2012年11月7日水曜日

犯人は見えないところにいる

ながらく更新せずにいましたが…まぁちょっと色々あって精神的に余裕がなかったのと、ちょうどいいネタがなかったのが理由ですが、最近また医療記事が増えてきたのでちょこちょこ復活したいと思います


さて、本日のネタですが、京大の透析機装着ミス事件です




医師ら3人書類送検 京大の患者死亡事故

共同通信社  11月6日(火) 配信
 京都大病院で昨年11月、脳死肝移植を受けた富山県の男性患者=当時(51)=が医療器具の装着ミスで死亡した事故で、京都府警捜査1課と川端署は6日、業務上過失致死の疑いで、医師ら3人を書類送検した。 同課などによると、書類送検されたのは、装着に関与した当時肝胆膵(かんたんすい)・移植外科の男性医師(37)と小児外科の女性医師(37)=退職、女性看護師(35)の3人。 送検容疑は、昨年11月12日夜、患者に透析治療をした際、看護師は本来取り付ける血液ろ過器ではなく、血漿(けっしょう)分離器を確認せずに誤って準備し、医師2人も確認せずに装着、患者をショック状態に陥らせ、翌13日午前10時50分ごろに、死亡させた疑い。
 府警は3人が誤装着を未然に防止する注意義務を怠ったと判断した。医師2人については起訴を求める意見を付けたとみられる。遺族は刑事告訴をしてないが、医師らへの処罰意識は強いという。
 京大病院によると、患者は昨年11月5日、脳死肝移植を受け成功。一般病棟に移り、腎不全の治療を受けていた。患者の死亡後に病院は装着ミスに気付いた。
 京大病院は今年9月、装着ミスと死亡との因果や病院の医療体制の不備を認める報告書をまとめていた。

この事件自体は既報だったのですが、まだ書類送検されていなかったことと、単に当直医としか表現されていなかったのであまり気にしていなかったのですが、この記事を見て問題が違うところにあると気づきました。

記事中から推測するに、肝移植は成功し、ICUから一般病棟へうつり透析治療を行っていた。
そこで、透析回路を主科の消化器外科で組んでいて事故が起きた…というところだと思います。

ここでの問題は、透析回路のセッティングや透析治療に、腎臓内科やME(臨床工学技士)の姿が見えないことです。
私は既報の「当直医」は腎臓内科医だと思っていたのです。

この事件はミリオタ的表現をするなら、戦車兵と海兵がバラバラの戦闘機をくみ上げて緊急発進したら整備不良で墜落した。
原因は戦車兵と海兵にあるので軍法会議にかける。というようなものです。
普通に考えれば、パイロットと整備兵はどこに行っていた!というべきところだと思いますが

私は初期研修で腎臓内科に3ヶ月ほどいましたが、腎臓専門医で透析オンコールというものが組まれていました
ICUなどで緊急透析などする場合でも、腎臓内科医とMEがセットで回路を組んでいましたが、それでも一つ一つ確認しながらの作業でした
透析機ではイメージしづらいかも知れませんが、例えば、バラバラの人工呼吸器を説明書みながら自分で組んで下さいといわれて、絶対に間違えずにできるという医師、います?
しかも透析機は目的に応じてパーツを変えるモジュール式なので、今回の事件の様なミスを工学的に防ぐことは難しいでしょう。慣れてない人間だけで透析組むなど、危険極まりないです


腹部外科だけで透析回路組んで透析治療をすると言うのは…少なくとも私が研修した病院ではあり得ないことです
ましてや、天下の京大で?
あるいは、旧帝大の京大だからこその組織的な問題があるのか?と邪推してしまいます

実際、京大は医療体制の不備を認める報告書を自ら出しています
まぁ、こんな状態放置してたら職員の士気低下は免れませんし、簡単ではないでしょうが組織改革の動き始めたのではないかと前向きに解釈します

さて、問題は、ここまで来てから警察が当直医と看護師を業務上過失致死で書類送検したことにあります

まずこれまでの流れからわかっていただけるとは思いますが、これは京大の組織的な問題が原因であり、肝胆膵移植外科と小児外科の当直医および当番看護師に責任の本体はありません
これは、構造的に起こるべくして起こった事故といえますし、責任の本体は病院そのものにあります
病院を訴えるならともかく、これは的外れです

また、もう一つの問題は、タイミング的に院内事故調の報告書を元に書類送検がされたと考えられることです
これでは、事故調など機能できなくなります

警察のしていることは、問題の解決と逆方向に進んでいる
そうとしか私には考えられません