病院や付属駿河台病院,更に他の関連病院と連携を図るなど,責任を持って患者さまのサポートをさせていただきます。 

3 地域医療充実を目指し倒れる医師も…
本学練馬光が丘病院が経営破たんした医師会立病院から引き継いだ病院棟は,建物そのものが大学病院仕様ではないことから診療効率が悪く,また,医療機器などの設備面も老朽化が進んでおります。しかし,練馬光が丘病院では,患者さまに少しでも高度な医療ときめ細やかな診療,看護などの医療サービスの提供を心がけてまいりました。  さらに地域医療充実のため,日夜病院運営に心血を注ぎ,診療中倒れる医師が出るほど懸命の努力をし,さらに経費削減のため様々な方策も断行してまいりました。  そのような努力にもかかわらず練馬光が丘病院は,開設以来,長期にわたって支出超過の状態が続いているのが現状です。これまでの収支の差額の累計は約マイナス90億円,開設時に練馬区に差し入れた無利息の保証金50億円と併せると現時点での日本大学の負担は,約140億円にものぼります。このままの状態が続くと練馬光が丘病院だけでなく学校法人日本大学そのものが経営破たんということにもなりかねない状況です。本学はこのような状況でも地域医療充実のため努力してまいりました。 

4 入院・外来診療に関するお問い合わせ
日本大学医学部付属練馬光が丘病院庶務課
 電話:03-3979-3611(代表)



流石にこんな事で嘘はつかないでしょうから、労災が起きたと予想されます

…そういえば、日大って2006年に初期研修医が過労(週72.8時間勤務。つまりウチの大学の研修医と同程度)から鬱になり自殺者が出ていましたね
特に労基署に踏み込まれたという噂は聞いた覚えがありませんが、経営問題だけでなく、労働環境も今回の戦線縮小に影響している可能性が考えられます





ところで今回のテーマからは完全に余談になるのですが、練馬撤退報道を受けての区民の行動は失望以外のなにものでもありません



日大の撤退は「区民の命をないがしろに」- 光が丘病院の存続求める区民の会 

  「日大光が丘病院の存続を求める区民の会」の小園井智代代表らは9月8日、東京都庁で記者会見を開き、日大が来年3月末で練馬光が丘病院(練馬区)の運営からの撤退を表明している問題について、「日大と練馬区の態度は、わたしたち区民の命をないがしろにしている」「地域医療、特に小児医療の機能を低下させるもので、断固認めることはできない」などと訴えた。
  この問題をめぐっては区が8月、日大に代わる運営法人の募集を開始。名乗りを上げた4法人のうち、2法人が運営方針などをまとめた企画提案書を提出している。区の選定委員会は、12日に両法人の最終審査を行う方針を示している。
区民の会の神津眞久事務局長は、同病院は十分に持続可能な経営体質と、区民の生活に不可欠な機能を持っていることなどから、「撤退は認められない」と強調した。また、区が撤退を認めて後継法人の募集を開始したことについては、「区民抜きで、区民にとって極めて重要な地域医療の改悪を進める点で、住民自治の精神に反し、許されない行為だ」と批判。その上で、日大への適切な指導・監督を直ちに行うとともに、契約関係の継続を確認すべきと主張した。
神津氏はまた、後継法人に求められる条件に、小児科医療に携わる医師数などの具体的な数字がなく、日大が従来行ってきた医療の水準が維持されることはほとんど期待できないとの懸念を表明。「医療水準が維持されることが確認できるまでは、日大の撤退を許可しない。それが今、区が果たさなければならない責任だ」と強調した。
また、区民の会の小山謙一氏は、区に対する住民監査請求の準備と、後継法人の選定にかかわる記録などの情報公開の要請を今後、行っていく考えを示した。
監査請求の時期については、「区と日大が翻意すれば、しばらく猶予することになる。現状では、早い機会に行われる可能性が高い」と述べた。



この区民の会の人がどれだけ偉いのかは知りませんが、恫喝でどうにかなると考えているなら社会人失格だと思います

意趣返しをするなら、「練馬区民の会の態度は、私たち医師の命をないがしろにしている」「医療者のQOLを低下させるもので、断固認めることはできない」となるでしょうか?(笑

仮にこれで病院が残ったところで、こんな、病院を区民の奴隷と考えているような人たちのいる地域に望んで赴任する医師はいないでしょうよ
柏原病院がなぜ生き残れたのか、そこから勉強してくるべきでしょうね

そもそも、日大は私企業であり、経営陣は職員の生命と生活を守る義務があります

日大の本心がどこにあるのかはまだ明らかにされていませんが、これから起きる首都圏の超高齢化。国が画策している医師の地方への強制配置、研修医定員減を計算に入れているなら、10年単位で先を見越した大英断になるでしょう

2011年9月3日土曜日

新大臣誕生

首相交代に伴い、厚労省大臣も交代しました
副大臣からの昇格とのことですが、正直言って副大臣としてのこの人の活躍はまったく記憶にありません
はたしてどんな人物なのか、少し追ってみましょう


http://ja.wikipedia.org/wiki/小宮山洋子
 小宮山 洋子(こみやま ようこ、旧姓加藤、1948年9月17日 - )は日本の政治家、元アナウンサー。民主党所属の衆議院議員(4期)。厚生労働大臣(第14代)。
厚生労働副大臣(菅第1次改造内閣)、民主党財務委員長、参議院議員(1期)を歴任。
元NHK解説委員・アナウンサー。元東京大学総長の加藤一郎は実父。

元NHK解説員とは、弁論は他の政治家よりは手強そうです


…と思いきや、早々に失言をかましてくれそうな予感



政策・主張
政治的には進歩的・左派的な傾向が強く、1999年8月、参院本会議の国旗・国歌法に反対し、また、民法改正による選択的夫婦別姓導入に積極的な立場である。
1999年、日本の戦争責任資料センター代表の荒井信一が主催する「恒久平和調査局設置を求める院内集会」に参加。
禁煙行政に力を注いでおり、超党派による禁煙推進議員連盟の事務局長を務めた。「たばこ増税」にも積極的な立場であり、「日本のたばこの価格は安すぎる。少なくとも倍か、それ以上にしたい」として、たばこの価格を欧米並みの一箱1,000円程度にするべきと主張しており、税収の増加分に関しては「健康や福祉に還元していきたい」としている。
在日外国人への参政権付与の推進者であり、大韓民国民団中央本部アンケートによると、日本で外国人参政権が実現しない理由については「日本人は日本国の国民とは日本人のことという意識が強いため」と主張している。2008年1月には、在日韓国人等に参政権を付与することを目的とする在日韓国人をはじめとする永住外国人住民の法的地位向上を推進する議員連盟に参加した。
2009年3月、小沢一郎党代表が政治資金規正法違反疑惑後も代表続投を表明したことに対し、「政権交代のための態勢をとることが第一だ。本当はここでお引きいただくのがいい。お詫びや言い訳をしながらでは厳しい選挙を勝てるとは思えない」と主張、民主党内で初めて公然と小沢の辞任を要求した。
民主党が政権交代以前に策定していた「次の内閣」では、党代表の遷移毎に「ネクスト文部科学大臣」や「ネクスト子ども・男女共同参画・人権・消費者担当大臣」、「ネクスト法務大臣」、「ネクスト環境大臣」のポストに名前が挙げられていたが、政権交代後の実際の鳩山由紀夫内閣では小宮山の入閣は実現しなかった。小宮山は組閣が確定した2009年9月16日の「小宮山洋子の日誌」の記事にて、「各グループに配慮したと言われていて、わりと年輩の議員が並び、女性が社民の福島さんと民主の千葉さんと2人の参議院議員だけで、ちょっと寂しい感じです」と述べた。
人物 
「傍聴席から見下ろすと、紺やグレーの背広を着た男性議員ばかりの議場は「ドブネズミ色」に見える」と発言したことがある。
なお、大学時代の同期生に歌手の森山良子と作家の筒井ともみがおり、3人そろってのTV共演歴もある。
2008年、選挙カーのガソリン代の不正請求をTBSニュースに報じられた。選挙カーおよび伴走車の分を含めて、概算で請求をしていたことを認め、不適切であったとし公費負担分を返還した。
2011年東北地方太平洋沖地震に対する不健全な政府の対応について「初めてのことであったから」と発言している

えぇと、どうも主義主張が強い割にえらく脇が甘い印象がありますが…
大臣就任会見はどうだったのでしょうか?


「大きな拍手の中、初登庁 ─ 小宮山厚労相」より抜粋
http://lohasmedical.jp/news/2011/09/03041418.php


[男性記者(日経新聞)]  すいません大臣、日経新聞のヤナセですが、雇用問題とかですね、子どもの分野について今までいろいろお話を伺ってますけれども、大臣になられて、年金とか医療についてですね、いい機会ですので、どういう今、問題意識と言いますか、どこが良くなって、あるいは一体改革と関連してどういうふうに直していったらいいんだろうかという辺り、お話を伺えますか。

[小宮山洋子・厚生労働相]  そうですね、年金についてはやはり、これからの年金制度をどうするか、新しい年金については社会保障制度審議会(ママ)で今、審議を始めたところというふうに聞いておりますので、しっかりとやはりマニフェストでお約束をしたことも......、軸足を置きながらですね、どういう形でどういう工程表を作って改革をしていけばいいかということを取り組んでいきたい。
それから例の3号の問題ですとか、それから年金記録の問題とか......、年金と言っても、新しい方向性だけではなくていろんな問題がありますので、それは1つひとつ対応していくことかなというふうに思っております。
それから、医療についてはまあ、問題が非常にたくさんあることは認識をしております。これもやはり、小手先でやっててもなかなか変わらない部分があるものと思っておりますので、社会保障改革の中で立てたことを......
まだ、これもまだアラアラの骨の部分で、これからそれを具体的にどう具体化をしていくかということだった思っていますので、医療の、その診療科ごとの偏在の問題だとか、過疎地域の問題だとか、そういうような問題の解決と、あるいはあの......
 今、ドラッグ・ラグ、デバイス・ラグの問題に取り組んだりしていて、国際的にもきちんと競争ができるようにしていきたい。
 それから、その......、そうですね、健康のほうのまた、あの......、なんでしょ、「ツーリズム」って言うといけないんですよね? 各国からまた、日本の、その医療を......、えー......、世界的にもちゃんとあの......、訴えていけるような、そういうような、ライフ・イノベーションということにも、医療も関わってくるのだと思っていますし......。
 そういう意味ではなかなか、医療とか年金、介護、その辺りは「効率化ができていない」っていう言い方を結構あの......、えー......、その財源のほうを考える人たちからは言われていますけれど、それはやはりあの、先ほどのあちらの会見でも言いましたけれども、超少子高齢社会の中で、やはり生活の安心、「国民の生活が第一」と言ってきたこの政権ですので、そこのところは......。
 もちろん、効率化のできるところはしていけばいいと思いますけれども、基本的には安心して医療にかかれて、介護を受けられて、そして年金も、若い人たちも......、頼りにならないと思うから国民年金の納付率が低かったりするので、そこはやはり、言ってきましたような最低保障年金のところも、これは番号制度とも大いに関わると思いますけれども、しっかりと取り組んでいきたいというふうに考えております。

…この文章の通りにしゃべったとすると、質問されるまで医療についてなにも考えてなかったとしか思えませんな。医療から話しそらしてるし
少なくとも自分の言葉ではなく、官僚か野田首相かの指導内容を復唱しているような印象ですね

まぁ、とりあえずこの人の辞書には、医療費増や医師の絶対的不足という単語は登録されていないようです
医療については素人判断かますか、傀儡になるかのどちらかでしょうね


その他、ネットでみられた発言からプロファイリングさせてもらうなら、非常に狭視野的な人物であると思われます

実際、内側からも既に突っ込まれてますね


http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&rel=j7&k=2011090200349
  ◇厚労省
子ども手当見直しが決まった厚生労働省では、小宮山洋子副大臣が大臣に昇格。同手当導入の立役者として見直しに最後まで反対したが、ある幹部は「決まった後は割り切るタイプ」と評価。子どもや女性を支援する政策に熱心に取り組んできたため、関連部署では「期待している」と笑顔が広がった。
しかし同省は年金、医療から介護、労働まで幅広くカバーする巨大官庁。「関心に偏りがある。ほかの分野を担っていけるかどうか」(中堅職員)と疑問の声も上がった

