まずは事件の内容ですが、
腎移植の闇:臓器売買事件
「商談」はバーカウンターで始まった。09年5月のある夜。東京都江戸川区のJR小岩駅から徒歩5分のスナックの店内で、堀内利信容疑者(55)の妻則子容疑者(48)が雇われママの佐々木ひとみ容疑者(37)に切り出した。「夫の病気のことで困っているの」
則子容疑者は店の常連だった。開業医の堀内容疑者が慢性腎不全と診断され、透析を受けていることは既に話していた。則子容疑者は、夫が日本臓器移植ネットワークに登録したが死体腎移植の機会が巡ってこないことやフィリピンでの移植計画を立てたが失敗したことを明かした後で続けた。
「お金なら出すから誰か紹介してくれない?」。報酬は1000万円。臓器売買の提案の場面を関係者が明かした。
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「先生が腎臓を悪くしていたなんて知らなかった」。堀内容疑者が区内で開業する堀内クリニックの近所の住人は口をそろえる。
堀内容疑者は金沢医大(石川県)を卒業後、医師だった父からクリニックを引き継いだ。専門は内科と小児科。患者の評判は良く、20年来の掛かり付けという男性(93)は「口数は少ないが、友達のような感覚で接してくれる優しい先生」と話す。足の不自由なお年寄りに配慮し、レントゲン室を1階につくることができる物件を求めクリニックを移転させる一面もあった。
則子容疑者は、夫とは対照的に社交的な女性だったようだ。フラワーデザイナーとして、東京・銀座や横浜駅前でアレンジメント教室を主宰。テレビに出演したこともある。ただ経営は楽ではなかったようで、捜査関係者は「開業医の夫の収入に頼る部分もあったようだ」と語る。
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スナックで臓器売買の提案を受けた佐々木容疑者は、同居する指定暴力団住吉会系組員の滝野和久容疑者(50)に話をつないだ。堀内夫妻ら4人は09年6月、則子容疑者が小岩駅近くで開くフラワー教室に集まった。堀内容疑者が「移植手術をする病院は自分たちで用意するから、ドナーを探してほしい」と滝野容疑者に依頼。手術のために養子縁組を偽装することを伝え、1000万円を分割で支払うことを決めた。
滝野容疑者は、すぐに3人のドナー候補をそろえたという。このうち2人は元組員。ドナーの適合検査を経て絞り込まれたのが、かつて同じ組に所属していた元組員の坂上文彦容疑者(48)だった。 年末には堀内夫妻はファミリーレストランで坂上容疑者と初めて顔を合わせ、翌年1月、江戸川区役所に養子縁組を届けた。
臓器の売り手に買い手、そしてスナック。3者の住所はいずれも小岩駅から半径300メートル圏内におさまっていた。
だが、5人の蜜月関係は長く続かなかった。その後、滝野容疑者が1000万円を追加要求したことでトラブルに発展し、手術直前になって移植は中止された。堀内容疑者は別のドナーを用意して移植手術を受けたとされる。
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臓器売買画策の背景には何があったのか。なぜ偽装縁組は見逃されたのか。警視庁が捜査に乗り出した臓器売買事件の闇を追った。
昨年1月15日。堀内利信容疑者(55)の妻則子容疑者(48)が主宰する東京都江戸川区内のフラワー教室に、臓器売買の仲介役とされる暴力団組員の滝野和久容疑者(50)が2種類の書類を持参した。「養子縁組届」と「養子離縁届」。則子容疑者は双方に記入すると、その足で江戸川区役所小岩事務所に向かい、坂上文彦容疑者(48)との養子縁組届を提出した。
ドナー候補の元組員、坂上容疑者の腎臓を堀内容疑者に移植するための偽装縁組。「手術が終わればすぐに離縁届を出す予定だった」と則子容疑者は警視庁組織犯罪対策4課の調べに供述しているという。堀内容疑者らの目には、腎臓が売り買い可能な「商品」と映っていたのか。
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半年ほど前、都内のある病院に「妻から腎臓を移植してほしい」という相談があった。50代とおぼしき男性は他の病院からの紹介状を持っていたが、「妻」を連れず1人で来院した。不審に思った医師が事情を聴くと、実は内妻で外国籍だと分かった。「普通なら2人で相談にくるはず。移植は断った」。医師は臓器売買の可能性を疑った。
