2011年6月26日日曜日

臓器売買の実情

今週は例の臓器売買事件についてです
まずは事件の内容ですが、


腎移植の闇:臓器売買事件
「商談」はバーカウンターで始まった。09年5月のある夜。東京都江戸川区のJR小岩駅から徒歩5分のスナックの店内で、堀内利信容疑者(55)の妻則子容疑者(48)が雇われママの佐々木ひとみ容疑者(37)に切り出した。「夫の病気のことで困っているの」
則子容疑者は店の常連だった。開業医の堀内容疑者が慢性腎不全と診断され、透析を受けていることは既に話していた。則子容疑者は、夫が日本臓器移植ネットワークに登録したが死体腎移植の機会が巡ってこないことやフィリピンでの移植計画を立てたが失敗したことを明かした後で続けた。
「お金なら出すから誰か紹介してくれない?」。報酬は1000万円。臓器売買の提案の場面を関係者が明かした。
「先生が腎臓を悪くしていたなんて知らなかった」。堀内容疑者が区内で開業する堀内クリニックの近所の住人は口をそろえる。
堀内容疑者は金沢医大(石川県)を卒業後、医師だった父からクリニックを引き継いだ。専門は内科と小児科。患者の評判は良く、20年来の掛かり付けという男性(93)は「口数は少ないが、友達のような感覚で接してくれる優しい先生」と話す。足の不自由なお年寄りに配慮し、レントゲン室を1階につくることができる物件を求めクリニックを移転させる一面もあった。
則子容疑者は、夫とは対照的に社交的な女性だったようだ。フラワーデザイナーとして、東京・銀座や横浜駅前でアレンジメント教室を主宰。テレビに出演したこともある。ただ経営は楽ではなかったようで、捜査関係者は「開業医の夫の収入に頼る部分もあったようだ」と語る。
スナックで臓器売買の提案を受けた佐々木容疑者は、同居する指定暴力団住吉会系組員の滝野和久容疑者(50)に話をつないだ。堀内夫妻ら4人は09年6月、則子容疑者が小岩駅近くで開くフラワー教室に集まった。堀内容疑者が「移植手術をする病院は自分たちで用意するから、ドナーを探してほしい」と滝野容疑者に依頼。手術のために養子縁組を偽装することを伝え、1000万円を分割で支払うことを決めた。
滝野容疑者は、すぐに3人のドナー候補をそろえたという。このうち2人は元組員。ドナーの適合検査を経て絞り込まれたのが、かつて同じ組に所属していた元組員の坂上文彦容疑者(48)だった。 年末には堀内夫妻はファミリーレストランで坂上容疑者と初めて顔を合わせ、翌年1月、江戸川区役所に養子縁組を届けた。
 臓器の売り手に買い手、そしてスナック。3者の住所はいずれも小岩駅から半径300メートル圏内におさまっていた。
だが、5人の蜜月関係は長く続かなかった。その後、滝野容疑者が1000万円を追加要求したことでトラブルに発展し、手術直前になって移植は中止された。堀内容疑者は別のドナーを用意して移植手術を受けたとされる。
臓器売買画策の背景には何があったのか。なぜ偽装縁組は見逃されたのか。警視庁が捜査に乗り出した臓器売買事件の闇を追った。
昨年1月15日。堀内利信容疑者(55)の妻則子容疑者(48)が主宰する東京都江戸川区内のフラワー教室に、臓器売買の仲介役とされる暴力団組員の滝野和久容疑者(50)が2種類の書類を持参した。「養子縁組届」と「養子離縁届」。則子容疑者は双方に記入すると、その足で江戸川区役所小岩事務所に向かい、坂上文彦容疑者(48)との養子縁組届を提出した。
ドナー候補の元組員、坂上容疑者の腎臓を堀内容疑者に移植するための偽装縁組。「手術が終わればすぐに離縁届を出す予定だった」と則子容疑者は警視庁組織犯罪対策4課の調べに供述しているという。堀内容疑者らの目には、腎臓が売り買い可能な「商品」と映っていたのか。
半年ほど前、都内のある病院に「妻から腎臓を移植してほしい」という相談があった。50代とおぼしき男性は他の病院からの紹介状を持っていたが、「妻」を連れず1人で来院した。不審に思った医師が事情を聴くと、実は内妻で外国籍だと分かった。「普通なら2人で相談にくるはず。移植は断った」。医師は臓器売買の可能性を疑った。