ふぅ、どうも医療関係の副大臣に誰が入るかが私たちの運命の分かれ道になりそうです
ゼークトの論ではありませんが、無能な働き者でいられるよりは、無能な怠け者であってくれた方がいいのかも知れません


しかし、不安だらけの新政権の中で、珍しくまともな意見も聞かれました
ランセット日本特集号記念シンポジウムの中での一コマだそうですが


民主党政調会長の前原誠司氏。シンポジウムの途中に現れ、次のように挨拶して、すぐに会場を後にしました。「人口動態がこれから変わっていく中で、日本の医療制度は様々な不断の見直しが必要。また医療、そして健康の問題は、国際協力なしにはできなくなっている。(諸外国において)特に感染症、その原因となる貧困対策については、『人間の安全保障』の観点から国際社会が連携していくことが重要。これらの課題に関しては、与野党を超えて、国民への安心提供のために取り組んでいきたい」。

この人、人口動態と医療需要が直接リンクしていて、常に変化していることわかってるんですねぇ…
でも、この人も自爆したんですよねぇ


まぁ、新内閣もはじまる前から既に火種だらけですが



野田首相:資金管理団体 在日韓国人の男性から献金受ける
http://mainichi.jp/select/today/news/20110904k0000m040025000c.html

石破氏「一川防衛相任命、首相は自衛官の息子らしくない」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110903/plc11090310010014-n1.htm



私が新政権に求めるのは、改革などというよけいなことはしないで分を守ってくれという、ただそれだけのことです

2011年8月29日月曜日

「医療崩壊」の定義

会話というのは、自分と相手とに言葉の定義が共通していないと成立しません
ソクラテスの言にもあるように 
「大工と話をするときは、大工の言葉を使え」
ということです
たいていの場面において会議が迷走するのは、そういった齟齬に気づかずに、「自分の世界の自分の言葉」でのみ語ることが原因となります


さて、多くの医療関係者には、既に医療が崩壊しているのは共通理解だと思いますが、為政者側は「医療崩壊」が起きていることは未だに認めていません
彼らにとっては、まだ問題は「医師不足」で済んでいるようです

現状は、「医療消滅」というチェックメイトをかけられた、キングをとられるまでの数手の間に過ぎません
ゲームであればすでに自動的に投了になっているのを、現実の残酷さで最後までやらされているというだけです

私たち医療崩壊論者が訴えているのは、その「数手の間」に、「ルール変更」することで王手を解除させるしかないということです
対して、政府の「医師不足」「医師の偏在」は、旧来のルールの内側でしかありません
政府の話に乗る限りは、医療消滅は防げません
しかし、政府にそれを認めさせるには、一度そのスキームで会話して、そんな手ではもうどうにもならないと認めさせるしかありません


長崎県病院企業団企業長の資料をちょっとお借りしましょう
よくある、県別の医師数です
http://lohasmedical.jp/news/2011/08/24024220.php?page=2

この表では医療崩壊のなにも表現できないことは、企業長の指摘を待つまでもなく明らかです
この企業長の面白いところは、次の表です
http://lohasmedical.jp/news/2011/08/24024220.php?page=3

医師数だけでなく患者数という関数まで取り入れたユニークな試みではあるのですが、分析で大きなミスがあります






A群、B群にとりますと、これは高い専門性、あるいは高度の救急医療、それから先進医療に対する医師が不足しているということが叫ばれている都道府県でございます。




これは時制は「現在」の医療崩壊を表現した二次元関数でしかありません
「これから」対策を立てるのですから、語るべき時制は「未来」でなければ先回りすることはできません(一度、戦略シミュレーションゲームでもしてみればよくわかりますよ)

また、こうした数字の扱いではいつも「東京」が悪者となるのですが、「首都圏」という枠組みでとらえないと自体の本質を見誤ります(これは、ベッドタウンに過ごした人間でないと実感できないでしょうが…)


最初の方の表をもう一度見ていただければわかりますが、東京以外の首都圏が、全て医師が少ない県Top10にカウントされています
また、地理的にも、「首都圏」という単位は地方の1つの県に相当する面積であると言うことも忘れてはいけません
「首都圏における東京と隣県」というのは、そのまま、「地方の県庁所在地とその他の市町村」に該当するのです
医療崩壊で「東京」を語ることはミスリードにしかなり得ません
また同様に、東京隣県内部の医療崩壊も、ベッドタウン地域とその他地域を同列に論じることもできません
要は、医療の実態は都道府県という枠組みではなにも表現しえないと言うことです


首都圏を代表とする大都市圏の医療崩壊と、地方の医療崩壊はまったく異なるロジックで起きています


医療崩壊の原因は、医師数と患者数のバランスの問題とも言えます
つまり、患者が多い=高齢者が多い地域が火薬庫であると言うことです
高齢化率の推移予測を示した図がこれです



http://lohasmedical.jp/news/2011/08/22014400.php?page=2


2030年までは、現在高齢化率の高い県がそのままの地位を維持しますが、2040年には全国が平均化し、2050年には逆に、現在医師過剰とされている都市部が高齢化の洗礼を浴びる計算になっています

原因は、まぁ社会学的な方面の知見があればすぐに思いつくと思いますが、この数十年の日本の人口分布の変化が高齢化という形に変換されてきているというだけのことなんですね


もともと、日本は人口的にも地方が中心でした
それが崩れはじめたのは、私たちの父の少し上の世代の就職列車からです
http://ja.wikipedia.org/wiki/集団就職

その後、バブル期に入りサラリーマンの時代となると、今度はベッドタウンとして隣県に人口増が波及します
そうして、日本人の過半数は大都市圏の住民となりました
 
現在は、そうして大都市圏に出てきた人たちの子ども世代が若手労働者として、大都市という故郷にそのままいるわけです
言うまでもありませんが、若手が増えれば高齢化率は下がり、若手が減れば自動的に高齢化率は上がります
こうして、大都市圏は若手が多いために高齢化率は低く抑えられています


一方で、現在の地方の高齢者たちは、集団就職で、東京に出てきた人たちの親なわけです
地方の高齢化の原因は、実のところ、現在の地方の高齢者たち自身だったりするのです


しかし、あと20~30年もすれば集団就職やバブルで大都市圏に来た世代も高齢者となり、その子どもたちもそれに続くわけです
そして、さらにその子ども世代は、少子化という問題が待ち受けています
大都市で30年後に起きる医療崩壊は、長崎の企業長が言うような高度医療・救急の問題では済まされなくなります
なにせ、このベッドタウン地域は30年前までは人がいなかったため、病院がないのですから

逆に、その頃には既に現在の医療崩壊地域の高齢者は寿命を迎えており、限界集落もいくつも出現し、病院どころか村ごと崩壊しているでしょう
その場合、医療需要そのものがなくなるので医師不足もなくなるでしょう


つまり、「あと20年続く医療崩壊」と「30年後から顕在化する医療崩壊」は全くの別物なのです
そして、現在の大都市部での医療崩壊は、後者の序章部分なのです


この様に、医療の需給バランスというのは、医師数以上に高齢者数が大きなウエイトを占めます
「医師不足」を語るに医師数だけをもってして動くのは、常に後手後手に回ることにしかなりません


医療消滅を防ぐには、現在の地方の医療崩壊に対する応急処置および集落としてのターミナルケアと、30年後を見据えた大都市部の病院整理が必要なのです
医師の強制派遣とか、地方に医大を新設とか言うのは、問題の本質を見誤ってるとしか言いようがありません
今から地方に医師を強制配置させる策を作ったところで、それが実行力をえる頃には地方の医療・介護需要は激減し、逆に大都市圏で医療・介護需要が爆発するのですから
今の政府の医師不足対策では、20年以内に地方と共に心中するだけです

2011年8月12日金曜日

医学部定員増と地域医療の自立

文科省で「今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会」なるものが開かれました
http://lohasmedical.jp/news/2011/08/11114154.php?page=1

内容は、予想通り直球で医学部新設や定員増の話ですが、委員の発言に興味深いものがいくつかありましたので抜粋して紹介したいと思います

[今井浩三委員(東京大学医科学研究所附属病院長)]
つまり医師数は10%ぐらい増えるんですけれども、総体として見ると、だんだん医師も患者さんと同じように高齢化するわけでありまして、医師のほうも......。
つまり、患者を診る側もですね、高齢化していくということをですね、考慮に入れるべきであるということを私、この間申し上げました。ですから実際には、60歳以下ぐらいの医師ですね、非常にビビッドに患者さんを診れる医師の数はそんなに増えないですね、この方式でいくと。
 (略)
医師の労働時間が非常に長いわけですね。たぶん、若い人だと70時間とか80時間とか、非常に過重労働。それを前提にしていろいろなことが......、そのまま行ったらということで考えられているんですが、これを是正しなければいけない。


東大なので、てっきり御用学者かと思いきや、病院長殿としていうべきことをきっちり釘さされてます
医師の戦力計算で、私は女性医師の係数配分の話をよくしますが
(未だに、女は入れないという人と、女性医師賛成だが男性と同等にはキャリア形成できないということをわかってない人が多いため)
医師、なかでも地域の中核戦力の高齢化と、後継者不足or後継者との激しい世代差(=技術差)の問題は、指摘にあるように回避しようのない問題です。
恐らく、今後10年ほどで表面化するでしょう
なにせ、今、最底辺で医療を支えている世代は、医学部定員削減の最終段階(=医師数が最も少ない)世代ですから
そこに対して問題提起したのは、非常に素晴らしいことなのですが…

東大病院の若手医師は、時間外労働月80時間で済んでるんですか?
それとも、これは週80時間なのかな?w



また、慈恵の学長からは非常に興味深い指摘がされています

[栗原敏副座長(日本私立医科大学協会副会長、東京慈恵会医科大理事長・学長)]
我々の時にはですね団塊の世代でして人口はたくさんいましたが医師になれる比率は非常に少なかったんですね。大体、18歳人口700数十人に1人。今は間口が広がったんで、100数十人に1人ぐらいが医師になれる時代になったんです。
 ですから、そこら辺のことも考えていただいて、我々65歳が高齢になりますから確かに医療ニーズは高まります。しかし、それが過ぎるとですね、極端に人口の減少ということがありますので、そこら辺でまた大きな変革というのが出てくるんじゃないかという点をご理解いただければと思います。

具体的な数字をあげられてこの話をされたのは、私が知る限りこれが最初です
となると、人口対医師数は団塊の世代の5倍くらいになると思えばいいんでしょうか?
そうなると、今よりは余裕のあるシステムになるでしょうか?