西日本の病院の移植医は「母親から腎臓の提供を受ける代わりに遺産相続を放棄するなど、事実上の売買ともとれるケースはあった」と明かす。
移植医療に詳しい東京財団の〓島(ぬでしま)次郎研究員は「死体腎ドナーの不足を背景に、水面下で生体移植用の腎臓売買が横行している恐れがある」と指摘する。
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日本臓器移植ネットワークによると、死体腎移植を希望して移植ネットに登録している待機患者は1万1814人(09年11月現在)。しかし、移植実現までは平均15年かかるとされ、95~09年の間で移植を待ちながら亡くなった患者は2476人。同時期に移植を受けられた2418人を上回る。
親族から生体腎移植を受けるという選択肢もあるが、堀内容疑者のようにドナーを見つけられないケースも多い。NPO「移植への理解を求める会」の代表、向田陽二さん(53)は「国を挙げて移植を増やす努力をしてほしい」と話す。自身も生体腎移植経験者の向田さんは、末期の腎不全患者の気持ちをこう代弁する。
「現状では1000万円でも2000万円でも出して腎臓を欲しがる人がいてもおかしくない」
「20世紀で人類が手にすることができた最も効果的な医療技術。それが臓器移植です」。昨年9月、鹿児島県で開かれた生体腎移植の講演会。壇上から語りかける医師は当時、宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)に勤務していた。医師は生体腎移植のメリットや手術の手軽さを説明し、続けた。「うちの病院では、養子縁組をされた後に移植を受ける方もいます」
その2カ月前。同病院では、堀内利信容疑者(55)=臓器移植法違反容疑などで逮捕=への移植手術が実施されていた。執刀したのは、泌尿器科部長の万波(まんなみ)誠医師と、この医師。堀内容疑者が逮捕され、ドナー(臓器提供者)の男性(21)とは偽装養子縁組だった疑いが浮上している。
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堀内容疑者は移植を受けるために養子縁組の企てを重ねていた。
最初は知人女性に持ちかけた。死体腎移植の順番が回ってくる気配はなく、海外渡航移植も失敗。堀内容疑者は焦っていた。しかし「移植には養子縁組が必要」と説明すると女性は逃げ出した。 頼ったのが暴力団組員、滝野和久容疑者(50)だった。1000万円の報酬で紹介されたドナー候補の坂上文彦容疑者(48)と養子縁組し、板橋中央総合病院(東京都板橋区)で移植を受ける話がまとまった。しかし手術直前の昨年5月、1000万円を追加要求され、計画は流れた。
そして宇和島徳洲会病院。堀内容疑者は別の暴力団組員から新たにドナーの男性を紹介され、養子縁組のわずか1カ月後の昨年7月に移植を受けた。
両病院の倫理委員会は実態を見抜けなかった。宇和島徳洲会病院は、養子縁組が繰り返されていることを戸籍で把握したものの、堀内容疑者が坂上容疑者との関係の説明を渋ったため、それ以上調査しなかった。
臓器移植に詳しい医療関係者は「養子縁組直後は疑問を感じてもおかしくなく、普通なら手術を避ける」と指摘する。別の病院関係者からは「病院は捜査機関ではない。偽装養子や臓器売買を見抜くことには限界がある」との本音も漏れる。
日本移植学会の倫理指針は生体移植のドナー条件を親族と定めるだけで、法的拘束力はなく、審査は病院任せだ。専門家は「法規制の強化や不正がないか調査する専門の第三者機関の設置などを議論すべき時期に来ている」と提言する。
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ドナー不足に直面する患者。ドナーあっせんが容易な暴力団。甘い法規制。三つの条件がそろい、臓器売買が起きた。捜査幹部の一人はつぶやく。「捜査は始まったばかり。闇のすべては明らかにはなっていない」(この連載は川崎桂吾、前谷宏、浅野翔太郎、喜浦遊が担当しました)
毎日新聞 2011年6月26日 東京朝刊
これは私自身も考えが甘かったと反省したのですが、正直、日本で臓器売買というのは理論的にはあり得ても実際にはないだろう、と考えていました