西日本の病院の移植医は「母親から腎臓の提供を受ける代わりに遺産相続を放棄するなど、事実上の売買ともとれるケースはあった」と明かす。
移植医療に詳しい東京財団の〓島(ぬでしま)次郎研究員は「死体腎ドナーの不足を背景に、水面下で生体移植用の腎臓売買が横行している恐れがある」と指摘する。
日本臓器移植ネットワークによると、死体腎移植を希望して移植ネットに登録している待機患者は1万1814人(09年11月現在)。しかし、移植実現までは平均15年かかるとされ、95~09年の間で移植を待ちながら亡くなった患者は2476人。同時期に移植を受けられた2418人を上回る。
親族から生体腎移植を受けるという選択肢もあるが、堀内容疑者のようにドナーを見つけられないケースも多い。NPO「移植への理解を求める会」の代表、向田陽二さん(53)は「国を挙げて移植を増やす努力をしてほしい」と話す。自身も生体腎移植経験者の向田さんは、末期の腎不全患者の気持ちをこう代弁する。
「現状では1000万円でも2000万円でも出して腎臓を欲しがる人がいてもおかしくない」
「20世紀で人類が手にすることができた最も効果的な医療技術。それが臓器移植です」。昨年9月、鹿児島県で開かれた生体腎移植の講演会。壇上から語りかける医師は当時、宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)に勤務していた。医師は生体腎移植のメリットや手術の手軽さを説明し、続けた。「うちの病院では、養子縁組をされた後に移植を受ける方もいます」
その2カ月前。同病院では、堀内利信容疑者(55)=臓器移植法違反容疑などで逮捕=への移植手術が実施されていた。執刀したのは、泌尿器科部長の万波(まんなみ)誠医師と、この医師。堀内容疑者が逮捕され、ドナー(臓器提供者)の男性(21)とは偽装養子縁組だった疑いが浮上している。
堀内容疑者は移植を受けるために養子縁組の企てを重ねていた。
最初は知人女性に持ちかけた。死体腎移植の順番が回ってくる気配はなく、海外渡航移植も失敗。堀内容疑者は焦っていた。しかし「移植には養子縁組が必要」と説明すると女性は逃げ出した。 頼ったのが暴力団組員、滝野和久容疑者(50)だった。1000万円の報酬で紹介されたドナー候補の坂上文彦容疑者(48)と養子縁組し、板橋中央総合病院(東京都板橋区)で移植を受ける話がまとまった。しかし手術直前の昨年5月、1000万円を追加要求され、計画は流れた。
そして宇和島徳洲会病院。堀内容疑者は別の暴力団組員から新たにドナーの男性を紹介され、養子縁組のわずか1カ月後の昨年7月に移植を受けた。
両病院の倫理委員会は実態を見抜けなかった。宇和島徳洲会病院は、養子縁組が繰り返されていることを戸籍で把握したものの、堀内容疑者が坂上容疑者との関係の説明を渋ったため、それ以上調査しなかった。
臓器移植に詳しい医療関係者は「養子縁組直後は疑問を感じてもおかしくなく、普通なら手術を避ける」と指摘する。別の病院関係者からは「病院は捜査機関ではない。偽装養子や臓器売買を見抜くことには限界がある」との本音も漏れる。
日本移植学会の倫理指針は生体移植のドナー条件を親族と定めるだけで、法的拘束力はなく、審査は病院任せだ。専門家は「法規制の強化や不正がないか調査する専門の第三者機関の設置などを議論すべき時期に来ている」と提言する。 
ドナー不足に直面する患者。ドナーあっせんが容易な暴力団。甘い法規制。三つの条件がそろい、臓器売買が起きた。捜査幹部の一人はつぶやく。「捜査は始まったばかり。闇のすべては明らかにはなっていない」(この連載は川崎桂吾、前谷宏、浅野翔太郎、喜浦遊が担当しました)
毎日新聞 2011年6月26日 東京朝刊