しかし、それはそれで少々考え物です
というのも、今の日本の人口対医師数は1000対2程度ですが、数十年したら1000対10弱になるわけです
これは、今現在どの国にもない密度になります
(OECD最多はギリシャの1000対6.1、先進国では医学部定員割れしているドイツが最多の1000対3.6)
歯科医師の二の舞になるとして医学部定員増に反対する勢力が根強いのも、あながち無根拠というわけではなさそうです


過重労働の解決や、研究や企業への人的資源の供給という点においてはいいかも知れませんが
いくらなんでも、ちょっと、余裕ありすぎでしょうし、国家として医師に人的資源を割きすぎでしょう
少なくとも、今よりも定員増やすとか、ましてや医学部新設は、ないでしょう…



また、医師派遣システムについて、文科省が勝手に妄想かけてるんですが
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/043/attach/1309577.htm

ええとですね、そもそも、この「医師の派遣」については「慣用語」と「法律用語」に解離があって整理が必要なんですが
「民間企業の医師の派遣業」はきっかり労働者派遣法で禁止されています
中核病院から医師不足病院へ医師を送るのは例外として認められているという形です
(要は、業としての医師派遣は禁止されてると考えられ、派遣の見返りや、派遣した医師の報酬をピンハネするのは違法である可能性が高い)

で、その上で、なにをもって医師を派遣する基準とするべきかってのは絶対に整理が必要なわけです
東日本大震災の急性期に全国から医師を支援に送り出したのと、慢性的な医師不足地域に医師を送るのはまったく別次元の話です 
医療はインフラですが、医師はインフラではないのです   

都会のフリーターを、後継者不足の農村に強制移住させる法律を作るとか言い出したら、どんなことになるか想像できますよね?
どんな正当性をもって一民間人でしかない医師を法的拘束力をもって強制労働せしめられるのでしょうか?
この人たちがやろうとしているのは、要はそういうことです

そのことは、医学部の人間よりも外の人間の方がよくわかっているようです

[生坂政臣氏(千葉大医学部付属病院総合診療部)]
 地域への強制派遣という視点から......。実際、被災地入りした医者は非常に多くてですね、短期であれば可能性はあると思うんですね。ですから、本当のニーズを行政なりが明確にして、「ここに派遣してほしい」と、それはもう、大学病院なりに強制させてもいいんじゃないかと思うんですね。短期だったら、大学病院さえクリアできればいけるんじゃないか。
 ただ、その時に内科医療、すなわち広範囲の診療に対応できないと困りますから、それは各大学でジェネラルな教育に留意していただくと......、可能ではないかな、と私は個人的に......。

[安西祐一郎座長(慶應義塾学事顧問)]
 私が申し上げたのは仕組みと言いますか、法律的なことでございますので、そういう意味での本当に法的なところを突っ込んでみたときに、可能かどうかということで申し上げておりますので、ある意味ボランティア的に何か月かということはあり得るんじゃないかと思いますが、へき地の医療、過疎医療と言うんでしょうか、医療過疎の問題を本当に解決するには法的なところまでいかないといけないんじゃないかと思っているということでございます。

まあ、衰退するところには、衰退する理由がやっぱあるんですよね…

私は、医師派遣については反対の立場です
法的根拠も、補償となるインセンティブも存在しないことは1つの理由ですが、
実際に地方で医師として働いてみて強く思うのは
「アリにもキリギリスを助ける余裕はない」
ってことです
むしろ、 僻地であることを利用して実はアリより楽して肥えてるキリギリスも結構いるんですよね…


発展途上国への支援では、「与える」支援は依存を生み出すだけで害悪であったとの反省から、「自立させる」支援へと切り替わっています
地域医療支援も、同じじゃないですかね?

2011年8月3日水曜日

メンツをとって実利を捨てる救急体制

事前の協定通りにやった (私の記憶では、20数分で高岡への搬送が決まっていたはずですが?) だけのことでなぜここまで引っ張るのかよくわからない富山市救急問題に一応の決着がついたようです


病院搬送拒否死亡問題 全重症患者 受け入れへ 
県立中央 連絡会議で改善方針
富山市内の交通事故で重傷を負った女性(73)が、市内三病院から受け入れを断られた後に死亡した問題で、県は二十九日、富山市内で連絡会議を開いた。三病院の正副院長や市医師会長が、救急患者の受け入れ改善策を報告し、県立中央病院は原則すべての重症患者を受け入れる方針を示した。
今回の問題では、夜間救急当番だった富山市民病院が外科で患者五人を治療中で、足を切断した重傷患者の治療は不可能と判断。富山大病院も担当医が手術中だったため搬送を断った。重症救急患者を受け入れる三次救急医療機関の県立中央病院は、当番日でなかったため、治療できる外科医がすぐに駆けつけられる場所にいなかった。
県が四月から運用している搬送と受け入れの基準では、連絡開始から三十分以上経過しても搬送先が決まらない場合、県立中央と厚生連高岡の両病院が受け入れを調整するとしていた。しかし今回、各病院の体制不備などで基準が機能しなかった。
今後の対応で、県立中央病院は受け入れ態勢確保とともに、休日や夜間に病院からの連絡で駆けつける「オンコール医」には、搬送の可否を問うのではなく、診察を要請するとした。この医師が来院できない場合に備えて、連絡順位などバックアップ体制も整える。
消防機関には、救急隊から照会回数と経過時間などを連絡してもらうよう依頼する。
ほかの病院も受け入れの基準を職員に周知することなどを報告。市医師会は十月オープンする救患センターで「軽症患者を受け入れて、救急病院の負担を減らす」とした。
県立中央病院の対応について、市医師会の馬瀬大助会長が「勤務医の労働環境が悪化することが心配」と指摘。同病院の飯田博行院長は県に「医師の確保は『長期的』に取り組むのではなく、すぐにやってもらわなければ困る」と求め、会議後「県立中央病院も来年度に救急医を増員したい。改善策実行に最大限努力する」と述べた。 (山田晃史)

◇3病院搬送拒否死亡問題◇ 6月30日午後7時半ごろ、富山市開の県道で、同市藤ノ木の無職瀬川浜子さん(73)が軽乗用車にはねられ、足を切断する重傷を負った。しかし、富山市民、富山大付属、県立中央の市内3病院が救急搬送を断った。1時間半後に約25キロ離れた高岡市の厚生連高岡病院に運ばれたが、出血性ショックで同10時半ごろ死亡した。
県が4月から運用する基準では、照会が4回以上または搬送先が30分以上決まらない場合は「県立中央と厚生連高岡の2病院のいずれかが受け入れに努め、受け入れ先を調整する」としている。


突っ込みどころ多彩すぎですが

1.ただのつるし上げですよね?
お題目が「対策会議」とか「再発予防会議」でなくて「連絡会議」の時点ですでに県から一方的な要求が「連絡」されるだけなのは容易に想像できますがw
しかし、肢切断に対して「当番病院:パンク」「当番外の大学病院:手術中」「当番外の県立病院:医師不在」って、完全に詰んでるんですが、これで受け入れ可能な市外の病院へ速やかに搬送って誰か悪いですか?
はっきりいって、ただの選挙目当てのパフォーマンス以外のなにものでもないですね…

2.明らかに逆効果な「対策」
そんな会議で、いつものパターンに反して唯一まともなことを言ってるのが、市医師会です
そもそも、こんな事になったのは要求される病院機能に対して勤務医が不足しているのが原因です
そんな「医師不足」への対策が「労働強化」って旧日本陸軍の亡霊以外のなにものでもありません


3.もはやオンコールに非ず
えー。だいたいいつも労働問題で論争になるのですが、日本の医療業界においてはオンコールは勤務時間ではない(故に労働時間にはカウントせず賃金は払わない)となっているのですが、この新規定だと、誰がどう見ても当直だと思います。(海外ではオンコールは当直の一形態)
これは、グローバルスタンダードに乗っ取ってオンコールも当直と認め、労働時間としてカウントし、当直代も支払うという風にしないと、若手医師の敬遠や大量離職を招きますよ?

そもそも、県立病院の医師不足は、経営者である県の経営責任であるはずですが?

2011年7月31日日曜日

医学部の教養に戦略シミュを組み込むべき

埼玉県知事選があまりに失笑過ぎる件について

県内医療レベル 統一を  
金井忠男 県医師会会長
2011知事選  課題の「4年」
さいたま市で先月、交通事故に遭った車椅子の女性が、相次いで救急搬送を拒否される問題が起きた。新聞記事を目にした県医師会会長の金井忠男さん(67)はすぐ、関係する病院に連絡を入れた。どの病院も「外科医がいなかった」と答えたという。施設の数や質など、県内で最も医療が充実しているはずの県都で起きた。「この地域で起きるということは、どこでも起きる可能性がある」
1998年に7726人だった県内の医師数は、2008年には9954人に増加した。しかし、若手医師は過疎地を敬遠する。患者側の大病院志向もあり、本来、高度な医療を受けるべき患者に医師の手が回らないという現状もある。こうした複合的な要因が絡んだ結果が「医師不足」だ。
県は09年度以降、若手医師を県内に引き込むため、研修費の貸与制度を拡充するなどしてきたが、こうした行政側の取り組みが特効薬になるとは考えていない。その一方、他県では、医師や看護師らを確保するため、隣県などから人集めをするような動きも起きているという。「単なる奪い合いでは何の解決にもならない」と金井さんはクギを刺す。
東京に隣接する都市部と過疎地域の混在。埼玉の「日本の縮図」ぶりは医療界にも通じる。「県内の医療レベルは統一化されなければならない。日本のモデルを埼玉独自で作りたい」。定年を迎える団塊の世代、子育てを終えた女性の医師らを人材として活用できないか。県北部のように、他県の医療機関のほうが素早く搬送できる地域もある。「県は音頭取り、調整役を果たすべきだ」と考える。
金井さんは年に最低4~5回は、仕事やプライベートで横浜を訪ねる。駅や街を歩く若者が多く、景気が悪いというここ数年でも、新しいホテルやデパートが次々にできていることに驚かされる。30年暮らす埼玉との違いを痛感する。「全国から注目されるような大々的な観光地でなくていい。若者がさっと集まってくるような魅力が必要。医者も若者の集まりに参加する一人だから
(2011年7月27日 読売新聞)

ええと、この県医師会長さん、非常に正しいところと、非常に残念な混在しててどう突っ込んだものやら(笑
とりあえず分類しましょう

<正論>
・医療スタッフの共食いは問題の解決にならない
・魅力ある町じゃないと医師は来ない

これは、もう、残念なことに厳然たる事実であり、それ以外のなにものでもありません
比較対象が横浜なのはよくわかりませんがね…
だからといって、 ここまで堂々とハニートラップかましにこられるともう笑ってやり過ごすしかありませんがw(http://www.shinshu-liveon.jp/www/topics/node_191345


<意味不明>
・埼玉は日本の縮図

いや、純粋に意味わかんないです
東京都中心部と地方都市と僻地がそれぞれ違いすぎて、縮図なんて存在しえないと思いますがね?

まぁ、ここまではただの話の枕です
本命はこれから


<間違い>
・応需不能が県庁所在地で起きたから埼玉県全土で起こりうる
・圏内の医療レベルは統一されてなければならない


まず、応需不能(マスゴミ的「たらい回し」)が起きるのは、基本的に医療機関が潤沢な都市部もしくは都市部に丸投げしようとする近郊に限られます
僻地なんて、「たらいを回す相手」がいませんからね?
むしろ、医療は東京に丸投げしている印象があった埼玉県に、回せる医療機関が複数あることを誇るところかも知れませんよ?