このため、先の臓器移植法改正で生体移植のルール作りがまたも先送りされたことへの危機感はありませんでした
2000年前後には、臓器売買、ことに腎臓は「国際市場」を形成していました
医療バカの日本人医師にはなかなかピンと来ないでしょうが、Newsweekなどの国際的な(一般的な)雑誌やニュースでは定期的に取り上げられるくらいの「常識」です
最盛期には、新聞の三行広告で臓器が売買されていたほどです
腎臓の相場は数十万だったようです
00年代後半にはじまった「国際市場」となった国の国家的な臓器売買監理がはじまりましたが、未だ公然と行われているのが現状のようです
そんなわけで、わざわざ日本で臓器売買をやるのはあまりに「割に合わない」と考えていたのです
それでも最初、事件の舞台が江東区ときいて、まああり得なくはないかと思いはしたのですが、こうまで売り手が次々に現れ、実際に宇和島で行われていたと聞いたときは、本当に考えの甘さを痛感しました
暴力団も色々と資金源を潰される中で、臓器売買ネットワークを形成した可能性があります
また、続く不況もこれに追い打ちをかけたと思われます
臓器売買は 五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金でしかありません
仮に臓器売買に手を貸す医師がいたとしても、任意団体に過ぎない医師会や学会では対応できません(代理母や病気腎移植がその例です)
厚労省が医師免許剥奪や、保険診療の停止処分をするくらいしかまともな処分はありませんが、これも明確なルールがない中ではまともに機能しません
生体移植の法律化と、 臓器売買の厳罰化が必要です
貧困層を狙う違法臓器売買、パキスタン政府が外国人への販売を禁止
2007年08月21日 16:20
発信地:イスラマバード/パキスタン
【8月21日 AFP】「腎臓を1つ100万ルピー(約190万円)で売らないか」。Tariqと名乗る男から電話でそう持ち掛けられたとき、Usman Ranaさん(24)は運がまわってきたと考えた。
警察によれば、Ranaさんは仕事を探すため、2月にラホール(Lahore)から首都イスラマバード(Islamabad)に出てきた直後にTariqから誘いを受けた。腎臓の買い手は英国から来た患者だと告げられ、パキスタンでは大金にあたる10万ルピー(約19万円)の前金を受け取った後、イスラマバード郊外の民間病院で手術を受けた。
手術後しばらくして、残った腎臓が痛み始めた。まだ残金を受け取っていなかったため、Ranaさんは催促するとともに警察に通報。捜査の結果、巧妙な詐欺事件が発覚した。
新聞各紙の報道によると、Ranaさんの事件に関連して医師1人と警察官1人を含む4人が身柄を拘束されて17日に裁判所に出廷、警察は残る2人の行方を追っている。うち1人は警察官だという。
パキスタン政府によると、Ranaさんのようなケースは珍しいものではなく、「最貧層」を狙った違法臓器取引の取り締まりを目的として、前週に新法「Transplantation of Human Organs and Tissues Bill、 2007」が制定された。
パキスタンにはこれまで、臓器移植を目的とした患者が世界各国から訪れていた。同国では提供者が現れるのを待つ必要もなく、自国に比べて臓器移植手術が格安で受けられるためだ。
しかし、新法ではパキスタン人が外国人に臓器を販売することを禁止。また、許可なくヒトの臓器を売買した者に対し禁固10年と多額の罰金を科すよう定められている。
腎臓の売買は増えており、パキスタン国内での売買額は年間10億ルピー(約19億円)に上るという。同国は「臓器のスーパーマーケット」として知られるようになり、「失業者が氷に包まれて目覚めると、手術跡があって臓器が盗まれたことに気づいた」といった話がまことしやかに語られていた。
被害に遭うのは、実質的に奴隷のような状態で働かされている人々。借金を払って自由の身になりたいとの思いから臓器を売り渡すケースがほとんどだという。
RanaさんはThe Newsの取材に対し、イスラマバードに来たときは2年間も失業していて餓死寸前の状態で、床屋で腎臓を売れば家族を養えると持ち掛けられたと打ち明けた。しかし前金の10万ルピーでさえも、手術後に病院を出る際に仲介者3人が待ち構えていて、あとで全額を払うからと言って持ち去ってしまったという。