これは私自身も考えが甘かったと反省したのですが、正直、日本で臓器売買というのは理論的にはあり得ても実際にはないだろう、と考えていました
このため、先の臓器移植法改正で生体移植のルール作りがまたも先送りされたことへの危機感はありませんでした

2000年前後には、臓器売買、ことに腎臓は「国際市場」を形成していました
医療バカの日本人医師にはなかなかピンと来ないでしょうが、Newsweekなどの国際的な(一般的な)雑誌やニュースでは定期的に取り上げられるくらいの「常識」です

最盛期には、新聞の三行広告で臓器が売買されていたほどです
腎臓の相場は数十万だったようです
00年代後半にはじまった「国際市場」となった国の国家的な臓器売買監理がはじまりましたが、未だ公然と行われているのが現状のようです
そんなわけで、わざわざ日本で臓器売買をやるのはあまりに「割に合わない」と考えていたのです

それでも最初、事件の舞台が江東区ときいて、まああり得なくはないかと思いはしたのですが、こうまで売り手が次々に現れ、実際に宇和島で行われていたと聞いたときは、本当に考えの甘さを痛感しました

暴力団も色々と資金源を潰される中で、臓器売買ネットワークを形成した可能性があります
また、続く不況もこれに追い打ちをかけたと思われます

臓器売買は 五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金でしかありません
仮に臓器売買に手を貸す医師がいたとしても、任意団体に過ぎない医師会や学会では対応できません(代理母や病気腎移植がその例です)
厚労省が医師免許剥奪や、保険診療の停止処分をするくらいしかまともな処分はありませんが、これも明確なルールがない中ではまともに機能しません
生体移植の法律化と、 臓器売買の厳罰化が必要です



貧困層を狙う違法臓器売買、パキスタン政府が外国人への販売を禁止
2007年08月21日 16:20 
発信地:イスラマバード/パキスタン
【8月21日 AFP】「腎臓を1つ100万ルピー(約190万円)で売らないか」。Tariqと名乗る男から電話でそう持ち掛けられたとき、Usman Ranaさん(24)は運がまわってきたと考えた。
警察によれば、Ranaさんは仕事を探すため、2月にラホール(Lahore)から首都イスラマバード(Islamabad)に出てきた直後にTariqから誘いを受けた。腎臓の買い手は英国から来た患者だと告げられ、パキスタンでは大金にあたる10万ルピー(約19万円)の前金を受け取った後、イスラマバード郊外の民間病院で手術を受けた。
手術後しばらくして、残った腎臓が痛み始めた。まだ残金を受け取っていなかったため、Ranaさんは催促するとともに警察に通報。捜査の結果、巧妙な詐欺事件が発覚した。
新聞各紙の報道によると、Ranaさんの事件に関連して医師1人と警察官1人を含む4人が身柄を拘束されて17日に裁判所に出廷、警察は残る2人の行方を追っている。うち1人は警察官だという。
パキスタン政府によると、Ranaさんのようなケースは珍しいものではなく、「最貧層」を狙った違法臓器取引の取り締まりを目的として、前週に新法「Transplantation of Human Organs and Tissues Bill、 2007」が制定された。
 パキスタンにはこれまで、臓器移植を目的とした患者が世界各国から訪れていた。同国では提供者が現れるのを待つ必要もなく、自国に比べて臓器移植手術が格安で受けられるためだ。
 しかし、新法ではパキスタン人が外国人に臓器を販売することを禁止。また、許可なくヒトの臓器を売買した者に対し禁固10年と多額の罰金を科すよう定められている。
 腎臓の売買は増えており、パキスタン国内での売買額は年間10億ルピー(約19億円)に上るという。同国は「臓器のスーパーマーケット」として知られるようになり、「失業者が氷に包まれて目覚めると、手術跡があって臓器が盗まれたことに気づいた」といった話がまことしやかに語られていた。
被害に遭うのは、実質的に奴隷のような状態で働かされている人々。借金を払って自由の身になりたいとの思いから臓器を売り渡すケースがほとんどだという。
RanaさんはThe Newsの取材に対し、イスラマバードに来たときは2年間も失業していて餓死寸前の状態で、床屋で腎臓を売れば家族を養えると持ち掛けられたと打ち明けた。しかし前金の10万ルピーでさえも、手術後に病院を出る際に仲介者3人が待ち構えていて、あとで全額を払うからと言って持ち去ってしまったという。
Dawn紙の18日の報道によると、パキスタンでは年間2000件の腎臓移植が行われ、うち500件は患者が国立病院で家族から生体腎移植を受けるケース。残る1500件が私立病院で他人の臓器を移植されるケースで、このうち約900から1000件を中東、北米、欧州、南アジアの20か国以上から来る患者が占めているという。(c)AFP/Lynne O’Donnell

売るのは子どもか、腎臓か 

パキスタン貧困層の苦悩
2009.07.26 Web posted at: 19:53 JST Updated - CNN
地主への借金返済のため、腎臓を売ることを余儀なくされたパキスタン人男性パキスタン北部サルゴダ(CNN) 
  借金を返すために、子どもを売るか自分の腎臓を売るか――パキスタン農村部の貧困層の間で、経済的に追い込まれ、厳しい選択を迫られる人々が後を絶たない。同国では最近、臓器売買を禁止する法律が成立したが、腎臓移植は法の抜け穴をくぐって続けられている。 
モハメド・イクバルさん(50)は地主から借金の返済を迫られ、腎臓の提供を決意したばかりだ。
すでに手術に備えた検査も済ませた。これで10―15万円を工面することができる。
  農場で働くラブ・ナワスさんは、約1年前に腎臓の摘出手術を受けた。結婚式の費用から妻と子ども6人の医療費まで、地主から借金を重ねた結果、「妻子を売るか、腎臓を売るか」の選択を強いられたという。 
  「子どもたちを売り飛ばすくらいなら、腎臓を売るほうがましだった。金を返すためにはほかに道がなかった」と、ナワスさんは振り返る。腹部から背中にかけて、30センチほどの傷跡が残った。
 体力が落ち、手術前と同じ働き方はできなくなった。農場周辺の村には同じような傷跡を持つ人々がいくらでもいると、ナワスさんは語る。 
  パキスタンはこれまで、臓器売買が横行する「臓器の市場」として知られていた。年間2000件の移植手術が行われ、このうち1500件は受け手が外国人。手術を目的に同国を訪れる患者は、「移植客」とも呼ばれた。07年には臓器売買が法律で禁止されたものの、実態に大きな変化はない。
ナワスさんが手術を受けたのも、禁止法の施行後だった。
  ナワスさんは、手術を受けたラワルピンディ市内の病院にCNN取材班を案内。医師に手術記録の開示を求めたが、「記録は患者が退院したら破棄することになっている」と断られた。
 病院側はCNNの取材に、「法律には従っている。当院は腎臓提供者と移植を受ける患者との仲介には一切かかわっていない」と繰り返すばかりだった。