さて、ではなぜ医療機関が比較的潤沢な都市部で応需不能が起きるか?
それは、医療スタッフを各医療機関に分散させてしまったために、各個撃破に持ち込まれているからです

あー、私が今何言ったかわからない人は、戦略シミュレーションゲームを自力でクリアできるようになるまで医師不足の議論には加わっちゃいけません

拠点分散→戦力分散→防衛力低下→各個撃破→全滅

の基礎がわからないで医師不足の話をするのは、1+1=2を知らないで相対性理論を解こうとするようなものです
スタッフも設備も予算も限られた現実世界において応需不能を防ぐには


医療スタッフ集約化→医療機関集約化→調整された医療格差


しかあり得ません
そういうことを無視して医療レベルを統一するというのは、医療レベルを全国最低ランクにそろえる結果にしかなり得ません

…と言うことをわからない人が県医師会長という時点で、歴代の医師会と医学教育の罪深さが垣間見えた気がします

2011年7月24日日曜日

笛吹けども研修制度踊らず

新研修制度が始まって5年以上経ちますが、また痛ましい事件が起きました

2011/7/23 土曜日
研修医死亡で遺族 労災を申請/弘前
弘前市立病院勤務の研修医呂永富さん=当時28歳=が昨年11月に急性循環不全のため亡くなったのは、長時間労働などが原因として、遺族が22日、弘前労働基準監督署に労災を申請した。代理人弁護士によると、呂医師が亡くなる前の1カ月の時間外労働が140時間を超えるなど、長期間にわたり過重業務が継続していたとした。一方、市立病院は時間外労働は最大でも60時間程度との認識を示し「指導医の指示の下で業務を行っており、過重な負担はなかった」としている。
呂医師は中国出身で2004年に弘前大学医学部に入学。10年3月に卒業し、同年4月から市立病院で研修医として勤務していた。昨年11月29日に呂医師が出勤しなかったことから病院の連絡を受けて警察が確認し、自宅で倒れている呂医師を発見。解剖の結果、前日に死亡していたことが分かった。呂医師に特別な既往歴などはなかった。
22日は群馬県内に住む呂医師の母親(62)と姉(33)が同監督署に労災を申請。記者会見した。
代理人弁護士によると、出勤簿や家族からの聞き取りなどから確認した呂医師の時間外労働時間数は死亡前1カ月間で142時間43分。死亡前8カ月間の平均でも136時間余りと100時間を大きく超えるとした。また死亡前1カ月の休日が2日だけだったとし、深夜の呼び出しなど勤務時間も不規則だったとした。
呂医師の姉は「電話で連絡を取っていたが、とにかく忙しいと話していた」と話し、呂医師が眠れないなどうつ病気味な話もしていたという。代理人の川人博弁護士は「背景には青森県をはじめとする東北地方における根強い医師不足の問題がある。日本が多くの留学生を受け入れ、医師として安心して働いてもらうためには現在の医療状況の早急な改善が求められる」と述べた。
一方、市立病院は「研修中は指導医の指示の下で業務を行っており、過重な負担はなかったと考える。労働基準監督署から照会などがあれば、適切に対応したい」とコメントした。取材に対し、同病院では病院として把握している時間外労働は多い時でも月60時間程度で、指導医について研修を行うため、精神的な負担も一般の医師に比べ、重くはなかったとの認識を示した。また入院患者を受け持っているため、休日も患者の様子を見ることはあるが、長時間にわたり、勤務をするような態勢ではなかったとした。

弘前市立病院の中国人研修医死亡:母親ら、労災申請 「業務で肉体的負担」 
/青森

 弘前市立病院で研修医として勤務していた中国人男性の呂永富さん(当時28歳)が急性循環不全で昨年11月下旬に死亡したことを受け、母親(62)と姉(33)が22日、弘前労働基準監督署に遺族補償年金と葬祭費用の支給を求めて労災申請を行った。
 この日会見した母親らによると、呂さんは02年2月に中国遼寧省から来日。前橋市の日本語学校に通った後、04年4月に弘前大医学部に入学した。10年3月に卒業、翌4月から弘前市立病院で研修医として勤務していた。
 代理人によると、呂さんは毎日午前8時過ぎに仕事を始め、帰宅時間は早くても午後8時半以降で、手術が長引けば深夜0時を過ぎることもあった。土日出勤も多く、17日間連続で勤務したり、休みが月に1日だけの時もあったという。毎月の時間外労働時間は約99~約177時間。宿直勤務は月2~4回していた。10年4月の健康診断では、問題はなかったという。
 労基署に提出した代理人意見書では「非常に不規則な勤務を繰り返し、業務による肉体的負担が大きかった」としている。
 母親は「元気で活発だった息子が急に死んだことはとても悲しい。生きていく力がわかない」と述べた。
 市立病院は「研修中は指導医の指示の下で業務を行っており、過重な負担はなかったものと考えております」とのコメントを出した。【吉田勝】




私の労働時間は、友人との比較では恐らく研修医としては中に位置すると思われますが、それでも労働時間はおおむね月300時間程度になっている計算です
まぁ、2007年の調査では研修医の時間外労働は73時間ということになっているので、実は多い方かも知れませんが(研修医の時間外労働がそんな少ないわけないと思いますがね…)

法定の労働時間は1日8時間×平日で週40時間で、月あたり160時間強になります
つまり、私は月140時間程度の時間外労働をしていることになるので、この亡くなられた研修医と私は似たような労働環境になるのでしょう(年齢まで似ているから他人事じゃない…)

弘前市立病院は時間外労働は月最大60時間と主張しているようですが、それはつまり、平日は9時-5時(pm)プラス週1回の当直しか病院にいないということになっているのでしょうね
この病院、あくまで逃げ切るつもりのようですが、そういう態度がどういうことを招くかまで頭回ってないのでしょうか?
紙の記録はいくらでもごまかせても、病院が電カルでも導入していれば、ログ記録で一発ですよ?




実際、私も週40時間しか病院にいないことになってますしねw
タイムカードは研修部が医師負担軽減のため、自動で押してくれてるようですw
ルクセルバッジがひっかかって放射線被曝調査された際、調査書に「土日祝日には放射線労働記録を書かないこと」と書類に念押しされてたときは思わず爆笑しましたがwww
夏休み以外の休日なんて、年に何日あったっけ? 





…という類の話をすると、なぜか医師家族以外で最も医師の日常をみているであろう患者やその家族、コメディカルやナースからすら意外な顔されるのですが、医師の生態をちょっと考えれば、中核病院や大学病院の医師ならこれくらいはあっさりいってしまうことは明白です

勤務時間を以下のように仮定します

平日   8~20時
土日祝  9~12時
当直     週1回

まだ「温い」様に思う医師も多いでしょうが、
これでも、週の労働時間は12×5+3×2+12=78時間で、週38時間の時間外となります
月にすれば、時間外は150~160時間行くのは納得頂けるでしょう

アメリカのレジデントの労働時間の上限がこれくらいです


ちなみに、過労死ラインは時間外労働月80時間です

それと、業界では変な慣習や主張がまかり通ってますが、労働時間とは時間的・空間的拘束性が発生している時間をさします
つまり、寝当直やオンコールも労働時間です(実際、欧米ではオンコールも当直として扱われる)


現行の研修制度は、あまりに多くの人の思惑が入り込みすぎて本来の趣旨が誰にもわからなくなってしまいましたが、
そもそもは、2000年頃に相次いだ若手医師の過労死に対する、労働環境改善が始まりだったはずです

確かに以前に比べれば、研修医の労働時間も賃金も社会的地位も向上したのは間違いありません
しかし、それは人間以下だったのが、一応人類に格上げされたに過ぎません

前回のブログにも書いたように、今また研修制度を奴隷制度としようとする流れが復活していますが、我ら若手医師はこの流れに断固Noを唱える必要があります

問題の本質は、医療制度の不備と医師不足です
この弁護士が間違っているのか、記者の編集能力なのか知りませんが、まず医師不足は東北に限りません
そして、この研修医は血統的には純血の中国人かも知れませんが、日本の医学部に入学し、日本の国家試験に合格し、日本の研修制度を受けていました。中国人留学生ではなく、間違いなく日本人として扱われるべきです
中国人だから特殊なケースとして事態を矮小化させてはいけません


ツケを若手に回して目先をごまかして、どこに未来があるのでしょうか?
こんなことを21世紀になっていつまでも続けていれば、日本もドイツのように医学部が定員割れする日もそう遠くないでしょう

2011年7月6日水曜日

医師不足の定義

また厚労省がよくわからんアンケートをやったようで 

 


医師不足地域、25%が拒否 勤務「交代いれば」半数 臨床研修で調査
2011年7月5日 提供:共同通信社
 
 医学部卒業後の「臨床研修制度」を終えた医師の65・4%が、医師不足地域での勤務について「条件が合えば従事したい」と答えた一方、25・5%は「条件にかかわらず希望しない」と考えていることが4日、厚生労働省の初の調査で分かった。8・1%は「既に医師不足地域で働いている」と答えた。
 調査は2008年4月~10年3月に臨床研修をした7512人が対象で、5250人(69・9%)が回答した。
 医師不足の地域で働く条件(複数回答)は「自分と交代できる医師がいる」が最多で55・7%、次いで「一定の期間に限定されている」(53・8%)、「給与がよい」(47・0%)の順。
 研修先の病院を選んだ理由(複数回答)は「研修プログラムが充実」(44・8%)、「多くの症例を経験できる」(40・5%)、「さまざまな診療科・部門でバランス良い経験を積める」(37・1%)だった。
 臨床研修制度は、免許を取った新人医師に2年間の研修を義務付ける仕組みで、2004年に始まった。以前は大学の医局を通じ地方の病院に派遣されることが多かったが、制度導入で研修先を選べるようになったため、大学病院の派遣機能が低下し、地方での医師不足の一因になったとされる。
 厚労省は調査結果も踏まえて現行制度を見直し、2015年度から新制度の運用を始める予定。


このアンケート、1学年しかとってなかったり、中身からして、すでに突っ込みどころ満載なんですよね…


そもそも、みんなの思い浮かべる「医師不足地域」って、実はみんなバラバラなんですよね…
そこの定義付けをちゃんとしないで話をするのは、神父とラビと神主を集めて神について議論させるようなものです 

その一番わかりやすい例が、医師不足地域で働いている自覚があるのが8.1%だけってことですね
この国に医師充足地域が92%もあるわけがない(笑



 OECD基準や、労働時間基準でいえば、問答無用に東京だろうが医師不足地域です
むしろ、専門性が高い故に交代医師がいない比較的都市部の大学病院よりも、患者不足地域の田舎の方が労働時間守れてる節もありますがね(時間外の中等症以上は全部丸投げしてくるから…)


現在の労働時間を受け入れるにしても、何かあったときに自分が休むことができるかどうかというのは重要なファクターです
ですが、その理屈でいうなら、 交代できる医師がいる地域は、医師不足地域ではなくなってしまいます

どうにもこうにも、このアンケート、選択枝が矛盾している典型例の気がします
これをつくった人は、なにもわかってない人か、全部わかった上でわざとやってるかでしょう 
どちらにせよ、最初に結論が決まっていて、その結論に向かうように設定されたアンケートに思えてきます…


よく忘れられがちですが、職場の立地というのは生活の場でもあります 
先日、大都市の研修医と話す機会がありました
大学に入るまではだいたい私と同じような環境で暮らしてた人たちなのですが、
私たちの日常(地方医大の立地や生活スタイル)を話すだけでみんなどん引きでしたね(笑
生粋のシティボーイに、三十路近くになってからいきなりド田舎で暮らせとか言ったって無理にもほどがありますが?
 

