2010年10月3日日曜日

これから「医師数」の話をしよう

マスゴミの方もあらかた沈静化したようですが、先日発表された「病院等における必要医師数実態調査の概況」について、落ち着いて原本を使って分析してみましょう
今回はレトリックが多用されてますので気をつけて下さい

まず、アブストラクトですが

病院等における必要医師数実態調査の概況
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000ssez.html

本調査は、全国統一的な方法により各医療機関が必要と考えている医師数の調査を行うことで、地域別・診療科別の必要医師数の実態等を把握し、医師確保対策を一層効果的に推進していくための基礎資料を得ることを目的としたものであり、厚生労働省が実施した調査としては初めてのものです。
調査の概況は以下の通りです。今後、「病床規模別の必要求人医師数」などを分析し、年内を目途に詳細な調査結果を公表する予定です。
なお、本調査の結果は、医療機関から提出された人数をそのまま集計したものです。

【調査対象】
全国すべての病院及び分娩取扱い診療所  計10,262施設(回収率84.8%)(P.1)

【調査結果のポイント】
○ 必要求人医師数は18,288人であり、現員医師数と必要求人医師数の合計数は、現員医師数の1.11倍であった。また、調査時点において求人していないが、医療機関が必要と考えている必要非求人医師数を含めた必要医師数は24,033人であり、現員医師数と必要医師数の合計数は、現員医師数の1.14倍であった。(以下の倍率は、すべて「現員医師数に対する倍率」である)。(P.3)
  ・必要求人医師数 18,288人〈現員医師数 167,063人〉(1.11倍)
  ・必要医師数   24,033人〈現員医師数 167,063人〉(1.14倍)
○ 必要求人医師数、必要医師数ともに都道府県の現員医師数に対する倍率には地域差が見られた。(P.4~6)
○ 必要求人医師数、必要医師数ともに診療科の現員医師数に対する倍率には差が見られた。(P.8~10)
○ 必要求人医師の求人理由・求人方法で回答数が多いものは、次のとおりであった。(P.10~11)
・求人理由:「現員医師の負担軽減(入院又は外来患者数が多い)」27.8%、「退職医師の補充」17.5%、「現員医師の負担軽減(日直・宿直が多い)」16.2%
・求人方法:「大学(医局等)へ依頼」28.2%、「インターネットへ掲載」が24.1%、「民間業者へ依頼」19.0%

(注)本調査は、平成22年6月1日現在において全国の病院等が必要と考えている医師数の調査を行ったものであり、今後の医師確保対策のあり方については、本調査結果のほか、様々な制度のあり方、諸外国の状況等を踏まえ検討していく。


となっております。
なんであんなにメディアが騒いだのか理解できないんですが、この調査は要するに、医師の求人倍率を都道府県ごとに出したって言うだけの代物です

で、ここでまず一つ、落とし穴があります。それはタイトルです
「病院等における必要医師数実態調査の概況」
となってますが、この意味は文章中に何度も繰り返されており、ご丁寧に最後に注意まで書いてあります
重要ですので、もう一度転載しましょう


(注)本調査は、平成22年6月1日現在において全国の病院等が必要と考えている医師数の調査を行ったものであり、今後の医師確保対策のあり方については、本調査結果のほか、様々な制度のあり方、諸外国の状況等を踏まえ検討していく。


ここは絶対に勘違いしてはいけないところで、
この調査は「今の医療制度化で、今ある病院にとって、今この瞬間に経営上理想的な医師数」を求めただけです
「地域医療を維持するために必要な数」でもなければ、
「医師を労基法準拠させるためには後何人必要か」でもありません
それは「この調査結果をもとにこれから考えること」なんです。

そのことは、非常に単純な事実のみで証明できます
1年前の民主党のマニフェストをまだもっている方は確認して頂きたいのですが、
OECD平均並みの医師数にするには、2006年時点でさえ、日本は医師は13万人不足しているのです
たかが1~2割程度の医師不足だったら、こんな医療崩壊とか言ってません


今回の調査は、医師の求人倍率を調べたものであり、それ以上でもそれ以下でもありません
ですが、この結果を恣意的に利用しようとするいくつかの派閥がいます

まずは厚労省の方では、この求人倍率が最低が東京の1.08倍で、最大が岩手の1.4倍であったことを利用して「偏在」を叫び、医師の強制配置と天下り用の調整機関をつくろうとしてます(http://firstpenguindoc.blogspot.com/2010/08/blog-post_30.html)
これが欺瞞でしかないことは、pdfで公開されてる調査結果の原本みれば一発なんですけどね…
医師不足を求人「倍率」ではなく求人「数」でみると、最も不足しているのは東京の1656人です。次が大阪の1219人。ちなみに岩手は640人です。
1600人って、医学部2~3校分ですよ?
この状況で、じゃあ偏在しているから東京から岩手に医師を送れとか言う人、います?
この調査結果は「偏在」ではなく「医師不足は日本中に平等に存在する」と考えるべきでしょう
「医師確保対策」は「仁義なき共食い」でしかないのです


しかし、もう一つの派閥はちとやっかいです
文科省の医学部新設を叫んでる一派です…(つーか民主党内部の一派でもあるんですが…)
2.4万か13万かはともかく、医師は足りないんだから医学部増やせと言う(表向きは)単純な理屈なんで、非常に止めさせるのは難しいんですが
まぁ、医学部新設がいかに無謀であるかは過去ログ参照して下さい
http://firstpenguindoc.blogspot.com/2010/08/blog-post.html


なんにせよ、本調査には調査目的を離れた結論をつけられることで、以下の3つの危険性がつきまといます
1.医師不足数が2.4万人に過小評価されてしまう
2.「偏在」の根拠に使われてしまう
3.医学部新設の論拠にされる

これらは、官僚にとっての利益になっても、現場の医師には負担にしかならない結論です
途上国の医師を呼ぶという案が表に出てこないのが不思議ですが、看護師でコケてるから流石に自重したんですかね?


では、どんな結論なら妥当なのか?
これには、コペルニクス的な発想の転換が必要です


実は「医師不足」ではなく「病院過剰」ではないのか?


この結論は、福祉的思考ではアウトであり、官僚も政治家も絶対認めないでしょう
しかし、軍事的な思考ではこれが正解で、直近の問題に対処するにはこれしかあり得ません

本調査をもとに医師不足が存在すると言うには、「現在の病院数および病床数は妥当である」という前提命題が必要です
でも、その前提が成立しないことは調査結果の注意に婉曲的に書かれています

また、万単位の医師を充足させるだけの「医師過剰地域」は存在しませんし、今から育成機関つくって学生が一人前になるまで医師も患者も待てません
医師が後2.4万人いれば医療は守れるというのは、沖田総司が2.4万人いれば幕府は勝ったというのと同じくらいアホなことです



今すぐに必要なのは、病院数にあった医師数を確保しようとすることではなく、医師数にあった医療体制にすることです
医師を増やすのも調整するのも、その後の話です

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