インドで横行する臓器売買――「合法化が最善策」の声も

インドでは、1994年に臓器移植に関する規制法が成立したにもかかわらず、違法な臓器売買が続いている。ブローカーによる文書偽造や賄賂が横行して、公的機関による臓器移植の承認システムがうまく機能していないことから、臓器売買を合法化するのが最善の策だという声もある。
Scott Carney 2007年05月23日
インド、チェンナイ発――2007年1月に行なわれた警察の強制捜査で、人間の腎臓を売買したとして密売人3名が逮捕された。この一件で、地域の医療規制当局の不始末に注目が集まるとともに、臓器売買に関する国際的な議論が再燃している。
タミル・ナードゥ州の各地に住む500人以上の人々が、1994年に成立した臓器移植に関する規制法に違反して、臓器ブローカーに自分の腎臓を売ったと話している。しかし規制法の成立以降も、この法律を守らせなければならないはずの行政当局は、しばしば見て見ぬふりをしてきた。
タミル・ナードゥ州の移植承認委員会のメンバーは、匿名を条件にワイアード・ニュースの取材に回答し、次のように述べている。
「われわれはすべて法律の条文に従って行動している。しかし、われわれが目にする文書はほとんどすべてが偽造されたものだ。このことは公然の秘密となっている。偽造された文書でも移植を認めるか、あるいは患者が死亡するかのどちらかだ」
そもそも規制法制定のきっかけとなった搾取による本当の危険性を考えると、人道的な立場から闇での臓器売買を正当化する議論は、拡大解釈のようにも感じる。しかし、医療政策の専門家の中には、インドの公的システムが機能していない以上、何らかの形で合法化するのが最善の策だと言う人たちもいる。
1994年に成立した規制法の下では、すべての移植は州が任命した倫理委員会が承認しなければならない。委員会は個々の移植を承認する前に、ドナーとなるすべての人たちに面接する必要がある。委員会が審査する移植申請の数は、週あたり平均20件で、そのうち15件が承認される。匿名の委員会メンバーによると、ブローカーは日常的に文書を偽造しており、見かけの上では合法的に手続きが処理されているという。
「インドに関する限り、主要な問題はブローカーを排除することだ。つまり、政府による規制、あるいは何らかの補償政策を整備することが重要だ」と、『Transplant News』の編集長Jim Warren氏は述べている。Warren氏は、標準的な金額の対価を支払うことと、国による生涯の医療保険を提供することを提唱している。
しかし、国が支払う金額が国際市場の水準より低ければ、こうしたシステムはうまく機能しないと、カリフォルニア大学バークレー校の医療人類学の教授で、「臓器ウォッチ」の設立時から会長を務めるNancy Scheper-Hughes氏は述べている。
「無料のヘルスケアは名目的にはすばらしく聞こえるが、ある国が臓器売買を合法化して、外国へ出かけてでも臓器移植を受けるという国際的な市場での競争にさらされたときに問題が生じる。国が認めたシステムではそれほど金銭的な見返りを得られない場合、外国のブローカーがもう少し高い代価を提示すれば、医療サービスが得られなくてもほとんどの人は現金の方を選ぶ。けっきょく、合法化する前と同じ問題に直面することになる」と、Scheper-Hughes氏は説明する。
タミル・ナードゥ州の当局は過去13年にわたり、違法臓器売買を非公式に認めてきたと、匿名の委員会メンバーは述べている。この人物の説明によると、非合法の臓器売買がなければ、患者は何の希望も持てなくなるという。なぜならインドでは、遺体から臓器が寄付されることは非常にまれだからだ。見返りがなければ、実質上ドナーはいなくなる。
匿名の委員会メンバーは、ブローカーが移植承認委員会のメンバーに賄賂を渡しているということは否定した。しかし地元の警察は、タミル・ナードゥ州の臓器売買の背後に、利他的な目的以外の多くの問題があると考えている。
「こうしたブローカーは金持ちではない」と、チェンナイの犯罪捜査部に所属するChandrabasu警視は述べている。「臓器移植の仲介でブローカーが手にする額(数千ドル)のうち、大半は賄賂に消える。けっきょく、1件の取引で稼げるのはわずかな額(300ドル)だ」
違法行為を行なうことで、彼らは人命を救ってきたかもしれない。しかし、ブローカーたちが法の網をかいくぐって活動することを見逃したために、移植承認委員会は貧しい人々が臓器ブローカーの食い物になることを許してしまった。1994年に臓器提供の規制法が成立する以前にはびこっていたのと同じ問題がそこにある。
2007年1月、チェンナイの北12キロメートルのところにある、津波避難民のためのキャンプで生活する貧しい女性たちのグループが、ブローカーを通じて自分の臓器を売ったことを市民集会で告白した。
「倫理委員会を訪れたとき、私と同じようにブローカーからの指示を受けてきた4人の女性がそばに座っていた」と、Raniさんという避難民の女性はワイアード・ニュースの取材に対し語った。
Raniさんは、移植の手配をしたブローカーが約束した3300ドルのうち、900ドルほどしか受け取っていないと言う。「私たちは1人ずつ呼ばれた。(委員会が)したことと言えば、私に腎臓を寄付する意思があるかと尋ねて、書類にサインするよう求めるだけだった。手続きはずいぶん早かった」
実行可能な解決策が見当たらないなか、タミル・ナードゥ州の移植承認委員会は自ら対策に乗り出した。規制当局はそれぞれ、急いで対応しようとしている。
Chandrabasu警視によると、警察は現在3名のブローカーを文書偽造容疑で拘束しているという。医療サービス部門の責任者は、52の病院が違法な臓器移植に関わっていたという報告について調査中だと述べている。
タミル・ナードゥ州の厚生大臣は1月22日(現地時間)、州政府の倫理委員会を強化するための方策について提議した。この件について厚生大臣に問い合わせたが、回答は得られなかった。
[日本語版:ガリレオ-向井朋子/福岡洋一]

