私なりにメディア情報を整理させて頂くと、
1.間質性肺炎自体はイレッサの薬品としての副作用の一つ
2.アストラゼネカが死亡に至る可能性のあった間質性肺炎を「警告」ではなく「重大な副作用」としか記載しなかったことが被害(?)を拡大させた
3.国がこの記載を承認したことは無実とは言えないが有罪とは言えない
4.製薬企業と国は患者を救済する責任がある
というところでしょうか?
まず「1」についてですが、これは医療関係者にとっては当然であり、論争にはならないと思います
しかし問題なのは、そうであるにもかかわらず、輸入販売を行うアストラゼネカに賠償責任があるとされたことです
医療関係者にとって最大の問題は「2」でしょう
少なくとも、高度医療を行う医師のレベルでは、「警告」も「重大な副作用」も同じ扱いと考えていいのではないかと思います
それどころか、もっと下のレベルの副作用までチェックします
この記載をPL法違反と言われるのは、実際に薬を使用している医療者の日常診療の感覚から解離しているように思います
また、「3」についてですが、これもまた不思議なところです
企業には「不作為による罪」があるとしながら、「不作為を見逃した国は無罪」というロジックがどうして成立するのかは、法律屋のロジックでないと理解不能です
これについてはクロロキン薬害訴訟の
「被害が生じてもただちに国家賠償法上の違法性は生じず、許容限度を超えて著しく合理性を欠く場合に違法性がある」
という最高裁判決によるものだそうですが、それならそれで、企業に賠償の義務がなんで生じるのかは、やはり示されません
結局のところ、今回の判決は「4」を目的としたものなのでしょうか?
しかし、製薬企業は、しょせんは薬屋さんに過ぎません
彼らに、「患者を救済する義務」なんて、ナンセンスにもほどがあります
言うまでもないことですが、薬というのは常にリスクと隣り合わせの代物です
粗探しして患者救済なんてものを企業に押しつけていたら、誰も薬なんて売らなくなります
これは日本医療にとって、ゆっくりと、しかし確実に致命的な毒となって回り始めるでしょう
ある意味、今回の判決は医療者にとってはもっとも最悪な判決と言えるかも知れません
国は今回の判決を受けて、薬事法と無過失補償制度に着手するようです
薬事法は門外漢なのでよくわかりませんが、無過失補償制度自体は日本に必要な制度です
しかし、では無過失補償制度があれば今回の裁判や判決は予防されたのでしょうか?
私はそうは思いません
無過失補償制度は、物理的な損失を金銭で補償するものです
「処罰感情」や「再発防止」を目的とした訴訟は消えないでしょう
また、病院も製薬企業も衰弱しているこの日本で、無過失訴訟制度の財源がどこから出るのかという疑問もあります
恐らくは産科無過失補償制度をたたき台にするでしょうが、これもまた問題だらけの制度です
産科無過失補償制度は、なぜか医療機関が金を出しています
しかも、無過失補償制度を使用しても訴訟は起こすことができます
さらに、当初の予想通り剰余金が生じましたが、続報を聞いた覚えがないので曖昧ですが、この大金は結局、保険屋の懐に入ってしまったのでしょうか?
私たちが個々に入っている医賠責といい、なんか、医療サイドが一方的に損する社会制度にしか思えませんが…
こんなんで、ドラッグ・ラグ解消とか、日本の創薬促進とか、混合診療解禁とか、どの口で言うのか…
薬とは、いや、治療とはなんなのかという根本的な部分に、国民と医療関係者に解離がある限り、誰も救われないでしょう