Dawn紙の18日の報道によると、パキスタンでは年間2000件の腎臓移植が行われ、うち500件は患者が国立病院で家族から生体腎移植を受けるケース。残る1500件が私立病院で他人の臓器を移植されるケースで、このうち約900から1000件を中東、北米、欧州、南アジアの20か国以上から来る患者が占めているという。(c)AFP/Lynne O’Donnell
売るのは子どもか、腎臓か
パキスタン貧困層の苦悩
2009.07.26 Web posted at: 19:53 JST Updated - CNN
地主への借金返済のため、腎臓を売ることを余儀なくされたパキスタン人男性パキスタン北部サルゴダ(CNN)
借金を返すために、子どもを売るか自分の腎臓を売るか――パキスタン農村部の貧困層の間で、経済的に追い込まれ、厳しい選択を迫られる人々が後を絶たない。同国では最近、臓器売買を禁止する法律が成立したが、腎臓移植は法の抜け穴をくぐって続けられている。
モハメド・イクバルさん(50)は地主から借金の返済を迫られ、腎臓の提供を決意したばかりだ。
すでに手術に備えた検査も済ませた。これで10―15万円を工面することができる。
農場で働くラブ・ナワスさんは、約1年前に腎臓の摘出手術を受けた。結婚式の費用から妻と子ども6人の医療費まで、地主から借金を重ねた結果、「妻子を売るか、腎臓を売るか」の選択を強いられたという。
「子どもたちを売り飛ばすくらいなら、腎臓を売るほうがましだった。金を返すためにはほかに道がなかった」と、ナワスさんは振り返る。腹部から背中にかけて、30センチほどの傷跡が残った。
体力が落ち、手術前と同じ働き方はできなくなった。農場周辺の村には同じような傷跡を持つ人々がいくらでもいると、ナワスさんは語る。
パキスタンはこれまで、臓器売買が横行する「臓器の市場」として知られていた。年間2000件の移植手術が行われ、このうち1500件は受け手が外国人。手術を目的に同国を訪れる患者は、「移植客」とも呼ばれた。07年には臓器売買が法律で禁止されたものの、実態に大きな変化はない。
ナワスさんが手術を受けたのも、禁止法の施行後だった。
ナワスさんは、手術を受けたラワルピンディ市内の病院にCNN取材班を案内。医師に手術記録の開示を求めたが、「記録は患者が退院したら破棄することになっている」と断られた。
病院側はCNNの取材に、「法律には従っている。当院は腎臓提供者と移植を受ける患者との仲介には一切かかわっていない」と繰り返すばかりだった。
インドで横行する臓器売買――「合法化が最善策」の声も
インドでは、1994年に臓器移植に関する規制法が成立したにもかかわらず、違法な臓器売買が続いている。ブローカーによる文書偽造や賄賂が横行して、公的機関による臓器移植の承認システムがうまく機能していないことから、臓器売買を合法化するのが最善の策だという声もある。
Scott Carney 2007年05月23日
インド、チェンナイ発――2007年1月に行なわれた警察の強制捜査で、人間の腎臓を売買したとして密売人3名が逮捕された。この一件で、地域の医療規制当局の不始末に注目が集まるとともに、臓器売買に関する国際的な議論が再燃している。
タミル・ナードゥ州の各地に住む500人以上の人々が、1994年に成立した臓器移植に関する規制法に違反して、臓器ブローカーに自分の腎臓を売ったと話している。しかし規制法の成立以降も、この法律を守らせなければならないはずの行政当局は、しばしば見て見ぬふりをしてきた。
タミル・ナードゥ州の移植承認委員会のメンバーは、匿名を条件にワイアード・ニュースの取材に回答し、次のように述べている。
「われわれはすべて法律の条文に従って行動している。しかし、われわれが目にする文書はほとんどすべてが偽造されたものだ。このことは公然の秘密となっている。偽造された文書でも移植を認めるか、あるいは患者が死亡するかのどちらかだ」
そもそも規制法制定のきっかけとなった搾取による本当の危険性を考えると、人道的な立場から闇での臓器売買を正当化する議論は、拡大解釈のようにも感じる。しかし、医療政策の専門家の中には、インドの公的システムが機能していない以上、何らかの形で合法化するのが最善の策だと言う人たちもいる。