2011年6月26日日曜日

臓器売買の実情

今週は例の臓器売買事件についてです
まずは事件の内容ですが、


腎移植の闇:臓器売買事件
「商談」はバーカウンターで始まった。09年5月のある夜。東京都江戸川区のJR小岩駅から徒歩5分のスナックの店内で、堀内利信容疑者(55)の妻則子容疑者(48)が雇われママの佐々木ひとみ容疑者(37)に切り出した。「夫の病気のことで困っているの」
則子容疑者は店の常連だった。開業医の堀内容疑者が慢性腎不全と診断され、透析を受けていることは既に話していた。則子容疑者は、夫が日本臓器移植ネットワークに登録したが死体腎移植の機会が巡ってこないことやフィリピンでの移植計画を立てたが失敗したことを明かした後で続けた。
「お金なら出すから誰か紹介してくれない?」。報酬は1000万円。臓器売買の提案の場面を関係者が明かした。
「先生が腎臓を悪くしていたなんて知らなかった」。堀内容疑者が区内で開業する堀内クリニックの近所の住人は口をそろえる。
堀内容疑者は金沢医大(石川県)を卒業後、医師だった父からクリニックを引き継いだ。専門は内科と小児科。患者の評判は良く、20年来の掛かり付けという男性(93)は「口数は少ないが、友達のような感覚で接してくれる優しい先生」と話す。足の不自由なお年寄りに配慮し、レントゲン室を1階につくることができる物件を求めクリニックを移転させる一面もあった。
則子容疑者は、夫とは対照的に社交的な女性だったようだ。フラワーデザイナーとして、東京・銀座や横浜駅前でアレンジメント教室を主宰。テレビに出演したこともある。ただ経営は楽ではなかったようで、捜査関係者は「開業医の夫の収入に頼る部分もあったようだ」と語る。
スナックで臓器売買の提案を受けた佐々木容疑者は、同居する指定暴力団住吉会系組員の滝野和久容疑者(50)に話をつないだ。堀内夫妻ら4人は09年6月、則子容疑者が小岩駅近くで開くフラワー教室に集まった。堀内容疑者が「移植手術をする病院は自分たちで用意するから、ドナーを探してほしい」と滝野容疑者に依頼。手術のために養子縁組を偽装することを伝え、1000万円を分割で支払うことを決めた。
滝野容疑者は、すぐに3人のドナー候補をそろえたという。このうち2人は元組員。ドナーの適合検査を経て絞り込まれたのが、かつて同じ組に所属していた元組員の坂上文彦容疑者(48)だった。 年末には堀内夫妻はファミリーレストランで坂上容疑者と初めて顔を合わせ、翌年1月、江戸川区役所に養子縁組を届けた。
 臓器の売り手に買い手、そしてスナック。3者の住所はいずれも小岩駅から半径300メートル圏内におさまっていた。
だが、5人の蜜月関係は長く続かなかった。その後、滝野容疑者が1000万円を追加要求したことでトラブルに発展し、手術直前になって移植は中止された。堀内容疑者は別のドナーを用意して移植手術を受けたとされる。
臓器売買画策の背景には何があったのか。なぜ偽装縁組は見逃されたのか。警視庁が捜査に乗り出した臓器売買事件の闇を追った。
昨年1月15日。堀内利信容疑者(55)の妻則子容疑者(48)が主宰する東京都江戸川区内のフラワー教室に、臓器売買の仲介役とされる暴力団組員の滝野和久容疑者(50)が2種類の書類を持参した。「養子縁組届」と「養子離縁届」。則子容疑者は双方に記入すると、その足で江戸川区役所小岩事務所に向かい、坂上文彦容疑者(48)との養子縁組届を提出した。
ドナー候補の元組員、坂上容疑者の腎臓を堀内容疑者に移植するための偽装縁組。「手術が終わればすぐに離縁届を出す予定だった」と則子容疑者は警視庁組織犯罪対策4課の調べに供述しているという。堀内容疑者らの目には、腎臓が売り買い可能な「商品」と映っていたのか。
半年ほど前、都内のある病院に「妻から腎臓を移植してほしい」という相談があった。50代とおぼしき男性は他の病院からの紹介状を持っていたが、「妻」を連れず1人で来院した。不審に思った医師が事情を聴くと、実は内妻で外国籍だと分かった。「普通なら2人で相談にくるはず。移植は断った」。医師は臓器売買の可能性を疑った。
西日本の病院の移植医は「母親から腎臓の提供を受ける代わりに遺産相続を放棄するなど、事実上の売買ともとれるケースはあった」と明かす。
移植医療に詳しい東京財団の〓島(ぬでしま)次郎研究員は「死体腎ドナーの不足を背景に、水面下で生体移植用の腎臓売買が横行している恐れがある」と指摘する。
日本臓器移植ネットワークによると、死体腎移植を希望して移植ネットに登録している待機患者は1万1814人(09年11月現在)。しかし、移植実現までは平均15年かかるとされ、95~09年の間で移植を待ちながら亡くなった患者は2476人。同時期に移植を受けられた2418人を上回る。
親族から生体腎移植を受けるという選択肢もあるが、堀内容疑者のようにドナーを見つけられないケースも多い。NPO「移植への理解を求める会」の代表、向田陽二さん(53)は「国を挙げて移植を増やす努力をしてほしい」と話す。自身も生体腎移植経験者の向田さんは、末期の腎不全患者の気持ちをこう代弁する。
「現状では1000万円でも2000万円でも出して腎臓を欲しがる人がいてもおかしくない」
「20世紀で人類が手にすることができた最も効果的な医療技術。それが臓器移植です」。昨年9月、鹿児島県で開かれた生体腎移植の講演会。壇上から語りかける医師は当時、宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)に勤務していた。医師は生体腎移植のメリットや手術の手軽さを説明し、続けた。「うちの病院では、養子縁組をされた後に移植を受ける方もいます」
その2カ月前。同病院では、堀内利信容疑者(55)=臓器移植法違反容疑などで逮捕=への移植手術が実施されていた。執刀したのは、泌尿器科部長の万波(まんなみ)誠医師と、この医師。堀内容疑者が逮捕され、ドナー(臓器提供者)の男性(21)とは偽装養子縁組だった疑いが浮上している。
堀内容疑者は移植を受けるために養子縁組の企てを重ねていた。
最初は知人女性に持ちかけた。死体腎移植の順番が回ってくる気配はなく、海外渡航移植も失敗。堀内容疑者は焦っていた。しかし「移植には養子縁組が必要」と説明すると女性は逃げ出した。 頼ったのが暴力団組員、滝野和久容疑者(50)だった。1000万円の報酬で紹介されたドナー候補の坂上文彦容疑者(48)と養子縁組し、板橋中央総合病院(東京都板橋区)で移植を受ける話がまとまった。しかし手術直前の昨年5月、1000万円を追加要求され、計画は流れた。
そして宇和島徳洲会病院。堀内容疑者は別の暴力団組員から新たにドナーの男性を紹介され、養子縁組のわずか1カ月後の昨年7月に移植を受けた。
両病院の倫理委員会は実態を見抜けなかった。宇和島徳洲会病院は、養子縁組が繰り返されていることを戸籍で把握したものの、堀内容疑者が坂上容疑者との関係の説明を渋ったため、それ以上調査しなかった。
臓器移植に詳しい医療関係者は「養子縁組直後は疑問を感じてもおかしくなく、普通なら手術を避ける」と指摘する。別の病院関係者からは「病院は捜査機関ではない。偽装養子や臓器売買を見抜くことには限界がある」との本音も漏れる。
日本移植学会の倫理指針は生体移植のドナー条件を親族と定めるだけで、法的拘束力はなく、審査は病院任せだ。専門家は「法規制の強化や不正がないか調査する専門の第三者機関の設置などを議論すべき時期に来ている」と提言する。 
ドナー不足に直面する患者。ドナーあっせんが容易な暴力団。甘い法規制。三つの条件がそろい、臓器売買が起きた。捜査幹部の一人はつぶやく。「捜査は始まったばかり。闇のすべては明らかにはなっていない」(この連載は川崎桂吾、前谷宏、浅野翔太郎、喜浦遊が担当しました)
毎日新聞 2011年6月26日 東京朝刊



これは私自身も考えが甘かったと反省したのですが、正直、日本で臓器売買というのは理論的にはあり得ても実際にはないだろう、と考えていました
このため、先の臓器移植法改正で生体移植のルール作りがまたも先送りされたことへの危機感はありませんでした

2000年前後には、臓器売買、ことに腎臓は「国際市場」を形成していました
医療バカの日本人医師にはなかなかピンと来ないでしょうが、Newsweekなどの国際的な(一般的な)雑誌やニュースでは定期的に取り上げられるくらいの「常識」です

最盛期には、新聞の三行広告で臓器が売買されていたほどです
腎臓の相場は数十万だったようです
00年代後半にはじまった「国際市場」となった国の国家的な臓器売買監理がはじまりましたが、未だ公然と行われているのが現状のようです
そんなわけで、わざわざ日本で臓器売買をやるのはあまりに「割に合わない」と考えていたのです

それでも最初、事件の舞台が江東区ときいて、まああり得なくはないかと思いはしたのですが、こうまで売り手が次々に現れ、実際に宇和島で行われていたと聞いたときは、本当に考えの甘さを痛感しました

暴力団も色々と資金源を潰される中で、臓器売買ネットワークを形成した可能性があります
また、続く不況もこれに追い打ちをかけたと思われます

臓器売買は 五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金でしかありません
仮に臓器売買に手を貸す医師がいたとしても、任意団体に過ぎない医師会や学会では対応できません(代理母や病気腎移植がその例です)
厚労省が医師免許剥奪や、保険診療の停止処分をするくらいしかまともな処分はありませんが、これも明確なルールがない中ではまともに機能しません
生体移植の法律化と、 臓器売買の厳罰化が必要です



貧困層を狙う違法臓器売買、パキスタン政府が外国人への販売を禁止
2007年08月21日 16:20 
発信地:イスラマバード/パキスタン
【8月21日 AFP】「腎臓を1つ100万ルピー(約190万円)で売らないか」。Tariqと名乗る男から電話でそう持ち掛けられたとき、Usman Ranaさん(24)は運がまわってきたと考えた。
警察によれば、Ranaさんは仕事を探すため、2月にラホール(Lahore)から首都イスラマバード(Islamabad)に出てきた直後にTariqから誘いを受けた。腎臓の買い手は英国から来た患者だと告げられ、パキスタンでは大金にあたる10万ルピー(約19万円)の前金を受け取った後、イスラマバード郊外の民間病院で手術を受けた。
手術後しばらくして、残った腎臓が痛み始めた。まだ残金を受け取っていなかったため、Ranaさんは催促するとともに警察に通報。捜査の結果、巧妙な詐欺事件が発覚した。
新聞各紙の報道によると、Ranaさんの事件に関連して医師1人と警察官1人を含む4人が身柄を拘束されて17日に裁判所に出廷、警察は残る2人の行方を追っている。うち1人は警察官だという。
パキスタン政府によると、Ranaさんのようなケースは珍しいものではなく、「最貧層」を狙った違法臓器取引の取り締まりを目的として、前週に新法「Transplantation of Human Organs and Tissues Bill、 2007」が制定された。
 パキスタンにはこれまで、臓器移植を目的とした患者が世界各国から訪れていた。同国では提供者が現れるのを待つ必要もなく、自国に比べて臓器移植手術が格安で受けられるためだ。
 しかし、新法ではパキスタン人が外国人に臓器を販売することを禁止。また、許可なくヒトの臓器を売買した者に対し禁固10年と多額の罰金を科すよう定められている。
 腎臓の売買は増えており、パキスタン国内での売買額は年間10億ルピー(約19億円)に上るという。同国は「臓器のスーパーマーケット」として知られるようになり、「失業者が氷に包まれて目覚めると、手術跡があって臓器が盗まれたことに気づいた」といった話がまことしやかに語られていた。
被害に遭うのは、実質的に奴隷のような状態で働かされている人々。借金を払って自由の身になりたいとの思いから臓器を売り渡すケースがほとんどだという。
RanaさんはThe Newsの取材に対し、イスラマバードに来たときは2年間も失業していて餓死寸前の状態で、床屋で腎臓を売れば家族を養えると持ち掛けられたと打ち明けた。しかし前金の10万ルピーでさえも、手術後に病院を出る際に仲介者3人が待ち構えていて、あとで全額を払うからと言って持ち去ってしまったという。
Dawn紙の18日の報道によると、パキスタンでは年間2000件の腎臓移植が行われ、うち500件は患者が国立病院で家族から生体腎移植を受けるケース。残る1500件が私立病院で他人の臓器を移植されるケースで、このうち約900から1000件を中東、北米、欧州、南アジアの20か国以上から来る患者が占めているという。(c)AFP/Lynne O’Donnell

売るのは子どもか、腎臓か 

パキスタン貧困層の苦悩
2009.07.26 Web posted at: 19:53 JST Updated - CNN
地主への借金返済のため、腎臓を売ることを余儀なくされたパキスタン人男性パキスタン北部サルゴダ(CNN) 
  借金を返すために、子どもを売るか自分の腎臓を売るか――パキスタン農村部の貧困層の間で、経済的に追い込まれ、厳しい選択を迫られる人々が後を絶たない。同国では最近、臓器売買を禁止する法律が成立したが、腎臓移植は法の抜け穴をくぐって続けられている。 
モハメド・イクバルさん(50)は地主から借金の返済を迫られ、腎臓の提供を決意したばかりだ。
すでに手術に備えた検査も済ませた。これで10―15万円を工面することができる。
  農場で働くラブ・ナワスさんは、約1年前に腎臓の摘出手術を受けた。結婚式の費用から妻と子ども6人の医療費まで、地主から借金を重ねた結果、「妻子を売るか、腎臓を売るか」の選択を強いられたという。 
  「子どもたちを売り飛ばすくらいなら、腎臓を売るほうがましだった。金を返すためにはほかに道がなかった」と、ナワスさんは振り返る。腹部から背中にかけて、30センチほどの傷跡が残った。
 体力が落ち、手術前と同じ働き方はできなくなった。農場周辺の村には同じような傷跡を持つ人々がいくらでもいると、ナワスさんは語る。 
  パキスタンはこれまで、臓器売買が横行する「臓器の市場」として知られていた。年間2000件の移植手術が行われ、このうち1500件は受け手が外国人。手術を目的に同国を訪れる患者は、「移植客」とも呼ばれた。07年には臓器売買が法律で禁止されたものの、実態に大きな変化はない。
ナワスさんが手術を受けたのも、禁止法の施行後だった。
  ナワスさんは、手術を受けたラワルピンディ市内の病院にCNN取材班を案内。医師に手術記録の開示を求めたが、「記録は患者が退院したら破棄することになっている」と断られた。
 病院側はCNNの取材に、「法律には従っている。当院は腎臓提供者と移植を受ける患者との仲介には一切かかわっていない」と繰り返すばかりだった。