2011年6月19日日曜日

医師は兵士か?それとも騎士か?

病院経営に企業のノウハウを導入というのは、かなり低いレベルで限界にぶつかるので反対なのですが、社員教育には企業のノウハウは是非とも導入するべきだと思う今日この頃

昭和の遺物がまた頭の悪いことを統計学的に議論(笑)しているのでちょっと紹介しましょう

医学生の学力が低下、2008年の定員増以降
全国医学部長病院長会議、「医学部定員増には慎重な対応を」
2011年6月16日 橋本佳子(m3.com編集長)
6月16日に開催された全国医学部長病院長会議の定例記者会見で、医学生の学力が低下傾向にあることを示す調査結果が報告された。同会議の「学生の学力低下問題に対するワーキンググループ(WG)」が実施したもの。
同WGの座長で顧問の吉村博邦氏は、「過去5年間における医学部4年生に実施するCBTとOSCE、医師国試の合格率などには明らかな変化は見られない。医学生の学力低下は、2008年以降の入学定員増の影響が強く示唆される」と指摘、「偏差値がすべてではないが、一定の理解力、判断力などが求められる。これ以上の急激な医学部入学定員増は、医学生の学力低下を一段と加速することが懸念され、政府には定員増に対する慎重な対応を強く求めたい」と強調した。
調査は全国の医学部あるいは医科大学、計80校の医学部長あるいは教育担当責任者を対象に、2010年12月から2011年1月にかけて実施。主な結果は以下の通り。

【学生の学力低下問題に関する調査の主な結果】
医学部定員は、2008年に168人増、2009年に693人増、2010年に360人増。
◆1年生留年者数:2009年は、2008年に比べて有意に増加(P<0.047)
・53校(国立30校、公立2校、私立21校)のデータ
 ・2005年134人(入学者に対する留年者の割合は2.644人)、2006年131人(同2.556人)、2007年133人(同2.620人)、2008年148人(2.902人)、2009年176人(同3.178人)
◆2年生留年者数:2009年は、2008年に比べて増加
・53校(国立30校、公立2校、私立21校)のデータ
 ・2005年289人、2006年321人、2007年312人、2008年277人、2009年341人
◆「前期一般選抜試験の最終合格者」のセンター試験の平均点と最低点:2010年は2009年に比べて有意に低下(平均点:P<0.001、最低点:P<0.01)
・39校(国立30校、公立6校、私立3校)のデータ
・平均点:2006年90.1%、2007年86.6%、2008年88.5%、2009年86.2%、2010年84.5%
・最低点:平均点:2006年84.9%、2007年80.8%、2008年83.1%、2009年80.0%、2010年77.8% 