1994年に成立した規制法の下では、すべての移植は州が任命した倫理委員会が承認しなければならない。委員会は個々の移植を承認する前に、ドナーとなるすべての人たちに面接する必要がある。委員会が審査する移植申請の数は、週あたり平均20件で、そのうち15件が承認される。匿名の委員会メンバーによると、ブローカーは日常的に文書を偽造しており、見かけの上では合法的に手続きが処理されているという。
「インドに関する限り、主要な問題はブローカーを排除することだ。つまり、政府による規制、あるいは何らかの補償政策を整備することが重要だ」と、『Transplant News』の編集長Jim Warren氏は述べている。Warren氏は、標準的な金額の対価を支払うことと、国による生涯の医療保険を提供することを提唱している。
しかし、国が支払う金額が国際市場の水準より低ければ、こうしたシステムはうまく機能しないと、カリフォルニア大学バークレー校の医療人類学の教授で、「臓器ウォッチ」の設立時から会長を務めるNancy Scheper-Hughes氏は述べている。
「無料のヘルスケアは名目的にはすばらしく聞こえるが、ある国が臓器売買を合法化して、外国へ出かけてでも臓器移植を受けるという国際的な市場での競争にさらされたときに問題が生じる。国が認めたシステムではそれほど金銭的な見返りを得られない場合、外国のブローカーがもう少し高い代価を提示すれば、医療サービスが得られなくてもほとんどの人は現金の方を選ぶ。けっきょく、合法化する前と同じ問題に直面することになる」と、Scheper-Hughes氏は説明する。
タミル・ナードゥ州の当局は過去13年にわたり、違法臓器売買を非公式に認めてきたと、匿名の委員会メンバーは述べている。この人物の説明によると、非合法の臓器売買がなければ、患者は何の希望も持てなくなるという。なぜならインドでは、遺体から臓器が寄付されることは非常にまれだからだ。見返りがなければ、実質上ドナーはいなくなる。
匿名の委員会メンバーは、ブローカーが移植承認委員会のメンバーに賄賂を渡しているということは否定した。しかし地元の警察は、タミル・ナードゥ州の臓器売買の背後に、利他的な目的以外の多くの問題があると考えている。
「こうしたブローカーは金持ちではない」と、チェンナイの犯罪捜査部に所属するChandrabasu警視は述べている。「臓器移植の仲介でブローカーが手にする額(数千ドル)のうち、大半は賄賂に消える。けっきょく、1件の取引で稼げるのはわずかな額(300ドル)だ」
違法行為を行なうことで、彼らは人命を救ってきたかもしれない。しかし、ブローカーたちが法の網をかいくぐって活動することを見逃したために、移植承認委員会は貧しい人々が臓器ブローカーの食い物になることを許してしまった。1994年に臓器提供の規制法が成立する以前にはびこっていたのと同じ問題がそこにある。
2007年1月、チェンナイの北12キロメートルのところにある、津波避難民のためのキャンプで生活する貧しい女性たちのグループが、ブローカーを通じて自分の臓器を売ったことを市民集会で告白した。
「倫理委員会を訪れたとき、私と同じようにブローカーからの指示を受けてきた4人の女性がそばに座っていた」と、Raniさんという避難民の女性はワイアード・ニュースの取材に対し語った。
Raniさんは、移植の手配をしたブローカーが約束した3300ドルのうち、900ドルほどしか受け取っていないと言う。「私たちは1人ずつ呼ばれた。(委員会が)したことと言えば、私に腎臓を寄付する意思があるかと尋ねて、書類にサインするよう求めるだけだった。手続きはずいぶん早かった」
実行可能な解決策が見当たらないなか、タミル・ナードゥ州の移植承認委員会は自ら対策に乗り出した。規制当局はそれぞれ、急いで対応しようとしている。
Chandrabasu警視によると、警察は現在3名のブローカーを文書偽造容疑で拘束しているという。医療サービス部門の責任者は、52の病院が違法な臓器移植に関わっていたという報告について調査中だと述べている。
タミル・ナードゥ州の厚生大臣は1月22日(現地時間)、州政府の倫理委員会を強化するための方策について提議した。この件について厚生大臣に問い合わせたが、回答は得られなかった。
[日本語版:ガリレオ-向井朋子/福岡洋一]