2010年9月23日木曜日

捏造記事への反論

ここではマスゴミの論説にはあまりいちいち反応しないように努めているつもりなのですが、今回は明らかな嘘が書かれているので看過しません


小児科は52病院減…09年前年比、厚労省調査

 厚生労働省は22日、2009年の「医療施設調査・病院報告」の概況を発表した。09年10月現在、小児科を設置している病院は2853施設、産婦人科・産科は1474施設で、ともに1990年以降で最低となった。
 仕事の厳しさや訴訟リスクの高さが指摘される小児科や産婦人科・産科の減少傾向に歯止めが掛かっていない実情が改めて浮き彫りになった。
 調査結果によると、小児科は前年比52施設減少、産婦人科・産科も同22施設減った。90年と比べた減少率は、小児科が約30%、産婦人科・産科は約40%となっている。病院自体は、精神科病院と結核療養所を除いて7655施設で、前年比59施設減、90年比では約15%減だった。
 一方、人口10万人に対する病院の医師数を都道府県別で見ると、最多は高知県の218・3人で、最低は08年に続いて埼玉県の103・5人だった。
[解説]小児科減 医師偏在、対策手つかず
 今回の調査は、医師不足や医師の偏在問題を解消する対策がいまだ不十分で、なかなか効果に結びついていないことをうかがわせる。
 産婦人科や小児科といった激務の診療科を中心に医師不足が指摘されるようになって久しい。国は医学部定員を増員したほか、診療報酬を手厚くしたり、新人医師の臨床研修制度で都道府県ごとに募集定員の上限を設けたりするなど、ここ数年、具体的な対策を実行してきた。
 ただ、診療科や地域による医師の偏在を是正するには、どこにどれだけ医師が不足しているのか把握し、バランスよく人員を配置する必要があるが、その方策は実質的にはほとんど手つかずといっていい。厚労省は適切な医師確保策を具体化することが急務だ。(医療情報部 高梨ゆき子)
(2010年9月23日 読売新聞)

 
なかなか興味深い記事なのですが、この記事には致命的な間違いがあります。

小児科医は減ってませんよ?

若干古いデータで恐縮なのですが、厚労省のデータです
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/07/dl/s0730-22b.pdf
7枚目のグラフがわかりやすいかと思うのですが、減少しているのは産婦人科と外科くらいです。小児科は横ばい~微増ですね
 

では何故小児科医が減ってないのに小児科病床が減ってるかですが、理由はいくつか考えられます

1.少子化
根本的に小児の数が減ってるんですから、病院の数が減るのは当たり前です。過疎の村に小児科入院施設は不要でしょう。
日本の年少人口は、90年はおそよ2250万人、09年は1700万人で、24%の減少です。
http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2010/22webhonpen/html/furoku07-10.html
小児病院の減少度合いは、小児の減少度合いに比べて目くじらたてるほど多いでしょうか?

2.医療裁判
こう書くと小児科医が裁判怖がって病院逃げてるように思われかねませんが、私はそうでないと思います。
これまでは町の診療所など、内科の先生が小児を診ることは多かったはずです。
ところが、ごくまれに発生する「地雷」のために、内科医が小児を診れなくなり、しかも高度医療病院への救急搬送が増えたことが原因としてあげられます。
実際、うちの大学の救急にも塀から落ちて手を切っただけで周辺の診療所からどんどん搬送されてきます。
小児専門医以外が小児を診れなくなったことが小児科医過重労働の一因として存在するのは間違いないでしょう。

3.医療の高度化
最近は抗菌剤などの進歩もあり、昔ほどそう簡単に入院することはなくなっていると思います。
裏を返せば、入院治療に対するハードルは上がっています。
これは小児科だけの問題ではなく、脳外科、小児心臓外科、小児外科との連携の問題も絡みます。
外科医の減少などの問題もあり、外科が集約化に走っている以上、小児科も影響を受け、今後病院の機能分化が進んでいくことと思います。
また、女性医師が増えていることもあり、流石に人権無視の労働形態では「病院が医師に選ばれない時代」になりました

女性医師の比率が高いと言われる産科や小児科は国ぐるみでこれの対策やってます
その為にはスタッフの集約化が必要であり、病院の選別は進んでいくでしょう
よく「○○病院が派遣を停止」とか記事に書かれますが、基本的には撤退される側に問題があると考えておくべきです


4.制度の問題
日本ほど小児病院が少ない先進国はそうそうないと思いますが、私の県(というか地方)には小児病院がありません。
この理由は、なんと、「採算がとれないから」だそうです
いったいどんな医療制度なら、専門病院が採算とれなくなるんでしょうね? 