 1年生には、「生物、物理、化学」の補習も 
さらに、「教員から学生の学力が低下している、という意見があったり、そのような傾向があるか」との質問に、「ある」と回答したのは、79の回答校のうち68校(86%)、「ない」は11校(14%)。
その根拠として、(1)授業中の態度(私語や教員の指示への対応)の変化、(2)1年生における理科(生物、物理、化学)の成績低下、(3)進級試験不合格者数の増加、などが挙がった。
学力低下の理由として最も多かったのが、「小中高の、いわゆる、ゆとりカリキュラム導入」、以下、「若者全体のモチベーションの低下」、「医学部教員の多忙」、「医学部定員の増加」などの順だった。
90%(70校)が学生の学力低下に対し、「何らかの対策を講じている」と回答。「1年生で生物、物理、化学などの補習を行っている」、「講義・実習の出席を厳しくチェックしている」、「学生にチューター・メンターをつけている」などがその内容だ。

これらの結果を受け、会長の黒岩義之氏は、次のように語った。
この10年前くらいから、特に理科系の学力の低下がベースとしてある。さらに、5、6年前から18歳人口に対する医学部入学者の割合が低下していた。また、モデル・コア・カリキュラムは医学教育の全体的な底上げの意味ではいいが、一方で、画一化という点では、少しマイナスの面があった。これら複合的な要因で、医学生の学力低下が10年前、あるいは5、6年前から生じていたが、医学部定員増で、この問題が顕在化したと思っている。2008年以降の医学部定員増は、医師不足の緊急対策としては必要な、“治療”であり、功を奏したのは事実。しかし、その“治療”の副作用として、医学生の学力低下などが生じてきた。18歳人口はこれからますます減っていく。これ以上、入学定員は増やしていけない。医学部新設はあってはならない


わざわざP値までだしてお疲れ様なのですが、医学部長会議がこんな程度の低いスタディたてるとは、やはり日本の学力低下は深刻なのですね(笑


近年の「入口」の学力低下は今さら今さら議論するまでもありません
定員増や地域枠(一般化したのは2008年以降)で、ほんの7~8年前までの私たち医学部定員削減時代であれば落ちてた層に門戸が開かれたんですから、平均や底辺が低下するのは当然です
ただ、それを証明する方法が間違ってるという話です


まず、国試の合格人数・合格率は政治的に調整されているのでマーカーになりません

次に、「学力低下」がいつからあったのかがまったく証明されていません
10年前からあったなら、2008年と2009年を比べて、定員増が悪いというのはミスリードになります
せめて臨床研修医の入学時および卒業時のデータも出すべきでしょう

仮に、10年前から学力低下があるが卒業時のレベルは変わらないというなら、
「入学時点はこれだけバラツキがありましたが、卒業時にはみんな必要レベルを達成しました」
と宣伝するところですよ?



いま問題なのは、入学者の底辺が広がったことではなく、そんな「ずっと前からわかりきってたこと」に対して大学が未だに結論を出せていないことじゃないでしょうか?


そもそも医学部定員増になったのは、医師不足が原因です
定員増のペースに教育改革が間に合わないから少し待ってくれとか、もっと金よこせとかいうならわかりますが、入学時学力が低下しているから定員を増やすなというのは、話が通りません


国家の方針に従い、教育を強化して底辺を引き上げて医師増員を目指すのか
大学自治にこだわり、医師個人のハイスペックのために少数精鋭にして底辺を切り捨てるのか

決めるのは、そこでは?




つーか、外からの患者みてると、「学力が高かった時代」のお医者さんが、そんな言うほどみんな優秀には見えないんですけどね…


医療がちゃんとシステム化されてれば、いままでよりも低いレベルの医師でも医療全体は底上げできますよ
米軍が、その辺のヤンキーを世界最高峰の一人前のソルジャーに育て上げるシステムとかは見習うべきだと思いますがね


単に、教授たちの運営能力のなさを、臨床研修必修化や定員増のせいにされてはたまりませんよ

 「判断することを仕事とするトップは、アイデアを拒否する。現実的でないとする。イノベーションを可能とするのは、生煮えのアイデアを体系立った行動に転換することを自らの仕事と考えるトップだけである」(『断絶の時代』) 

2011年6月11日土曜日

東日本大震災 No.8

今日で震災からちょうど3ヶ月です

予想通り超長期戦になった東日本大震災ですが、医療機関も復興期に入り始めました
復興方法については、国の人海戦術案と、東北大の集約化案が明らかになってますが、どちらがいいとか言う前に、現状を確認する必要があります

