2011年11月14日月曜日

TPPと医療制度

どうにも情報の混乱している今話題のTPPと混合診療の問題について、少しまとめてみたいと思います
その前にTPPってなによ?というところを整理する必要がありますが、実はこれが難問です


まず、ネットや本屋を漁っても、TPPの条項を引用した上で中立的に分析したものはまったくありません
何せ、基本理念以外なにも決まってないor公開されていない物だから仕方ないかも知れませんが…

経済を専門とする親父殿に聞いても、

「各国ごとにFTA結ぶのめんどくさいから、まとめて一緒にやろうぜ!」

というのが本来の目的であり、参加国の制度まで踏み込むものではない、という程度の情報しかありませんでした
ただ、逆に言えば仮に医療制度にまで踏み込んだ要求をされたところで

「お前のいいたいことはわかった。だが断る!」

で十分であり、TPP加入=混合診療解禁とか保険医療崩壊とかいうのはありえないとのことでした
そういうわけなので、首相が記者会見や国会で

「世界に誇る日本の医療制度、伝統文化、美しい農村は断固として守り抜く決意だ」

と明言したのは十分なジャブで、現時点ではこれ以上の回答はあり得ないでしょう
(守るのは農業じゃなくて農村かよという突っ込みはこの際スルーします)


ただ、業界そのものが経営危機にある米国の先発薬メーカーは、TPPに乗じたロビー活動を展開しているのは事実で、各国に対し先発薬の知的財産保護とジェネリック抑制を要求しており、ニュージーランドとオーストラリアは防戦に回っているようです
http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=1742044

しかし、これはTPPを避けたからと言って逃げられる問題ではありません
また、国際的な特許争いはIT業界では日常茶飯事であることを考えれば、医薬品の特許争いが起きることも避けられないでしょう
先発やメーカーとジェネリックメーカーが、さながらAppleとSamsungのような訴訟合戦を起こす日が来るかもしれませんが、むしろTPPに参加することによって各国でスクラムを組んでアメリカに対抗することができるかも知れません

また、仮に米国の要求を部分的にでも呑むことになったとしても、これで変わるのは薬価制度です
薬に関税がどれだけかかってるかは知りませんが…まぁ医療費は上がるでしょうが、だからといって即、混合診療解禁というのは言いすぎです
実際、メリケンからしても、金持ちしか使えない薬を売るより、公的保険でみんなに使ってもらった方が売れますからねぇ…
医療費が上限まで来たところで、はじめて高負担高福祉にして高額療養費制度を拡充するのか、低負担低福祉の混合診療にするのかという議論が出てくるはずです

むしろ、今回は将来の日本の医療制度をどう設計するのかを議論するいい機会であり、平和憲法のごとく国民皆保険万歳というのは、間違いだと思います


TPPで直接的に問題になるのは、医療制度そのものよりもドラッグ・ラグ、デバイス・ラグでしょう
医療界のお偉方には、この機に乗じてこの問題を解決するぐらいの気概が欲しいものです


また、TPPとなると就労移民も問題となるという人もいますが、
これに関して、日本への流入は、良くも悪くも心配する必要はありません
労働時間と給与から考えて日本に来るうまみが全くなく、また既にEPAで日本に来ている東南アジアの看護師を見る限りでは、日本語の壁は想像以上に分厚いことは容易に想像できます。まして医師ともなればその比でないことは明白です


で、結局のところ、TPPで医療のなにが変わりそうかというと…たぶん、なにも現場的には変わりません
薬価や認可制度の変更はあり得そうですが、それ以上はTPPが肥大化しすぎます
文化や経済規模の近い陸続きのEUですら医療制度の統一はできませんでした
先進国から途上国、資本主義から社会主義までそろった北米と南米とオーストラリアとニュージーランドと東南アジアと日本がいるTPPで、まとめようがありません