インドで横行する臓器売買――「合法化が最善策」の声も

インドでは、1994年に臓器移植に関する規制法が成立したにもかかわらず、違法な臓器売買が続いている。ブローカーによる文書偽造や賄賂が横行して、公的機関による臓器移植の承認システムがうまく機能していないことから、臓器売買を合法化するのが最善の策だという声もある。
Scott Carney 2007年05月23日
インド、チェンナイ発――2007年1月に行なわれた警察の強制捜査で、人間の腎臓を売買したとして密売人3名が逮捕された。この一件で、地域の医療規制当局の不始末に注目が集まるとともに、臓器売買に関する国際的な議論が再燃している。
タミル・ナードゥ州の各地に住む500人以上の人々が、1994年に成立した臓器移植に関する規制法に違反して、臓器ブローカーに自分の腎臓を売ったと話している。しかし規制法の成立以降も、この法律を守らせなければならないはずの行政当局は、しばしば見て見ぬふりをしてきた。
タミル・ナードゥ州の移植承認委員会のメンバーは、匿名を条件にワイアード・ニュースの取材に回答し、次のように述べている。
「われわれはすべて法律の条文に従って行動している。しかし、われわれが目にする文書はほとんどすべてが偽造されたものだ。このことは公然の秘密となっている。偽造された文書でも移植を認めるか、あるいは患者が死亡するかのどちらかだ」
そもそも規制法制定のきっかけとなった搾取による本当の危険性を考えると、人道的な立場から闇での臓器売買を正当化する議論は、拡大解釈のようにも感じる。しかし、医療政策の専門家の中には、インドの公的システムが機能していない以上、何らかの形で合法化するのが最善の策だと言う人たちもいる。
1994年に成立した規制法の下では、すべての移植は州が任命した倫理委員会が承認しなければならない。委員会は個々の移植を承認する前に、ドナーとなるすべての人たちに面接する必要がある。委員会が審査する移植申請の数は、週あたり平均20件で、そのうち15件が承認される。匿名の委員会メンバーによると、ブローカーは日常的に文書を偽造しており、見かけの上では合法的に手続きが処理されているという。
「インドに関する限り、主要な問題はブローカーを排除することだ。つまり、政府による規制、あるいは何らかの補償政策を整備することが重要だ」と、『Transplant News』の編集長Jim Warren氏は述べている。Warren氏は、標準的な金額の対価を支払うことと、国による生涯の医療保険を提供することを提唱している。
しかし、国が支払う金額が国際市場の水準より低ければ、こうしたシステムはうまく機能しないと、カリフォルニア大学バークレー校の医療人類学の教授で、「臓器ウォッチ」の設立時から会長を務めるNancy Scheper-Hughes氏は述べている。
「無料のヘルスケアは名目的にはすばらしく聞こえるが、ある国が臓器売買を合法化して、外国へ出かけてでも臓器移植を受けるという国際的な市場での競争にさらされたときに問題が生じる。国が認めたシステムではそれほど金銭的な見返りを得られない場合、外国のブローカーがもう少し高い代価を提示すれば、医療サービスが得られなくてもほとんどの人は現金の方を選ぶ。けっきょく、合法化する前と同じ問題に直面することになる」と、Scheper-Hughes氏は説明する。
タミル・ナードゥ州の当局は過去13年にわたり、違法臓器売買を非公式に認めてきたと、匿名の委員会メンバーは述べている。この人物の説明によると、非合法の臓器売買がなければ、患者は何の希望も持てなくなるという。なぜならインドでは、遺体から臓器が寄付されることは非常にまれだからだ。見返りがなければ、実質上ドナーはいなくなる。
匿名の委員会メンバーは、ブローカーが移植承認委員会のメンバーに賄賂を渡しているということは否定した。しかし地元の警察は、タミル・ナードゥ州の臓器売買の背後に、利他的な目的以外の多くの問題があると考えている。
「こうしたブローカーは金持ちではない」と、チェンナイの犯罪捜査部に所属するChandrabasu警視は述べている。「臓器移植の仲介でブローカーが手にする額(数千ドル)のうち、大半は賄賂に消える。けっきょく、1件の取引で稼げるのはわずかな額(300ドル)だ」
違法行為を行なうことで、彼らは人命を救ってきたかもしれない。しかし、ブローカーたちが法の網をかいくぐって活動することを見逃したために、移植承認委員会は貧しい人々が臓器ブローカーの食い物になることを許してしまった。1994年に臓器提供の規制法が成立する以前にはびこっていたのと同じ問題がそこにある。
2007年1月、チェンナイの北12キロメートルのところにある、津波避難民のためのキャンプで生活する貧しい女性たちのグループが、ブローカーを通じて自分の臓器を売ったことを市民集会で告白した。
「倫理委員会を訪れたとき、私と同じようにブローカーからの指示を受けてきた4人の女性がそばに座っていた」と、Raniさんという避難民の女性はワイアード・ニュースの取材に対し語った。
Raniさんは、移植の手配をしたブローカーが約束した3300ドルのうち、900ドルほどしか受け取っていないと言う。「私たちは1人ずつ呼ばれた。(委員会が)したことと言えば、私に腎臓を寄付する意思があるかと尋ねて、書類にサインするよう求めるだけだった。手続きはずいぶん早かった」
実行可能な解決策が見当たらないなか、タミル・ナードゥ州の移植承認委員会は自ら対策に乗り出した。規制当局はそれぞれ、急いで対応しようとしている。
Chandrabasu警視によると、警察は現在3名のブローカーを文書偽造容疑で拘束しているという。医療サービス部門の責任者は、52の病院が違法な臓器移植に関わっていたという報告について調査中だと述べている。
タミル・ナードゥ州の厚生大臣は1月22日(現地時間)、州政府の倫理委員会を強化するための方策について提議した。この件について厚生大臣に問い合わせたが、回答は得られなかった。
[日本語版:ガリレオ-向井朋子/福岡洋一]

2011年6月19日日曜日

医師は兵士か?それとも騎士か?

病院経営に企業のノウハウを導入というのは、かなり低いレベルで限界にぶつかるので反対なのですが、社員教育には企業のノウハウは是非とも導入するべきだと思う今日この頃

昭和の遺物がまた頭の悪いことを統計学的に議論(笑)しているのでちょっと紹介しましょう

医学生の学力が低下、2008年の定員増以降
全国医学部長病院長会議、「医学部定員増には慎重な対応を」
2011年6月16日 橋本佳子(m3.com編集長)
6月16日に開催された全国医学部長病院長会議の定例記者会見で、医学生の学力が低下傾向にあることを示す調査結果が報告された。同会議の「学生の学力低下問題に対するワーキンググループ(WG)」が実施したもの。
同WGの座長で顧問の吉村博邦氏は、「過去5年間における医学部4年生に実施するCBTとOSCE、医師国試の合格率などには明らかな変化は見られない。医学生の学力低下は、2008年以降の入学定員増の影響が強く示唆される」と指摘、「偏差値がすべてではないが、一定の理解力、判断力などが求められる。これ以上の急激な医学部入学定員増は、医学生の学力低下を一段と加速することが懸念され、政府には定員増に対する慎重な対応を強く求めたい」と強調した。
調査は全国の医学部あるいは医科大学、計80校の医学部長あるいは教育担当責任者を対象に、2010年12月から2011年1月にかけて実施。主な結果は以下の通り。

【学生の学力低下問題に関する調査の主な結果】
医学部定員は、2008年に168人増、2009年に693人増、2010年に360人増。
◆1年生留年者数:2009年は、2008年に比べて有意に増加(P<0.047)
・53校(国立30校、公立2校、私立21校)のデータ
 ・2005年134人(入学者に対する留年者の割合は2.644人)、2006年131人(同2.556人)、2007年133人(同2.620人)、2008年148人(2.902人)、2009年176人(同3.178人)
◆2年生留年者数:2009年は、2008年に比べて増加
・53校(国立30校、公立2校、私立21校)のデータ
 ・2005年289人、2006年321人、2007年312人、2008年277人、2009年341人
◆「前期一般選抜試験の最終合格者」のセンター試験の平均点と最低点:2010年は2009年に比べて有意に低下(平均点:P<0.001、最低点:P<0.01)
・39校(国立30校、公立6校、私立3校)のデータ
・平均点:2006年90.1%、2007年86.6%、2008年88.5%、2009年86.2%、2010年84.5%
・最低点:平均点:2006年84.9%、2007年80.8%、2008年83.1%、2009年80.0%、2010年77.8% 

 1年生には、「生物、物理、化学」の補習も 
さらに、「教員から学生の学力が低下している、という意見があったり、そのような傾向があるか」との質問に、「ある」と回答したのは、79の回答校のうち68校(86%)、「ない」は11校(14%)。
その根拠として、(1)授業中の態度(私語や教員の指示への対応)の変化、(2)1年生における理科(生物、物理、化学)の成績低下、(3)進級試験不合格者数の増加、などが挙がった。
学力低下の理由として最も多かったのが、「小中高の、いわゆる、ゆとりカリキュラム導入」、以下、「若者全体のモチベーションの低下」、「医学部教員の多忙」、「医学部定員の増加」などの順だった。
90%(70校)が学生の学力低下に対し、「何らかの対策を講じている」と回答。「1年生で生物、物理、化学などの補習を行っている」、「講義・実習の出席を厳しくチェックしている」、「学生にチューター・メンターをつけている」などがその内容だ。

これらの結果を受け、会長の黒岩義之氏は、次のように語った。
この10年前くらいから、特に理科系の学力の低下がベースとしてある。さらに、5、6年前から18歳人口に対する医学部入学者の割合が低下していた。また、モデル・コア・カリキュラムは医学教育の全体的な底上げの意味ではいいが、一方で、画一化という点では、少しマイナスの面があった。これら複合的な要因で、医学生の学力低下が10年前、あるいは5、6年前から生じていたが、医学部定員増で、この問題が顕在化したと思っている。2008年以降の医学部定員増は、医師不足の緊急対策としては必要な、“治療”であり、功を奏したのは事実。しかし、その“治療”の副作用として、医学生の学力低下などが生じてきた。18歳人口はこれからますます減っていく。これ以上、入学定員は増やしていけない。医学部新設はあってはならない


わざわざP値までだしてお疲れ様なのですが、医学部長会議がこんな程度の低いスタディたてるとは、やはり日本の学力低下は深刻なのですね(笑


近年の「入口」の学力低下は今さら今さら議論するまでもありません
定員増や地域枠(一般化したのは2008年以降)で、ほんの7~8年前までの私たち医学部定員削減時代であれば落ちてた層に門戸が開かれたんですから、平均や底辺が低下するのは当然です
ただ、それを証明する方法が間違ってるという話です


まず、国試の合格人数・合格率は政治的に調整されているのでマーカーになりません

次に、「学力低下」がいつからあったのかがまったく証明されていません
10年前からあったなら、2008年と2009年を比べて、定員増が悪いというのはミスリードになります
せめて臨床研修医の入学時および卒業時のデータも出すべきでしょう

仮に、10年前から学力低下があるが卒業時のレベルは変わらないというなら、
「入学時点はこれだけバラツキがありましたが、卒業時にはみんな必要レベルを達成しました」
と宣伝するところですよ?