小児・産科、経営危機 原発事故で市外へ避難 南相馬市
福島第1原発事故の影響で、南相馬市の小児科と産婦人科の医療が危機に見舞われている。小学生の3分の2が市外へ避難するという異常な状況が、病院の経営を直撃しているためだ。原発事故が収束する見通しは立たず、避難の長期化は必至。小児科と産科をめぐる環境は当面、好転しそうにない。
南相馬市には震災と原発事故まで、小児科医院が2カ所あり、さらに市立総合病院と民間の大町病院にも小児科があったが、全てが休診中だ。産婦人科で現在も開業しているのは医院1カ所だけ。医院2カ所と市立総合病院、大町病院の産婦人科が休診している。
相馬郡医師会によると、市内の小児科医院の一つには原発事故前、患者が月1000人以上いたが、事故後は10分の1以下に減り、休診に追い込まれた。市内に子どもがいなくなったことが、大きく響いている。
事故前、市教委は4月1日時点の市内の小学生は4050人、中学生は1957人と見込んでいた。ところが5月23日現在、小学生は1343人、中学生は898人だけ。小学生は33%、中学生は46%しか残っていない。
 同市は旧市町ごとに3区に分かれ、そのうち小高区(旧小高町)は全域が立ち入り禁止の警戒区域、原町区(旧原町市)もほぼ全域が緊急時避難準備区域になっている。国は緊急時避難準備区域に子どもや妊婦らが入らないよう指示しており、小学生などが激減する要因になった。
市内の産婦人科で唯一開いている原町中央産婦人科医院が扱った出産は、今年4、5月は1件ずつしかなかった。
同医院の高橋亨平院長(72)は「産科は1カ月で最低15件の出産がなければ経営が成り立たない。今は内科の診療が全体の9割を占めている。原発事故が収まらない限り、人は戻ってこない。これからどうなるか見当がつかない」と話す。
相馬郡医師会の柏村勝利会長(67)は「親は子どもの健康を考えて帰らなかったり、仕事がなくて戻るに戻れなかったりしている。子どもがいなくなって、これから地域を再建できるのだろうか」と心配している。
2011年06月09日木曜日

南相馬市は立派な被災地ですが、むしろ小学生が1/3も残ってる方が不思議かも知れません
…戸籍だけ残ってるとかいうオチじゃなかろうな?


患者がいなくなれば、収入減の診療所や病院といえども閉めざるをえないのは資本主義の常です
が、いっては何ですが、震災からわずか3ヶ月でこうも医療機関が資金難で壊滅することになったのはなぜでしょうか?

原因として、まず、病院に貯蓄がなかったのは間違いないでしょう
そうなったのは、長年の医療費削減政策のたまものです。 財務省の方々、おめでとうございます
どれだけ自転車操業していたんでしょうね?


さて、この自転車操業に止めを刺したのは、ぶっちゃけ、政府の打ち出した被災者の医療費無料化です

以前にも記事中で紹介しましたが
http://firstpenguindoc.blogspot.com/2011/04/no5411417.html
http://firstpenguindoc.blogspot.com/2011/04/no6418423.html
医療機関からすると、窓口負担を合法的に踏み倒されることになります

となると、医療機関は同じ医療行為をしても、2~3割減収になります
→どう考えても、医療するだけ赤字垂れ流しですね
そりゃあ、3ヶ月ももたずに資金ショートしますわ…