また、社説でアホなこと言ってますが、医師の絶対数が不足しているのに、どこから医師を確保するつもりなんでしょうか?
読売が大好きな「医師の強制配置」は時代に逆行するものであり、強行すれば今ギリギリでもっている地域まで崩壊します。本当に必要な手段を選択する時間を奪い、医療崩壊地域を増やすだけです。
また、医師には基本的人権がないとするならば、医学部生そのものの減少を招く、みんなが不幸になる選択枝になります
実際、強制配置派が手本とするドイツでは、医学部は定員割れしています
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/4110
しかし、だからといって日本の労働体系では移民で医師を補うという方法も採れません

医療崩壊対策に必要なのは、「医師の不足の把握」ではなく、 「必要な病院機能の選別」です
フリーアクセスという幻想は捨てて、欧米並みに医師と患者を集約化する必要があるでしょう


さて、ご飯が炊けるまでのひまつぶしで反論を書き並べてみましたが、いかがでしょうか?
記事(しかも記名)でここまで思い込みだけで記事を書けるというのは、某フロッピー改竄並にプロ失格だと私は思います

2010年9月5日日曜日

そして真実は闇の中へ

今話題のアシネトバクター、予想外の展開が出てきました

【帝京大院内感染】警視庁、業務上過失致死容疑で捜査へ
2010.9.4 01:45
 帝京大学医学部付属病院(東京都板橋区)で抗菌薬に耐性を持つ細菌「多剤耐性アシネトバクター」(MRAB)に患者46人が感染し、9人が感染の疑いで死亡した問題で、警視庁は3日、安全管理に問題があった疑いがあるとみて、業務上過失致死容疑を視野に医師らから事情を聴く方針を固めた。

さて、警察という方々は、過去の医療裁判からまだ何も学んでいないようですね?
まず第一に、裁判というのは警察官と裁判官が理解しやすい意見だけが採用される場です。
つまり、誰も真実なんて求めてません。

問われるのはtruthではなくguilty or not guiltyです。
この件が裁判に問われることになれば、全国の院内感染対策のアップデートの参考となる資料が警察の物となり、大きな社会的損失を生むことになるでしょう

また、みんなの頭からすっぽり抜けてしまっているような気もしますが、アシネトバクターは死因疑いであって、どうも確定してないみたいですね?
事件現場に指名手配犯がいたからって、そいつが犯人ってワケじゃないので、そこは慎重に調べないといけないところなんですが、そこのところわかっているのでしょうか?

さらにアシネトバクターに感染していたとしても、別の問題があります。2年前のAFPの記事から抜粋しますが


 アシネトバクター・バウマニは健康な人を襲うことは少ないが、入院中の重症患者らの間でよく発見される。高齢者や重篤な基礎疾患を持つ患者、免疫システムの衰弱している人、大きな外傷性障害ややけどのある人などが感染しやすい。また、手術後の人やカテーテルや人工呼吸器の使用者も感染する可能性が高いという。(c)AFP 

というわけなんですね。
つまり、こいつは「合併症」なんですね
「医療過誤」ではなく「医療事故」です


医療者が意図的に感染させたというならバイオテロですが、偶発的に感染したものを「業務上過失」ってどれだけ無茶苦茶いってるかわかってるんでしょうか?


軍隊でいえば、市街戦で民間人一人でも守れなかったら銃殺刑と言っているようなものです
この理屈通るなら、COPD患者が肺炎で死んだら呼吸器専門医全員逮捕になりますよ?
高度医療やるだけで刑事訴訟リスクなんて無茶な先進国は、日本以外どこにもないでしょう

こうなると、医療者と病院が身を守る方法は、 地雷原に入らないことしかなくなります。

また医療が衰退するようなマネをされないことを心から祈るばかりです