いま問題なのは、入学者の底辺が広がったことではなく、そんな「ずっと前からわかりきってたこと」に対して大学が未だに結論を出せていないことじゃないでしょうか?


そもそも医学部定員増になったのは、医師不足が原因です
定員増のペースに教育改革が間に合わないから少し待ってくれとか、もっと金よこせとかいうならわかりますが、入学時学力が低下しているから定員を増やすなというのは、話が通りません


国家の方針に従い、教育を強化して底辺を引き上げて医師増員を目指すのか
大学自治にこだわり、医師個人のハイスペックのために少数精鋭にして底辺を切り捨てるのか

決めるのは、そこでは?




つーか、外からの患者みてると、「学力が高かった時代」のお医者さんが、そんな言うほどみんな優秀には見えないんですけどね…


医療がちゃんとシステム化されてれば、いままでよりも低いレベルの医師でも医療全体は底上げできますよ
米軍が、その辺のヤンキーを世界最高峰の一人前のソルジャーに育て上げるシステムとかは見習うべきだと思いますがね


単に、教授たちの運営能力のなさを、臨床研修必修化や定員増のせいにされてはたまりませんよ

 「判断することを仕事とするトップは、アイデアを拒否する。現実的でないとする。イノベーションを可能とするのは、生煮えのアイデアを体系立った行動に転換することを自らの仕事と考えるトップだけである」(『断絶の時代』) 

2011年6月11日土曜日

東日本大震災 No.8

今日で震災からちょうど3ヶ月です

予想通り超長期戦になった東日本大震災ですが、医療機関も復興期に入り始めました
復興方法については、国の人海戦術案と、東北大の集約化案が明らかになってますが、どちらがいいとか言う前に、現状を確認する必要があります

小児・産科、経営危機 原発事故で市外へ避難 南相馬市
福島第1原発事故の影響で、南相馬市の小児科と産婦人科の医療が危機に見舞われている。小学生の3分の2が市外へ避難するという異常な状況が、病院の経営を直撃しているためだ。原発事故が収束する見通しは立たず、避難の長期化は必至。小児科と産科をめぐる環境は当面、好転しそうにない。
南相馬市には震災と原発事故まで、小児科医院が2カ所あり、さらに市立総合病院と民間の大町病院にも小児科があったが、全てが休診中だ。産婦人科で現在も開業しているのは医院1カ所だけ。医院2カ所と市立総合病院、大町病院の産婦人科が休診している。
相馬郡医師会によると、市内の小児科医院の一つには原発事故前、患者が月1000人以上いたが、事故後は10分の1以下に減り、休診に追い込まれた。市内に子どもがいなくなったことが、大きく響いている。
事故前、市教委は4月1日時点の市内の小学生は4050人、中学生は1957人と見込んでいた。ところが5月23日現在、小学生は1343人、中学生は898人だけ。小学生は33%、中学生は46%しか残っていない。
 同市は旧市町ごとに3区に分かれ、そのうち小高区(旧小高町)は全域が立ち入り禁止の警戒区域、原町区(旧原町市)もほぼ全域が緊急時避難準備区域になっている。国は緊急時避難準備区域に子どもや妊婦らが入らないよう指示しており、小学生などが激減する要因になった。
市内の産婦人科で唯一開いている原町中央産婦人科医院が扱った出産は、今年4、5月は1件ずつしかなかった。
同医院の高橋亨平院長(72)は「産科は1カ月で最低15件の出産がなければ経営が成り立たない。今は内科の診療が全体の9割を占めている。原発事故が収まらない限り、人は戻ってこない。これからどうなるか見当がつかない」と話す。
相馬郡医師会の柏村勝利会長(67)は「親は子どもの健康を考えて帰らなかったり、仕事がなくて戻るに戻れなかったりしている。子どもがいなくなって、これから地域を再建できるのだろうか」と心配している。
2011年06月09日木曜日

南相馬市は立派な被災地ですが、むしろ小学生が1/3も残ってる方が不思議かも知れません
…戸籍だけ残ってるとかいうオチじゃなかろうな?


患者がいなくなれば、収入減の診療所や病院といえども閉めざるをえないのは資本主義の常です
が、いっては何ですが、震災からわずか3ヶ月でこうも医療機関が資金難で壊滅することになったのはなぜでしょうか?

原因として、まず、病院に貯蓄がなかったのは間違いないでしょう
そうなったのは、長年の医療費削減政策のたまものです。 財務省の方々、おめでとうございます
どれだけ自転車操業していたんでしょうね?


さて、この自転車操業に止めを刺したのは、ぶっちゃけ、政府の打ち出した被災者の医療費無料化です

以前にも記事中で紹介しましたが
http://firstpenguindoc.blogspot.com/2011/04/no5411417.html
http://firstpenguindoc.blogspot.com/2011/04/no6418423.html
医療機関からすると、窓口負担を合法的に踏み倒されることになります

となると、医療機関は同じ医療行為をしても、2~3割減収になります
→どう考えても、医療するだけ赤字垂れ流しですね
そりゃあ、3ヶ月ももたずに資金ショートしますわ…

被災地全域で、官製医療崩壊が深く静かに進行していることでしょう

2011年6月5日日曜日

責任と行動

今週は小ネタが多いのでどれにするか悩みましたが、これにしました

法か倫理か、救命士の処分がネットで物議 

 静岡県内の東名高速道路で4月中旬、交通事故の現場で静脈路確保の救命処置を行った茨城県石岡市消防本部の救急救命士の男性(54)が、5月31日付で同本部から停職6か月の懲戒処分を受けた。消防署から持ち出した注射針などを使用し、勤務時間外に医師の指示を受けずに処置を行ったことが、関係法令に抵触する可能性が高いと判断されたためだ。愛知県常滑市でも2月、職務中の救急救命士が、現行法が禁止する心肺停止前の患者に点滴を行った事件が発生しており、法律と倫理のどちらを優先させるかをめぐって、インターネット上で議論が巻き起こっている。
 石岡市消防本部によると、男性は4月14日午後、東名高速道路で発生した交通事故の負傷者を救うため、意識のあるけが人に静脈路確保を行った。現行法で救急救命士は、医師の指示がなければ救命処置ができないうえ、静脈路確保は心肺停止の患者に対してのみ許されている。男性は、「法律に触れる可能性があることは分かっていたが、助けたい一心だった」という。
 使用された注射針などは消防署の備品で、男性はその管理を任されており、懲戒処分を受けた5月31日に男性は依願退職した。鈴木徳松消防長は、「人命救助を目的とした行動であっても、関係法規に抵触する可能性が極めて高く、誠に遺憾(いかん)だ」とコメントしている。
 救急救命士の違法行為をめぐっては、愛知県常滑市で2月、交通事故の負傷者を病院に搬送した男性(38)が、救急救命士法が禁止する心肺停止前の患者に点滴を行ったことが報道されている。市消防本部によると、男性は「何とかしてあげたいと思った」と話しており、同本部では現在、医師や県の関係者を交えた検証会議で男性の処分について検討している。
■非番の日に生かせない免許
 石岡市消防本部の救急救命士の懲戒処分について、インターネット掲示板では、「情状酌量の余地アリだろ」「目の前に消えそうな命があるのに助けちゃだめなんて救命士だれが志すんだよ」「こういうのがあると現場はやる気なくすんだよな。救える命が救えなくなるかもな」といった同情論がある一方、「自分の都合で平気で法を犯すような人間、組織としてもこんなの面倒みきれんわ」「助けた事はいいと思うけど、注射針持ち出しはちょっと理解に苦しむ」「むしろこの行為によって助からなかったってことが無かったんだから良いかってくらいだ」などの意見も出ている。
 日本救急救命士協会の鈴木哲司会長は、男性が備品を持ち出したり、医師の具体的な指示を受けずに、意識のある傷病者に静脈路確保を行ったりしたことを問題視し、「報道が感情論に走っているのが気になる」と指摘する一方、「非番の日に免許が生かせない。これが救急救命士の実情なんです」と打ち明ける。
 法律上、救急救命士として職務が行えるのは原則、救急車の中だけ。このため、車内にいなければ救急救命処置を行えないのが現状だ。東日本大震災の発生を受け、厚生労働省は3月、救急救命士が行う心肺停止患者への医療行為について、被災地の通信事情の悪化で医師の指示を得られない場合でも、違法行為には当たらないとする通知を都道府県などに出しているが、「被災地に行っても、その技術を生かす機会のない救急救命士が大半」(鈴木会長)という。
 救急救命士の職域拡大は、政府の行政刷新会議の分科会が1月にまとめた検討項目に含まれており、内閣府と厚労省の政務三役は月内にも、震災の影響で休止していた協議を再開させる方針だ。
( 2011年06月03日 16:55 キャリアブレイン )


私見を言わせて頂くなら、 今回の件は「法か倫理か」ではなく「法も倫理も」アウトです
そもそも、この場で使われている「倫理」とは「職業倫理」でしょうか?「生命倫理」でしょうか?
まぁ、どちらにしてもアウトですが
それと、本件は非番かどうかは一切関係ないですから

法に関しては、まず、自分の立場を利用して医薬品と点滴セットを私物化している時点で、横領に当たります。100%、誰がなんと言おうとアウトです
これは、警官や自衛隊員が有事に備えて実弾入り拳銃を持ち歩いているようなものです



ましてや、医師の指示無く点滴を行ったことについては、医師法違反=傷害行為に当たり、刑事告訴されても文句いえないレベルです
(誤解の無いようにいっておきますが、私たち医師でも、患者でない人間に注射針刺したら傷害です) 


そもそも、医行為は医師の専業であり、看護師や救急救命士の医行為は、医師の指示の元で業務を代行するという形でしか認められていません
なぜそんなことになっているかというと、日本の看護師や救急救命士は、まだそのレベルにしか達していないからです
(注:業務に専念されている各氏を中傷する意図は一切ありません。途上国の医師が移住して看護師とかやってるような国と比べたり、救急車が無料のため医療用手袋の予算すら不足している業界にそれ以上を求める方がムリです) 


どうも(特に一般紙で)書いてる人間も理解していないようですが、心臓マッサージやAED、止血といった救命行為ならば民間人でも可能な行為であり、処分される謂われはありません
また、この男性が大量出血してるとかな状況であれば緊急避難も適応されるでしょうが、一般紙を見る限りではそんな記載はなく、胸痛(しかも日帰り)と書かれてました
となると、この患者はそもそも救命行為の対象であるのか?という疑問が湧いてきます
針を刺す前にバイタルチェックをしたのか、地元の救急隊とどういう連絡を取ったのかは是非とも明らかにしてもらいたいものですが、残念ながらそれらの記載を見つけることはできませんでした

こういう患者がERに運ばれてきた場合、交通事故によるハンドル外傷か、あるいは運転中に循環器疾患を起こして事故を起こした可能性が考えられるでしょうか
となると、下手な輸液は救命どころか追い打ちになる危険もあったということです

「何かをしたい」ではなく、「なにをするべきか、なにをすべきでないか」を判断するのがプロです
どう転んだところで、処分を免れられる状況ではありません

2011年5月29日日曜日

誰が小児のガーディアンたり得るか

臓器移植、ことに虐待のスクリーニングが重要である小児の脳死移植においては、法律以前に周辺組織のネットワーク作りが重要であることは以前に書きました。

しかし、その事実は霞ヶ関からすっぱり切り捨てられており、  医療機関の問題としています 。
ですが、たかが一医療機関にできることなど限られており、私のいる大学も、虐待防止委員会が現実的なレベルに達しておらず、仮に希望者が出ても、臓器提供は不可能な状態です

法改正から11ヶ月経つにもかかわらず、まだ2011/4/12の1例しか行われていないことが、この問題の深刻さを物語っています
そんな中、この一週間で急に動きがありました