被災地全域で、官製医療崩壊が深く静かに進行していることでしょう

2011年6月5日日曜日

責任と行動

今週は小ネタが多いのでどれにするか悩みましたが、これにしました

法か倫理か、救命士の処分がネットで物議 

 静岡県内の東名高速道路で4月中旬、交通事故の現場で静脈路確保の救命処置を行った茨城県石岡市消防本部の救急救命士の男性(54)が、5月31日付で同本部から停職6か月の懲戒処分を受けた。消防署から持ち出した注射針などを使用し、勤務時間外に医師の指示を受けずに処置を行ったことが、関係法令に抵触する可能性が高いと判断されたためだ。愛知県常滑市でも2月、職務中の救急救命士が、現行法が禁止する心肺停止前の患者に点滴を行った事件が発生しており、法律と倫理のどちらを優先させるかをめぐって、インターネット上で議論が巻き起こっている。
 石岡市消防本部によると、男性は4月14日午後、東名高速道路で発生した交通事故の負傷者を救うため、意識のあるけが人に静脈路確保を行った。現行法で救急救命士は、医師の指示がなければ救命処置ができないうえ、静脈路確保は心肺停止の患者に対してのみ許されている。男性は、「法律に触れる可能性があることは分かっていたが、助けたい一心だった」という。
 使用された注射針などは消防署の備品で、男性はその管理を任されており、懲戒処分を受けた5月31日に男性は依願退職した。鈴木徳松消防長は、「人命救助を目的とした行動であっても、関係法規に抵触する可能性が極めて高く、誠に遺憾(いかん)だ」とコメントしている。
 救急救命士の違法行為をめぐっては、愛知県常滑市で2月、交通事故の負傷者を病院に搬送した男性(38)が、救急救命士法が禁止する心肺停止前の患者に点滴を行ったことが報道されている。市消防本部によると、男性は「何とかしてあげたいと思った」と話しており、同本部では現在、医師や県の関係者を交えた検証会議で男性の処分について検討している。
■非番の日に生かせない免許
 石岡市消防本部の救急救命士の懲戒処分について、インターネット掲示板では、「情状酌量の余地アリだろ」「目の前に消えそうな命があるのに助けちゃだめなんて救命士だれが志すんだよ」「こういうのがあると現場はやる気なくすんだよな。救える命が救えなくなるかもな」といった同情論がある一方、「自分の都合で平気で法を犯すような人間、組織としてもこんなの面倒みきれんわ」「助けた事はいいと思うけど、注射針持ち出しはちょっと理解に苦しむ」「むしろこの行為によって助からなかったってことが無かったんだから良いかってくらいだ」などの意見も出ている。
 日本救急救命士協会の鈴木哲司会長は、男性が備品を持ち出したり、医師の具体的な指示を受けずに、意識のある傷病者に静脈路確保を行ったりしたことを問題視し、「報道が感情論に走っているのが気になる」と指摘する一方、「非番の日に免許が生かせない。これが救急救命士の実情なんです」と打ち明ける。
 法律上、救急救命士として職務が行えるのは原則、救急車の中だけ。このため、車内にいなければ救急救命処置を行えないのが現状だ。東日本大震災の発生を受け、厚生労働省は3月、救急救命士が行う心肺停止患者への医療行為について、被災地の通信事情の悪化で医師の指示を得られない場合でも、違法行為には当たらないとする通知を都道府県などに出しているが、「被災地に行っても、その技術を生かす機会のない救急救命士が大半」(鈴木会長)という。
 救急救命士の職域拡大は、政府の行政刷新会議の分科会が1月にまとめた検討項目に含まれており、内閣府と厚労省の政務三役は月内にも、震災の影響で休止していた協議を再開させる方針だ。
( 2011年06月03日 16:55 キャリアブレイン )


私見を言わせて頂くなら、 今回の件は「法か倫理か」ではなく「法も倫理も」アウトです
そもそも、この場で使われている「倫理」とは「職業倫理」でしょうか?「生命倫理」でしょうか?
まぁ、どちらにしてもアウトですが
それと、本件は非番かどうかは一切関係ないですから

法に関しては、まず、自分の立場を利用して医薬品と点滴セットを私物化している時点で、横領に当たります。100%、誰がなんと言おうとアウトです
これは、警官や自衛隊員が有事に備えて実弾入り拳銃を持ち歩いているようなものです



ましてや、医師の指示無く点滴を行ったことについては、医師法違反=傷害行為に当たり、刑事告訴されても文句いえないレベルです
(誤解の無いようにいっておきますが、私たち医師でも、患者でない人間に注射針刺したら傷害です) 


そもそも、医行為は医師の専業であり、看護師や救急救命士の医行為は、医師の指示の元で業務を代行するという形でしか認められていません
なぜそんなことになっているかというと、日本の看護師や救急救命士は、まだそのレベルにしか達していないからです
(注:業務に専念されている各氏を中傷する意図は一切ありません。途上国の医師が移住して看護師とかやってるような国と比べたり、救急車が無料のため医療用手袋の予算すら不足している業界にそれ以上を求める方がムリです) 


どうも(特に一般紙で)書いてる人間も理解していないようですが、心臓マッサージやAED、止血といった救命行為ならば民間人でも可能な行為であり、処分される謂われはありません
また、この男性が大量出血してるとかな状況であれば緊急避難も適応されるでしょうが、一般紙を見る限りではそんな記載はなく、胸痛(しかも日帰り)と書かれてました
となると、この患者はそもそも救命行為の対象であるのか?という疑問が湧いてきます
針を刺す前にバイタルチェックをしたのか、地元の救急隊とどういう連絡を取ったのかは是非とも明らかにしてもらいたいものですが、残念ながらそれらの記載を見つけることはできませんでした

こういう患者がERに運ばれてきた場合、交通事故によるハンドル外傷か、あるいは運転中に循環器疾患を起こして事故を起こした可能性が考えられるでしょうか
となると、下手な輸液は救命どころか追い打ちになる危険もあったということです

「何かをしたい」ではなく、「なにをするべきか、なにをすべきでないか」を判断するのがプロです
どう転んだところで、処分を免れられる状況ではありません