正直に言えば、小児提供の一例目が出たことで雪崩を打ったように続出するかと思っていましたが、そんなことはなく、まるであの提供が例外であったかのようです
そして、研究班は現状では「可能な限り小児からの臓器提供は行わない」としか解釈できない超安全策を提示しました
1例目の後に、これだけ「死因が誰から見ても明らかであること」が強調されると、何か裏があったのではないかと勘ぐりたくもなりますが…

脳死移植:新マニュアル作成 虐待の判断、厳格化
改正臓器移植法が昨年7月に全面施行されたのを受け、厚生労働省研究班(研究代表者、有賀徹・昭和大教授)は、脳死判定と臓器移植に関わる新たなマニュアルを作成した。改正法の運用指針(ガイドライン)では虐待を受けていた18歳未満からの臓器提供ができない。新マニュアルでは医療機関に対し、臓器提供に関係なく全ての重症例について虐待の有無を判断するほか、担当医が臓器提供について説明する前に院内の虐待防止委員会の助言を得るなど、虐待例の紛れこみを防ぐ厳格な体制作りを求めた。
運用指針では、虐待を受けた小児からの臓器提供を防ぐため、医療機関に虐待防止委員会の設置と虐待の有無をチェックするマニュアルの整備、児童相談所などとの連携を求めているが、具体的な虐待の判別方法は示されていなかった。
今回作成された新マニュアルでは、患者が虐待を受けていないと判断できるのは、第三者の目撃のある家庭外事故で傷に不審な点がない▽乗り物に乗車中の交通事故▽誤って物を飲み込んだことによる窒息事故で第三者の目撃がある▽患者の病気が明確で不審な点がない--などの場合と例示。日常的に虐待の有無を判断する体制を整えた施設のみ小児臓器提供の実施を容認する姿勢を明確にした。
【藤野基文】
毎日新聞 2011年5月27日 2時30分




小児からの臓器提供推進派からは生温いという声が聞こえてきそうですが、実際に小児の三次病院にいる身としては、ギリギリの妥協点だと思います

そもそも、虐待発見の本務は医療機関ではありません
医療機関で発見される時点で、関係機関の敗北です
児童相談所がその本分を発揮しているとは言い難い状況ではどうしようもありません

そんな中で、児童相談所にとうとう「強権」が与えられました

虐待防止へ親権2年停止可能に 民法改正案が成立
2011年5月27日13時33分

 児童虐待を防止するため、親権を最長で2年間停止できる新制度を柱とした民法と児童福祉法の改正案が27日、参院本会議で全会一致で可決され、成立した。親権を制限するには親子関係を断つしかなかった現行制度を変更し、虐待する親から子を引き離しやすくするのがねらい。来年4月から施行される見通し。 
 現行の民法には、20歳未満の子の親権を親から奪う「親権喪失」の制度がある。ただ、期限の定めがないため、虐待被害の対応にあたる児童相談所(児相)などが親子関係の断絶につながりかねないことを懸念して申し立てをためらうケースが多く、虐待防止の有効な手段になっていないと指摘されてきた。 
 改正法では「親権の行使が困難または不適当で、子の利益を害する場合」に、2年以内の範囲で親権を停止できるようにする。また、親権喪失が認められる場合も「虐待または悪意の遺棄がある」「子の利益を著しく害する」などの条件を明確にした。 
 これまで親権喪失の宣告を家裁に請求できるのは子の親族か検察官、児相所長だけだったが、改正法では範囲を拡大し、虐待された本人や未成年後見人でも親権の喪失や停止を請求できるようにした。家裁が審判を行い、親権停止の場合は子の身体や生活状況などを考慮して期間を定める。 
 親権の内容も修正された。監護や教育は「子の利益のため」と明記。必要な範囲で子を「懲戒」できるとしていた懲戒権の条文は、「しつけを口実にした虐待につながる」との指摘があったことを受けて、「監護および教育に必要な範囲内で」と改められた。 
 さらに、親がいない子の世話をする未成年後見人については、「個人で1人だけ」との規定を削除。担い手不足への対応や施設退所後の子のケアを考え、複数の個人や法人でも選任できるようにした。 
 緊急時に素早い対応ができるよう、虐待された児童が入所する児童養護施設などの施設長の権限も強化した。施設長が子どもの福祉のために必要な措置を取る場合、「親が不当に妨げてはならない」と明記され、子の生命や安全を守るため、緊急時には親の意に反しても対応できるようになった。児相の所長にも、同様の権限が与えられた。(田村剛) 
     ◇
 〈親権〉 未成年の子を育てるために親が持つ権利と義務の総称で、民法に規定されている。子を保護監督して教育する監護教育権や、しつけをする懲戒権、住む場所を決める居所指定権や財産管理権などが含まれる。現行民法では、親権の乱用があるときに家庭裁判所が親権の喪失を宣告できる。親権者がいなくなったときは、保護監督や財産管理をする未成年後見人が選任される。

一言で言ってしまえば、来年4月からは児相は言い逃れができなくなると言うことです
やっと、本務に見合った権限が与えられたというところですが、後はそれを末端の職員が高い意識を持って実行できるかです

では、児相が権力を手にしたところで、医療機関との連携体制はどうなってるかというと…


自治体9割超対応未定 子どもの脳死移植 児相への虐待照会 
5月8日(日)
子どもからの脳死臓器移植の際、虐待の有無の確認を求められる可能性が高い児童相談所(児相)の対応方針を決めているのは、児相を運営する都道府県と政令指定都市など計69自治体のうち、長野県を含む5県・1市にとどまることが7日、各自治体への取材で分かった。4月に国内で初めて15歳未満の少年から脳死臓器移植が行われ、今後増える可能性もあるが、実施に欠かせない虐待情報の提供について9割を超す自治体が是非を判断しかねている実態が浮かんだ。
昨年7月施行の改正臓器移植法は、虐待の疑いのある18歳未満からの臓器提供を禁止。同法のガイドラインでは、臓器移植を行う医療機関に脳死になった子どもが虐待を受けていなかったかどうかの確認を義務付け、厚生労働省のマニュアルは児相への照会をその方法として挙げている。 だが、東京、大阪など42都道府県と政令指定都市など21市は、医療機関から確認を求められた際にどのように対応するか決めていないとする。
福島県は「個人情報保護条例上、児相外部への虐待情報の提供は難しい。ただ、移植を行う病院にとって児相の情報も重要で、移植医療にどう対応するか検討中」と、結論を出していない。愛知県は「移植医療のためとはいえ、判断がつかない」としている。
これに対し、対応方針を決めている6自治体のうち、長野県は親権者の同意がなければ虐待の有無の照会には応じない。虐待情報の提供は、県個人情報保護条例が禁じる「情報の目的外使用」に当たると判断した。福岡県も同様の対応で、親権者が同意しない場合は虐待の疑いがあると判断する方が、より厳密に臓器摘出の対象から虐待疑いの子どもを除外できる-とする。
一方、新潟、秋田、埼玉3県と仙台市は親権者の同意がなくても虐待情報を提供する。移植医療に必要な情報の提供は「公益上、必要な理由がある」(新潟県)などとしている。
厚労省臓器移植対策室は「情報提供の体制整備が急務だが、国が全国統一の方針を打ち出すのは難しい」との立場。自治体側からは「移植医療への対応が自治体ごとに異なるのはおかしい。法に基づいた医療であり、国が統一の仕組みを作るべきだ」(茨城県)との声が出ている。

要するに、
臓器提供を前提にしてすら、虐待情報を医療機関に提供するのは新潟県、秋田県、埼玉県、仙台市のみだということです
この体制下で医療機関が虐待の最終チェックを行うのは不可能です
 
また、官僚がまたワケのわからん責任放棄発言をされていますが、こんな状況で、
日常的に虐待の有無を判断する体制を整えた施設なるものがこの国にいくつあるのでしょうか
厚労省内部で行ってることが矛盾しているように思います、



省庁連携ができず、  その最終責任を医療機関にしている限り、いくら法改正しようが 小児からの臓器提供が増えることはないでしょうし、するべきではありません
子どもの権利を絶対遵守するならば、結論は、よけいなメスを入れない以外にはないのですから

2011年5月22日日曜日

医療費は誰が払うべきか

不思議と医療ニュースや医療系ブログではほとんど取り上げられていないのですが、重大事項が霞ヶ関で動いています



医療費:定額負担構想 税断念し苦肉の策 給付抑制なく、財政再建派に不満

 患者から別途100円程度の徴収を--。そんな厚生労働省の「定額負担」構想は、難病患者らの負担軽減とセットになっている。東日本大震災の影響で強まる財政制約の下、弱者に優しい医療を実現し、「民主党らしさ」を示すための苦肉の策だ。ただ、同じ医療制度の中でカネをやりくりする案だけに、財政再建派が迫る給付削減には結びつかない。
 「政権交代の果実」を示すのと同時に、「福祉の党」を掲げる公明党に秋波を送りたい民主党政権にとり、医療費の自己負担に上限を設けている高額療養費制度の拡充は格好の材料。化学療法の発達で、がん患者らは日常生活を送れるようになった半面、治療が高額・長期化し、医療費がかさむようになっている。
 このため厚労省は、税と社会保障一体改革の議論が始まった当初から、制度の拡充を目指してきた。震災前、数千億円かかる財源は消費税増税で賄う意向だった。
 ところが、震災後は空気が変わった。逆に給付抑制を迫られ、仕方なくひねり出したのが自前で財源を用意できる1人100円程度の定額負担だった。厚労省が今回の一体改革で強調している「支え合い」の理念にも合致すると踏んだ。
 それでも、財務省や一体改革集中検討会議の財政再建派委員には、生ぬるく映る。一部委員からは「保険はビッグリスクに備えるものだ」と、保険免責制度の導入を求める声も出ている。
 保険免責は医療費のうち1000円程度の一定額までは患者負担とし、保険適用はそれを超える部分にとどめる仕組みだ。重病に適用するのが保険で、風邪などの軽い病気には使わないという考えに基づく。数兆円の医療費削減が見込めるものの、厚労省や医療関係者には「医療が必要な人まで通院しなくなる」と抵抗感が強い。
 政府内に医療費抑制ムードが強まる中、日本医師会の原中勝征会長は19日夜の検討会議直前、厚労省に細川律夫厚労相を訪ね、来年度の診療・介護報酬の同時改定見送りを要請した。「震災復興に全身全霊をささげるべきだ」。そう訴えた原中氏の腹の内を、厚労省幹部は「震災の影響で報酬が引き下げになることを嫌った」と読む。しかし、当の細川氏は最後まで明言を避けた。【鈴木直】
毎日新聞 2011年5月20日 東京朝刊

外来患者が重病患者を支えるとは、
大した「支え合い」ですな
「共倒れ」の間違いじゃないか? 
呆れてモノも言えん

結論から言うと、厚労省案も財務省案も「あり得ない」の一言です
ただし、「あり得ない」の意味はまったく異なります

まず厚労省案ですが、これは受益者負担でもなければ、「自分の不測の事態に備える」という保険ではありません
なによりも、健常人が一銭も払わないという時点で福祉ではなく、立場の弱い人間にさらなる負担を強いているだけです
いったいどの様な名前で徴収する気なのか、是非とも聞いてみたいモノです

一方で財務省案も論外です
まず 「保険はビッグリスクに備えるものだ」という彼らの前提条件ですが、そもそもこれは真でしょうか?
安ければ、自動車保険や生命保険は支払われませんか?

また、軽症患者の受診は医療者の過負荷を招いている一方で、重症化を防いでいるのも事実です
行きすぎた軽傷者の受診抑制は重症患者を激増させることは海外で実証されています
結果として、重症救急患者と医療費の増加を招く可能性が大で本末転倒になるでしょう

そもそもが、震災で医療費増が先送りになるのは致し方ないとしても、患者負担を増大させるというのはどういう理屈でしょうか?
火事場泥棒以外の何者にも思えません


どっちにしても、システム変更とクレーム対応で、収入が一銭も増えないのに苦労する羽目になるのは末端の医療機関です
閉院する診療所は一つ二つではきかないように思います